しょくどうがん
食道がん
食道の表面の粘膜にできたがん。たばこ、飲酒などが一因であると言われている
15人の医師がチェック 234回の改訂 最終更新: 2022.10.24

食道がんの手術②:頸部食道がん・胸部食道がん・腹部食道がん

手術の方法はがんができた場所によって異なります。頸部食道や腹部食道にがんができた場合には必ず食道を全て切除するわけではありません。がんを取り切れるように、かつ食道を可能な限り残すことも考えて切除する範囲を決めます。

食道がんの手術方法はがんができた場所によって異なります。食道は長い臓器なので頸部、胸部、腹部(食道胃接合部)に分けられます。

  • 頸部食道:輪状軟骨下縁より胸骨上縁まで
  • 胸部食道:胸骨上縁から食道裂孔上縁まで
    • 胸部上部食道
    • 胸部中部食道
    • 胸部下部食道
  • 腹部食道:食道裂孔上縁から食道胃接合部まで

食道がんのリンパ節転移を取り除く目的で、リンパ節の郭清(かくせい)を行います。リンパ節の郭清とは、ある範囲のリンパ節をまとめて切除することです。隠れたリンパ節転移を逃さず取り除くことが目的です。むやみにリンパ節を取るのではなく、取るべき場所を決めて郭清します。

がんは周囲の組織に侵入しながら増殖することを特徴としています。がん細胞がリンパ管の中に入ると、リンパ液の流れに乗って他の場所へ移動を始めます。リンパ管は食道の全体に分布していて、食道からリンパ液が出て行く通り道になっています。リンパ管にはリンパ節という関所のようなものがあります。がん細胞がリンパ節に定着して増殖したものがリンパ節転移です。
 

多くの臓器には領域リンパ節というものがあります。臓器から流れ出したリンパ液が最初にたどり着くリンパ節が領域リンパ節です。正常な臓器からも、リンパ液はリンパ管という管を通ってリンパ節に流れ出しています。

リンパ節転移は隣り合ったリンパ節へと順々に広がっていく特徴があります。最初のリンパ節転移は領域リンパ節に発生します。領域リンパ節を郭清して調べ、どこにもリンパ節転移がなければ、離れた場所にリンパ節転移がある可能性は低いと言えます。手術前には領域リンパ節に目に見えないリンパ節転移が隠れている可能性が否定できませんが、領域リンパ節を郭清することで、隠れたリンパ節転移がもしあっても取り除けることになります。

食道がんの領域リンパ節は第1群、第2群と第3群に分けられます。食道がんのできた場所により第1群から第3群の分け方は異なります。
 

食道がんの手術では食道の摘出とともにリンパ節郭清をします。リンパ節郭清はがんが転移しやすいリンパ節を摘出することです。食道は長い臓器なのでがんが発生した場所によって転移しやすいリンパ節の場所に違いがでます。食道がんは食道を3つに分けてできた場所で摘出するリンパ節を決めています。

  • 頸部食道がん:頸部リンパ節、上縦隔 
  • 胸部食道がん:頸部リンパ節、縦隔リンパ節、腹部リンパ節 
  • 腹部食道がん:(頸部リンパ節)、縦隔リンパ節、腹部リンパ節

専門的な話になるので解説します。かなり細かい話です。
頸部食道は食道の中でも口に近い部分です。正確にいうと輪状軟骨下縁から胸骨上縁までです。首にかなり近い部分の食道なので首や縦隔という胸骨の裏のスペースの上側のリンパ節に転移することが多いです。

胸部食道は、食道の真ん中を指します。正確には胸骨上縁から食道裂孔上縁までです。胸部食道がんは広い範囲に転移をすることが知られています。リンパ節郭清では頸部、縦隔(上、中、下)、腹部と広い範囲のリンパ節を摘除します。

腹部食道は胃に近い食道です。正確には食道裂孔上縁から食道胃接合部までを指します。腹部食道は食道で一番下側の部分です。腹部食道がんは上縦隔のリンパ節へ転移することも少ないのでそれよりさらに先の頸部のリンパ節郭清は行わなくてもよいとする意見もあります。食道がんの進行などからリンパ節郭清の範囲を小さくすることもあります。

頸部食道は食道を3つに分けた時にもっとも口側の部分です。正確にいうと頸部食道は輪状軟骨の下縁より胸骨上縁までです。頸部食道の周りは気管や大血管、神経、甲状腺などが固まっている部分です。食道がんが他の臓器に浸潤(しんじゅん)していることも多いです。リンパ節に転移していることも多いです。リンパ節転移があっても離れた場所の転移(遠隔転移)がなければ手術は検討できます。

頸部食道がんは喉頭(こうとう)という部分を同時に切除しなければならないケースがあります。喉頭を摘出すると声が出なくなります。頸部食道がんの手術は喉頭を温存するかどうかで2通りの方法に分かれます。

  • 喉頭温存手術
  • 咽頭喉頭頸部食道摘出術

また切除した後に食道の代わりを新たに作り出す必要があります。この作業を再建といいます。再建に用いる臓器は空腸(小腸の一部)です。

  • 空腸を用いた再建:遊離空腸

 再建について詳しくは「食道がんの手術の再建方法は?」で説明しています。

喉頭に腫瘍が浸潤していないことが喉頭温存手術の適応です。正確にいうと喉頭・気管に腫瘍の浸潤がなく、腫瘍口側が食道入口部より下方にとどまる症例が適応です。

頸部食道がんが咽頭、喉頭、気管に浸潤している場合は咽頭喉頭頸部食道摘出術でがんを切除します。喉頭を切除した場合には声が出なくなります。食道を摘除するとともに頸部、上縦隔のリンパ節を摘出します。リンパ節を摘出することをリンパ節郭清(かくせい)といいます。

喉頭を残せるかどうかでその後の生活は大きく変わります。喉頭を切除すると声が出せなくなったりと身体機能の変化が大きいです。どうしても喉頭を残したい場合には手術の前に化学放射線療法抗がん剤治療+放射線療法)でがんを小さくしてから手術をしたり、化学放射線療法のみで治療をすることも選択肢の一つです。進行した食道がんに対しては化学放射線療法と比べて手術のほうが治療成績が上回るという意見もあります。治療法によって得られる効果や失うものは異なります。自分や家族の考えを主治医に相談して治療することが納得した治療を受けるためには大事なことです。
 

食道を摘出した後には食道の代わりととして小腸(空腸)で食べ物の通り道を作り直します。摘除した臓器の代わりを他の臓器を利用して作り直します。臓器を作り直すことを再建といいます。食道摘出後の空腸による再建は遊離空腸移植という方法を使います。小腸の一部である空腸の一部を切り取りそれを頸部食道の代わりとして食道の断端同士の間でつなぎ合わせます。そして小腸の血管を近くにある血管とつないで血流を保ちます。つなぐことを吻合(ふんごう)と言います。遊離空腸による再建は血管の吻合など高い技術が要求されますが頸部食道がんでは選択されることが多い再建方法です。

食道がんとともに喉頭の摘出をした場合は永久気管孔を喉に作ります。喉頭を切除すると手術前と同じように呼吸ができなくなります。喉につくる呼吸のための新しい出入り口が永久気管孔です。
 

喉頭摘出後に喉につくる、呼吸のための新しい出入り口が永久気管孔です。永久気管孔を作った場合は生活を変える必要があります。
永久気管孔での身体の変化を挙げます。

  • 首に穴が開いたままになる 
  • 声が出なくなる 
  • 匂いがわからなくなる

永久気管孔は喉に穴が開いたままの状態です。喉から空気が入ることで呼吸ができます。喉に穴が開いた状態なので水が気管に流れ込まないようにお風呂に入るときなどには気を付けなければなりません。食道の一部を摘出して食道が狭くなっていることもあるので、食事のときはよく噛んで食べ物を小さくして飲み込むことが大事です。

永久気管孔に関しての詳しい情報は「がん情報サービス」の説明も参考にしてみてください。

胸部食道は食道を3つに分けたときの真ん中の部分です。胸部食道をさらに3つに分けるとその真中にあたる胸部中部食道にがんができやすいです。

胸部食道がんの手術ではがんの部分を含めて食道を摘除します。胸部食道がんは頸部(けいぶ)、胸部、腹部のリンパ節という広い範囲に転移があることが多いです。特に縦隔(じゅうかく)という胸の部分のリンパ節に転移をすることが多いので縦隔のリンパ節をしっかりと摘出する必要があります。

がんのできた場所や大きさ、深さなどを考慮し、手術前の検査をもとにしてリンパ節を摘除する範囲を決めます。

胸部食道がんの手術は大きく胸を開く手術のほかに、胸腔鏡(きょうくうきょう)を使う方法があります。

胸を開く手術は開胸手術といいます。開胸手術では右側胸部を切り開いて手術をします。

胸腔鏡手術は開胸手術に比べて大きな切開を必要としないので身体への負担が少ないと考えられています。胸腔は肋骨(ろっこつ)に囲まれた空間です。胸腔鏡手術では大きく胸を開くのではなく胸にいくつかの穴を開けて手術をします。穴から内視鏡(胸腔鏡)や鉗子(かんし)というマジックハンドのような器具を入れて手術します。鉗子の先は手元の操作で先が開いたり閉じたりします。はさみのようになっているものもあり切ったりすることもできます。手術は内視鏡によって映し出される映像をモニター越しに見ながら進めます。胸腔鏡手術で食道の摘除やリンパ節郭清をすることができます。

食道がんの手術では大きな血管や肺などの重要な臓器の近くで手術をしなければなりません。思いもよらない場面で出血することもあります。緊急時は状況に応じて開胸手術に切り替え、迅速かつ安全な対応ができるようにします。開胸手術でも胸腔鏡手術でも手術の目的は変わりがありません。がんの治療で重要視される生存率などの点で、胸腔鏡手術が開胸手術を上回るかは未だにはっきりとはわかっていません。

食道を摘出した後には食道の代わりをするものがなければ食事をすることができません。胸部食道がんで食道を摘除した後には胃を使って食道の代わりを作ります。

図:食道がん手術後の胃管再建。

胃は袋状の臓器です。胃につながる血管と胃を切り離して胃を管状にすることができます。管状にした胃を胃管といいます。胃管は食道の様に細くて長いので胸骨の裏側を通して首にある食道の断端まで引き上げることができます。首で食道断端と胃管を縫い合わせます。

図:食道再建の胸骨後経路。

胃管で再建できないケースが少数ですがあります。すでに胃がんで胃を切除していたり、胃がんが同時に発見されて胃を切除しなければならない場合などです。

そのときには結腸(大腸の一部)や空腸(小腸の一部)を食道の代わりとします。結腸や空腸を切り離して食道の位置まで持ち上げます。完全には切り離さずに元の血管がつながった状態で移動させます。これを有茎結腸、有茎空腸といいます。空腸は首まで持ち上げるために血管のつながりを切り離さなければならないことがあります。血管を切離したために空腸は血流が少なくなることがあります。血流を確保するために再建する場所の近くにある血管と吻合します。有茎空腸による再建は胸骨の前にスペースを作りそのスペースを通るように誘導します。

図:食道再建の胸骨前経路。

有茎結腸での再建の場合も、縫合不全(食道と結腸をつないだ部分がうまくつかず、中からものがもれること)が起きると重症化する可能性があるため、胸骨の前を通して再建することがあります。

再建について詳しくは「食道がんの手術の再建方法は?」で説明しています。

腹部食道は食道を3つに分けたときの下の部分です。食道と胃のつなぎ目を含みます。腹部食道がんの手術ではがんの部分を含めて腹部食道を摘除すると同時に胃の一部を切除します。特に胃の周囲と縦隔(じゅうかく)という胸の部分のリンパ節に転移をすることが多いので、胃の周囲のリンパ節および縦隔の足側にあるリンパ節(下縦隔リンパ節)をしっかりと摘出する必要があります。

食道を摘出した後には食道の代わりをするものがなければ食事をすることができません。腹部食道がんで食道を摘除した後には胸部食道がんと同様に胃を使って食道の代わりをするようにしたり、胃の手術と同じように残った胃(残胃)と食道を直接つなぎあわせたり空腸を用いて再建します。再建について詳しくは「食道がんの手術の再建方法は?」で説明しています。

食道と胃の繋ぎ目にがんができることもあります。食道胃接合部がんといいます。この場合の手術はまだ統一した見解が確立されていません。したがってがんの種類やがんの広がりなどをみながら手術の方法が検討されます。

食道がんの治療には、すべてのがんを取り除く目的の手術(根治的手術)以外にも、食べ物の流れを確保するなどを目的とした手術があります。

PEG(ペグ)は経皮的胃瘻造設術(percutaneous endoscopic gastrostomy)の略です。お腹に穴を開けて胃に直接届くようにする手術です。この穴を胃瘻(いろう)といいます。

PEGは栄養価の高い液体を胃に直接流し込むことを目的にします。食道がんが進行した場合などで、食道が狭くなり食事が摂れなくなることがあります。食べ物の通り道として食道が使えないので直接胃に液体を流し込むようにします。

胃瘻をつくる方法には内視鏡を利用しない場合もあります。お腹を少しだけ切り胃瘻をつくることも可能です。胃瘻からは薬を胃に直接送り込むこともできます。

食道ステントは食道を広げて流れを確保する器具です。金網を筒状に丸めたような形をしています。
食道がんが進行すると食道が狭くなります。食道が狭くなり食事が摂れなくなることもあります。この場合には食道を内側から広げるようなステントを挿入して食道を広げ食べ物の流れを確保します。
ステントは縮んだ状態で挿入して手元の操作で広げることができます。食道ステントを挿入するには放射線の一種であるX線を使います。

患者さんは左を下にして横になります。まず口からガイドワイヤーという細い針金を入れて、食道が狭くなっているところの隙間を探し出します。隙間からガイドワイヤーをさらに進めて先端を胃の中まで送り込みます。その後少し細い管をガイドワイヤーに沿って挿入します。管を通して造影剤を流し込みます。造影剤はX線で白く写る液体です。造影剤を入れてX線で撮影することで、狭くなっている部分を確認します。狭くなった場所を狙ってステントを挿入し、ステントを広げます。

食道ステントを留置することによる主な合併症は以下のものです。

食道ステントは放射線療法後などで組織がもろくなっている場合には特に注意が必要とされています。ステントを挿入した後には再びステントががんの増殖によって閉塞することもあります。その際にはステントを再留置する方法があります。