しょくどうがん
食道がん
食道の表面の粘膜にできたがん。たばこ、飲酒などが一因であると言われている
15人の医師がチェック 234回の改訂 最終更新: 2022.10.24

食道がんの抗がん剤治療①:手術前、手術後に使う目的や化学放射線療法について

食道がんの抗がん剤治療をする場合は手術の前後、放射線治療との併用、転移している場合です。それぞれの場合で目的が異なります。 

食道がんの治療チャート

食道がんのステージII、IIIの人には手術の前に抗がん剤で治療をすることが多く、その目的は手術の効果を最大限に高めることです。

ステージとはがんの進行度を分類したものです。食道がんのステージはステージIからステージIVまでに分けられます。詳しくは「食道がんのステージとは?」で説明しています。

手術の前に抗がん剤治療をすることでがんが小さくなってがんを全て切除できる可能性が高まる効果などが期待されます。

対象は、食道がんが食道の壁の深くまで浸潤(しんじゅん)している場合やリンパ節に転移が多くある場合などです。浸潤とはがんが隣り合った組織に入り込みながら広がっていくことです。リンパ節転移はがん細胞がリンパ節にたどり着いて増殖している状態です。リンパ節転移があっても離れた臓器への転移(遠隔転移)がなければ、手術でリンパ節転移をすべて取り除くことで体からがんをなくす可能性が残されています。

過去に行われた研究でも、手術前の抗がん剤治療によって生存期間が延長したりする効果が確認されています。次に説明します。

この研究の前に手術後に抗がん剤治療をすることで手術のみで治療することに比べて効果があることが分かっていました。抗がん剤治療の中身は後述するFP療法です。

食道がんでステージIIまたはIIIと診断された人の抗がん剤治療を、手術の前に行った場合と手術のあとに行った場合で比較した研究があります。ステージII、IIIはがんが筋肉の層まで達しているか、リンパ節に転移があるか、その両方です。

 

手術前に抗がん剤治療

手術後に抗がん剤治療

5年全生存率

55%

43%

食道がんのステージII、IIIの人に対して、手術の前に抗がん剤治療をしたほうが5年全生存率が高い結果となりました。

この研究は日本で行われました。現在は手術の前に抗がん剤治療をすることが標準的になりました。

参照:Ann Surg Oncol.2012;19:68-74

手術後の抗がん剤治療は再発を予防するために行われます。術後補助化学療法、術後化学療法と言われることもあります。

ある程度進行したがんでは、目に見えないがん細胞がすでに小さな転移を起こしていることが想定されます。手術した部分のがんを取り除いても、小さな転移が残っていれば再発につながると考えられます。再発予防のためには、全身に見えない転移があることを想定する必要があります。

抗がん剤は血液を介して全身に届きます。このため、見えない転移があると想定される場合の治療としては理にかなっています。

手術の効果を高めるための抗がん剤治療は食道がんでは手術の前にする方が効果が高いと考えられています。抗がん剤治療はステージII、IIIの人に対して推奨され、ステージIでは手術のみの治療でも効果は十分と考えられています。ステージは手術の前に決められるものでですが、正確なステージは手術で摘出した食道を調べる病理検査で決まります。手術前に推定したステージは完全ではありません。このために手術後の病理検査で推定より進行した状態であったと診断されることはあり得る話です。想定より進行した状態であれば再発の危険性が比較的高い状態と考えられ、再発予防のために手術後の抗がん剤治療が勧められます。抗がん剤治療には副作用もありますが、手術の効果を最大限に高めるという狙いがあります。

食道の領域リンパ節以外の場所に現れた転移を遠隔転移といいます。遠隔転移がある状態はステージIVに分類されます。ステージIVでの治療は主に抗がん剤が勧められます。食道でのがんの状況をみて放射線治療を併用する場合もあります。

転移がある場合に抗がん剤治療をするのには理由があります。転移をしている場合には、全身にがん細胞があると考えられます。全身にあるがん細胞を抑え込むには手術や放射線治療ではなく全身をカバーできる抗がん剤治療のほうが適しています。

遠隔転移がある状況は根治が難しいと考えられています。根治とはがんを身体からなくすことです。根治が難しいときの治療目的は余命の延長や症状の緩和です。余命の延長や症状の緩和を目的にした治療では抗がん剤治療が中心です。抗がん剤治療を長期間行うと抗がん剤による体へのダメージが蓄積したり、がんが薬に対して耐性を獲得したりして、効果が弱くなることがあります。このためいつか抗がん剤治療は続けられなくなります。身体が抗がん剤に耐えられなくなったり、効果が確かめられている抗がん剤を使いきったときは、抗がん剤以外の方法で症状の緩和などを図る治療が主体になります。

食道がんに対する抗がん剤の使い方はいくつかあります。

抗がん剤治療をする際に「レジメン」という言葉を耳にするかもしれません。レジメンとは使用する抗がん剤の種類や投与する量、期間、手順などを時間の流れで表した計画表のことです。抗がん剤のレジメンは臨床試験などを経て効果が確認されたものです。

標準的なレジメンをいつでも厳守しないといけないわけではありません。副作用が出た場合など、患者さんの状態に合わせて調整しながら治療が続けられます。

食道がんに使われる主なレジメンを説明します。

FP療法はフルオロウラシル(5-FU)とシスプラチンの2つの薬を使います。

FP療法は転移のある食道がんや化学放射線療法(抗がん剤治療と放射線療法の併用)として使う場合は1サイクルの日数と薬の量が違います。手術の前のFP療法は21日を1サイクルとして治療します。

1

2-5

6-21

フルオロウラシル

800mg/m2

休薬

シスプラチン

80mg/m2

休薬

休薬

参照:Ann Surg Oncol.2012;19:68

シスプラチンは腎臓の機能を低下させることがあるので、体に入れる前に点滴で水分を補い腎臓の機能を守る必要があります。高齢者は心臓の機能が低下していることがあり点滴をしすぎると心不全などを起こすことが懸念されます。シスプラチンが適していない場合にはシスプラチンに代えてネダプラチンを使うなどします。

FP療法はフルオロウラシル(5-FU)とシスプラチンの2つの薬を使います。転移や再発に使うFP療法は28日を1サイクルとします。

1

2-5

6-28

フルオロウラシル

750-1000mg/m2

休薬

シスプラチン

75-100mg/m2

休薬

休薬

参照:
Jpn J Clin Oncol.2001;31:419-23
Jpn J Cin Oncol.1992;22:172-6

シスプラチンは腎臓の機能を低下させることがあるので、体に入れる前に点滴で水分を補い腎臓の機能を守る必要があります。高齢者は心臓の機能が低下していることがあり点滴をしすぎると心不全などを起こすことが懸念されます。シスプラチンが適していない場合にはシスプラチンに代えてネダプラチンを使うなどします。

FP療法で使うシスプラチンの代わりとしてネダプラチンを使うことがあります。

ネダプラチンはシスプラチンに比べて腎臓や肝臓への影響が少ないですが血小板が減少するといった血液毒性が強く出る傾向があります。

1

2-5

6-28

フルオロウラシル

800mg/m2

休薬

ネダプラチン

90mg/m2

休薬

休薬

参照:Esophagus.2014;11:183-188

ネダプラチンとフルオロウラシル(5-FU)による治療の研究では、生存期間の中央値(半数の人が生存した期間)は8.8か月、1年生存率は32.9%という結果が出ました。

転移や再発した食道がんの治療としてはネダプラチンとフルオロウラシルを用いてもよいと考えられています。

ドセタキセルはタキサン系に属する抗がん剤です。FP療法の効果がなくなった後の治療で選択されることがあります。

ドセタキセルは転移のある食道がんの人に対して効果があるかが確かめられました。試験に参加した49人のうち36人がシスプラチンに代表されるプラチナ系の抗がん剤で治療を受けた後でした。治療は3週間に1回のペースでドセタキセル(70mg/m2)を使うスケジュールとし、生存期間が記録されました。ドセタキセル療法で治療した人の生存期間の中央値は8.1か月でした。中央値は生存期間を長い順に並べた時にちょうど真ん中にくる数値です。ドセタキセル療法の副作用では発熱性好中球減少が18%の人に起きました。発熱性好中球減少症は深刻な状態になることもあるので注意が必要な副作用です。発熱性好中球減少症については後述します。

この結果から、ドセタキセル療法は注意しないといけない副作用はあるものの、転移のある食道がんに対する2つ目以降の抗がん剤治療として効果があると考えられ用いられています。

参照:Ann Oncol.2004;15:955-959

パクリタキセルはタキサン系に属する抗がん剤です。FP療法の効果がなくなった後の治療で選択されることがあります。

パクリタキセルは転移のあるまたは進行した食道がんの人に対して効果があるかが確かめられました。試験に参加した53人はシスプラチンに代表されるプラチナ系の抗がん剤で治療を受けた後でした。治療は49日を1サイクルとして1、8、15、22、29、36日目にパクリタキセル(100mg/m2)を使うスケジュールとしました。生存期間が記録されました。

パクリタキセルで治療した人の生存期間の中央値は10.4ヵ月でした。中央値は生存期間を長い順に並べた時にちょうど真ん中にくる数値です。副作用として、好中球の減少、食思不振、倦怠感などが現れました。

この結果から、転移のある食道がんに対する2つ目以降の抗がん剤治療としてパクリタキセル療法は生存期間を延長する効果があると考えて用いられています。

参照:Cancer Chemother Phqrmacol.2011;67:1265-1272

食道がんの治療チャート

化学放射線療法は、治療効果を高めるために抗がん剤治療(化学療法)と放射線療法を同時に行う治療法です。食道がんではどのステージでも手術をしない場合化学放射線療法が選択される可能性があります。化学放射線療法のスケジュールの一例を示します。

食道がんの治療スケジュール参照:Jpn J Clin oncol.2009;39:638-43

化学放射線療法は、抗がん剤治療と放射線療法を併せて行います。同時に行うことによりそれぞれの治療効果が上がることが狙いです。化学放射線療法では、使用する薬剤や放射線の量が施設によって異なることがあります。抗がん剤治療は28日を1サイクルとします。放射線療法は30日間に分けて行います。

ステージII、IIIでは化学放射線療法後に抗がん剤治療を2サイクル追加します。

ステージIでは手術も治療の選択肢になりますが、身体の状態が悪く手術が適しない場合には化学放射線療法が有力になります。

臨床試験でのステージIに対する化学放射線療法の治療効果として、治療後4年の生存率は80.5%だったとする報告があります。抗がん剤治療は28日を1サイクルとして2サイクル行います。放射線療法は30日間に分けます。

化学放射線療法により食道が残ることは生活の質という点では優れてはいます。一方で食道を残すことで再発する危険性も考えられます。

化学放射線療法の治療スケジュールの例を示します。

食道がんの治療スケジュール参照:Jpn J Clin oncol.2009;39:638-43

抗がん剤治療は28日を1サイクルとします。放射線療法は30日間に分けて行います。

ステージIIに対する治療で、手術に耐えうる健康状態が保てていない人には化学放射線療法が選択肢として挙げられます。

  • 化学放射線治療後の5年生存率は36.8%

ステージII、IIIの化学放射線療法はステージIより長く続けます。放射線療法の期間はステージIと同じですが、抗がん剤治療をさらに2サイクル追加して合計4サイクルになります。抗がん剤治療は28日を1サイクルとします。放射線療法は30日間に分けて行います。

治療スケジュール
手術に耐えられない体の状態の人には根治も狙える有力な選択肢といえます。

参照:Int J Radiat Oncol Biol Phys.2011;81;684-690

ステージIVはステージIVaとステージIVbに分けられます。ステージIVaは、転移はないものの周りの臓器への広がり方からすぐには手術ができない状況です。ステージIVbは、食道から離れた位置のリンパ節転移(領域リンパ節以外)や離れた臓器の転移(遠隔転移)がある状態です。

化学放射線療法が用いられるのはステージIVaです。ステージIVbに対しては抗がん剤を主体として治療します。ステージIVaに対して、化学放射線治療により2年生存率が31.5%だったとする報告があります。抗がん剤治療は28日を1サイクルとして2サイクル行います。放射線療法は30日間に分けます。効果をみて抗がん剤治療を2サイクル追加することがあります。

ステージIVaに対する化学放射線療法は合併症に注意が必要です。ステージIVaは周りの臓器へ広がっているので完治を目指して放射線を照射すると周りの臓器に強く影響してしまう可能性があるためです。

食道がんの治療スケジュール

参照:Jpn J Clin Oncol.2004;34:615-9

ステージIVの化学放射線後にステージII、III同様に追加で抗がん剤治療を追加するかに関しては内視鏡での観察をして食道がんが小さくなるなどの効果が出ているかを確認します。抗がん剤治療は28日を1サイクルとします。放射線療法は30日間に分けて行います。効果が確認できればステージII、IIIと同様にFP療法が2サイクル追加され、合計4サイクル行います。

場合によっては手術も提案されることがあります。ステージIVaの場合は人によってがんの状態も大きく異なるので、医師と治療における利益、不利益を相談して治療を選ぶことが大事です。

抗がん剤には副作用もあります。食道がんに使う抗がん剤で特に注意するべき副作用を説明します。

抗がん剤で治療をするとがんだけではなく骨髄機能にも影響して、骨髄機能が低下します。骨髄機能が低下すると、白血球など体を異物から守る免疫機能が低下します。特に注意が必要なのが発熱性好中球減少症です。

白血球の中の一種類に好中球があります。好中球は細菌などから体を守る上で重要な役割を果たしています。抗がん剤により好中球が減少したところに細菌などが侵入すると、身体の防御機能が低下しているために重症化します。対処の遅れにより命に影響が及ぶことがあります。このような事態を予防すべく、現在では、好中球を増やす薬があります。G-CSFという薬には好中球を増やす作用があります。発熱が認められた場合は適切な抗菌薬を使用して対処します。好中球減少症の多くの場合は入院して治療します。

重症感染症から体を守るには手洗いなどによる衛生管理、うがいや歯磨きなどによる口の清潔保持など日常生活の中での感染対策が大切です。抗がん剤治療中は頻繁に採血が行われる時期があります。それは好中球が減少してきており、医師も慎重に経過を見ているからです。自らの状況を把握しておくことは感染予防に役立ちます。医師から血液検査の結果が説明された時には白血球(好中球)の値に注目したり、具体的な対策を質問しておくことをお勧めします。