はいがん(げんぱつせいはいがん)
肺がん(原発性肺がん)
肺にできたがん。がんの中で、男性の死因の第1位
29人の医師がチェック 360回の改訂 最終更新: 2025.01.20

肺がんのステージとは

肺がんの進行度を評価する方法としてステージという言葉がよく使われます。肺がんの治療法を決定するのに重要なものの1つでもあり、皆さんも耳にしたことがあるかもしれません。ステージはどういった基準で決まるのか、またそのステージはどのような状態なのかについて、このページでは詳しく説明します。

1. 肺がんの治療法はステージによって決まる

肺がんの進行度はステージを用いて分類します。ステージとは、がんがどれぐらいの範囲まで広がってきているのかを画一的に評価するものです。病気の進行度を評価するのには画一的な基準があることは重要です。ステージを基準としてがんの治療法が決定されます。

ステージはステージ1からステージ4までに分かれます。肺がんではさらに細かく1A、1Bのように分けます。なお、国際的にはローマ数字(Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ、 Ⅳ)で書き表すのが普通ですが、このサイトではアラビア数字(1、2、3、4)で記載します。

治療を受けるために分類の基準を覚える必要は全くありません。しかし、ステージ分類は治療方法を決定するうえで非常に重要です。また、自分のがんがどのくらい進行しているのか、自分はどうして手術を受けられないのかなどが、ステージ分類に自分の状況を当てはめることで理解しやすくなります。

ステージによって治療法が違う

肺がんに対する治療の大前提は、「手術が可能であれば手術をすること」です。手術が最も完治しやすく再発しにくいからです。しかし、すべての人に手術ができるわけではありません。一方、最近は技術の進歩によって放射線療法が手術と同じくらいの治療効果を発揮することもあります。

後に詳しく説明しますが、どういったステージの人にはどういった治療をするのが現時点で最良なのかがわかっています。ステージごとに勧められる治療として、過去のデータから治療の成功率が高いものが採用されています。

2. 肺がんのステージはどうやって決まるか

肺がんのステージは国際的な基準(UICC)の中にあるTNM分類という分類に基づいて決まります。

TNM分類とは、がんの大きさ(T)・リンパ節転移(N)・血行転移遠隔転移)(M)をそれぞれ段階に分けて評価する方法です。TNM分類に従ってがんのステージが決められます。

各ステージの特徴を簡単にまとめると、下記のようになります。

  • ステージ1:肺にがんはあるが大きすぎず(4cm以下)リンパ節や他臓器への転移はない
  • ステージ2:がんが近くのリンパ節に転移しているか、または、リンパ節への転移はないがサイズが大きい(4-7cm)。他臓器への転移はない
  • ステージ3:リンパ節転移はないががんがかなり大きい(7cm以上)、または、がんが肺の周りの組織に広がっている、または、離れたリンパ節にも転移している。他臓器への転移はない
  • ステージ4:がんの大きさやリンパ節転移の有無にかかわらず、他の臓器への転移がある

肺がんでは、ステージ1は1A1・1A2・ 1A3・ 1Bに、2は2A・ 2B、3は3A・ 3B・ 3Cに、4は4A・ 4Bにさらに細かく分かれています。

TNM分類とステージの対応はやや専門的になるのでここでは割愛しますが、ステージはがんの大きさだけではなく、リンパ節や別の臓器への転移の状況もあわせて決められることを知ってください。

リンパ節転移(N)とは何か

肺がんが転移しやすいリンパ節

リンパ節転移は、がん細胞がリンパ液の流れに乗って到達したリンパ節で増殖することを指します。対して、血流にがん細胞が乗っかって臓器に転移するのが遠隔転移です。リンパ節転移には遠隔転移と違った性質があります。

リンパ液の流れには、血液を送りだす心臓のようなポンプがありません。リンパ液は臓器の間をゆっくりと流れています。このため、がん細胞がリンパ液に乗ったときは、いきなり遠いリンパ節に転移することがなく、隣のリンパ節へと順々に広がっていきます。

肺がんのある部位からだいぶ離れたところのリンパ節にがん細胞が見つかった場合は、がん細胞が広範囲に転移していると判断します。つまり、肺がんの周りから遠くの場所までの間にあるリンパ節のすべてを順々に転移してきたと考えます。

遠隔転移(M)とは何か

肺がんが転移しやすい部位

肺がんに限らずがんは遠隔転移を起こします。遠隔転移とは、その名の通りがん細胞が離れた臓器に転移することを指します。

全ての臓器は血流から栄養をもらっているため、がん細胞が血液中に侵入すると、理論上すべての臓器にがん細胞が到達します。しかし、がん細胞が臓器に到達したからと言って必ず転移が起こるわけではありません。免疫細胞がやってきて、がん細胞を排除しようと働くからです。

がん細胞の量や悪性度などのがんの勢いと免疫細胞の力のバランスががんの勢いのほうに傾いてしまうと、がん細胞が臓器に定着して転移が起こります。

肺小細胞がんのほうが他の組織型より転移しやすいことが分かっています。また、身体の中でも転移しやすい臓器があります。脳・骨・肝臓・副腎が、肺がんが転移しやすい臓器の最上位となります。

実はがん細胞と免疫細胞のバランスというのが非常に複雑な話になります。がん細胞は人間の免疫に攻撃されないように細工をします。それを起こさせないようにする薬(ニボルマブ、ペムブロリズマブなど)が最近注目されています。今までの抗がん剤は直接がん細胞を殺すものがほとんどでしたが、ニボルマブなどはがんを排除する免疫細胞を応援する薬です。

肺がんの初期とはどのような状態か

肺がんの初期を明確に定義するものはありません。例えば胃がんには早期胃がんという定義があります。早期胃がんは粘膜や粘膜下層にがんが収まっている状態を指します。しかし、「早期肺がん」という言葉は定義されておらず、医療者の間ではあまり一般的な言い方ではありません。

「早期がん=治癒できる」という一般的なイメージに従えば、手術することで治療効果が非常に高いステージ1Aが早期肺がんとなるかもしれません。

6センチの肺がんが見つかった場合のステージは何か

例えば肺がんの腫瘍が6cmあったとします。この肺がんのステージはいくつでしょうか。

この答えはステージ2B以上になります。肺がんの大きさが6cmで胸膜を含めてどこにも影響を与えていなければ2Bです。しかし、がんのステージを決めるには、がんの大きさだけではなくて、リンパ節への転移や遠隔転移の状況を評価する必要があります。例えば、がんの大きさは6cmでも遠隔転移があれば、ステージは4になります。

つまり、がんの進行度を判断するには、がんの大きさだけではなくリンパや臓器への転移状況をみて総合的に判断する必要があります。

肺がんで胸の痛みが出たらステージは何か

胸の痛みはさまざまな原因で起こります。肺がんがあるからと言って、胸痛が肺がんによるとは限らないことには注意が必要です。肋間神経痛不整脈など胸痛を起こす別の原因は多く存在します。

肺がんで胸痛を起こす場合は以下のものが考えられます。

  • 骨に転移している
    • この時点で遠隔転移を起こしているので、ステージは4になります。
  • 胸膜に影響を与えている(浸潤している)
    • 壁側胸膜(肋骨や肋骨の周りの筋肉を被っている胸膜)までの浸潤であれば、ステージは2B以上になります。
  • 心膜に影響を与えている(浸潤している)
    • 心膜へ浸潤していれば、ステージは3A以上になります。
  • 神経に影響を与えている(浸潤している)
    • 横隔神経へ浸潤していれば、ステージは2B以上になります。

上に挙げた例のステージがバラバラであるように、胸の痛みが出てきたからといって肺がんのステージが分かるものではありません。

3. 肺がんでステージと同じくらい大事な「組織型」とは

肺がんの組織型は大きく非小細胞がんと小細胞がんにわけられる

肺がんの中にはいろいろな種類があります。扁平上皮がん・腺がん・小細胞がん・大細胞がんなどあり、各々が異なった性質を持っているため治療法も変わってきます。特に小細胞がんは特殊で、治療の方針も小細胞がんとそれ以外のがんで変わってきます。

小細胞肺がんとは

小細胞がんは非常に進行の早いがんです。そのため、最も治療効果の期待できる手術ができる場面は少ないです。

手術は基本的にリンパ節への転移が腫瘍のすぐ近くにしかない場合(病期分類でステージ1)のみ行います。また、見えない形で全身にがん細胞が散らばっている状態が想定されるので、手術後には化学療法を行います。

手術のできない場合にステージ分類を用いて考えることは少なく、限局型(LD)と進展型(ED)の2つに大別して治療方針を決定します。

LDの場合は化学療法と放射線療法を併せて治療しますが、EDの場合は化学療法だけで治療します。

【小細胞がんの治療法】

小細胞がんの進行度 行われる治療法
ステージ1、2A 手術可能であれば手術,不可能であれば化学療法+放射線療法
LD(ステージ1、2A以外) 化学療法+放射線療法
ED 化学療法

詳しくは「肺小細胞がんの治療」のページを参考にしてください。

非小細胞肺がんとは

非小細胞がんはその名の通り小細胞がん以外の肺がんのことになります。非小細胞がんの治療は小細胞がんのそれとは多少異なります。非小細胞がんではステージ3Aまで手術を行うことがあります。

治療方針が違う理由のひとつは、非小細胞がんには抗がん剤や放射線療法の治療成績があまり良くないことです。もうひとつの理由として、非小細胞がんの進行が小細胞がんほど早くないことから、非小細胞がんならある程度進行していても手術で取り切れる可能性があるということも挙げられます。

実は全然違う「ステージ」と「クラス」

がんに関する言葉の中で、ステージと混同しやすいものとして「クラス」という言葉があります。

ステージに関しては上で説明したとおり、腫瘍の大きさや周囲への直接的影響・リンパ節転移・遠隔転移から評価される進行度のことです。ステージは治療方法を決定するために非常に重要な評価方法です。

一方、クラスというのは、検査で採取した細胞がどの程度がんが疑わしいのかを分類する基準のことです。 肺がんであれば、痰や気管支内視鏡検査で採ってきた検体細胞診断を行うときに使われます。クラス1はがんを疑うものが全くない状態で、クラス5 ではがん細胞がはっきりと見えている状態になります。

【細胞診断におけるクラス分類】

クラス 細胞の状態
ClassⅠ(1) がん細胞はない
ClassⅡ(2) 良性異型(形は変形しているが正常の範囲)
ClassⅢ(3) 良性なのか悪性なのか判断し難い
ClassⅣ(4) 悪性を強く疑う細胞がある
ClassⅤ(5) 悪性細胞(がん細胞)がある

つまり、クラス4でも実はがんではない可能性が少しはあります。クラス5なら確実にがんであると判断されたことになりますが、ステージは1Aかもしれませんし、もっと進行しているかもしれません。「クラス4」と言われても「末期がんではないか」と思う必要はありません。

ステージやクラスといった言葉を日頃あまり聞き慣れていない場合は、どうしても混同してしまいがちです。お医者さんから病気の説明を受ける際は、聞き間違えないように一度言葉の指しているものを確認してから臨んだほうが良いかもしれません。

4. ステージとは別の要素:分化度とは何か

肺がんの治療方法を考えるうえで進行度は重要です。進行すればするほど、治療の選択肢は狭まりますし、全身の状態は悪くなってしまいます。

進行度以外に重要な要素として、分化度というものもあります。

細胞は幹細胞という色々なものになれる細胞から、成熟した細胞に段々と変化していきます。例えば、骨髄幹細胞という細胞は様々な血球になることができます。骨髄幹細胞は、赤血球白血球血小板といったものに変化していくのですが、こうして白血球のようなより特定の機能を持った細胞に変化することを分化と言います。

がん細胞にも分化があります。なんにでも変化できるような幹細胞のようなものもある一方、特定のタイプにはっきりと分化しているものもあります。前者を低分化といい後者を高分化といいます。一般的に低分化のほうが悪性度が高く、治療の効果がなかなか出ないことが分かっています。分化度は、もとの正常な細胞に対してがん細胞がどの程度似ているのかを顕微鏡で見て判断します。

5. ステージ1の肺がんはどのような状態か

ステージ1は、1から4まである病期分類の中で最も早いものになります。がんはあまり進展しておらず、治療の成績も良いのが特徴です。

ステージ1の中にはステージ1Aと1Bがあります。1Bのほうが少し進行しています。

ステージ1の条件はリンパ節転移や遠隔転移が存在しないことです。腫瘍の大きさは4cmまでで、心臓などの周囲の臓器への影響がなければステージ1に分類されます。

ステージ1の肺がんの治療は手術が基本

ステージ1の肺がんは手術で治療することが基本です。これは手術が最も治療成績が良いからです。とはいえ手術は身体への負担が大きいのが問題になります。そこで身体の負担を軽くする目的に、肺を切る大きさを小さくする縮小手術(肺葉切除術、部分切除術)が行われることがあります。特にステージ1Aのときは肺葉切除術や部分切除術を行うことがあります。

非小細胞がんの場合はステージ1Bの場合は手術の後にUFTという抗がん薬を2年間飲み続けるケースが多くなります。(ステージ1AでもUFTを飲むことがあります。)

また、ステージ1の小細胞がんの場合は、手術の後にシスプラチン+エトポシドという抗がん薬を3-4週ごとに4回を目安に点滴します。

次のような事情があって手術ができない場合は、ステージ1であれば放射線療法で根治を狙います。

  • 体力がない(PSが2以上)
  • 肺の機能が悪い
  • 心臓の機能が悪い

(注)PS(Performance Status)とは

0:全く問題なく日常生活ができる
1:軽度の症状があり激しい活動は難しいが、歩行可能で、軽作業や座って行う作業はできる
2:歩行可能で自分の身のまわりのことは全て行えて日中の50%以上はベッド外で過ごすが、時に軽度の介助を要する
3:自分の身のまわりのことは限られた範囲しか行えず、日中の50%以上をベッドか椅子で過ごす
4:自分の身のまわりのことは全くできず、完全にベッドか椅子で過ごす

これらが主な理由になります。これらに該当するかどうかを判断するために、手術の前に心電図検査心臓エコー検査呼吸機能検査を行います。

6. ステージ2の肺がんはどのような状態か

ステージ2の肺がんは、まだそこまで進行しておらず手術も可能です。ステージ2にはステージ2Aとステージ2Bがあります。ステージ2Bのほうが少し進行しています。

ステージ2は遠隔転移がないことが必須条件です。また、リンパ節への転移が腫瘍のごく付近までで、腫瘍が周囲の肺付近の臓器に留まっている状態です。

ステージ2の肺がんの治療

ステージ2の肺がんは手術が可能です。手術を受けられない主な理由は以下になります。

  • 体力がない(PSが2以上)
  • 肺の機能が悪い
  • 心臓の機能が悪い

ステージ2も手術を行った後には化学療法を行います。シスプラチン+ビノレルビンを用いることが多いです。化学療法は3-4週ごとに4回行います。

7. ステージ3の肺がんはどのような状態か

ステージ3になると肺がんは進行した状態になります。3期では手術ができない場合が多く見られます。

ステージ3の絶対条件は遠隔転移をしていないことになります。ステージ3には3A、3B、3Cがあります。この3A、3B、3Cの区別は非常に重要です。3Aは手術を検討できることもありますが3B、3Cでは手術することはできませんので、この区別は特に注意して行う必要があります。

ステージ3の肺がんで手術は可能か

ステージ3でも手術を行える場合には手術を検討することになります。

しかし、ステージ3の手術は少し特殊です。手術の前に化学療法と放射線療法を行うほうが治療成績が良いです。術前化学放射線療法と言われるものですが、手術をする前にがんを小さくしてから切り取ることが狙いになります。

また、術前化学放射線療法を行わなかった場合は、可能な限り手術の後に化学療法(シスプラチン+ビノレルビン)を行うことになります。

ステージ3の肺がんで手術ができない時はどんな場面か

ステージ3ではがんはかなり進行していますので、手術の適否は慎重に判断しなくてはなりません。ともすれば手術を行うことで逆に命を縮めてしまうことがあります。

がんのある側とは反対側にあるリンパ節に転移していたり、がんが大きくなって心臓や胸膜以外の肺の周囲にある臓器へ浸潤(がん細胞が影響をおよぼすこと)している場合は、ステージ3Bとなり手術はできません。また、ステージ1や2の場合と同じように以下の場合も手術を受けることができません。

  • 体力がない(PSが2以上)
  • 肺の機能が悪い
  • 心臓の機能が悪い

手術ができない人に対しては、根治を目指して化学療法と放射線療法を組み合わせて治療します。6週間の放射線治療の間に、化学療法ができる人には化学療法を行います。その治療が終わったあとには、免疫チェックポイント阻害薬(デュルバルマブ)の点滴を1か月に1回、1年間行います。

ステージ3の肺がんは完治するか

5年間生存する確率でも3-4割ですので、完治する確率は高いとはいえません。とはいえ、ステージ3の肺がんに対する治療は、手術も化学放射線療法も基本的には根治を目指したものにはなりますので、正しい情報を元に確率の高い治療選択を行っていきましょう。

8. ステージ4の肺がんはどのような状態か

肺がんのステージ4とは遠隔転移のある状態のことを指しますが、ステージ4だから必ずしも肺がんの末期というわけではありません。転移があっても健常に生活して人生を謳歌している人は大勢います。

ステージ4の重要な特徴は手術ができないということになりますが、化学療法や放射線療法を用いて治療していきます。

ステージ4の肺がんではどんな症状が出るか

肺がんになるとせきやたん、胸の痛みなどがあらわれますが、末期になったときの症状は基本的にそれらが非常に強くなったものになります。例えば、それまでは軽い息苦しさ程度で済んでいたのに、酸素吸入をしていても息苦しくなるようなことが起こります。

また、以下の症状も出てくることがあります。

  • 何をしてもひどいだるさ(倦怠感)が感じられる
  • 何を食べても体重がどんどん減っていく
  • 身体がひどくむくんでくる
  • 意識が朦朧とする

これらの4つの症状は、がんが進行してきたことで身体のバランスが乱れてしまっている状態です。この状態になると体重が減ることに対して点滴で栄養をとっても、栄養を吸収できないどころか、点滴で身体に入ってきた水分を血管の中に保てなくなり、むくみ浮腫)がひどくなってしまいます。

また、栄養状態が悪くなっているのでさらに食事をとる元気もなくなってしまい、全身状態はどんどん悪化してしまいます。この状態になると回復することは難しいですが、それでも苦しい思いを和らげることはできます。つらい状態を上手に和らげるために、緩和治療を行うこととなります。

脳転移した時の症状

肺がんの転移は身体の多くの場所に起こります。脳や骨や肝臓、副腎に起こりやすいことが分かっています。特に脳転移は深刻な症状が出ることがあるので注意が必要です。

肺がんが脳に転移すると、以下のような症状が出てきます。

  • 頭痛
  • 手足のしびれ
  • しゃべりにくさ
  • けいれん(症候性てんかん
  • 認知機能の低下
  • 性格の変化

どんな症状が出るのかは人それぞれで分かりませんが、いずれの症状も生活に支障をきたします。脳転移に対しては状況に応じた専門的な治療を行うことになります。どういった治療を行うのでしょうか。

脳内に転移が多数ある場合の治療

脳内に多数の転移がある場合、ひとつひとつのがんを狙って放射線療法することは困難です。そのため、全脳照射と言って、脳全体に放射線を当てることがあります。

全脳照射をすると、どうしても正常な脳細胞にも影響が出てしまうので、極力避ける方向にありますが、転移によってしびれなどの症状が出ている場合や転移によって症状が出てきそうな場合は脳全体に放射線療法を行います。

非小細胞肺がんにおいて、4個以下ですべて3cm以下の転移が脳内にある場合の治療

定位照射と呼ばれる、がんのある部位のみを狙った放射線療法を行います。また、最近ではガンマナイフ治療やサイバーナイフ治療と言った、全方位から放射線を少しずつ照射することで正常脳細胞に極力影響が出ないように配慮した治療も行われています。

肺がんの骨転移とは?

骨に痛みが出ていたりしびれが出ていたりする場合や骨破壊が進んで骨折しそうな場合は、積極的に放射線療法を行います。また、骨を丈夫にする目的で、ゾレドロン酸(ゾメタ®)やデノスマブ(ランマーク®)という薬を注射します。

また、痛みが強い場合は、モルヒネやオキシコドンなどの強い鎮痛薬を用いて痛みを抑えます。

ステージ4の肺がんの治療は薬物治療

ステージ4の肺がんに対して原則的には手術は行えません。また、症状を和らげる目的でなく治療する目的での放射線療法も行えません。いずれも、治療することでかえって寿命を縮めてしまうことがわかっています。

ステージ4の治療では薬物治療を行います。用いる薬には、(従来の)抗がん剤、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬があります。治療をはじめるにあたって、がんに含まれる遺伝子検査と、PD-L1の発現率を調べます。PD-L1というのは、免疫チェックポイント阻害薬の効きやすさの指標となるものです。

遺伝子検査の結果、条件が合えば分子標的薬を最初に用いることになります。条件に当てはまる遺伝子変異がなかった場合は、PD-L1の発現率や患者さんの年齢、体力にあわせて(従来の)抗がん剤、免疫チェックポイント阻害薬を単独または組み合わせて使います。

ここでは非常に簡単に説明してきました。がんの種類ごとに詳しく治療方法などを説明しているページ(小細胞がんのページ扁平上皮がんのページ腺がんのページ)がありますので参考にしてください。

肺がんの緩和ケアとは

肺がんは進行すればするほど症状が出てきます。肺がんに伴う症状は、痛みや息苦しさといった生活の質を著しく損なうものが多いです。そのため、ステージがどの段階であろうと、肺がんの症状が出たら緩和ケアの出番になります。

WHO(世界保健機関)は緩和ケアを「生命を脅かす病に関連する問題に直面している患者と家族の痛み、その他の身体的、心理社会的、スピリチュアルな問題を早期に同定し適切に評価し対応することを通して、苦痛(suffering)を予防し緩和することにより、患者と家族のQuality of Lifeを改善する取り組みである」と定義しています。

つまり、緩和ケアは患者やその周囲の近しい人の苦しみを全人的に取り去ることを目標としています。全人的な苦しみとは、精神的・肉体的・社会的・スピリチュアルな苦しみのことを指します。これらを多角的に取り去っていきます。

詳しくは、「緩和医療」のページで説明していますので参考にしてください。

ステージ4の肺がんは完治するか

医学に絶対はないですが、ステージ4の肺がんが完治する可能性はほとんどありません。

最近は分子標的薬という抗がん剤が出てきており、分子標的薬によってがん細胞を攻撃することで、余命が格段に伸びる人が出ています。今後治療効果がさらに上がることで、ステージ4でも完治するようになることは十分に考えられます。

しかし、現時点では、ステージ4の肺がんは完治がほとんど期待できない、厳しい状態です。

肺がんで最期を迎えるときのために備えること

肺がんが末期の状態になると、残念ながら積極的な治療は難しくなります。しかし、末期になれば症状が強くなっていきますので、治療の必要性も増えるというジレンマがあります。つまり、がんを排除するための治療ができなくても、症状を和らげる治療(緩和治療)の出番が多くなります。

がんの症状が強くなると、患者さんもその家族も不安が強くなってくることでしょう。

実はこの不安こそが非常に重要な問題です。人間は不安が強いと苦痛を感じやすくなりますので、末期の状態では特に不安を取るように配慮する必要があります。

それでは実際にどんなことをやれば良いのでしょうか?

不安を取る方法は個人個人で違うので一概には言えませんが、いつもと同じように生活することが最も望ましいです。いつもと同じ、不安の少ない生活を送るために、患者本人と家族と医療者が協力しあって、自分らしく過ごしたい時間を作ることが大切です。

それでも不安が大きい場合も多いです。どうしても不安が強いときには、不安を取るような薬を使うことも大切になります。

薬が必要なほど不安が強い状況になると簡単にはバランスが取れません。治療が難しくなってきたときに有用なのが、医師や看護師たちで形成された緩和医療チームです。緩和医療チームをうまく利用して、症状のある中でも自分らしく過ごす時間を確保してください。