性器ヘルペスとは? 女性に多い症状、治療、再発予防について
性器ヘルペスは、
目次
1. 性器ヘルペスとは? 症状の出やすい場所、特徴、原因
性器ヘルペスの原因は単純ヘルペス
ヘルペスって何?
単に「ヘルペス」と言ったときの意味は人によって微妙に違っています。普通は単純疱疹(たんじゅんほうしん)のことを指しています。
単純ヘルペスウイルスによる水ぶくれを単純疱疹と言います。単純ヘルペスとも言います。性器ヘルペスは単純疱疹の一種です。口唇ヘルペス、ヘルペス性歯肉口内炎も単純疱疹です。
ヘルペスという言葉はギリシャ語に由来しており、「這い寄る」という意味のherpeinが語源と考えられています。症状がないときもウイルスが身体の中に隠れていることから名付けられました。
ヘルペスと帯状疱疹は同じ?
単純疱疹と帯状疱疹(たいじょうほうしん)とは別の病気です。名前も症状も似ていますが、原因となるウイルスが違います。
少し難しい話になりますが、帯状疱疹は水痘・帯状疱疹ウイルスと呼ばれるウイルスが感染した病気です。正確に言うと、水痘・帯状疱疹ウイルスはヒトヘルペスウイルスの中の一種(ヒトヘルペスウイルス3型)ではありますが、先に述べた単純ヘルペスウイルスとは異なります。ヒトヘルペスウイルスは8種類のウイルスが存在し、4型はEBウイルスで、5型がサイトメガロウイルスになります。
性器ヘルペスはうつる?
性器ヘルペスはうつる病気です。ウイルスに感染している人と性行為をすることで感染するいわゆる性病です。
感染経路は普通、
性器ヘルペスの感染は予防できる?
性器ヘルペスの感染を予防するには、感染した人の身体に直接触れないことが必要です。しかし、実際には気を付けていても感染してしまう人が多いです。
性行為ではコンドームを徹底するなど、身体のどの部分も直接触れないようにする必要があります。
また、症状が出ていない人からもうつる可能性があります。
症状がない人を含めると、非常に多くの人が単純ヘルペスウイルスに感染しています。地域にもよりますが、すべての人のうち何割かが一生のうちには感染します。一度感染するとウイルスは身体に一生住み着いたままになり、いなくなることはありません。そして、体調や
性器ヘルペスの潜伏期間は?
性器ヘルペスは、ウイルスに初めて感染してから4-7日間程度の
性器ヘルペスが出る場所は?
症状が出やすい場所は、男性では陰茎(ペニス)、女性では陰唇や陰裂です。
しかし、単純ヘルペスウイルスによって起こる単純疱疹は性器以外に感染が起こるため、性器以外にも全身あちこちの場所に症状が出ます。
【単純ヘルペスウイルスによって症状が出やすい部位】
その意味では「ヘルペスが出る場所は全身どこでも」と言えます。
性器ヘルペスが起こる成り行きは、性器の粘膜から侵入し、症状を起こしたあと、神経節と呼ばれる場所に潜むといった具合です。
潜伏したウイルスは、免疫が弱ったりストレスを受けたりしたときに再び勢いを取り戻します(再活性化)。ウイルスは再活性化すると神経を伝って移動し再び性器に症状を起こします。
ヘルペスは顔に出る?
単純ヘルペスウイルスは顔にも水ぶくれを作ります。顔に症状が出たときは性器ヘルペスとは言いませんが、原因は同じです。
単純ヘルペスウイルスによって顔の筋肉(表情筋)を動かす
まぶた が閉じられない- ひたいにしわが寄せられない
- 口元が垂れてしまう
- よだれが出る
- 舌の前側2/3の部分の味覚障害
- 金属を口に入れたような感じと表現されることがある
- 症状は顔の左右どちらか片側に出る
- 表情が左右非対称になる
原因不明の顔面神経麻痺をベル麻痺と言います。ベル麻痺の一部は単純ヘルペスウイルスが原因と考えられています。
目にヘルペスの症状が出ることがある?
単純ヘルペスウイルスが目の表面(角膜)に感染すると、涙や見えにくさ、目やにの増加といった症状を起こします。角膜ヘルペスと言います。また、単純疱疹では目の周りに
性器ヘルペスが出たらどんな危険がある?
妊娠中に性器ヘルペスにかかってしまうと、出産時に胎児への感染を考える必要が出てくるようになるため帝王切開を勧められます。まれに、単純ヘルペスウイルスが神経の障害を起こすこともあります。
- しびれ
- 臀部の刺激感
- 尿が出にくい(尿閉)
- 便秘
- インポテンツ
- ギラン・バレー症候群
- 手足のしびれ、力が入らないなど
単純ヘルペスウイルスはほかにもさまざまな臓器に感染します。
ヘルペスでヘルペス脳炎になる?
性器ヘルペスに続いて髄膜炎(ずいまくえん)が起こることがまれにあります。髄膜炎では、脳を包んでいる髄膜に単純ヘルペスウイルスが感染して
- 頭痛
- 発熱
- 光をまぶしく感じる(羞明)
症状は7日間ほどで自然に治ります。髄膜炎を繰り返すこともあり、「モラレ髄膜炎」(Mollaret髄膜炎)と呼ばれます。ウイルスに対する薬で再発を減らせます。
一方、ヘルペス性歯肉口内炎や口唇ヘルペスで口に水ぶくれが出ていても、ヘルペス脳炎の心配はありません。
ヘルペス脳炎は単純ヘルペスウイルスが起こす病気ですが、ヘルペス性歯肉口内炎や口唇ヘルペスに続いて起こることは多くはありません。口に症状が出たからといってヘルペス脳炎の危険性が高まっているとは言えません。
参照文献:日本神経
ヘルペスウイルス科とは?
単純ヘルペスウイルスは、ヘルペスウイルス科に分類されます。ヘルペスウイルス科には、わかっているだけでも8種類のウイルスが属しています。
それぞれのウイルスが引き起こす病気を表にまとめます。
ウイルスの種類 |
主な病気 |
単純ヘルペス |
|
単純ヘルペス |
性器ヘルペスなど |
エプスタイン・ |
伝染性単核球症 |
サイトメガロ |
肺炎 |
ヒトヘルペス |
突発性発疹 |
ヒトヘルペス |
|
ヒトヘルペス |
カポジ |
2. これは性器ヘルペス? 性器の皮膚がえぐれる病気一覧
性器に潰瘍が出現する病気は性病以外にもあります。性器に潰瘍を作る病気として、ある医師向けの教科書には次の病気が挙げられています。
- 感染性で重要なもの
- 感染性でまれなもの
- 非感染性
- 原因不明
- 十分に調べても原因がわからないもの
(「レジデントのための感染症診療マニュアル」第3版より)
リストの中で性病として重要なのは性器ヘルペスと梅毒です。性器ヘルペスでは痛みがあることが多く、梅毒では痛みがないことが多いのですが、痛みだけでは決められないので、梅毒の検査をします。
梅毒については「梅毒とは?症状、検査、治療について」で説明します。
3. 症状がない性器ヘルペスもある
単純ヘルペスウイルスは、感染していても症状を出さないことがあります。症状がないときでも感染力があり、ほかの人にウイルスがうつります。
このため、感染していることに気付かないまま周りにウイルスを撒き散らす可能性があります。見かたを変えると、症状が出ている人と性行為をした覚えがなくても、感染している可能性があります。
性器の潰瘍・水ぶくれなどがあって、初めて症状が出たとき、症状が強くがまんできないときは特に、早めに産婦人科や泌尿器科で診察を受けてください。
4.性器ヘルペスは再発しやすい
性器ヘルペスの再発はよく起こります。単純ヘルペスウイルス2型が原因の性器ヘルペスは、1年以内にほぼ全員が再発します。単純ヘルペスウイルス1型が原因の場合にも1年以内に半数ほどが再発します。
これは、一度感染すると症状が治まっても単純ヘルペスウイルスは身体の中に潜伏していて、ストレスなどをきっかけに再び暴れだすためです。潜んでいたウイルスが再び暴れだすことを二次感染または再発といいます。
単純ヘルペスウイルスに初めて感染したときを
二次感染・再発では症状が軽く、発熱やだるさはないことが多いです。
5. 女性のヘルペス感染の症状
性器ヘルペスの症状は初発感染と二次感染で変わってきます。妊娠中や妊娠を考えているときは特に症状を見逃さないように気を付けてください。
女性の初発感染
大陰唇や小陰唇からその周囲にかけて、水ぶくれと浅い潰瘍が出現します。水ぶくれと潰瘍は、左右両側に出ることが多いです。また、大抵の場合、足の付根の鼠径リンパ節(そけいリンパせつ)が痛みを伴って腫れ上がります。
痛みが強くて排尿がつらくなったり、歩行すら難しくなることもあります。ほかに次の症状が出ることがあります。
- 発熱
- 頭痛
倦怠感 、だるさ- 筋肉痛
- 膣分泌物
2-3週間で自然に症状は消えます。薬を使えば1週間ほど早く治ります。
ウイルスが脳に近い場所まで広がって髄膜炎(ずいまくえん)という重症の感染に至ることがあります。髄膜炎では、ひどい頭痛や首の痛みが出現し、尿を出しづらくなったり便秘になったりすることがあります。
女性の二次感染
二次感染の症状は軽く、性器やおしりや太ももに小さな水ぶくれと潰瘍が数個出てくるだけのことが多いです。たいていの場合は何もしなくても1週間ほどで症状は引いていきます。水ぶくれが出る前に、同じ場所に違和感を覚えることがあります。
6. 男性の性器ヘルペスの症状
性器ヘルペスの症状は初発感染と二次感染で違ってきます。
初発感染の症状
性器にかゆみや違和感を伴った直径1-2mmの水疱(水ぶくれ)が複数個出現します。症状が出やすい場所は亀頭や陰茎(ペニス)ですが、肛門性交をする人では、肛門周囲や直腸の粘膜にも症状が出現します。
3-5日程度経つと水疱が破れて、痛みのある円形の浅い潰瘍に変化します。
ほかに次の症状が出ることがあります。
- 発熱
- 頭痛
- 倦怠感、だるさ
- 筋肉痛
- 足の付根の
リンパ節 (鼠径リンパ節)が腫れる - 尿道から分泌物が出る
単純ヘルペスウイルスによって直腸炎が起こった場合、肛門の痛み、粘液排出、便秘、渋り腹(便意があるのに排便がないこと、テネスムスとも)などの症状があります。
二次感染の症状
性器ヘルペスが再発するときは、初発感染のときとほとんど同じ場所に水疱や浅い潰瘍が出現します。二次感染は初発感染よりも症状が軽く、短い期間で症状は消失します。ただし、エイズなどで免疫不全のある人は、潰瘍が深く、なかなか治りにくくなります。
7. 性器ヘルペスの治療
性器ヘルペスの治療には、原因であるウイルスの増殖を抑える薬があります。薬を使えば症状が早く治りますが、身体からウイルスがいなくなることはありません。このため、症状が軽いときや治る傾向が見えているときは必ずしも薬を使う必要がありません。
性器ヘルペスに市販薬は効く?
性器ヘルペスを効果・効能とする市販薬はありません。性器ヘルペスに対しては、初発感染でも、二次感染でも、市販薬は効きません。
市販薬の中に、「口唇ヘルペスの再発」を効能効果とする薬があります。ビダラビン(商品名:アラセナSなど)、アシクロビル(商品名:ヘルペシア軟膏、アクチビア軟膏など)などが販売されています。これらの薬は性器ヘルペスには効きません。
市販の塗り薬などの間違った使い方をすると、性器ヘルペスをかえって悪化させることも考えられます。性器ヘルペスとわかっているときは市販薬は使わないで、病院で治療してください。
初発感染の治療に使う薬と治療期間
性器ヘルペスの初発感染は症状が強く、症状が出ている期間も長いので、薬を飲むと早く楽になります。薬は飲み薬です。
アシクロビル(商品名:ゾビラックス®)とバラシクロビル(商品名:バルトレックス®)という、単純ヘルペスウイルスの増殖を抑える薬を使います。使い方の例を挙げます。
- アシクロビル(ゾビラックス)を1回400mg(200mgを2錠あるいは400mgを1錠)ずつ1日に3回、7-10日間飲む
- アシクロビル(ゾビラックス)を1回200mg(200mgを1錠)ずつ1日に5回、7-10日間飲む
- バラシクロビル(バルトレックス)を1回1000mg(500mgを2錠)ずつ1日に2回、7-10日間飲む
副作用により下痢、吐き気、腹痛、めまい、ふらつき、眠気、かゆみなどの症状が出ることがあるので、体調の変化には注意が必要です。
二次感染の治療が要らない場合と治療期間
性器ヘルペスの二次感染は、症状が軽く1週間以内に症状が引いて来ることが多いので、自然に治るのを待ったほうが良いことがあります。症状が軽いときや治る傾向が見えているときは薬を使っても大きな違いが期待できません。
使う薬は初発感染のときと同じで、アシクロビル(ゾビラックス)とバラシクロビル(バルトレックス)です。
- アシクロビル(ゾビラックス)を1回400mg(200mgを2錠あるいは400mgを1錠)ずつ1日に3回、5日間飲む
- アシクロビル(ゾビラックス)を1回800mg(400mgを2錠あるいは800mgを1錠)ずつ1日に2回、5日間飲む
- バラシクロビル(バルトレックス)を1回500mg(500mgを1錠)ずつ1日に2回、3日間飲む
- バラシクロビル(バルトレックス)を1回1000mg(500mgを2錠)ずつ1日に1回、5日間飲む
薬で性器ヘルペスの再発を予防できるか?
性器ヘルペスが何度も再発して、痛みを伴う潰瘍や水泡が出現すると、生活がつらくなってしまい、気分も落ち込んでしまいます。他人にうつしてしまう危険もあります。
そのため、年間に6回以上再発を繰り返す人や再発時の症状が重い人は、再発予防の治療に保険が効きます。
再発予防のためには薬を1年間以上飲み続ける方法が標準的です。例を以下に示します。
- アシクロビル(ゾビラックス)を1回400mgずつ1日に2回飲む
- バラシクロビル(バルトレックス)を1回500mgから1000mgずつ、1日に1回飲む
薬を1年間飲んでみて、症状がどの程度減ったかを見て、いつまで飲み続けるかを考えます。アシクロビルもバラシクロビルも、長期的に使用することで重大な副作用が発生することはほとんどありません。
再発予防の治療を行うことで再発の60-70%程度は予防できますが、予防薬を飲んでいる期間に症状が出現することもあります。
免疫不全の人の治療
エイズなどで免疫不全の人が性器ヘルペスに感染すると、重症になりやすく、薬を使ってもなかなか治りくいです。そのため、薬の量が多め、治療期間も長めになります。
- 入院して点滴のアシクロビル(ゾビラックス)を5mg/kg/回の量で1日3回投与する。治療期間は7-14日間
- 飲み薬のアシクロビル(ゾビラックス)を1回400mgずつ1日に5回、7-14日間飲む
特にHIVの治療をしている人は、治療薬同士の相互作用が起こることがありますので、必ずお医者さんや薬剤師に飲んでいる薬を伝えて下さい。
8. 妊娠中の性器ヘルペスは要注意
妊婦が単純ヘルペスウイルスに感染して症状を起こしている場合には、出産時に赤ちゃんにウイルスがうつることが多いです。初発感染では50%、再発では0-5%程度の確率で赤ちゃんに感染します。赤ちゃんが感染して新生児ヘルペスとなると、死亡率が20-30%と非常に危険な状態になります。子供に単純ヘルペスウイルスがうつることは避けなくてはいけません。
ところが、妊娠中に薬を飲むことで出産時の感染を防げるという証拠はありません。また、妊娠中に飲んだ薬が赤ちゃんに影響を与えないかも不明です。
このため、出産時にお母さんに性器ヘルペスの症状が出ている場合は、赤ちゃんに感染するのを予防するために帝王切開で出産することが勧められています。薬は症状が非常に強いときにだけ使ってもよいでしょう。
9. まとめ
性器ヘルペスについて覚えておきたいポイントをまとめます。
- 症状は性器の潰瘍、水ぶくれ
- 再発しやすい
- 症状が軽ければ薬を使わなくてもいい
- 妊娠中に症状が出たら帝王切開