百日咳が疑われたらどんな検査が行われる?どうやって診断されるのか?
百日咳の診断は簡単ではありません。そのため百日咳が疑われる場合にはいろいろな検査が行われます。その結果から総合的に百日咳と診断されます。
1. 問診について
具体的には次のようなことを聞かれます。
- 症状が出るまでにどういった生活をしていたか
- 症状が出るまでにどういった薬を飲んでいたか
- 喫煙をどの程度するか
- 飲酒をどの程度するか
- 何か持病はあるか
- 家族に似たような症状の人はいるか
アレルギー はあるか- 最近風邪を引いていたか
- 初めての症状か
- 自覚症状の特徴をどう表現するか
- 自覚症状は一定か、よくなったり悪くなったりするか
- どういったタイミングで症状は変化するか
- 妊娠しているか
これらは百日咳がどのくらいを疑わしいのかを把握するのに重要な判断材料です。また、問診は治療方針を決めるためにも役立ちます。持病のある人や妊娠している人は、注意しなくてはならない点や使用してはならない薬がありますので必ず医療者に伝えるようにして下さい。
次の段落からはこれらの中でも特に大事なことについてもう少し詳しく説明します。
持病の有無
百日咳のように咳が目立つ病気はいくつか存在します。そのため以前から分かっている病気(持病)がある場合には必ず伝えてください。気をつけるべき病気の中で代表的なものを次に示します。
これらは長期間の咳を起こしやすい病気ですので参考にして下さい。しかし、これらの病気以外でも咳が出ることはありますので、持病がある場合は必ず医療者に伝えてください。
常用薬の有無
常用薬の影響によって咳が出ることがあります。特に降圧薬のアンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)(レニベース®など)は咳が出やすいことで有名です。そのため、この系統の薬を飲んでいる人は必ず伝えてください。しかし、他の薬でも咳が出る場合はありますので、全ての常用薬を伝えるほうが間違いが起こりにくいです。
常用薬によっては百日咳の治療法を調整しなければいけないことがあります。この観点からも常用薬がある場合には問診で答えるようにして下さい。自分が飲んでいる薬の名前をすべて覚えることは簡単ではありませんので、お薬手帳を常に携帯するようにしておけば伝え忘れをなくすことができます。
自覚症状の有無
咳以外にどんな症状を自覚しているのかもとても大事です。例えば咳一つをとっても、
このように、咳以外の症状によって考えられる病気が絞れてくるため、なにか症状を感じている場合には必ず医療者に伝えるようにして下さい。
症状の出現した時期と進行スピード
百日咳はカタル期(風邪に似た症状が出る時期)・痙咳期(咳の非常に強い時期)・回復期という経過を辿ります。(百日咳の症状について詳しく知りたい人は、「百日咳の特徴的な症状について」を参考にして下さい。)自分の症状が百日咳の典型的な症状経過に合致するのかどうかを確認することが大切です。
自分の症状がいつから出現していて、どういった風に変化しているのかについて頭を整理してみて下さい。その上で問診時に経過を説明すると、自分の病気の状態が正確に判断されやすくなります。
2. 身体診察について
身体診察は病気の状況やその影響を受けている身体の状況を客観的に評価する行為です。百日咳によって影響を受けた呼吸の状態を直接調べることができますし、全身がどのような状況になっているのかについても調べることができます。
主に百日咳に関連する身体診察について次から説明します。
バイタルサインのチェック
医療現場では「
- 意識の程度
- 脈拍数
- 血圧
- 呼吸数
- 酸素飽和度(血液中に含むことのできる酸素の最大量に対する実際に含まれている酸素の割合)
- 体温
例えば、脈拍数が増えていても、それが体温上昇によって起こっているのか、
このようにバイタルサインは一つの数字だけを見て判断するのではなく、さまざまな要素から総合的に判断します。
視診
視診とは身体の様子を見た目で判断するものです。明らかな変化のあるものは見ただけで判断することができます。例えば、咳が目立つ場合に、両足が
このように、咳以外の身体の変化を目視で確認することで診断に近づくことができる場合があるので、診察では見ることのできる範囲をくまなく観察されます。
聴診:呼吸音
百日咳で通常存在しない呼吸音が聞こえることがあります。
ラッセル音(ラ音)と呼ばれる副雑音の中でも、水泡音(coarse crackle、コースクラックル)と笛音(wheeze、ウィーズ)が聞かれることが多いです。
水泡音は断続性ラ音とも呼ばれる副雑音の一種で、息を吸った時を中心に「ブツブツ」や「ポツポツ」といったような音が
また、連続性ラ音と呼ばれる副雑音の中には笛音のほかいびき音(rhonchi、ロンカイ)・ストライダー(stridor)・スクウォーク(squawk)などがあり、このうち百日咳ではストライダーなどが聞かれる場合があります。
聴診をすることで呼吸の状態が推定できます。一方で、聴診のみで診断を確定することは難しいため、他の検査と合わせて総合的に判断されます。
3. 画像検査(胸部X線検査、CT検査など)
百日咳が疑われたときに画像検査(
咳を起こす病気は百日咳以外にも多くあります。例えば肺炎球菌などの細菌性肺炎やレジオネラ肺炎、心不全などでも咳が目立ちます。ここに挙げた病気は胸部の画像検査で異常が見られやすいです。つまり、画像検査で異常があれば咳の原因は百日咳以外にあると考えることができます。もちろん百日咳でも肺炎になることはありますが、まずは最も疑わしい病気が他にないかを探すことになります。
4. 細菌検査
百日咳の起炎菌は百日咳菌(Bordetella pertussis)と呼ばれるグラム陰性桿菌です。この細菌が
塗抹検査
塗抹検査では細菌の形や大きさが分かります。グラム染色などの細菌に色を染める方法を用いることで、細菌の性質をより詳しく調べることができます。一方で、細菌の名前まで詳細に調べることは難しいため、百日咳菌がいるかどうかを推測はできても確定することは難しいです。診断を確定させるためには、検体に存在する細菌を増やして詳細に調べる検査(培養検査)が必要になります。
培養検査
百日咳菌を培養するためには特殊な
培養検査のこのような弱点が比較的改善された遺伝子検査があるため、百日咳の診断の場面では遺伝子検査がしばしば行われています。
遺伝子検査
上で述べた培養検査の「検査結果が陰性でも病気がないとは言い切れない(検査の
百日咳の遺伝子検査でよく用いられるのは、百日咳菌LAMP法(Loop-mediated isothermal amplification)やリアルタイムPCR法(Polymerase chain reaction)と呼ばれる検査です。特に前者の百日咳菌LAMP法が開発されたことによって、検査の手技が煩雑ではなくなり、検査結果が1時間ほどで出るようになりました。
一方で、治療後の死菌(死んでしまった細菌)でも遺伝子検査は反応してしまうことや痙咳期以降では検査が陰性になりやすいことなどが問題点として考えられるため、検査結果をしっかりと吟味する必要があります。
5. 血液検査(血清学的検査)
百日咳の血清学的診断は百日咳菌に関する
- 抗百日咳毒素抗体(抗PT IgG)
- 抗繊維状
赤血球 凝集素抗体(抗FHA IgG) - 百日咳抗体測定キット(IgM、IgA)
抗体検査は先程述べた
- 過去の感染による影響を受けて抗体価が高い
- ワクチン(予防接種)による影響を受けて抗体価が高い
- 感染してから間もないため抗体価が低い
こうしたことが起こってしまっているかどうかを判断するために、他の検査と併せて総合的に判断する必要があります。
抗百日咳毒素抗体(抗PT IgG)
百日咳の診断の場面でよく用いられる検査です。百日咳菌の分泌する百日咳菌毒素(PT)に対するIgGという抗体を測定します。これが高値であると百日咳が疑わしくなります。具体的には次のいずれかの状態になった場合に百日咳を強く疑います。
- 2回血液検査ができる場合
- 1回目の抗PT IgG価が10-100EU/mLで、2回目(検査間隔を2週間以上あける)の抗体価が1回目の抗体価の2倍以上となる場合
- 1回の血液検査の場合
- 抗PT IgG価が100EU/mL以上の場合
この2つに当てはまる場合には、百日咳の可能性が高まります。最後の章で詳しく説明します。
抗繊維状赤血球凝集素抗体(抗FHA IgG)
この検査は上で述べた抗PT IgGと同じくIgGと呼ばれる
抗FHA IgGは百日咳菌以外の菌でも陽性になることがあるため注意が必要です。抗PT IgGと比べて正確度が低いことから診断の確定には用いられないため、参考程度として考えられています。
百日咳抗体測定キット(IgM、IgA)
百日咳菌に関連するIgM抗体とIgA抗体を測定する検査キットがあります。前者を「ノバグノスト百日咳/IgM」と言い、後者を「ノバグノスト 百日咳/IgA」と言います。
百日咳抗体 IgMは百日咳菌に対するIgM抗体価を測定し、百日咳抗体 IgAは百日咳毒素(PT)および繊維状赤血球凝集素(FHA)の総IgA抗体価を測定しています。この検査はワクチンの影響を受けないことも特徴です。
6. 百日咳はどうやって診断されるのか?
百日咳の診断について「小児呼吸器感染症
【百日咳の診断基準】
1.症状による判断材料 | 1週間以上咳がある状態(1歳未満の子どもであれば咳の期間は問わない)で、以下の特徴的な症状のいずれかが見られる
|
2.検査による判断材料 | 次のいずれかを満たす
|
上の表の中にある疑わしい症状が1つでも見られた場合に、検査が陽性であれば百日咳と診断されます。また、検査が陽性でなくても、検査が陽性の人に接触した人に疑わしい症状が見られた場合にも百日咳と診断されます。
ここでポイントは、抗FHA IgG(抗繊維状赤血球凝集素抗体)の結果によって診断を確定することは難しいということです。また、症状だけでも検査だけでも診断することは難しく、結局は症状と検査から総合的な判断が必要ということです。
参考文献
・小児呼吸器感染症診療ガイドライン作成委員会, 小児呼吸器感染症診療ガイドライン 2017, 協和企画, 2017
・Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases 8th edition
・CDC:Pertussis (Whooping Cough)
・青木 眞/著, レジデントのための感染症診療マニュアル第3版, 医学書院, 2015