はいがん(げんぱつせいはいがん)
肺がん(原発性肺がん)
肺にできたがん。がんの中で、男性の死因の第1位
29人の医師がチェック 297回の改訂 最終更新: 2024.03.05

肺腺がんとは?原因、症状、検査、治療について

肺がんにはいろいろな種類がありますが、肺腺がんは肺がんの中で最も多いがんです。日本の肺がんの半数前後が肺腺がんです。

肺がんの種類は非常に重要で、種類によって性質が大きく違います。このページでは肺腺がんの診断と治療を説明します。

1. 肺腺がんと扁平上皮がんの違いは?

肺腺がんと扁平上皮がんの違い

肺腺がんとは?

肺腺がんの特徴

肺だけでなく胃がん大腸がんなどにも腺がん(せんがん)という種類が存在します。腺がんとは、体の臓器にある分泌腺にできたがんのことです。肺腺がんは肺の分泌腺に出現したがんのことを指します。

肺扁平上皮がんとは?

扁平上皮(へんぺいじょうひ)と呼ばれる、人体の内部と外界を隔てる丈夫な組織にある細胞(上皮細胞)が化してしまうと、扁平上皮がんになります。空気の通り道(気道)から肺にかけて、外界から体内を守るために上皮が存在しています。その上皮が癌化したものが肺扁平上皮がんになります。

肺腺がんは肺扁平上皮がんよりも女性に多い

肺腺がんは女性に多いがんですが、肺扁平上皮がんは男性に多いです。この原因ははっきりとは分かりませんが、喫煙率の影響はありそうです。

タバコと肺がんの関係を次に説明していきましょう。

喫煙習慣の有無で違いはあるのか

肺がんの原因の1つにタバコが挙げられます。タバコを吸わない人に比べてタバコを吸う人は肺がんのリスクが4倍以上になると報告されています。しかし、実はこのデータを肺がんの種類別に見ていくと、喫煙の影響を受けやすい種類があることがわかってきます。

結論から述べると、タバコが肺扁平上皮がんに与える影響は非常に大きい一方で、肺腺がんに関してはその傾向が比較的弱いです。

扁平上皮がんでは喫煙の有無で10倍以上も罹患率が違うのですが、肺腺がんではタバコを吸う人は吸わない人に比べて2倍程度の違いとなっています。

この数字を見ると肺腺がんに対してはタバコの影響が比較的小さいことがわかります。とはいえ、タバコの悪影響が存在することは事実ですので、肺腺がんでも禁煙することは非常に重要となります。

2. 肺腺がんの原因は?

肺腺がんになりやすくなる原因はいくつか考えられています。

タバコはもちろんですが、それ以外にもいくつか考えられています。

タバコ

上でも述べましたがタバコは肺腺がんにも悪影響を与えます。報告によって数値は多少異なりますが、喫煙することで男性の肺腺がんは約2.8倍になり、女性の肺腺がんは約2.0倍になると考えられています。

タバコの煙には発がん物質が入っているので、がんを予防したい人も治療をしている人も、禁煙することが重要です。

また、受動喫煙も肺がんへの悪影響(発がん率が1.3倍になる)が言われています。愛煙家の人は周りの環境へ配慮した喫煙を行って下さい。

大気汚染物質

ディーゼルエンジンの排気ガスが問題となることがありましたが、最近では特にPM2.5が話題となっています。

PM2.5は非常に小さい粒子で、大気中に浮遊している2.5μm(1μmは1mmの千分の1)以下の小さな粒子のことを指します。大気を浮遊して人体への悪影響を与えうる微物質として、以前は10μm以下の粒子である浮遊粒子状物質が注目されていましたが、それよりも4分の1の小ささの物質になります。

PM2.5のどこが問題なのかと言うと、物質の大きさが非常に小さいことです。

  • 小さいため肺の奥深くまで入りやすい
  • 小さいためマスクなどで遮断しにくい

つまり有害物質が肺の奥まで入り込んでくるため、身体への悪影響が出やすくなります。

アスベスト

主に断熱材として壁などにアスベストが用いられていましたが、1975年に吹付けアスベストが国内で禁止となった経緯があります。ただ、それまでにアスベストのある環境で生活していた人では、肺がんや悪性中皮腫などの発症が多くなっています。

アスベストは国際がん研究機関(IARC)の発がん性物質分類でグループ1(発がん性物質である)に位置づけられており、できるだけ環境に置かないようにするべき物質です。そのため、1975年より前に建てられた建築物が近くで改装あるいは解体されている際には、マスクをしてできるだけ空気を直接吸わないように気をつけてください。

女性ホルモン

近年、肺腺がんの発症に女性ホルモンが関与していると考えられています。

閉経の遅かった人や女性ホルモンのピルを飲んでいる人に肺腺がんが多いことが分かっています。閉経が遅いということは、体に女性ホルモンが多い期間が長いということです。ピルを飲んでいても女性ホルモンが多くなります。そこで、女性ホルモンと肺腺がんの関係が疑われています。

現在では少しずつ状況が解明されてきつつあり、特にエストロゲンが体内で作られるのに必要な遺伝子が関与しているのではないかと考えられています。

慢性肺疾患

慢性的な肺の病気を持っている人に肺がんは起こりやすいです。特に、慢性閉塞性肺疾患COPD)と呼ばれる病気は要注意です。

COPDではタバコやその他の有害物質を含んだ空気を吸うことで肺に慢性的な炎症が起こります。肺の細胞が有害物質によって直接ダメージを受けるだけでなく、慢性的な炎症を抑えるときに生じる活性酸素も、正常な肺の細胞を傷つけてしまいます。傷ついた肺の細胞は修復されますが、何回も修復しているうちにいつしか癌化してしまうと考えられています。

肺結核

あまり知られていませんが、肺結核になると実は肺がんにもなりやすくなります。

肺結核になると肺の細胞に大きなダメージが与えられてしまいます。肺結核は自然に完治することは少なく、治療しても最低6ヶ月はかかるような治りにくい感染症です。つまり、持続的に肺の中で感染による炎症が起こるため、慢性的に肺の細胞が傷ついてしまいます。

肺結核と診断されてから2年以内では、肺がんになるリスクはおよそ5倍になると言われています。また、2年以上経って結核の影響が治まってからも、肺がんのリスクはおよそ1.5-3.3倍になっていると言われています。

3. 肺腺がんの検査について

肺腺がんは、症状が出てきたときには進行していることが多いです。そのため、検査によって早くその存在を見つけることが重要になってきます。

実際にどんな検査が行われるのでしょうか?

胸部X線検査(肺レントゲン写真)

通常の健診で行われるのが胸部X線検査レントゲン写真)です。X線検査には直接法や間接法といった細かい違いもありますが、基本的にはどれも同じ原理です。X線を胸部にあててその吸収率を測定することで肺の中身をみることになります。

胸部X線検査を行った時の検出感度(がんがあった場合、正しくがんがあると指摘できる割合)は60-80%と報告されています。しかし、肺がんが肺やその周囲の正常構造に重なってしまうと、肺がんを指摘することは非常に難しくなります。

肺の中にある結節影(3cm以下の丸い影)や淡い陰影を胸部X線写真で正しく検出することは非常に難しく、より詳しく調べるために胸部CT検査を行う必要が出てくることも多いです。また、いかに正確に肺がんを見つけるかは、医者の熟練度も関連してきます。

胸部CT検査

胸部CT検査は肺のレントゲン写真よりも得られる情報量の多い検査です。より詳細に肺がんの大きさや形を調べることができます。

胸部CT検査の検出感度(がんがあった場合、正しくがんがあると指摘できる割合)は93.3-94.4%と言われており、肺がんを見つける検査としては非常に優れたものになります。しかし、小さながんを診断することは簡単ではなく、6mm未満の結節に限ると検出感度は70%程度になってしまいます。

レントゲン写真もCT検査もX線を使う検査です。X線は放射線です。レントゲン写真で体に当たる放射線は微量ですが、胸部CT検査による医療被曝量はレントゲン写真よりも明らかに多く、人体への悪影響が心配されます。

放射線の人体への影響力を表す単位としてシーベルト(Sv)というものがあります。数字が高ければ高いほど人体への影響が強いことになります。胸部X線検査と胸部CT検査の被曝量は様々な報告がありますが、およそ以下になると考えられています。

【検査と被曝量の表】

検査内容

被曝量

胸部X線写真

0.2mSv

胸部CT検査

7.0mSv

胸部X線検査線写真の被曝量は、およそ飛行機で東京とニューヨークを往復したときに受ける被曝量と同じになります。単純計算で言うと、CT検査を行うとX線写真を35枚撮影したときと同じくらいの被曝をすることになり、何度も撮影すると人体への影響が一層危ぶまれます。しかし、CT検査が原因で人体に障害が出たというはっきりとした証拠は見つかっていません。

被曝を懸念して、通常よりも放射線量を抑えた低線量CTを用いて肺がん検診を行っている施設もあります。まだ日本人に対する有用性は証明されていませんが、海外では55-74歳の喫煙者を対象とした研究で肺がん死亡率を約20%減少させた、との報告があります。喫煙者や過去に喫煙していた方は検討しても良いと思います。

CT検査を用いる時は造影剤というものを血管に入れて検査することがあります。これを用いるとCT画像がより鮮明になるため有用です。まれに造影剤アレルギーを引き起こすので、造影剤を点滴した後に体調が悪くなった場合は、近くにいる医療従事者に症状をすぐ伝えてください。特に皮膚のかゆみや吐き気、意識が遠のく感じは危険です。また、腎臓の機能が落ちたりすることがあるので、造影剤を使用したあとは点滴したり多めに水を飲んで腎機能低下を予防します。

頭部MRI検査

肺がんが見つかったときには、治療する前に転移がないかを調べる必要があります。肺がんの治療では全身の状態やがんの進行の程度によって治療方法が変わるため、転移しそうな部位はきちんと調べておく必要があるのです。

肺がんはしばしば脳に転移します。頭に転移していないかをみる上で最も精度の高い検査が、頭部MRI検査になります。頭の断面の画像が得られる点は一見CT検査と似ています。しかし、画像を撮影する原理が違います。CT検査では放射線を体に当てますが、MRI検査では放射線は使いません。放射線の代わりに磁力を利用します。

頭部CT検査はあまり脳転移を調べるのに向いていない検査ですので、何らかの事情があってMRI検査ができない場合のみ施行することとなります。

【頭部CT検査と頭部MRI検査の比較】

頭部CT検査

頭部MRI検査

解像度

低い

高い

費用

比較的安い

(撮影1,020点、診断450点など)

高い

(撮影1,620点、診断450点など)

時間

数分

20-30分

頭部MRI検査では非常に精密な画像ができますが、検査時間が長いことが欠点となります。20-30分ほど身動きが取れない状態になります。その間、とてもうるさい音が出る機械の中でじっとしていなければなりません。腰が痛い人や認知症の方が行うことは難しい検査になります。

ほかにもMRI検査ができない人がいます。磁石の原理を使って画像を作る検査ですので、磁性のある金属(磁石に引っ張られる金属)が体内にある人はMRI検査ができない場合があります。例えば、ペースメーカーの入っている人や関節に人工関節を入れている人、入れ墨を入れている人(墨に金属が混じっていることがある)は特に、MRIを受ける前に医療者に伝えて、調べてもらってください。磁性のない金属を使っていてMRIが問題ない可能性もあります。

MRI検査を用いる時にも造影剤を血管に入れて検査することがあります。造影剤を使うことでMRI画像がより鮮明になりますが、まれに造影剤アレルギーを引き起こします。造影剤を点滴した後に体調が悪くなった場合は、近くにいる医療従事者に症状をすぐ伝えてください。特に皮膚のかゆみや吐き気、意識が遠のく感じは要注意です。また、腎臓の機能が落ちたりすることがあるので、造影剤を使用したあとは点滴したり多めに水を飲んで腎機能低下を予防します。

PET検査

FDG-PET(ペット)検査は、ブドウ糖に似た物質(FDG)を体内に点滴して、どこに集まるかを調べる検査です。FDGは放射線を放出するので、放射線を測定するとFDGが集まっている場所がわかります。この検査では、がん細胞は自分に栄養をたっぷりもらえるようにブドウ糖を集める作用があることを利用します。がん細胞がブドウ糖を集めるので、ブドウ糖に似ているFDGもがんに集まるのです。

つまり、以下のことが検査中に体内で起こります。

  1. 放射線を放出するFDGが体内に入る
  2. がん細胞がブドウ糖とFDGをたくさん集める
  3. がん細胞の周囲から放射線が多く検出される

こうして、がん細胞が身体のどこらへんに集まるかが調べられます。しかし、PET検査の検出感度は100%ではなく、およそ83-96%と報告されています。つまり、検出感度で比べるとPET検査がCTやMRIより劇的に優れているとは言えません

PET検査にはどういった欠点があるかを下にまとめます。

  • 特に初期のがんではブドウ糖が集まらないことがある
  • がんでなくても感染などの炎症が起こるとブドウ糖が集まってしまう
  • 放射線に被曝する

最後の被曝に関して補足します。シーベルト(Sv)という単位で表すと、とある調査ではPET検査を1回行うことでおよそ2.2mSvの被曝量と報告されています。参考までに、胸部X線検査では0.2mSv、胸部CT検査では7.0mSvです。

また、FDG-PET検査を施行する場合には、以下の問題もあります。

  • 脳転移の評価が難しい
  • 肝転移の評価が難しい
  • 血糖が上昇していると検査精度が落ちるので行いづらい

しかし、その欠点以上に全身の転移の状態を早い段階から把握することのメリットが大きいため、肺がんの全身の転移の状態を把握するためによく使われています。

また、脳はFDGを多く集めてしまうので、脳の転移の検査にはFDG-PETは使用できません。そのため、近年ではFDGの代わりにメチオニンという物質を用いたPET検査を行うことがあります。

肺腺がんの腫瘍マーカー

肺がんに限らずがんの検査として腫瘍マーカーが用いられています。腫瘍マーカーというのは血液に微量に含まれている物質のことです。採血して腫瘍マーカーの量を調べることで、がんの診断の参考にします。

肺腺がんに対しては、CEA、SLX、CA19-9という腫瘍マーカーがあります。しかし、ここで忘れてはいけないのは、腫瘍マーカーは決して精度の高い検査ではないということです。

肺がんに対する腫瘍マーカーの中で検出感度が良いと考えられているCYFRAでも感度は56.1%です。肺がんがあっても40%以上はCYFRAに変化が見られないという意味です。肺がんが隠れている人を腫瘍マーカーだけで見抜くことは非常に難しいと言えます。

要約すると腫瘍マーカーを使って良い場面は実は限られているということになります。

  • 腫瘍マーカーを使うのに適している場面
    • 肺がん治療の効果判定の補助
    • 肺がんが再発していないかを診断する際の補助
    • 肺がんの種類がどうしても判断できない際の補助
  • 腫瘍マーカーを使うのに適していない場面
    • 検診でがんの有無を判断する

腫瘍マーカーは使うのに適した場面で使えば非常に役に立ちます。しかし、その価値が低い場面で使うと、どんな結果であろうとどっちとも言えないといった状態になります。現段階の精度から言うと、検診で腫瘍マーカーを使ってもほとんど意味がないということになります。

細胞診断

細胞診断という検査は、がんかもしれないと疑われる細胞を顕微鏡で調べる検査です。細胞を染色したりして特徴を出すことで、細胞診断の診断力は非常に高いものになっています。

たとえば、肺には肺がんと似ている良性腫瘍(りょうせいしゅよう)ができることもあります。画像だけでは良性腫瘍か悪性腫瘍か、つまりがんかがんではないか区別しにくいことがあります。そんなときに細胞診断が役に立ちます。

とはいえ、がんの中にも正常な細胞が含まれていることがあるので、採ってきた細胞の中にがん細胞がない場合は、がんではないと決めることができません。特に肺がんでは喀痰細胞診といって、痰の中にがん細胞がいるかを調べることがあるのですが、喀痰細胞診の検出感度は40%程度と言われており、がん細胞が見られなかったからといって肺がんを否定することは難しいです。

組織診断

組織診断(病理検査)では、肺がんを疑う組織の一部を検査のために(たいていの場合は、気管支内視鏡での肺生検、CTやエコーを用いて体外から針を刺して行う肺生検、VATSと呼ばれる内視鏡手術などを行います。)切り取ってきて顕微鏡で調べます。この検査では細胞診断よりも大きな組織を取ってくることになるので、がん細胞の見逃しが少なくなります。

しかし、少なからず身体へのダメージがあり、いつでも気軽に行える検査ではありません。

また、診断が確定していなくてもまず腫瘍を取ってしまい、取り出した腫瘍の中にがん細胞があるかどうかを調べ、もしがんだったときには相応の治療を続けるという方法もあります。この方法を使うときは、がんが見つかった場合にすぐ適切な治療ができるよう前もって準備が必要です。

4. 肺腺がんが進行するとどんな症状が出る?

肺腺がんは症状が出にくい?

肺がんは進行するまで症状が出にくい病気ですが、中でも肺腺がんは症状が出にくいことが多いです。

というのも、肺腺がんは他の肺がんに比べて比較的肺の端っこ(末梢側)にできることが多いです。肺の中心部に肺がんがある場合は、空気の通り道の太い部分(中枢側)に影響をおよぼすことが多く、空気を吸いづらかったり咳が出やすかったりします。しかし、肺の端っこにがんができると、かなり大きくなるまで症状が出ない場合が多いのです。

以下に肺がんの種類別に肺のどこらへんにできやすいかを表にします。

【肺がんの種類別のできやすい部位】

肺がんの種類 部位
肺腺がん 末梢側(端っこ)
肺扁平上皮がん 中枢側(体の中心近く)
肺小細胞がん 中枢側(体の中心近く)
肺大細胞がん 末梢側(端っこ)

また、肺腺がんの中には粘液を作るタイプ(浸潤性粘液産生性腺がんなど)があり、この場合は比較的初期から症状が出ることがあります。粘液が空気の通り道に詰まったり、気道の粘膜に炎症を起こしたりして、痰や咳を生じます。

肺腺がんに多い症状

肺腺がんは進行するまで症状が出ないことがほとんどです。それでも進行した場合にはいろいろな症状が出てきます。詳しくは「肺がんの症状は?」のページで説明していますので参考にして下さい。

以下が肺腺がんの代表的な症状になります。

  • 咳(咳嗽)
  • 痰(喀痰)
  • 血痰
  • 発熱
  • 息苦しさ(呼吸困難感)
  • 全身倦怠感
  • 体重減少
  • 胸痛

肺腺がんの患者さんでこれらの症状が強くなってくる場合は、肺腺がんが進行している可能性が考えられます。治療法を変更したり緩和治療を強化したりする方が良いかもしれませんので、あまり我慢はしないでかかりつけの医師に相談してください。

5. 肺腺がんの治療は手術?

肺がんの治療には、3大治療法として手術療法(外科的治療)・化学療法抗がん剤)・放射線療法があります。肺腺がんに対しては、その中でも化学療法と放射線療法は効きにくいことが分かっています。

肺がんの病期(進行度)にあわせて、この3つの治療法から最も適切な治療法を選択することになりますが、中でも手術療法が最も治療成功率が高いため、手術が可能な状態であれば手術が行われることが多いです。

肺腺がんに対する手術療法

肺腺がんに対して最も治療成績が良いのが手術療法です。ただし、当然身体への負担の大きい治療ですので、誰でも行えるわけではありません。また、病気の進行度によっても、手術をすることでかえって良くない状態になる場合もあります。手術を行えるかどうかは慎重に判断する必要があるのです。

たとえば、肺がんのある人は肺に余力がないことがあります。余力がない状態からさらに手術で肺を小さくしてしまうと、息苦しさが出てずっと続いてしまうことがあります。特にひどい場合は、手術した直後から自力で呼吸ができなくなり、在宅酸素療法を必要になったり人工呼吸器が外せなくなったりします。そういった状態を回避するために、必ず肺や心臓の状態を手術の前に検査で把握する必要があります。

図:肺がん手術の説明イラスト。肺を切り取ると肺活量が減る。もともと肺に余力が少ない人は手術できないことがある。

手術の前に行うべき検査

手術の前に肺や心臓の状態を把握するため以下の検査が行われます。

  • 呼吸機能検査
  • 心電図検査
  • 心臓エコー検査(必要な場合)

これらの検査の結果から手術の可否が判断されます。

また、肺を切除する大きさも手術ができるかどうかの判断材料となります。

がんの周りには見えない小さながん細胞が存在していることがあります。手術の際には、がんの周りも一緒に大きく切り取ってしまえば見えないがん細胞をなくすことにつながり、治療成功率が上がります。つまり、肺をある程度まで大きく切り取れば再発する可能性が下がるのです。しかし同時に、手術後の肺活量は減ってしまいます。

再発防止の効果と、肺活量が減るデメリットを比べて、バランスが最も良いであろう手術法を選択することになります。

手術方法はどんなものがある?

肺がんの主な手術方法は以下の4つになります。

  1. 片肺全摘術(肺摘除術)
  2. 葉切除術
  3. 区域切除術
  4. 部分切除術

手術方法を選ぶには、肺がんが広がっている可能性と、手術前の肺や心臓の状態から、バランスが良いものはどれかを考えます。

肺がんの手術では疑わしい部分を広めに切除することが重要です。その一方で、肺を切り取りすぎると手術後の肺活量が減ってしまい、息苦しさが残ったり酸素や人工呼吸器がないと生きていけなくなったりする可能性もあります。

人工呼吸器を使うときは、肺に直接管を通した状態(気管挿管)になるので、鎮静剤を使ってずっと眠った状態になってしまいます。また、長期間(通常は2週間以上)気管挿管する場合は、首の正面に穴を開けてそこから管を通すような手術(気管切開)をする必要が出てきます。

もちろん、人工呼吸器が必要になるような事態は避けるように努力がなされます。しかし、思いがけなく肺の機能が悪化してしまうことをどうしてもゼロにはできません。

思いもよらない出来事が起こらないように、手術前の肺や心臓の状態と肺を切除するべき量を考え合わせて、適切な手術法を判断します。

では、どういった場合にどの方法が選ばれるのでしょうか?手術の説明をする前に、肺について少し知っておく必要があります。

肺の構造

肺は左右に1つずつ存在していますが、さらにその中は「肺葉」というブロックに分かれています。右の肺には3つの肺葉があり、左の肺には2つの肺葉があります。肺葉の中にはさらに区域というブロックがあります。右肺には10区域があり、左肺には8区域があります。区域はさらに小さい亜区域に分けることができます。ちょうど何丁目何番地のようにどんどん小さなブロックに分かれていき、最終的には肺胞という最小単位になります。

図:肺の構造のイラスト。左右の肺は肺葉、区域に分かれる。最も細かい単位が肺胞。

つまり、以下のように肺は分割できるのです。

肺>肺葉>区域>亜区域>亜亜区域>…>肺胞

この分け方は、手術でどれぐらいの大きさを切除するかを決めるときに基準になります。たとえばひとつの区域を切除するのか、肺葉を切除するのかで手術の方式が変わります。

それでは、各々の手術の方式について詳しく説明していきましょう。

片肺全摘術(肺摘除術)

片肺全摘術とは、手術で肺がんを切除するために、左右のどちらかの肺を全部切除することを指します。切除しないほうの肺は残ります。

切り取る肺が大きければ大きいほど手術後の肺活量は減りますので、片側の肺を全部切り取ることは非常に大きな負担になります。しかし、がんをきちんと切除するためにやむを得ないときには片肺全摘術が行われます。

片肺全摘術が行われるのは以下の場合です。

  • 2つ以上の肺葉にまたがってがんが存在する
  • 太い気管支にがんが顔を出している
  • 肺の周囲の血管や臓器にがんが及んでいる

これらの場合は片肺全摘を検討します。

片肺全摘術が可能になるには、肺以外の臓器にがんが転移していないことが条件です。また、肺の機能が十分にあることも条件です。肺の機能が悪い場合、手術後の肺の機能を予測して、手術を行えないという判断になることがあります。

がんが周囲の臓器に及んでいる場合は、がんが入り込んだ臓器を肺と一緒に切除することになるので非常に大きな手術になります。そのため体力が落ちている患者さんは手術が難しくなります。

肺葉切除術

がんが1つの肺葉の中に収まっており、肺以外の臓器に転移をしていない場合に、肺葉切除術が行われます。

肺葉切除術を受けると片方の肺の半分くらいが切り取られてしまうので、元々肺の機能が落ちている人には受けることが難しい手術になります。

肺葉切除術はよく行われており最も標準的な手術です。

区域切除術・部分切除術(縮小手術)

肺がんの区域切除術・部分切除術のイラスト

区域切除術は、肺葉の中にあるもう少し小さな区域を切除する手術です。区域切除術では肺機能の低下が少ないメリットがありますが、相当小さな肺がんでないと行えません。

目安としては、次の場合などで区域切除術が行われます。

  • 2cm以下で、胸部CT検査で淡い影が見えるようなタイプのがん
    • 異型腺腫透過形成
    • 上皮内腺がん
    • 微小浸潤腺がん

通常の手術と違う内視鏡手術

肺がんの手術には、通常の手術(開胸手術)と内視鏡手術があります。

肺がんの内視鏡手術はVATS(Video-Assisted Thoracic Surgery、バッツ)とも呼ばれます。胸に2cmくらいの穴を数か所開けて、そこから内視鏡を入れて手術する方法です。胸を大きく切らなくて済むのが特徴です。内視鏡手術には身体への負担を軽くするというメリットはありますが、必ずしも開胸手術が劣っているというわけではありません。メリットとデメリットを考えてみましょう。

  • 内視鏡手術のメリット
    • 体を大きく切らなくて済む
    • 手術後の痛みが軽い
    • 体力や肺機能を落としにくいので入院期間が短くなる
    • 体力や肺機能を落としにくいので日常生活への復帰が早くなる
  • 内視鏡手術のデメリット
    • 癒着の激しいがんに対する手術は得意でない
    • 突然出血するなどの重大な合併症により外科的な対処が必要になったとき、迅速に対応できない
    • 内視鏡手術に慣れている医者でないと手術できない

以上を踏まえながら、手術のリスクや身体への負担を考えて、手術の方法を選ぶことになります。

6. 手術を受けられない状況ってなに?

全ての人が手術を受けられるわけではありません。手術をすると逆に命を縮めてしまう場合はもちろん手術ができません。

それでは、どういった場面で手術が難しくなるのでしょうか?

肺以外に遠隔転移のある場合

遠隔転移しやすい部位

肺以外の臓器にがん細胞が転移している場合は、基本的に手術を受けることができません。もちろん例外はあるのですが、基本的に遠隔転移があれば手術は受けられないと考えてください。遠隔転移というのは肺がんが脳や骨などの肺から離れた臓器に転移することです。リンパ節転移は遠隔転移ではありません。リンパ節転移だけなら手術できる可能性があります。

手術後は体力が非常に落ちてしまいます。体力が落ちるとがんの成長を抑えようとする身体の力が落ちるため、手術で体内の全てのがんを取り除かないと、残ったがん細胞がどんどん大きくなってしまう可能性があります。がんを取り切れないのに手術をすると、結局のところ命を縮めてしまうことが多いため、通常は手術が行われないことが多いです。

リンパ節転移が遠いところにまで達している場合

リンパ節転移

リンパ節転移が狭い範囲にとどまっていれば、手術でがんと一緒にリンパ節を取ることができます。しかし、リンパ節転移が広範囲に及んだ場合は手術ができません。

ここで、リンパ節転移と遠隔転移とは少し性質が異なることを説明します。

脳や骨への遠隔転移は、がん細胞が血流に乗って流れていくことで起こります。血流を介して転移することを血行性転移と言います。血管は全ての臓器につながっています。血液は心臓から全ての臓器に向かって勢いよく流れています。そのため、がん細胞が血流に乗ると遠くの臓器まで速いスピードで流れ着いてしまいます。

対して、リンパ節転移はがん細胞がリンパ液に乗ることで起こります。リンパ液の流れには心臓のようなポンプがありません。リンパ液は臓器の間をゆっくりと流れています。このため、がん細胞がリンパ液に乗ったときは、いきなり遠いリンパ節に転移することがなく、隣のリンパ節へと順々に広がっていきます。

肺がんのある部位からだいぶ離れたところのリンパ節にがん細胞が見つかった場合は、がん細胞が広範囲に転移していると判断します。つまり、肺がんの周りから遠くの場所まで、間にあるリンパ節のすべてに順々に転移してきた可能性が高いと考えられます。

血行性転移のある場合と同じく、リンパ節転移が広範囲に及んでいる場合に手術をすると、命を縮めてしまう可能性が高いです。

手術後に残る肺が非常に少ない場合

肺がんの手術では肺を切り取るため、手術後の肺活量が減ってしまいます。そのため、手術後に息切れが続いたり、在宅酸素療法が必要になったり、場合によっては人工呼吸器がないと生活できない状態になってしまったりします。

また、肺がんの患者さんにはタバコなどの影響ですでに肺の状態が悪い人も多く、手術前の肺の状態をきちんと評価してから手術に臨む必要があります。

数字で言うと、手術後の呼吸機能検査における術後予測1秒量(FEV1.0)が800ml以下となる人は、手術後に呼吸の状態が悪くなる可能性が非常に高いので、手術を受けることは難しいと判断されます。

腫瘍が周囲の臓器に及んでいて一緒に切除できない場合

肺がんが周囲の臓器にへばりついている(浸潤している)状態になると、肺と併せて周囲の臓器も手術で切り取ることになります。周囲の臓器を一緒に切り取ることができる状態であれば手術は可能ですが、切り取ることができない状態であれば肺の手術も行うことはできません。

体力のない場合

手術は身体に大きな負担をかけます。そのため、元々体力のない人は手術を受けることで状態が悪くなってしまい、最悪の場合は手術によって命を落としてしまいます。そういった事態を避けるために、体力を簡易的かつ客観的に評価するパフォーマンスステータス(Performance Status、PS)という方法があります。パフォーマンスステータスなどを使って、手術を行えるかどうかが判断されます。

多くの場合、PS0または1のときに手術が検討されます。

【PSとは】

0:全く問題なく日常生活ができる

1:軽度の症状があり激しい活動は難しいが、歩行可能で、軽作業や座って行う作業はできる

2:歩行可能で自分の身のまわりのことは全て行え、日中の50%以上はベッド外で過ごすが

   時に多少の介助を要する

3:自分の身のまわりのことは限られた範囲しか行えず、日中の50%以上をベッドか椅子で過ごす

4:自分の身のまわりのことは全くできず、完全にベッドか椅子で過ごす

間質性肺炎のある場合

間質性肺炎のある場合にも手術をすることが難しいことがあります。間質性肺炎とは、肺の間質(肺内の空気が通る部分を支える組織)と呼ばれる部分に炎症が起こる病気です。間質に炎症がある状態で手術を受けると、炎症がより活発になってしまうことがあるので、手術を受けられるかどうか慎重に検討する必要があります。

7. 手術ができなかったらどうする?抗がん剤?放射線療法?

手術を行えない場合は、化学療法や放射線療法を行って治療していくことになります。また、化学療法や放射線療法も身体への負担が大きすぎて行えない場合は、肺がんによる症状を和らげる緩和療法のみを行うことになります。

肺腺がんに対する化学療法

肺腺がんに対する化学療法は大きくわけて3種類あります。

  • 細胞傷害性抗がん薬
    • プラチナ系抗がん剤(白金製剤)
      • シスプラチン(ブリプラチン®など)
      • カルボプラチン(カルボプラチン®など)
      • ネダプラチン(アクプラ®)
    • 第3世代抗がん剤
      • パクリタキセル(タキソール®など)
      • ナブパクリタキセル(アブラキサン®)
      • ドセタキセル(タキソテール®など)
      • ペメトレキセド(アリムタ®)
      • ビノレルビン(ナベルビン®など)
      • ゲムシタビン(ジェムザール®など)
      • イリノテカン(カンプト®など)
      • アムルビシン(カルセド®)
      • S-1(ティーエスワン®)
  • 分子標的薬
    • EGFR遺伝子に変異のある場合に使う薬(EGFR-TKI)
      • ゲフィチニブ(イレッサ®)
      • エルロチニブ(タルセバ®)
      • アファチニブ(ジオトリフ®)
      • オシメルチニブ(タグリッソ®)
      • ダコミチニブ(ビジンプロ®)
    • EML4-ALK融合遺伝子のある場合に使う薬
      • クリゾチニブ(ザーコリ®)
      • アレクチニブ(アレセンサ®)
      • セリチニブ(ジカディア®)
      • ロルラチニブ(ローブレナ®)
      • ブリグチニブ(アルンブリグ®)
    • ROS1融合遺伝子のある場合に使う薬
      • クリゾチニブ(ザーコリ®)
      • エヌトレクチニブ(ロズリートレク®)
    • BRAF V600E遺伝子に変異のある場合に使う薬
      • ダブラフェニブ(タフィンラー®)
      • トラメチニブ(メキニスト®)
    • MET遺伝子変異のある場合に使う薬
      • テポチニブ(テプミトコ®)
      • カプマチニブ(タブレクタ®)
    • RET遺伝子変異のある場合に使う薬
      • セルペルカチニブ(レットヴィモ®)
    • KRAS G12C遺伝子変異のある場合に使う薬
      • ソトラシブ(ルマケラス®)
    • NTRK遺伝子変異のある場合に使う薬
      • エヌトレクチニブ(ロズリートレク®)
      • ラロトレクチニブ(ヴァイトラックビ®)
    • HER2遺伝子変異のある場合に使う薬
      • トラスツズマブ デルクステカン(エンハーツ®)
    • 抗VEGF抗体を用いた薬
      • ベバシズマブ(アバスチン®)
      • ラムシルムブ(サイラムザ®)
  • 免疫チェックポイント阻害薬
    • 抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体を用いた薬
      • ニボルマブ(オプジーボ®)
      • ペムブロリズマブ(キイトルーダ®)
      • アテゾリズマブ(テセントリク®)
      • デュルバルマブ(イミフィンジ®)
    • 抗CTLA-4抗体を用いた薬
      • イピリムマブ(ヤーボイ®)
      • トレメリムマブ(イジュド®)

これらの多くの薬は状況を見ながら使い分けていくことになります。

特に以下のことは必ず考えなければなりません。

  • 全身の状態
  • がんの進行状況
  • 薬を使うことで予想される副作用の忍容性(どのくらい身体が副作用に耐えられるのか)
  • がんの持っている遺伝子の状況

特に分子標的薬は色々な方向から研究が進んでおり日進月歩です。しかし、現状ではがんの患者さんを完治させるには至っていません。他の抗がん剤よりも副作用が出にくいように工夫はされていますが、副作用が出ることも多い治療ですので、治療を受ける本人が治療のメリットとデメリットを把握していなければなりません。治療を始める前にしっかりと主治医と相談し、どういった治療を行うかを納得した形で決めることが必要になります。

肺腺がんに対する放射線療法

肺腺がんは放射線療法が比較的効きにくいことがわかっていますが、全身の状態などから考えて十分メリットがあると判断された場合には放射線療法が行われます。

放射線療法には、放射線の当たった細胞を死滅させる力がありますが、狙った細胞だけ死滅させることが難しいという欠点があります。つまり、放射線は直進する性質があるので、放射線の通り道にあたる前後の細胞にもどうしても放射線が当たってしまうのです。

その欠点を解消するために、サイバーナイフ治療などの高い精度で集中して放射線を当てる方法(いわゆるピンポイント照射)が出現しました。サイバーナイフ治療は360度のいろいろな角度から放射線を当てることで、狙った部位以外の細胞に当たる放射線を分散させることができます。

肺がんの放射線療法

しかし、サイバーナイフ治療は動くものを狙うことが苦手です。肺は呼吸によって動くため、以前はサイバーナイフ治療の対象外となっていました。近年は工夫が凝らされて、肺の呼吸による動きに同期してサイバーナイフ治療ができるようになってきています。

8. ステージごとの肺腺がんに対する治療法

肺がんのステージとは?

肺がんの進行度はステージを用いて分類します。ステージとは、がんがどれぐらいの範囲まで広がってきているのかを画一的に評価するものです。病気の進行度を評価するのには画一的な基準があることは重要で、ステージを基準としてがんの治療法が決定されます。

ステージはステージⅠからステージⅣまでに分かれます。肺がんではさらに細かくⅠA、ⅠBのように分けます。国際的にはローマ数字(Ⅲなど)で書き表すのが普通ですが、このサイトではアラビア数字(3など)で記載しているところもあります。

がんのステージを決めるために、TNM分類という方法が使われます。TNM分類とは、がんの大きさ(T)・リンパ節転移(N)・血行性転移(遠隔転移)(M)をそれぞれ段階に分けて評価する方法です。TNM分類に従ってがんのステージが決められます。

下にTNM分類とステージの対応を説明します。やや専門的になるので、自分に関係ないと思う部分は読み飛ばしてください。

【TNM分類(UICC及びAJCCのTNM分類第8版に基づく)】

T-原発腫瘍(腫瘍径はすりガラス影を含まずに充実成分で計測する)

  • TX:原発腫瘍の存在が判定できない、あるいは喀痰または気管支洗浄液細胞診でのみがん細胞は見られるが、画像診断や気管支鏡では観察できない
  • T0:原発腫瘍を認めない
  • Tis:上皮内癌(carcinoma in situ)充実成分径が存在せず、すりガラス影≦30mm
  • T1:腫瘍最大径≦30mmの腫瘍が臓側胸膜に覆われており、葉気管支より中枢への浸潤が気管支鏡検査をしても見えない(すなわち主気管支に及んでいない)
    また、腫瘍の大きさで以下の亜分類がある
    • T1mi:minimally invasive adenocarcinoma(MIA)充実成分≦5mmかつすりガラス影≦30mm
    • T1a:腫瘍最大径≦10mm
    • T1b:腫瘍最大径>10mmでかつ≦20mm
    • T1c:腫瘍最大径>20mmでかつ≦30mm
  • T2:腫瘍最大径>30 mmでかつ≦50 mmの腫瘍、または以下のいずれかであるもの
    • 腫瘍最大径<30mmで主気管支に腫瘍が存在する
    • 臓側胸膜に浸潤している
    • 肺門まで連続する無気肺か閉塞性肺炎があるが片側の肺全体には及んでいない
      また、腫瘍の大きさで以下の亜分類がある
    • T2a:腫瘍最大径>30mmでかつ≦40mm
    • T2b:腫瘍最大径>40mmでかつ≦50mm
  • T3:最大径>50 mmでかつ≦70mmの腫瘍、または以下の場合である
    • 横隔膜、胸壁(superior sulcus tumorを含む)、横隔神経、縦隔胸膜、壁側心膜のいずれかに直接浸潤している
    • 同一葉内の不連続な腫瘍結節(同一葉内の転移)
  • T4:最大腫瘍径>70mm、または大きさを問わないが以下の状態のあるもの
    • 縦隔、心臓、大血管、横隔膜、気管、反回神経、食道、椎体、気管分岐部への浸潤
    • 同側の異なった肺葉内の腫瘍結節(同じ側の肺の中で異なった肺葉内の転移)

N-所属リンパ節

  • NX:所属リンパ節評価不能
  • N0:所属リンパ節転移なし
  • N1:同側の気管支周囲や同側肺門、肺内リンパ節への転移で原発腫瘍の直接浸潤を含める
  • N2:同側の縦隔や気管分岐部リンパ節への転移
  • N3:対側縦隔リンパ節、対側肺門リンパ節、同側あるいは対側の前斜角筋リンパ節、鎖骨上リンパ節への転移

M-遠隔転移

  • MX:遠隔転移評価不能
  • M0:遠隔転移なし
  • M1:遠隔転移がある
    • M1a:対側肺内の腫瘍結節,胸膜結節,悪性胸水,悪性心嚢水
    • M1b:他臓器へ単発の遠隔転移がある
    • M1c:多臓器へ多発の遠隔転移がある

【病期分類(ステージ)】

肺がんの状態

腫瘍や転移の状態

N0

N1

N2

N3

充実成分5mm以下、すりガラス影30mm以下

T1mi

ⅠA1

 ー

 ー

 ー

充実成分が10mm以下

T1a

ⅠA1

ⅡB

ⅢA

ⅢB

充実成分がが10-20mm

T1b

ⅠA2

ⅡB

ⅢA

ⅢB

充実成分が20-30mm

T1c

ⅠA3

ⅡB

ⅢA

ⅢB

腫瘍の大きさが30-40mm T2a ⅠB ⅡB ⅢA ⅢB

腫瘍の大きさが40-50mm

T2b

ⅡA

ⅡB

ⅢA

ⅢB

腫瘍の大きさが50-70mm

T3

ⅡB

ⅢA

ⅢB

ⅢC

胸壁、胸膜、心嚢などに浸潤

T3

ⅡB

ⅢA

ⅢB

ⅢC

同一の肺葉内に転移がある

T3

ⅡB

ⅢA

ⅢB

ⅢC

腫瘍の充実成分が70mmより大きい

T4

ⅢA

ⅢA

ⅢB

ⅢC

周囲臓器への直接浸潤

T4

ⅢA

ⅢA

ⅢB

ⅢC

肺葉内を超えているが同側肺内の転移

T4

ⅢA

ⅢA

ⅢB

ⅢC

肺がんによる胸水や心嚢水

M1a

ⅣA

ⅣA

ⅣA

ⅣA

反対側の肺内に転移がある

M1a ⅣA ⅣA ⅣA ⅣA

単発の遠隔転移がある

M1b ⅣA ⅣA ⅣA ⅣA

多発の遠隔転移がある

M1c ⅣB ⅣB ⅣB ⅣB

治療を受けるためには、分類の基準を覚える必要は全くありません。ただ、自分のがんがどのくらい進行しているのか、自分はどうして手術を受けられないのかなどが、分類に当てはめることで理解しやすくなります。

肺腺がんに対する治療の大前提にあるのは、手術が可能であれば手術をすることです。これは肺腺がんは比較的、化学療法や放射線療法が効果を発揮しにくいからです。

肺腺がんの場合、ステージⅢAまでは手術が検討できます。ステージⅢB以上に進行していると手術はできません。

それでは肺腺がんのステージごとの治療について見ていきましょう。肺がんの治療に関する記載も非常に難しい内容になっていますので、自分に当てはまらない部分は読み飛ばしてください。

肺腺がんのステージ1-2の手術療法(外科的治療)

手術が最も成績の良い治療になりますので、手術可能であれば手術を行うことになります。

とはいえ、肺を手術で切り取ると手術後の呼吸機能への影響は大きいです。そこで、正常な肺をなるべく残せるよう、縮小手術といって小さく切り取る方法があります。がんの大きさが2cm以下のときや、2-3cmでもリンパ節に転移がない場合は、縮小手術も検討されます。

手術をしたあとどれぐらい生きられるかは統計から平均値が出ています。ステージⅠ・Ⅱ期全体の5年生存割合は69.6%です。更に細かくみると以下のようになります。

(以前のステージ分類でのデータなので、現在使用されている分類でのデータとは若干異なる可能性があります。)

【手術した場合のステージごとの5年生存率(参考:がんの統計'18、全国がんセンター協議会加盟施設における)】

ステージ

5年生存率

Ⅰ期

84.0%

Ⅱ期

52.9%

【手術の有無に関わらないステージごとの5年生存率(参考:がんの統計'18、全国がんセンター協議会加盟施設における)

ステージ

5年生存率

Ⅰ期

81.2%

Ⅱ期

48.8%

ステージが進行すればするほど、どうしても治癒率が下がってしまいます。そのため、手術後に再発予防のための化学療法を行う場合があります。

肺腺がんのステージ3の手術療法(外科的治療)

手術を行えるのであれば手術で治療することになります。ステージⅢA期と呼ばれる状態は手術が検討できますが、もう少し進行したⅢB期では手術を行うことはできません。

手術を行う場合も、手術前に化学療法(抗がん剤)か化学放射線療法(抗がん剤+放射線療法)を行うことで、腫瘍をできるだけ小さくして切除することがあります。手術を行う前に化学療法か化学放射線療法を行ったほうが治療成績が良いという報告もあります。

手術のみの治療と手術前に治療を加える方法を比較したものが下の表になります。

【治療法ごとの5年生存率(リンパ節転移がN2のもの)】

治療法

5年生存率

手術のみ

30.0%

術前治療をしてから手術

38.0%

生存率だけを比べれば、手術前に化学療法や化学放射線療法を行う方が良いのですが、身体への負担は増します。そのため体調とがんの勢いを見ながら治療法を決定します。

また、ステージⅢ期の肺がんでは手術した後に化学療法を行う方が成績が良いとされています。

化学療法について詳しくは「肺腺がんの治療に使う抗がん剤はどんな薬?」で説明します。

9. 肺腺がんでステージ4と言われたら?

がんの病期分類でステージⅣというと末期状態と思われる方も多いと思います。しかし、ステージⅣということはがんが転移しているということを指しますが、決して末期ということではありません。治療も行うことができます。

ステージ4の肺腺がんで余命はどれぐらい?

ステージⅣは最も進行したステージです。とは言え必ずしも末期ではありません。治療を行えます。しかし、一般的には余命は長いわけではありません。

余命は個人差があるのでその人その人の余命を正確には当てられませんが、平均でいうとステージⅣの肺腺がんに化学療法を行って1年生存する確率は50-60%と言われています。

ステージ4の肺腺がんに何ができる?

ステージⅣの肺腺がんは手術することはできませんが、化学療法を行うことができます。また、痛みや呼吸困難感などの苦痛は緩和医療を用いて和らげることができます。

緩和医療はステージⅣに限った話ではありませんが、上手に治療することで生活のしやすさが格段に変わってきます。

詳しくは「緩和医療って末期がんに対して行う治療じゃないの?」で説明しています。

効果の怪しい「治療」に気を付けて!

ここでは敢えて効果の怪しいと書いていますが、肺がんの補助療法は色々と行われています。具体的には、温熱療法や高濃度ビタミンC点滴療法、断食療法、アガリクスといったサプリメントなど挙げたらきりがありません。これらはもちろん今後医学的にも認められる可能性はありますが、現段階では科学的に効果の認められた治療ではありません。中には不当に高価な治療費が請求される場合もありますので、治療に臨まれる前にきちんとその内容と効果を確認して下さい。たとえばビタミンCの点滴剤は2gで82円ですので、これを大量に100g点滴した場合でも4100円しかかからないはずです。

わらをもすがる思いに付け入った悪意のあるものも少なくないので注意が必要です。近年は免疫チェックポイント阻害薬など、広く効果の認められている「免疫療法」(抗がん剤)も続々出てきていますが、巷には効果の証明されていない怪しい「免疫療法」が出回っているのも事実です。保険適応外のそういった治療を受けられる場合には特に注意が必要でしょう。真剣に迷われている方は、一度がんの主治医に相談してみた方が良いです。

参照文献

Int J Cancer. 2002 May 10

American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine 2016;193:427-37