しょくどうがん
食道がん
食道の表面の粘膜にできたがん。たばこ、飲酒などが一因であると言われている
15人の医師がチェック 234回の改訂 最終更新: 2022.10.24

食道がんの原因:喫煙、飲酒、嘔吐などと関係ある?

食道がんは様々な要因が重なって発生するので原因を一つに特定することはできません。ただし、飲酒、喫煙、バレット食道などがあると食道がんの発生する確率が上がることがわかっています。

年齢を重ねると食道がんの発生する割合が増加していきます。「男性は年齢を重ねるとともに罹患率が上昇し70-75歳にピークがあります。女性も年齢を重ねるほど罹患率が高くなる傾向があります。

食道がんは男性に多いことが知られています。男女比は6:1程度です。

喫煙によって食道がんが発生する確率が上がります。喫煙はいくつかのがんの発生に強く関与しています。実際のデータとしては、喫煙者と非喫煙者を比べたとき喫煙者のほうが食道がんの発生が多かったという報告があります。

過去に喫煙していた

喫煙者

2.21倍

3.73倍

喫煙は食道がん以外にも多くのがんの発生リスクを上昇させます。多くの面で、健康のために禁煙は大事なことです。

参照:Jpn J Clin Oncol.2012;42:63-73

飲酒は食道がんと関係があります。

飲酒をしたことがある人とない人を比べた時、飲酒をしたことがある人は、飲酒をしたことがない人に比べて食道がんが発生する危険性が約3.3倍高いと報告した研究があります。この研究では、飲酒量が多いほど食道がんが発生する危険性も高いとの見解を示しています。

アルコールを飲むと体内でアセトアルデヒドという物質に変化します。アセトアルデヒドが発がんに関係していると考えられています。

飲酒を楽しみの一つとしている人は多くいると思います。飲酒の量、機会などについては、常識の範囲内で楽しむことが大事です。

参照:
Jpn J Clin Oncol.2011;41:677-92
Carcinogenesis.2002;23:1851-9

バレット食道は、食道の粘膜が胃酸の影響で変化した状態です。バレット食道からは食道がんが発生しやすくなっています。逆流性食道炎が長年続くことでバレット食道ができます。

食道の下部には胃酸の逆流を防止する機能が備わっています。逆流防止の機能が低下すると胃酸の逆流が起きてしまいます。この状態が逆流性食道炎です。

少し専門的な話になりますが、食道はもともと食べ物が通過するなどの物理的な刺激に対しては強い一方、胃酸などの化学的な刺激には弱い性質があります。

胃酸が食道に逆流を続けると食道の粘膜は胃酸に適応するように変化します。正常な食道の粘膜は、顕微鏡で見ると扁平上皮(へんぺいじょうひ)という構造になっています。逆流性食道炎の状態が続くと食道粘膜は扁平上皮から円柱上皮に変化します。円柱上皮に変化した粘膜をバレット粘膜ということもあります。バレット粘膜からは腺がんという組織型の食道がんが発生しやすいことがわかっています。食道にバレット粘膜ができている状態をバレット食道と呼びます。

バレット食道には種類があります。バレット粘膜が食道の内側を一周してつながっていて(全周性)、かつ上下方向に3cm以上広がっている場合を「long segment Barrett esophagus(LSBE)と呼びます。バレット粘膜が3cm未満であるか、または全周性につながっていない(非全周性)ものをShort segment Barrett esophagus(SSBE)と呼びます。

バレット食道からは食道がんの中で腺という組織型のものが発生する危険性が高くなることが知られています。日本人の食道がんは扁平上皮癌という組織型が多数を占めています。国によっては腺癌が多数です。

日本ではバレット食道によってどれほど食道がんが発生しているかは明らかになってはいません。

バレット食道には2つの種類があります。全周性に3cm以上のバレット粘膜があるlong segment Barrett esophagus(LSBE)、バレット粘膜が3cm未満であるか、または非全周性のShort segment Barrett esophagus(SSBE)です。日本人に多いのはSSBEです。食道がんと関連が強いのは日本人には少ないLSBEです。

米国からの報告ではLSBEの人に1年間で食道がんが発生するリスクは0.4%としています。日本人ではSSBEの方が多いので、「バレット食道です」と言われてから食道がんになる割合は年間0.4%よりも低いと考えられます。

バレット食道内視鏡検査で見つかることがあります。バレット食道から食道がんが発生する可能性がありますが、バレット食道でも必ず食道がんになるとは限りません。現在のところバレット食道を定期的に検査するべきか、治療するべきかといった問いには確実な答えが出ていません。

バレット食道が見つかった場合は、検査をする間隔などを主治医と話し合ってみてください。

もちろん、定期的な検査はせず生活の負担を少なくするという選択肢もあります。

飲み過ぎで一度吐いたり、胃腸炎などでしばらく嘔吐を繰り返したりしても、食道がんを起こす可能性は無視できる程度と考えられます。

胃酸の逆流が常に起きている逆流性食道炎によって発生するバレット食道は食道がんが発生する危険性を上昇させることが知られています。

嘔吐も原理的には胃酸が胃から逆流するので、食道に影響することがまったくないとは言えませんが、逆流性食道炎に比べると1回や数回の嘔吐で食道に胃酸が触れる時間はごくわずかです。

嘔吐で食道がんを心配する必要はないと言っていいでしょう。嘔吐が繰り返し起きているのならば慢性胃炎などの病気がある可能性があります。医療機関を受診して原因について調べておくことが大事です。