ひゃくにちぜき
百日咳
小児に多い呼吸器系の感染症で、特有の咳発作が特徴
14人の医師がチェック 99回の改訂 最終更新: 2021.11.30

百日咳の特徴的な症状について:咳、痰、発熱、喉の痛みなど

百日咳はその名の通り長く続く咳が特徴的な病気です。咳以外にも痰や発熱などの症状を伴います。また、発症してからの時間によって大きく3つの時期に分けることができます。

このページでは百日咳の症状について詳しく説明します。

1. 百日咳の症状は時期によって3つ(カタル期、痙咳期、回復期)に分けられる

百日咳の感染当初は風邪急性上気道炎)と同じような症状が出現します。その後咳が強くなり息苦しくなっていきます。このように時期によって症状が変わっていくことが百日咳の特徴です。

百日咳の症状が出現する時期は次の3つに分けられます。

  • カタル期(2,3週間ほど)
  • 痙咳期(2,3週間ほど)
  • 回復期(2,3週間ほど)

日本では百日咳に対して定期接種のワクチン(接種することが強く奨められているワクチン)があります。産まれて間もない赤ちゃんが百日咳になると重症化することが多いため、ワクチンも生後3ヶ月という早い段階からの接種が推奨されています。

百日咳のワクチンは予防にも症状を軽くさせることにも有効です。そのため、ワクチンを打っているかどうかで症状の程度が異なることが分かっています。

各々の時期においてどういった症状が出やすいのかについて説明していきます。

2. カタル期の症状(発熱、喉の痛み、咳、鼻水など)

百日咳の原因微生物である百日咳菌に感染してもしばらくは症状が出ない期間(潜伏期間:7-10日程度)が続きます。その後一般的な風邪の症状が出現します。

風邪の一般的な症状とは、次のようなものを指します。

  • 発熱
  • 喉の痛み
  • 鼻水

百日咳といえば咳が主な症状ですが、この時期の最初にはあまり咳が目立ちません。そして、時間とともに咳が強くなってくることがこの時期の特徴です。

3. 痙咳期の症状(発熱、喉の痛み、咳、鼻水など)

カタル期が終わって痙咳期になると痙攣のような咳の発作が出るようになります。この咳を痙咳(けいがい)と言います。コンコンと短い咳が連続的に起こってから息を吸う時に笛の音のようなひゅーひゅー音が聞こえます。咳は特に夜間に起こりやすいです。

咳以外では次のような症状が見られることがあります。

  • 嘔吐
  • 皮下の出血
  • 眼球結膜の出血
  • 鼻血
  • 発熱

生後間もない乳児や新生児では百日咳に特徴的な痙咳が見られないことがあり、気づいたら十分な呼吸ができない状態に至ることがあります。この状態が続くと、チアノーゼや意識消失へと発展する可能性があるので注意が必要です。また、生後3ヶ月から百日咳のワクチン(4種混合ワクチン)を打つことができるので、早めに受けることで予防につながります。

百日咳が重症になると肺炎や脳炎が起こり、酸欠や痙攣(けいれん)が顕著になることがあります。咳が続いた後に息苦しそうな状態や痙攣が見られた場合には、医療機関を受診するようにして下さい。

4. 回復期の症状(根強い咳、倦怠感など)

激しい発作性の咳が続く痙咳期が終わると、段々と咳が見られなくなっていきます。回復期では少しずつ状態が回復していくのですが、時折咳が見られることがあります。しかし、発作性の咳が続いて息苦しくなるということは見られなくなります。

このように百日咳はカタル期・痙咳期・回復期の3つの期間を経て治りますが、その3つの期間を足すとだいたい数ヶ月になります。日数にすると100日に近い期間で症状が出現するために、百日咳と言われます。

5. 大人と子供で症状の違いがあるか?

現在百日咳のワクチンは定期接種であるため、ほとんどの大人は百日咳の予防ができています。これは子どもでも言えることですが、百日咳のワクチンを打っている人は感染しにくくなることや症状の程度が軽くなることが分かっています。大人の百日咳は、症状が強くないため感染していることに気づかない場合や、強くない咳が続いているが通常通りの生活をしているような場合が多いです。

一方で、症状が軽いうちでも起炎菌(百日咳菌)は身体から排泄されており感染性があるため、周囲に感染を拡げてしまうことには注意が必要です。特に、ワクチンをまだ打っていない子どもは感染が非常にうつりやすいので注意が必要です。

最近では加齢とともに(接種から4-12年程度で)ワクチンの効力が低下する(二次ワクチンフェイラー、Secondary Vaccine Failure)ことがわかっており、ワクチンを打ったからといって一生予防できるわけではないと考えられています。そのため、感染に気をつけたほうが良いと判断された人(免疫の低下など)の予防や大人から子どもにうつさないための予防として、大人に対してワクチン追加接種を行う場合があります。

6. 百日咳で合併症が起こることがあるか?

頻度が高いわけではありませんが、百日咳は合併症を起こします。子供と大人で出現しやすい合併症が異なります。子供のほうが重症になりやすい傾向があります。

【子供の百日咳に起こりやすい合併症】

  • 肺炎によって呼吸困難が起こる
  • 肺炎によって痰が多い
  • 脳症によって痙攣(けいれん)がおこる
  • 脳症によって意識朦朧(もうろう)となる

【大人の百日咳に起こりやすい合併症】

特に乳幼児では百日咳が重症になると命に関わるので、できるだけ百日咳に感染しないようにすることが大切です。百日咳のワクチンを接種した場合には、症状が軽くなるだけでなく合併症が起こりにくくなります。そのため、定期接種を欠かさずに受けることが大切です。また、百日咳のワクチンは一生効果があるわけではないため、成人であっても追加の予防接種を受けて感染予防に努めることは大切です。成人の予防接種は自分の感染予防のためだけでなく、実は子どもに感染をうつさないために効果があります。子どもの百日咳の重症合併症を起こさないためには、大人の予防接種を検討してみて下さい。

7. 百日咳と似たような症状が出る病気について

百日咳は根強い咳が特徴ですが、根強い咳は百日咳以外でも起こります。また、カタル期の百日咳では発熱・鼻汁・喉の痛み・咳といった症状が出るため、風邪急性上気道炎)と見分けがつかないことが多いです。特に以下の病気は百日咳と似ているので、慎重に状況を見ていく必要があります。

風邪(急性上気道炎)

風邪急性上気道炎)はいわゆる「かぜ」のことで、原因のほとんどがウイルスによる感染です。ライノウイルス、コロナウイルス、RSウイルス、インフルエンザウイルスアデノウイルスなどがその代表例になります。

風邪では全身症状(発熱、倦怠感など)に加えていわゆるカタル症状(鼻水、咳、痰など)が見られます。これは百日咳のカタル期の症状と同じですので、区別することが難しいです。

抗菌薬抗生物質)は多くの場合無効です。抗菌薬は細菌感染症に対して効果を発揮します。一方で、風邪のほとんどはウイルスによる感染症ですので、抗菌薬は効果がありません。よほど重症でない限り医療機関にかからずとも自分の免疫力で治癒できる病気なので、家でゆっくり休んで体力の回復を図ることが重要になります。

マイコプラズマ肺炎

マイコプラズマ肺炎マイコプラズマ・ニューモニエ(Mycoplasma pneumoniae肺炎マイコプラズマ)によって起こる肺の感染症です。非定型肺炎マイコプラズマ肺炎クラミドフィラ肺炎レジオネラ肺炎)に分類されます。

根強い咳が主な症状になりますが、他には発熱や喉の痛み、倦怠感(だるさ)などが現れることがあります。マイコプラズマ肺炎は咳が目立つので百日咳と区別することは容易でないため、診断を確定させるために抗原検査や抗体検査、遺伝子検査を用います。

治療には抗菌薬が使われます。使用される代表的な抗菌薬は、マクロライド系抗菌薬(ジスロマック®、クラリス®など)やニューキノロン系抗菌薬(クラビット®、シプロキサン®など)、テトラサイクリン系抗菌薬(ミノマイシン®、ビブラマイシン®など)があります。

クラミドフィラ肺炎

クラミドフィラ肺炎はクラミドフィラ・ニューモニエ(Chlamydophila pneumoniae)によって起こる肺の感染症です。非定型肺炎マイコプラズマ肺炎クラミドフィラ肺炎レジオネラ肺炎)に分類されます。

マイコプラズマ肺炎と同じく根強い咳が主な症状になります。他には喉の痛み、声がれ(嗄声)、鼻水などが現れることがあります。咳が目立つ病気ですので、症状から百日咳を区別することは容易ではありません。そのため、診断を確定させるために抗体検査や遺伝子検査を用います。

治療には抗菌薬が使われます。使用される代表的な抗菌薬は、マクロライド系抗菌薬(ジスロマック®、クラリス®など)やニューキノロン系抗菌薬(クラビット®、シプロキサン®など)、テトラサイクリン系抗菌薬(ミノマイシン®、ビブラマイシン®など)があります。

参考文献
・Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases 8th edition
・CDC:Pertussis (Whooping Cough) 
・国立感染症研究所, 百日咳ワクチンに関するファクトシート2017