2017.08.29 | ニュース

食道がんで化学放射線療法に加えて手術はするべき?

文献の調査から
食道がんで化学放射線療法に加えて手術はするべき?の写真
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食道がんの治療には手術や化学放射線療法などがあります。食道がんの手術は大がかりなものです。これまでの研究報告の調査から、化学放射線療法に加えて手術を行うことの生存期間などに対する効果が検討されました。

転移のない食道がんに対する化学放射線療法に加える手術の効果と安全性

シンガポールの研究班が、遠隔転移のない食道がんの治療として、化学放射線療法に加えて手術を行うか行わないかによる効果と安全性の違いを検討し、『The Cochrane Database of Systematic Reviews』に報告しました。

この研究は、過去の研究からデータを集める方法で、これまでの研究により示されている結果を吟味してまとめたものです。調査では対象者をランダムに分けて化学放射線療法のみの場合と手術を加えた場合を比較した研究を集めました。

化学放射線療法とは、抗がん剤治療化学療法)と放射線療法を一緒に使うことです。食道がんに対しては、手術のほかに根治(がんを体からなくすこと)を目指す治療として化学放射線療法が使われることがあります。

 

局所再発は減るが余命は伸びない

採用条件に合う2件の試験が見つかりました。

患者は臨床的ステージでT3以上かつ/またはリンパ節転移陽性でした。これはステージII以上の一部にあたります。また対象者の93%は扁平上皮でした。扁平上皮癌とはがんのタイプを分類したもので、日本人の食道がんでは扁平上皮癌が多いと言われています。ほかに腺癌というタイプの食道がんもあります。

手術の効果について次の結果が得られました。

高い質の証拠から、食道摘出術を加えることで全生存期間には差がほとんどないかまったくないことが示された(ハザード比0.99、95%信頼区間0.79-1.24、P=0.92、I2=0%、2件の試験)。どちらの研究も無増悪生存期間は報告していなかったため、局所再発がないことを代理指標とした。中等度の質の証拠から、食道摘出術を加えることでおそらく局所再発のない期間は改善する(ハザード比0.55、95%信頼区間0.39-0.76、P=0.0004、I2=0%、2件の試験)が、低い質の証拠によれば、食道摘出術を加えることにより治療関連死亡のリスクが増加するかもしれない(リスク比5.11、95%信頼区間1.74-15.02、P=0.003、I2=2%、2件の試験)。

化学放射線療法に加えて食道の手術をすることで、化学放射線療法だけの場合に比べて全体として生存期間に差はないと見られました。

ただし、がんが治療後にもとの場所で再発することは(遠隔転移として新たに見つかる場合を除いて)、手術をしたほうが少ないと見られました。

また、データに不確かさがあるものの、手術をしたほうが治療に関連して死亡する人が増える可能性があると見られました。

 

手術はする?しない?

食道がんに対する手術の研究を紹介しました。

食道がんの治療方針はここで比較された2種類以外にもあります。状況によって手術のみとする場合や抗がん剤と手術を使う(放射線療法は使わない)場合なども考えられます。

実際に化学放射線療法を中心に治療する場合、治療後に内視鏡検査で効果を判定し、がんが残っていれば手術する(サルベージ手術)といった方針を取ることがあります。

手術によって死亡が増えることは不確かであり、もし増えるとしても全体の生存期間の違いには現れないほど少ないと言えるでしょう。「治療で得られるものがあるとしても死亡の恐れがあることは避けたい」という考えがあれば、手術をしないでほかの治療法を選ぶ判断を支持するかもしれません。

一方で、手術によってがんが再発していない期間が長くなれば、その期間の生活が幅広くなるかもしれません。

判断には個人や家族の価値観、またその時の状況も関わると思われるため、全員に当てはまる答えはありません。しかし、事実としてわかっていることを材料にすることで、望んだ結果を得られる確率が高い方法を選ぶことができます。

執筆者

大脇 幸志郎

参考文献

Chemoradiotherapy versus chemoradiotherapy plus surgery for esophageal cancer.

Cochrane Database Syst Rev. 2017 Aug 22.

[PMID: 28829911]

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。