しょくどうがん
食道がん
食道の表面の粘膜にできたがん。たばこ、飲酒などが一因であると言われている
15人の医師がチェック 235回の改訂 最終更新: 2024.10.29

食道がんの症状:初期症状や食道がんと似た症状の病気など

食道がんの初期には症状がないことが多く、進行してはじめて症状が出ることがあります。食道は食べ物が通過していく臓器なので食事中に症状を自覚することもあります。 

図:食道の解剖イラスト。

初期の食道がんには症状がないことが多く、内視鏡で偶然発見されることも珍しくはありません。進行も早いので初期の段階で症状をきっかけに発見されることは少ないとも考えられています。

出ることがある症状の例を挙げます。

  • 嚥下時通、灼熱感

  • 嚥下困難

  • 胸痛

  • 背部痛

  • 嗄声

以下でそれぞれの症状について説明しますが、まったく症状がない場合も多いという点に注意してください。また、いくつかの症状に当てはまったからといって食道がんとは限りません。ほかの原因も考えられます。

食道がんの初期の症状として、食べ物を飲み込んだ時にちくちくした痛みがあったり、熱いものを飲み込んだ時にしみるような感じを自覚することがあります。痛みを嚥下時痛、しみる感じを灼熱感といいます。はっきりしない違和感程度のこともあります。食道がん以外では食道の壁の炎症や食道の壁の一部がクレーターのようにえぐれる食道潰瘍(しょくどうかいよう)なども原因になります。食事中に嚥下時痛や灼熱感を自覚するときは医療機関で調べてもらうことが重要です。

嚥下とは飲み込むことです。食道がんが大きくなると食道の中(内腔)が狭くなってきて食べ物の流れが悪くなります。食べ物を少し大きな形で飲み込んだ場合に嚥下困難を自覚することが多いです。食道がんが周りに浸潤して嚥下に関わる神経(反回神経)に影響することでも起きます。食道がん以外の病気では食道アカラシア逆流性食道炎などを原因とすることがあります。

食道がんが進行すると食道の壁の外側方向にがんが浸潤(しんじゅん)していきます。浸潤とはがん細胞が周りの組織に入り込みながら広がっていくことです。食道の周りには肺や心臓があります。周りの臓器にがんが影響することで胸の痛みが出ます。食道がん以外でも胸痛を症状とする病気は多くあります。

  • 心臓や血管を原因とするもの

  • 肺などの呼吸をする臓器を原因とするもの

    • 急性胸膜炎(きゅうせいきょうまくえん) 

    • 自然気胸(しぜんききょう) 

  • 胃や腸を原因とするもの 

  • その他

    • 軟骨炎(ろくなんこつえん)

    • 肋間神経痛(ろっかんしんけいつう)

    • 帯状疱疹(たいじょうほうしん)

胸痛には急いで治療をしなければ命に危険が及ぶものも多くあります。また原因となる病気もさまざまな臓器に渡っています。胸痛は食道がんの症状の一つとして現れることがありますが、自己判断せずに医療機関を受診して原因を調べることが大事です。

食道は背中側に位置します。食道がんが進行すると食道の外側方向に浸潤していきます。食道がんが背骨や神経まで浸潤することで背中の痛みを感じることがあります。

背部痛を症状として現す病気の例を挙げます。

背部痛の原因となる臓器や病気は様々です。背部痛は食道がんの症状の一つとして現れることがありますが、自己判断せずに医療機関を受診して原因を調べることが大事です。

嗄声はかすれ声のことです。食道がんが進行すると反回神経という神経に浸潤することがあります。反回神経は発声に重要な役割を果たしています。反回神経にがんが浸潤することで声がかすれる嗄声の症状が現れます。

嗄声の原因となる反回神経麻痺は食道がん以外の病気が原因になることもあります。

声の変化は自分では気づきにくいことがあります。周りの人から指摘されることもあります。嗄声には大きな病気が隠れていることもあります。医療機関を受診して原因について調べることが大事です。

食道がんが進行すると食事がのどにつかえたりして食事量が減少し、体重が減ることがあります。また、がんは一般にエネルギーを消費することなどによって体重減少を伴うことがあります。

食道がんが気管支などに浸潤すると咳が出ることがあります。食道の周りには肺、気管、気管支など、呼吸をするための臓器があります。がんがこれらの臓器に浸潤することで咳などの症状が出ます。

咳の原因となる病気は他にも多くあります。結核などに気付かないでいる人もいるので、咳が長引くときには医療機関を受診して相談することが大事です。

食道がんになる人は多くはありません。「最新がん統計」によると、生涯で何らかのがんを経験する人は男性で62.7%、女性で46.6%です。食道がんは男性のうち2.2%、女性のうち0.4%が生涯に経験します。胃がん肺がん大腸がんなどのほうが数倍高い確率で発生します。

食道がんは年齢とともに発生する人が増えていきます。若年者に発生することは少ないです。その他には喫煙や飲酒が食道がんの発生と関係があるとされています。詳しくは「食道がんの原因は?」で解説していますので参考にしてください。

食道がんの初期には症状がないこともあります。そのため、症状に気を付けていても食道がんの早期発見は困難と言わざるをえません。食道がんが心配になったときも、出ることがある症状をひとつひとつチェックすることはあまり診断の助けになりません。

内視鏡で偶然発見されることもあります。しかし、食道がん発見を目的とした検診は一般的に勧められるとは言えません。何かの症状を感じたときに医療機関で相談することが、食道がん以外の病気を適切に治療するためにもまず大切です。

食道がんの症状は多様です。また食道がんでしか出現しない症状はありません。咳、嘔吐、胸の痛みの原因は逆流性食道炎マイコプラズマ肺炎が原因かもしれませんし、原因がみつからないこともあります。若い人では食道がんより他の病気が症状の原因になっている方が多いでしょう。自分で症状から原因を推定しても、治療ができなければあまり解決になりません。風邪の咳などであれば家で休むことで自然に治るかもしれませんが、抗菌薬などの治療が必要な場合もあります。嘔吐や胸の痛みについても同じです。症状が長引く場合には医師の診察を受けて原因について確認する姿勢が大事です。

食道がんがかなり進行した場合に出る症状を説明します。ただし症状は必ずしも進行の度合いを示すものではありません。早期食道がんでも下記の症状が出ることがあります。症状はがんの進行を推定することの役には立ちますが、必ずしも症状と進行度が一致するとは限りません。進行度は画像診断などを使った評価で決めます。

喀血は肺や気管支から出血して血が口から出てくることです。食道がんが気管支や肺に浸潤して出血すると喀血として現れます。浸潤とは、食道がんが大きくなって隣り合った気管支や肺に入り込んでいくことです。

喀血は食道がん以外にも重い病気が原因で現れることがあります。喀血をきたした場合は直ちに医療機関を受診してください。

吐血は食道や胃などの食事の通り道から出血して口から血が出てくることです。食道がんが大きくなると食道の内側に出血して吐血を起こすことがあります。がんは出血しやすい性質があるので吐血の原因になります。吐血の原因は他にも胃がん胃潰瘍食道静脈瘤マロリー・ワイス症候群などがあります。緊急の治療を必要とすることもあるので、吐血があった場合は直ちに医療機関を受診してください。

食道がんが気管支などに浸潤すると呼吸困難を起こすことがあります。食道がんが気管支を塞いでしまうと呼吸が上手くできなくなります。呼吸困難には他の原因もありますが、呼吸が不十分な状態が続くと危険です。息をするのが苦しいなと思ったら医療機関に相談してみてください。

食道の壁の一部がクレーターのようにえぐれることを食道潰瘍といいます。食道潰瘍は食べ物を飲み込む時に痛みやしみる症状がでることがあります。食道がんの症状と似ているところがあります。

食道潰瘍の原因には様々で、内視鏡検査を中心に診断をします。原因に合わせて抗菌薬、抗真菌薬、胃酸抑制剤などを使います。食道と胃の繋ぎ目に問題があるときには手術が提案されることもあります。

食道アカラシアの症状は、食べ物がつかえて飲み込めなくなる嚥下障害です。

食道から胃につながる場所にある筋肉が不適切に締まってしまい、食べ物が胃に進めなくなってしまいます。食べ物は食道に溜まるので食道が広がってしまいます。

食道アカラシアの症状は徐々に進行していきます。重症化した場合は液体の飲み込みもできなくなることがあります。食事量が減少するために体重減少の原因にもなります。

嚥下障害と体重減少は食道がんと似ている症状です。

また、食道アカラシアがある人は食道がんの発生する危険性が高くなることも知られています。

食道アカラシアの診断には食道造影、食道内圧測定、内視鏡を用います。

狭くなった食道を広げることが治療になります。内服治療(カルシウム拮抗薬)や手術のほか、風船のようなもので内視鏡的に食道を広げる方法もあります。風船を使う方法をバルーン拡張術とも言います。他には内視鏡的に筋層を切開する治療(POEM: pre-oral endoscopic myotomy)もあります。

逆流性食道炎の主な症状は胸やけや胸痛、咳、かすれ声など食道がんの症状と共通するところがあります。

逆流性食道炎は胃液が逆流することを原因として起きる食道の炎症です。胃液は食道に逆流しないようになっています。食道と胃の繋ぎ目には逆流を防止するための筋肉があり繋ぎ目を巾着の様に締めます。逆流を防止する機能が上手く働かないことで逆流性食道炎発症します。

診断には内視鏡を用います。

飲み薬で治療します。

逆流性食道炎が長期に続くと食道が狭くなることがあります。また、食道の壁が影響を受けてバレット食道という状態に変わることがあります。バレット食道からは食道がんができやすいことが知られています。

マロリー・ワイス症候群は嘔吐のあとで血を吐く(吐血する)ことが特徴です。

マロリー・ワイス症候群とは、嘔吐をきっかけにして食道直下の胃が裂けて出血することです。飲み過ぎで嘔吐したときなどに起こります。

食道がんでも進行すると吐血が症状として現れることはあります。マロリー・ワイス症候群は重症化しないかぎり特に治療を必要としません。マロリー・ワイスは経過をみることで自然に軽快することが多いです。しかし自己診断せずに医療機関を受診して他の病気が隠れていないかを確かめておくことは大事です。

食道静脈瘤(しょくどうじょうみゃくりゅう)は吐血の原因になります。

食道静脈瘤は食道の静脈の一部が拡張したものです。肝硬変などが原因で食道静脈瘤ができます。

食道静脈瘤は出血しやすい状態になっています。食べ物が通過するだけで出血することもあります。食道静脈瘤が大きく裂けると大量の吐血の原因にもなります。出血した場合や出血の恐れが強いと思われた場合は、内視鏡治療が必要です。