急性膵炎の基礎知識
POINT 急性膵炎とは
急性膵炎は膵液によって膵臓やその周囲の臓器にダメージが及ぶ病気です。重症化することが多く死亡率も高いためできるだけ早く治療する必要があります。主な症状は背中に痛み・みぞおちの痛み・吐き気・食欲の低下などです。 症状や身体診察に加えて、血液検査やCT検査を行って診断します。膵臓を休めるために絶食として点滴治療を行いますが、膵炎の影響が幅広く起こってしまって周囲の臓器が壊死してしまうような状況であれば手術を行うこともあります。急性膵炎が心配な人や治療したい人は、消化器内科・消化器外科・救急科を受診して下さい。
急性膵炎について
- 膵臓が作り出している消化液(膵液)によって、膵臓の周りにある臓器がダメージを受けてしまう病気
- 通常は消化液が自分の内臓を「消化」してしまうことはないが、アルコールや腹部のけがなどさまざまな原因で、消化液(膵液)が漏れてしまうことがある
- 「胆石」と言って、肝臓や胆のうといった臓器で、砂つぶのようなもの(
コレステロール などのかたまり)ができ、それが膵臓の内部に詰まり、急性膵炎を引き起こすことがある
- 激しい
炎症 により腹部の水分貯留や腸のむくみ が生じ、腹部コンパートメント症候群と呼ばれる状態になることがある- 腹部コンパートメント症候群になると、他の臓器の血流が低下して、多臓器不全の引き金となる
- 急性膵炎は重症化しやすく死亡率は高い
- 重症化するのは10-15%程度
- 死亡率は全体の2-3%程度、重症例では10%程度
急性膵炎の症状
- 典型的な
症状 - みぞおちから、へそ周囲にかけての強い痛み
- 背中の強い痛み
- 吐き気
- 食欲の低下
- お腹の痛みは、姿勢よく真っ直ぐ立ったり座ったりすることで強くなり、前かがみになった方が改善されることが多いと言われている
急性膵炎の検査・診断
- 血液検査:リパーゼ、アミラーゼやカルシウムの値などを調べる
- 急性膵炎がどの程度重症化しているかの参考となる
- 尿検査
- 画像検査:膵臓に
炎症 が起こっていないかなどを調べる腹部超音波検査 腹部CT検査
- 日本では、急性膵炎は厚生労働省の基準に基づき診断され、重症度が判定される
- みぞおち付近に、急な強い痛み、押したときの痛みがある
- 血液検査や尿検査で膵臓から出る消化
酵素 (アミラーゼ、リパーゼなど)の上昇がみられる - 画像検査(主に
腹部造影CT検査 )で膵臓に炎症が起こっている 上記3項目のうち2項目以上が当てはまり、他の病気が除外されれば急性膵炎の診断になる
- 重症かどうかは全身の状態や血液検査、
CT 検査の結果で判定される- 急性膵炎の診断基準
- 上腹部に急性腹痛
発作 と圧痛がある。 - 血中、または尿中に膵酵素の上昇がある。
- 超音波、CT検査または
MRI 検査で膵に急性膵炎に伴う異常所見 がある
- 上腹部に急性腹痛
- 急性膵炎の重症度判定基準(3つ以上当てはまると重症と考える)
- 1.Base excess ≦ -3 mEq/lまたは
ショック - 2.PaO2(動脈の血液中に含まれる酸素の量) ≦ 60 mmHg (room air)または
呼吸不全 - 3.BUN ≧ 40 mg/dl (またはCr≧2.0 mg/dl)または乏尿
- 4.
LDH ≧ 基準値上限の2倍 - 5.
血小板 数 ≦ 10万/mm3 - 6.総Ca値 ≦ 7.5 mg/dl
- 7.
CRP ≧ 15 mg/dl - 8.SIRS診断基準における陽性項目数 ≧ 3
- 9.年齢 ≧ 70歳
- 1.Base excess ≦ -3 mEq/lまたは
- 急性膵炎の診断基準
急性膵炎の治療法
- 基本的に、内臓がダメージから自力で回復するまでの間、安静にして待つことが治療の中心となる
- 食事を摂取すると膵臓に負担を減らす目的で絶食して入院管理となる
炎症 が強いと血管内の水分が不足するため、十分な点滴をする- 栄養は点滴から補充するほか、鼻から腸まで管を入れて栄養剤を注入(経腸栄養)することもある
- 重症化を見逃さないことが重要
- 重症の場合には、
抗菌薬 や、消化液の影響を和らげるような点滴を行うこともあるが、特効薬はない- 血圧・脈拍や呼吸などが不安定になることがあり、その際には
透析 治療の一種(CHDF:持続的血液濾過透析法)などの集中治療が必要になる - 周囲の組織や臓器に炎症が広がって細胞が広く
壊死 してしまっているような状態では内視鏡 治療や外科手術を行うこともある
- 血圧・脈拍や呼吸などが不安定になることがあり、その際には
急性膵炎に関連する治療薬
膵炎治療薬
- 膵液に含まれるタンパク分解酵素を阻害し膵臓の炎症による腹痛、吐き気などを改善する薬
- 膵臓から出される膵液には膵臓自体を消化してしまう作用もあり、これにより膵臓に炎症がおこる場合もある
- 膵液にはタンパク分解酵素などが含まれていてこれが膵臓に炎症をもたらす
- 本剤はタンパク分解酵素阻害作用をあらわす
- 本剤の中には播種性血管内凝固などに対して保険承認されているものもある
急性膵炎の経過と病院探しのポイント
急性膵炎が心配な方
急性膵炎ではお腹や背中の痛み、吐き気などの症状が特徴です。このような症状に該当してご心配な方は消化器内科のある医療機関での受診をお勧めします。急性膵炎を診るのは消化器内科です。入院治療が必要となるため、クリニックではなく病院で診療を受けることになります。
急性膵炎の診断は血液検査とCT検査で行います。病院によってはMRI検査(MRCPとも呼ばれます)でより細かな診断を行う場合もありますが、急性膵炎の診断にMRI検査が必須である、ということはありません。
急性膵炎でお困りの方
急性膵炎の治療は、その原因によって分かれます。
胆石と呼ばれるコレステロールのかたまりが膵臓内にある場合には、ERCPといって、胃カメラのような内視鏡を用いた治療を行います。これは大学病院のような専門施設でなくともできる治療ではありますが、ある程度の規模のある総合病院を受診するのが望ましいと言えます。例えば一般的な消化器内科のクリニックなどでは、胃カメラや大腸カメラの検査、治療は行っていたとしても、ERCPは通常行っていません。また、急性膵炎では入院での治療が必要となるため、クリニックで治療が終えられる病気ではありません。
次に、胆石がないような急性膵炎の場合ですが、こちらの場合はERCPを行わずに、点滴を中心とした治療を行います。その場合であっても重症化するとやはりERCPが必要であったり、消化器外科と連携して治療のための様々な処置(ドレナージと呼ばれます)を行ったりすることがあります。
最後になりますが、胆石が原因の急性膵炎の場合、一旦急性膵炎の治療が落ち着いた後に胆のう結石の手術を行うことが勧められます。胆のうの中に結石が残っていると、これが動いた際に急性膵炎を再発するリスクがあるためです。詳細は胆石症のページで解説しますが、外科の中でも消化器外科、肝胆膵外科、腹部外科などと呼ばれる診療科が、こちらの手術の専門となります。
急性膵炎のタグ
急性膵炎に関わるからだの部位

