2019.06.07 | コラム

のどや口の中にがんできた人は食道がんにもなりやすい?

過度の飲酒と喫煙が共通のリスクです
のどや口の中にがんできた人は食道がんにもなりやすい?の写真
(c)gubernat-iStock.com

のどや口の中にがんが見つかった人に別のがんが新たに見つかることは、珍しいことではありません。なかでも、食道がんが併せて起こりやすいことがわかっています。転移したわけでもないのになぜ?と疑問に思うかもしれません。今回のコラムでは、別のがんがどのくらい起こりやすいかや、その理由について説明します。

1. のどや口にがんができる人はどのくらいいるのか?

医学的には、のどや口腔にできるがんは「頭頸部がん」に分類されます。頭頸部がんとは、鎖骨から上の部分のうち脳と目をのぞいた部位にできるがんの総称です。つまり、耳、鼻、口腔、のど(咽頭や喉頭)、甲状腺、唾液腺(耳下腺など)にできるがんをまとめて「頭頸部がん」と呼びます。今回のコラムで主に取り上げる、のどや口腔のがんには次のようなものがあります。

 

 

これらのがんは胃がん肺がんなどと比べるとかかる人は少なく、全てのがんのうち約5%にとどまります。また、女性より男性のほうがかかる人が多いという特徴があります。

 

【部位別のがん罹患率:1年間に人口10万人あたり新たにがんにかかった人の数(2014年)】

部位 男性 女性
口腔がん咽頭がん 21.6人 8.4人
喉頭がん 7.8人 0.5人
胃がん 140.1人 60.2人
肺がん 124.3人 54.5人
大腸がん 124.0人 88.0人

*国立がん研究センターがん対策情報センター「がん登録・統計」より

 

頭頸部には食事の摂取や発声に関わる器官が含まれています。そのため頭頸部がんにかかった人では、がんの治療とともに、これらの機能が損なわれた場合にはリハビリテーションも重要になってくることが特徴です。

 

2. 頭頸部がんがみつかった人は食道がんにも注意が必要

頭頸部がんの特徴として、他の部位にがんが併せて起こりやすいことが知られています。他の部位にも起こるがんを重複がん(ちょうふくがん)と呼びます。重複がんは同時にみつかることもあれば、しばらく経ってからみつかることもあります。日本の報告では頭頸部がんの人の14.5%に重複がんがみつかるといわれています。

重複がんとしてみつかるのは、食道がんがもっとも多く10-20%と報告されています。次いで多いのが頭頸部の別の部位のがんで、胃がん肺がんと続きます。また、頭頸部がんのなかでも重複がんが最も多いのは下咽頭がんで、食道がんがみつかる割合は30%にのぼるといわれています。

このため、頭頸部がんと診断された人は、治療を始める前に、重複がんがあるかどうか調べる検査を受けることになります。もし重複がんが見つかった場合には、進行度に応じてどちらのがんの治療を優先するかが検討されます。

また、同時に重複がんが見つからなかった場合でも、のちのち重複がんが生じる可能性があるため、頭頸部がんの治療後も定期的な検査を受けるようにお医者さんから勧められます。

 

3. なぜ頭頸部がんには食道がんが併せて起きやすいのか?

頭頸部がんも食道がんも喫煙と過度の飲酒によっておこりやすくなる、ということが理由として考えられます。一方で、喫煙や飲酒をしなくても「がん」になる人はいますし、これらの習慣を長年続けていても「がん」にならない人も中にはいます。とはいえ、タバコとお酒は多くのがんのリスク因子です。このように共通の背景によっていくつかの部位にがんが起こることを「field cancerization」と呼びます。

それでは、喫煙や飲酒がどのくらい頭頸部がんと食道がんのリスクをあげるのか、簡単にみていきます。なお、ここでは頭頸部がんの中でも重複がんの多い咽頭がん口腔がんに着目してまとめます。

 

喫煙と口腔・咽頭がん、食道がんの関係

喫煙している人が非喫煙者に比べてどのくらい口腔・咽頭がんになりやすいかについて、日本人を対象に行われた調査があります。男性では、喫煙しない人に比べて喫煙する人は2.4倍口腔・咽頭がんになりやすい傾向にありました。下咽頭がんでは影響が特に顕著で、喫煙歴がある人のリスクは非喫煙者の13倍にもなります。

 

【喫煙による口腔・咽頭がん罹患リスク(男性)】

がんの種類 過去喫煙していた人 喫煙している人
口腔・咽頭がん 1.2倍 2.4倍
下咽頭がん 6.7倍 13倍

口腔・咽頭がんは女性には少ないものの、女性の喫煙者は非喫煙者に比べて2.5倍なりやすいと報告されており、喫煙がリスクになることは男性と変わりありません。

また、食道がんでは、非喫煙者に比べて喫煙者が3.3-3.7倍かかりやすくなるという報告があり、喫煙量が多くなるほどリスクが高くなることがわかっています。

 

飲酒と口腔・咽頭がん、食道がんの関係

喫煙と同じく日本人を対象にした調査では、男性では、全く飲酒をしない人に比べて、週に1回以上飲酒する人は口腔・咽頭がんになるリスクが1.8倍増加するといわれています。表にまとめると下のようになります。

 

【飲酒習慣による口腔・咽頭がんの罹患リスク(男性)】

がんの種類 週1回以上飲酒する人 週にアルコール換算で300g(日本酒で約14合)以上飲酒する人
口腔・咽頭がん 1.8倍 3.8倍
下咽頭がん 3.3倍 10.1倍

*日本酒1合(180mL)はアルコール換算で約20gです。これは、他のアルコール飲料に換算すると、ビール中びん1本(500mL)、缶チューハイ1.5缶(約520mL)ワインでグラス2杯(約180mL)、ウィスキーダブルで1杯(60mL)、焼酎0.6合(約110mL)に相当します。

女性では、週にアルコール換算150g(日本酒で約7合)以上飲酒する人は、全く飲酒をしない人に比べて5.9倍口腔・咽頭がんになりやすいと報告されています。

また、食道がんでは、1日あたりの飲酒量が日本酒で1合を越えるとリスクが高くなります。お酒を飲まない人に比べて、1日に日本酒1-2合飲む人は2.6倍、2合以上飲む人で4.6倍、食道がんのリスクが高くなっていたと報告されています。

 

アルコールが体内に入ると、分解される途中でアセトアルデヒドという物質ができます。このアセトアルデヒドがDNAを傷つけ、がんを誘発すると考えられています。アセトアルデヒドを分解する酵素の強さは遺伝子のタイプによって異なります。アセトアルデヒドの分解が遅いタイプの遺伝子をもつ人は、速いタイプをもつ人に比べて飲酒による頭頸部がんや食道がんのリスクが高いことが報告されています。

 

4. 禁煙と節酒ががんの予防につながる

過度の飲酒や喫煙習慣があるとが重複がんになりやすくなることを説明しました。予防のためにはこれらの習慣を断つこと、すなわち禁煙と禁酒(節酒)が重要です。もちろんお酒はやめることがもっとも良いのですが、難しい場合にはまずは量を減らしてみてください。多くても1日に日本酒1合(ビールの場合は中びん1本)以下にすることが目安になります。

 

飲酒や喫煙が身体に悪いことはわかっていても、多くの人はなかなかやめられないと思います。本当に「やめたい!」と思いながらもできずに悩んでいる人は、禁煙外来アルコール専門外来で相談してみるという方法もあります。一人ひとりにあった治療方法を相談でき、目標に向けたサポートを受けることができます。このコラムが生活を見直すきっかけになれば嬉しいです。

 

執筆者

木村 奈津子

参考文献

・「頭頸部癌診療ガイドライン 2018年版」日本頭頸部癌学会

・国立がん研究センターがん対策情報センター「がん登録・統計」

・Slaughter DP et al. : Field cancerization in oral stratified squamous epithelium ; Clinical implications of multicentric origin. Cancer 6 (5) : 963-968, 1953

・Lu Y et al. : Cigarette smoking, alcohol drinking, and oral cavity and pharyngeal cancer in the Japanese: a population-based cohort study in Japan. Eur J Cancer Prev. 2018 Mar;27(2):171-179.

・Ishiguro S et al. : Effect of alcohol consumption, cigarette smoking and flushing response on esophageal cancer risk: a population-based cohort study (JPHC study). Cancer Lett. 2009 Mar 18;275(2):240-6.

・Oze I et al. : Alcohol drinking and esophageal cancer risk: an evaluation based on a systematic review of epidemiologic evidence among the Japanese population. Jpn J Clin Oncol. 2011 May;41(5):677-92.

・Yokoyama A et al. : Genetic polymorphisms of alcohol and aldehyde dehydrogenases and glutathione S-transferase M1 and drinking, smoking, and diet in Japanese men with esophageal squamous cell carcinoma. Carcinogenesis. 2002 Nov;23(11):1851-9.

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。