ひゃくにちぜき
百日咳
小児に多い呼吸器系の感染症で、特有の咳発作が特徴
14人の医師がチェック 110回の改訂 最終更新: 2024.08.28

百日咳が疑われたらどんな検査が行われる?どうやって診断されるのか?

百日咳の診断は簡単ではありません。そのため百日咳が疑われる場合にはいろいろな検査が行われます。その結果から総合的に百日咳と診断されます。

1. 問診について

問診では身体の状況や生活背景を聞かれます。身体診察を行う前に問診が行われることが多いです。百日咳に限らず病気を診断する際には問診がとても重要です。

具体的には次のようなことを聞かれます。

  • 症状が出るまでにどういった生活をしていたか
  • 症状が出るまでにどういった薬を飲んでいたか
  • 喫煙をどの程度するか
  • 飲酒をどの程度するか
  • 何か持病はあるか
  • 家族に似たような症状の人はいるか
  • アレルギーはあるか
  • 最近風邪を引いていたか
  • 初めての症状か
  • 自覚症状の特徴をどう表現するか
  • 自覚症状は一定か、よくなったり悪くなったりするか
  • どういったタイミングで症状は変化するか
  • 妊娠しているか

これらは百日咳がどのくらいを疑わしいのかを把握するのに重要な判断材料です。また、問診は治療方針を決めるためにも役立ちます。持病のある人や妊娠している人は、注意しなくてはならない点や使用してはならない薬がありますので必ず医療者に伝えるようにして下さい。

次の段落からはこれらの中でも特に大事なことについてもう少し詳しく説明します。

持病の有無

百日咳のように咳が目立つ病気はいくつか存在します。そのため以前から分かっている病気(持病)がある場合には必ず伝えてください。気をつけるべき病気の中で代表的なものを次に示します。

これらは長期間の咳を起こしやすい病気ですので参考にして下さい。しかし、これらの病気以外でも咳が出ることはありますので、持病がある場合は必ず医療者に伝えてください。

常用薬の有無

常用薬の影響によって咳が出ることがあります。特に降圧薬のアンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)(レニベース®など)は咳が出やすいことで有名です。そのため、この系統の薬を飲んでいる人は必ず伝えてください。しかし、他の薬でも咳が出る場合はありますので、全ての常用薬を伝えるほうが間違いが起こりにくいです。

常用薬によっては百日咳の治療法を調整しなければいけないことがあります。この観点からも常用薬がある場合には問診で答えるようにして下さい。自分が飲んでいる薬の名前をすべて覚えることは簡単ではありませんので、お薬手帳を常に携帯するようにしておけば伝え忘れをなくすことができます。

自覚症状の有無

咳以外にどんな症状を自覚しているのかもとても大事です。例えば咳一つをとっても、肺炎球菌による肺炎であれば多くの場合で痰を伴いますが、マイコプラズマ肺炎であれば痰を伴うことは少ないです。また、胃のむかつきや朝の口内の酸っぱさを咳に伴う場合には、胃食道逆流症による咳が疑わしくなります。

このように、咳以外の症状によって考えられる病気が絞れてくるため、なにか症状を感じている場合には必ず医療者に伝えるようにして下さい。

症状の出現した時期と進行スピード

百日咳はカタル期(風邪に似た症状が出る時期)・痙咳期(咳の非常に強い時期)・回復期という経過を辿ります。(百日咳の症状について詳しく知りたい人は、「百日咳の特徴的な症状について」を参考にして下さい。)自分の症状が百日咳の典型的な症状経過に合致するのかどうかを確認することが大切です。

自分の症状がいつから出現していて、どういった風に変化しているのかについて頭を整理してみて下さい。その上で問診時に経過を説明すると、自分の病気の状態が正確に判断されやすくなります。

2. 身体診察について

身体診察は病気の状況やその影響を受けている身体の状況を客観的に評価する行為です。百日咳によって影響を受けた呼吸の状態を直接調べることができますし、全身がどのような状況になっているのかについても調べることができます。

主に百日咳に関連する身体診察について次から説明します。

バイタルサインのチェック

医療現場では「バイタルサイン」という言葉がしばしば聞かれます。日本語に直訳すると「生命徴候」となり、主に次のものを確認します。

  • 意識の程度
  • 脈拍数
  • 血圧
  • 呼吸数
  • 酸素飽和度(血液中に含むことのできる酸素の最大量に対する実際に含まれている酸素の割合)
  • 体温

例えば、脈拍数が増えていても、それが体温上昇によって起こっているのか、頻脈不整脈で起こっているのかで、行うべき治療が変わってきます。また、酸素の値が正常であっても、通常の呼吸状態ではなく一生懸命苦しそうに呼吸しているのであれば、呼吸に異常があると判断します。

このようにバイタルサインは一つの数字だけを見て判断するのではなく、さまざまな要素から総合的に判断します。

視診

視診とは身体の様子を見た目で判断するものです。明らかな変化のあるものは見ただけで判断することができます。例えば、咳が目立つ場合に、両足が浮腫んでいるような人では心不全が疑われますし、アトピー性皮膚炎が目立つ人ではアトピー咳嗽が疑われます。

このように、咳以外の身体の変化を目視で確認することで診断に近づくことができる場合があるので、診察では見ることのできる範囲をくまなく観察されます。

聴診:呼吸音

百日咳で通常存在しない呼吸音が聞こえることがあります。

ラッセル音(ラ音)と呼ばれる副雑音の中でも、水泡音(coarse crackle、コースクラックル)と笛音(wheeze、ウィーズ)が聞かれることが多いです。

水泡音は断続性ラ音とも呼ばれる副雑音の一種で、息を吸った時を中心に「ブツブツ」や「ポツポツ」といったような音が聴診器を介して聞こえます。肺炎心不全などで聞かれます。笛音は連続性ラ音と呼ばれる副雑音の一種で、息を吐いたときに「ヒューヒュー」や「ピーピー」といったような音が聴診器を介して聞こえます。気管支喘息心不全などでも聞かれます。

また、連続性ラ音と呼ばれる副雑音の中には笛音のほかいびき音(rhonchi、ロンカイ)・ストライダー(stridor)・スクウォーク(squawk)などがあり、このうち百日咳ではストライダーなどが聞かれる場合があります。

聴診をすることで呼吸の状態が推定できます。一方で、聴診のみで診断を確定することは難しいため、他の検査と合わせて総合的に判断されます。

3. 画像検査(胸部X線検査、CT検査など)

百日咳が疑われたときに画像検査(胸部X線検査CT検査)が行われることがあります。しかし、一般的に百日咳は画像検査で異常が見られることはありません。

咳を起こす病気は百日咳以外にも多くあります。例えば肺炎球菌などの細菌性肺炎レジオネラ肺炎心不全などでも咳が目立ちます。ここに挙げた病気は胸部の画像検査で異常が見られやすいです。つまり、画像検査で異常があれば咳の原因は百日咳以外にあると考えることができます。もちろん百日咳でも肺炎になることはありますが、まずは最も疑わしい病気が他にないかを探すことになります。

4. 細菌検査

細菌感染の診断において最も大切で有力なゴールドスタンダードは、原因となっている細菌(起炎菌)を見つけることです。そのためには感染した部位から採取した検体を顕微鏡で見たり培養してみたりして、細菌の存在を探します。

百日咳の起炎菌は百日咳菌(Bordetella pertussis)と呼ばれるグラム陰性桿菌です。この細菌が感染症の原因となっていることを証明するシンプルな手段は塗抹検査や培養検査です。この際の検体は、鼻咽頭分泌物(鼻に綿棒を入れて鼻の奥の粘膜から採取した粘液)や痰などになります。

塗抹検査

塗抹検査では細菌の形や大きさが分かります。グラム染色などの細菌に色を染める方法を用いることで、細菌の性質をより詳しく調べることができます。一方で、細菌の名前まで詳細に調べることは難しいため、百日咳菌がいるかどうかを推測はできても確定することは難しいです。診断を確定させるためには、検体に存在する細菌を増やして詳細に調べる検査(培養検査)が必要になります。

培養検査

百日咳菌を培養するためには特殊な培地が必要です。CEX(セファレキシン)を添加したCSM(cyclodextrin solid medium)培地やボルデ・ジャング(Bordet-Gengou)培地などが用いられます。この培養検査で細菌が生えることがあれば百日咳の診断を確定することができます。一方で、百日咳菌を培養することは難しいため、培地に百日咳菌が生えない場合でも百日咳ではないと判断できないことが弱点になります。

培養検査のこのような弱点が比較的改善された遺伝子検査があるため、百日咳の診断の場面では遺伝子検査がしばしば行われています。

遺伝子検査

上で述べた培養検査の「検査結果が陰性でも病気がないとは言い切れない(検査の感度が低い)」問題を比較的解消できているのが遺伝子検査です。遺伝子検査では、鼻咽頭分泌物や痰の中に存在する遺伝子を増幅することで、百日咳の存在を調べます。

百日咳の遺伝子検査でよく用いられるのは、百日咳菌LAMP法(Loop-mediated isothermal amplification)やリアルタイムPCR法(Polymerase chain reaction)と呼ばれる検査です。特に前者の百日咳菌LAMP法が開発されたことによって、検査の手技が煩雑ではなくなり、検査結果が1時間ほどで出るようになりました。

一方で、治療後の死菌(死んでしまった細菌)でも遺伝子検査は反応してしまうことや痙咳期以降では検査が陰性になりやすいことなどが問題点として考えられるため、検査結果をしっかりと吟味する必要があります。

5. 血液検査(血清学的検査)

百日咳の血清学的診断は百日咳菌に関する抗体を調べることで診断する検査です。血液中の抗体価を測定します。日本で行われる百日咳の血清学的検査は主に以下の3つです。

  • 抗百日咳毒素抗体(抗PT IgG)
  • 抗繊維状赤血球凝集素抗体(抗FHA IgG)
  • 百日咳抗体測定キット(IgM、IgA)

抗体検査は先程述べた細菌検査と趣が異なります。というのも、抗体検査では細菌そのものを見ているのではなく、細菌による影響を見ていることに注意しなければならないのです。つまり、抗体価が高くても本当に感染が起こっているのかどうかは断定できません。例えば次のようなことが考えられます。

  • 過去の感染による影響を受けて抗体価が高い
  • ワクチン(予防接種)による影響を受けて抗体価が高い
  • 感染してから間もないため抗体価が低い

こうしたことが起こってしまっているかどうかを判断するために、他の検査と併せて総合的に判断する必要があります。

抗百日咳毒素抗体(抗PT IgG)

百日咳の診断の場面でよく用いられる検査です。百日咳菌の分泌する百日咳菌毒素(PT)に対するIgGという抗体を測定します。これが高値であると百日咳が疑わしくなります。具体的には次のいずれかの状態になった場合に百日咳を強く疑います。

  1. 2回血液検査ができる場合
    1. 1回目の抗PT IgG価が10-100EU/mLで、2回目(検査間隔を2週間以上あける)の抗体価が1回目の抗体価の2倍以上となる場合
  2. 1回の血液検査の場合
    1. 抗PT IgG価が100EU/mL以上の場合

この2つに当てはまる場合には、百日咳の可能性が高まります。最後の章で詳しく説明します。

抗繊維状赤血球凝集素抗体(抗FHA IgG)

この検査は上で述べた抗PT IgGと同じくIgGと呼ばれる免疫物質を見るものです。百日咳毒素に対する抗体を見る抗PT IgGと異なり、繊維状赤血球凝集素(FHA)という物質に対する抗体を見るのが抗FHA IgG抗体です。繊維状赤血球凝集素とは、百日咳に感染する際に百日咳菌の表面に存在する接着因子の1つのことです。これをターゲットにすることで百日咳の有無を判断します。

抗FHA IgGは百日咳菌以外の菌でも陽性になることがあるため注意が必要です。抗PT IgGと比べて正確度が低いことから診断の確定には用いられないため、参考程度として考えられています。

百日咳抗体測定キット(IgM、IgA)

百日咳菌に関連するIgM抗体とIgA抗体を測定する検査キットがあります。前者を「ノバグノスト百日咳/IgM」と言い、後者を「ノバグノスト 百日咳/IgA」と言います。

百日咳抗体 IgMは百日咳菌に対するIgM抗体価を測定し、百日咳抗体 IgAは百日咳毒素(PT)および繊維状赤血球凝集素(FHA)の総IgA抗体価を測定しています。この検査はワクチンの影響を受けないことも特徴です。

6. 百日咳はどうやって診断されるのか?

百日咳の診断について「小児呼吸器感染症診療ガイドライン2017」で定義されています。生後12ヶ月未満の子どもが百日咳になると重症になる場合があるため注意が必要です。

【百日咳の診断基準】

1.症状による判断材料 1週間以上咳がある状態(1歳未満の子どもであれば咳の期間は問わない)で、以下の特徴的な症状のいずれかが見られる
  • 吸気性笛声(息を吸ったときにヒューヒュー音が鳴る)
  • 発作性の連続する咳
  • 咳き込んだあとの嘔吐
  • 無呼吸の発作
2.検査による判断材料 次のいずれかを満たす
  • 百日咳の培養検査・遺伝子検査(PCR法、LAMP法)が陽性
  • 抗体検査(PT IgG抗体価、IgM抗体価、IgA抗体価)が陽性

上の表の中にある疑わしい症状が1つでも見られた場合に、検査が陽性であれば百日咳と診断されます。また、検査が陽性でなくても、検査が陽性の人に接触した人に疑わしい症状が見られた場合にも百日咳と診断されます。

ここでポイントは、抗FHA IgG(抗繊維状赤血球凝集素抗体)の結果によって診断を確定することは難しいということです。また、症状だけでも検査だけでも診断することは難しく、結局は症状と検査から総合的な判断が必要ということです。

参考文献
・小児呼吸器感染症診療ガイドライン作成委員会, 小児呼吸器感染症診療ガイドライン 2017, 協和企画, 2017
・Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases 8th edition
・CDC:Pertussis (Whooping Cough) 
・青木 眞/著, レジデントのための感染症診療マニュアル第3版, 医学書院, 2015