しょくどうがん
食道がん
食道の表面の粘膜にできたがん。たばこ、飲酒などが一因であると言われている
15人の医師がチェック 234回の改訂 最終更新: 2022.10.24

食道がんの手術③:再建方法についての解説(胃管、遊離空腸、有茎結腸などの特徴について)

食道がんの手術では食道を摘除します。食道がなくなった後には食道の代わりを他の臓器で作る必要があります。この操作を再建といいます。食道の再建の方法には様々なバリエーションがあります。どの方法が一番いいかは決まっていません。患者さんの体型などを考慮して決めます。 

食道の代わりを作る臓器は以下の3つがよく用いられます。

  • 空腸
  • 大腸(結腸)

胃を使った再建は胃管(いかん)と呼ばれる方法です。

空腸は小腸の一部です。小腸を切り離して食道の代わりにします。腸を切り離すので遊離空腸といいます。遊離空腸は血管を吻合(ふんごう)しなければいけないので手術が少し複雑です。吻合とはつなぎ合わせることです。

胃と空腸のほかに大腸(結腸)も使われることがあります。
他の方法では有茎結腸、有茎空腸という再建方法があります。遊離空腸と有茎空腸の違いは、遊離空腸は完全に腸を身体から切り離すのに対して、有茎空腸は腸を栄養する血管は残したままにすることです。有茎結腸も有茎空腸と同様です。
 

図:食道がん手術後の胃管再建のイラスト。

胃の形を変えて食道の代わりに用いることができます。胃は袋状の臓器で多くの血管で周りとつながっています。胃の周りの血管を切り離して胃の一部を切ったり縫ったりして胃を管状にします。管状になった胃を胃管といいます。胃管は管状になって周りとも切り離されているので最大で首まで届く長さになります。

胃を胃管にすることで胃の容量が減ってしまいます。食道の代わりに胃管を用いた後には1回の食事量を減らしたりする工夫が必要になります。

食道の代わりは小腸でも作ることができます。小腸の中でも空腸という部分を使います。遊離空腸は空腸を必要な長さだけ切り取ったものです。とりだした空腸を食道を切り取った断端に繋ぎ合せます。空腸は切り取って血流がなくなると壊死(えし)していまいます。遊離空腸では腸とともに腸を栄養している血管を一緒にして取り出しておきます。その血管を食道の近くの血管と繋ぐことで血流が確保されて食道の代わりとして機能できるようになります。

空腸は小腸の一部です。有茎空腸は空腸を血管を付けたまま利用します。腸は腸間膜というものと繋がっており腸間膜に血管が走っています。腸間膜を付けたまま再建に利用すると血流を保つことができます。しかしながら空腸は直線的な臓器ではないので、首まで持ち上げるためには途中で血管を切り離してまっすぐにする必要があります。そのときには血管をいくつか切り離しているので血流の状態が心配になります。血流を補うために持ち上げた空腸の血管と近くの血管を繋ぎ合わせて血流を増やします。有茎空腸を食道の代わりとして使う場合は胸骨の前を通して食道の断端と繋ぎ合わせます。

結腸は大腸の一部です。有茎結腸は結腸を血管を付けたまま利用します。腸は腸間膜というものと繋がっており腸間膜に血管が走っています。腸間膜を付けたまま再建に利用すると血流を保つことができます。有茎結腸を食道の代わりとして使う場合は胃と同様に胸骨の裏側を通して再建したり、縫合不全などが起きて縦隔炎になることなどの合併症を懸念して胸骨の前を通して食道の断端とつなぎ合わせます。

再建臓器は食べ物の通り道なので、口から胃や腸までつながっている必要があります。そこで、再建臓器を置く場所が必要です。もともと食道があった位置の近く以外にも再建臓器を通す方法があります。再建臓器を通す場所には主に3つがよく用いられます。

  • 胸骨前経路(きょうこつぜんけいろ)
  • 胸骨後経路(きょうこつこうけいろ)
  • 縦隔経路(こうじゅうかくけいろ)

再建臓器ごとに適している再建経路があります。

縦隔(じゅうかく)というのは、肋骨に囲まれた胸腔のうち、左右の肺に挟まれる部分のことです。

縦隔には重要な臓器や血管、神経などが入っています。一部を挙げます。

  • 心臓
  • 大動脈
  • 上大静脈
  • 下大静脈
  • 肺動脈
  • 肺静脈
  • 気管
  • 横隔神経
  • 反回神経
  • 胸管

再建経路はこれらの重要な器官を避ける必要があります。

図:食道再建の胸骨前経路。

胸骨の前の部分、つまり胸の皮膚のすぐ下にスペースを作りそこに再建臓器を通します。胸骨前経路がとられるのは主に再建に使う臓器が結腸や空腸の場合です。

  • 胸骨前経路の有利な点 
    • 縫合不全などが起きても深刻な状態になりにくい
    • 再建臓器にがんができても治療しやすい​
  • 胸骨前再建の不利な点
    • 胸骨後経路や後縦隔経路に比べて頸部までの距離が長い
    • 胸骨の前に再建臓器があるので外見の変化が大きい
    • 再建臓器が曲がりやすいので食べ物が通過しにくくなることがある

 胸骨の前に再建臓器を通すとよいことは繋ぎ合わせた部分が上手くくっつかない縫合不全が起きたときに重症化することが少ないことです。縫合不全がおきると周りに感染がおきることがあります。胸骨の裏にある縦隔に炎症が波及すると縦隔炎が起きます。縦隔炎は重い合併症の一つです、危険が及ぶこともあるので注意が必要です。食道がんの手術の後に再建に使った臓器にがんができることがあります。胃や大腸はがんが発生する臓器なので、再建に使った胃や大腸も例外ではありません。再建に使った胃や大腸にがんが発生した場合は再建に使った胃や大腸を切除することも必要なことがあります。その際には再建経路の中では最も浅い場所にある胸骨前経路が手術しやすいです。後縦隔経路の再建臓器にがんができると大掛かりな手術が必要になります。

胸骨前経路は胸骨の前に再建臓器を通すので胸骨の裏側にある縦隔には影響がありません。縫合不全がおきて深刻化すると周りに感染がおきます。胸骨の裏にある縦隔に感染が起きると深刻な事態になりかねません。特に大腸や小腸には感染の原因になる細菌が多くいます。胃を使った場合に比べて縫合不全がおきると命が危険にさらされる可能性があります。このために縫合不全がおきても縦隔炎にできるだけならない工夫として胸骨前経路が選ばれることがあります。

胸骨前経路は体表に近い位置になります。お腹の中にある臓器を皮膚の下まで持ってきてその下を通します。その分食道断端までの道のりが長くなります。食道断端までの距離が長くなると再建に使う臓器もそれに応じて長くなります。再建臓器は長くなればなるほど血流が悪くなったりする危険性が高まります。血流が悪くなると最悪の場合は再建臓器が一部壊死してしまい縫合不全などの原因になります。

また胸骨前経路では体の外からも再建臓器が通っている膨らみが見られるので手術前に比べて外見状の変化があります。

また皮膚の下を通すと再建臓器の固定性が良くないために再建臓器が曲がってしまい食べ物が通過しにくくなることがあります。

図:食道再建の胸骨後経路。

胸骨の後ろの部分、つまり肋骨に囲まれる胸腔の前側にスペースを作り、そこに再建臓器を通します。胸骨後経路は胸骨前経路と後縦隔経路の利点を少しずつもち、欠点も少しずつ補っていると考えられています。 

  • 胸骨後再建の有利な点
    • 食道断端との距離が胸骨前経路に比べて短い 
    • 再建臓器にがんができても比較的治療しやすい 
  • 胸骨後再建の不利な点
    • 喉の付け根(胸鎖関節部)が狭い場合は再建臓器が圧迫されて壊死(えし)することがある

胸骨後経路は食道断端との距離が他の再建経路に比べて短いです。再建臓器の長さには限りがあるので、再建臓器が短い方がつなぐ(吻合)ときに有利な条件が得られやすいです。胃や大腸はがんが発生する臓器なので、再建に使った胃や大腸も例外ではありません。再建に使った胃や大腸にがんが発生した場合は再建に使った胃や大腸を切除することも必要なことがあります。胸骨後経路では比較的体表に近い位置にあるので手術が必要な場合には有利です。対して後縦隔経路では再建臓器にがんができると大掛かりな手術が必要になります。

不利な点として、胸骨後経路はスペースが狭いので、血流が悪くなって再建した臓器が壊死ししてしまうことがあります。壊死が起きるとそこに感染が起きて縦隔炎(じゅうかくえん)というかなり深刻な状態に陥ることがあります。縦隔炎は細菌が感染して起きるので胸骨後経路では細菌が比較的少ない胃を利用します。胃に比べて大腸や小腸はかなり細菌が多いです。

図:食道再建の後縦隔経路。

再建臓器を縦隔の後ろで通して食道の代わりにする方法です。もともとの食道の位置に再建臓器を置くので、食べ物の通過が自然に近いということがもっとも有利な点です。他の再建経路に比べてスペースが広いので、周りから圧迫されて血流が悪くなるなどの心配は少ないことも利点の一つです。

一方、スペースが広いために胃管が拡張してしまい、食べたものが胃管に溜まるなどの恐れがあります。胸腔内は胃腸の中よりも圧力が低いため、食べたものが胃管から先に進みにくくなったり、胃の中身が逆流しやすくなったりすることがあります。

  • 後縦隔経路の有利な点
    • 最も食道に近い
    • 胸骨の周囲を剥がしてスペースをつくる必要がないので身体への負担は少ない
  • 後縦隔経路の不利な点
    • 縫合不全が起きるとかなり深刻な事態になる 
    • 口側の食道を長めに残す必要があり食道の切除範囲が狭くなる可能性がある
    • 潰瘍穿孔がおきると重症化する
    • 再建臓器にがんができたときには手術が難しい
    • 再発した場合の放射線治療が難しい

後縦隔経路は最も自然な形に近いとも言えますが、合併症がおきたり再建臓器にがんが発生した場合には治療が難しいことが問題です。再建のせいでがんができるわけではありませんが、再建に使う胃や大腸はもともとがんが発生する臓器です。再建後にがんができる可能性は無視できません。

再建臓器と再建経路の関係について示します。

  胃管 遊離空腸 有茎結腸
胸骨前
胸骨後
後縦隔
適している
適している
適している
可能
適しない
適しない
可能
可能
可能

再建臓器と再建経路については最適と考えられる組み合わせの結論はありません。がんができた場所によって使える食道の長さも異なり、また再建臓器で必要となる長さも体格により大きく異るため、条件は複雑です。手術中の状況で予定とは異なる再建方法が選ばれることもあります。

手術が決まったら医師はその人にとって最適だと判断した再建方法と再建経路を提案してくれます。ほかの選択肢に比べて有利な点と不利な点を聞いたうえで、心配なことがあれば質問し、どの点を重視しているかを理解してください。希望があればまずは伝えて、希望に近い方法があるかを相談してください。