性病
性病はナイーブな話ですのでなかなか人に相談できない病気です。それでいて放っておいても治ることは期待できません。また、ともすれば不妊症の原因になります。 性病を起こす原因や治療法について考えていきましょう。
最終更新: 2023.02.28

医師からのワンポイントアドバイス

性病を治す上で気をつけるべきことがあります。特に注意すべきことを2点挙げてお話します。

1. 性病は同時にいくつもかかる

梅毒HIVクラミジア淋菌など、一度に複数の性病が起きることはよくあります。また、性病にかかったときに、性器だけでなくほかの場所にも同時に感染していることがあります。尿道にクラミジアが感染しているときに、のどにもクラミジアが感染しているといったパターンです。

複数の感染が起こったときには特有の注意点があります。

見逃されやすい

人間は1つの答えが見えたらもう答えを探さなくていいという錯覚に陥りやすいです。つまり、1つの性病が見つかると、見つかった性病を治すことに注意が向いてしまい、ほかの性病が同時に隠れているのを見逃しやすくなります。お医者さんでも目をくらまされそうになることはよくあります。

複数の感染が起こっているのを見逃してしまうと非常に危険です。1つの感染を治療しても他の感染が治療されないまま残ってしまいます。

特に危ないのは、見逃した感染がクラミジアのように症状の弱いもので、治ったと思って放置しているうちに見えないところで問題が起こり、あとで不妊などの悪い結果が出てはじめて気付くというケースです。

1つの性病が分かったら他にも性病があると思って、クラミジアの検査と淋菌の検査は同時に行い、診察ではオーラルセックスやアナルセックスをするかも正確に伝えてください。少しでも気になる症状は残らず伝えてください。治療でひとつの症状がよくなったと思っても、ほかの症状が出ていないか気を付けていてください。

治療が難しい

HIVと梅毒が一緒に感染している場合、梅毒の治療はHIVに使う薬との飲み合わせを考えて選択肢が狭まってしまいます。同じように、複数の治療を同時にしても問題ないかは複雑な判断が必要になります。

また、感染が複数あるとどうしても身体のバランスが崩れやすくなりますので、治療中の体調管理も複雑になります。

性病の診察を受けるときには、持病や以前にかかった性病、いま飲んでいる薬などがあれば忘れずに伝えてください。

薬の量が多くなる

薬の量が増えると飲むのが大変になってしまいます。また、薬の量が増えると副作用が出やすくなってしまいます。

しかし、処方された薬を自分の判断でやめたり量を変えて飲むのはとても危険です。処方された分は残さず飲み切り、万一副作用かと気になる症状が出たときはすぐに処方したお医者さんに伝えてください。

2. 現代日本には性病の危険がいっぱい

梅毒はコロンブスがアメリカ大陸から持ち帰ってきたと言われています。それまではあまり世界で見られていなかった梅毒は、コロンブスの大陸発見後から瞬く間に全世界に広がっていきます。

日本の書物においても1512年の三条西実隆の「再昌草」に梅毒の存在が記載されています。1543年に鉄砲伝来、1549年にキリスト教伝来するよりも30年以上前から梅毒は日本に伝わっていたことになります。

現代までに医学が大きく進歩したにもかかわらず、性病はなくなる様子がないばかりか、梅毒性器ヘルペスに至っては近年増えてきています。

なにが原因で性病が蔓延しているのでしょうか?

性病の情報を教えてくれる場が少ない

日本の性教育では、身体や心の変化や妊娠の成り立ちを教えられるのですが、性行為について気を付けることはあまり教えてくれないのが現状です。

かつての日本では、思春期の学生妊娠のトラブルを避けるという理由で、性教育から具体的な性行為の知識を省く風潮がありました。今では小学校4年生と中学校1年生のときに性教育の時間があり、保健体育の授業の一部で性感染症について教える決まりはありますが、あまり浸透しているとは言いがたく、学校の授業だけできちんと性病予防できるだけの知識を身に付けるのは難しい状況です。

性病を防ぐ「セイファー・セックス」(より安全なセックス)について「性病予防のための効果的な方法とは?」で説明していますので、ぜひ参考にしてください。

薬が効かない菌が増えている

特定の抗菌薬抗生物質、抗生剤)が効かない細菌耐性菌)が増えてきています。

性病を起こす細菌の中でも、いま流行している淋菌のほとんどが、抗菌薬のレボフロキサシン(クラビット®)が効かない耐性菌です。淋菌による性病に対してクラビット®で治療してもうまくいきません。

性病の薬をきちんと飲んでいるのに症状が消えない場合は、処方したお医者さんにもう一度相談してみてください。

症状がなくなっても菌は生き残っている

クラミジアによる尿道炎で、レボフロキサシン(クラビット®)500mg/日を7日間処方されたとします。治療がうまくいくと、早ければ3日目ぐらいから症状がなくなります。人間は喉元すぎれば熱さを忘れる生き物ですので、お医者さんから7日間分の薬をもらっていても、4日目から飲み忘れてしまうことがあります。

症状がなくなるということは、一山越えたことになりますが、まだ原因のクラミジアは体の中に残っています。クラミジアを全滅させて完治するには、症状がなくなってからも抗菌薬を続ける必要があります。実は抗菌薬を飲む「7日間」という期間は、7日間飲めば再発しにくいという要素も加味して決められています。

症状がなくなったからといって薬をやめてしまうと、生き残った細菌がまた増えて、病気がぶり返してしまいます。

細菌はなかなかしぶといので、抗菌薬は出された分をすべて飲み切るようにしてください。

性病はピンポン感染する

クラミジアのように薬を使わないと治らない性病は、自分だけ治療するのでは不十分です。パートナーも同じ性病にかかってしまうことがあるからです。

つまり、せっかく治療しても治りきる前にパートナーにうつしてしまい、治ったと思ったらうつし返されてしまうことがあります。

性病をパートナーとの間でうつしあうことをピンポン感染といい、延々とお互いにうつしあう状況はしばしば起こります。

ピンポン感染を防ぐには自分とパートナーと両方を同時に治療することが必要なので、必ず二人、性的関係のある人が複数いれば全員、同時に医療機関にかかって治療するようにしてください。

感染が広がりやすい場がある

不特定多数の人を相手にする風俗店などでは、どこかから性病が持ち込まれれば訪れる人全員に性病が広がる危険性があります。

不特定多数の間でピンポン感染が起こってしまうので、同時に全員が治療する必要が出てきますし、誰か一人でも治療に失敗すれば、また全員が性病になってしまいます。

不特定多数の人が性行為をする場は、性病がうつりやすく性病を治療しにくい環境です。働く人も、利用する人も性病の危険にさらされます。

性病の危険が高い環境では、特に予防に気を付けてください。

コンドームを使用しないセックスは危険!

最後に、あなたが女性なら、パートナーにはちゃんとコンドームを付けてもらってください。男性なら、コンドームを付けるようにしてください。

「コンドームを使用しないセックスを強要するのは、愛がないからである」という言葉があります。極端な表現ですが、コンドームは性病や望まない妊娠を防ぐために何よりも大切です。コンドームを使わない人がいることで、性病はどこからか伝わってきます。

自分自身が気を付けることで、性病の危険から自分とパートナーを守りましょう。



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