かんぞうがん
肝臓がん
肝臓にできた悪性腫瘍のこと
1人の医師がチェック 71回の改訂 最終更新: 2022.10.17

肝内胆管がん(胆管細胞がん)とは?②:治療、経過、生存率などの解説

肝内胆管がんは肝臓の中の胆管の上皮から発生するがんです。原発性肝がんのなかでも多くはありません。肝内胆管がんは原発性肝がんの多くを占める肝細胞がんとは治療法などが異なります。肝内胆管がん胆管細胞がんともいいます。 

肝内胆管がんは原因がはっきりとはわかっていません。肝内胆管がんと関連のある病気はいくつか知られています。

肝内胆管がんは胆管から発生する胆道がんに分類されます。胆道がんの発生には以下の病気が関係していると言われています。

共通しているのは胆道に慢性的炎症が起きる病気ということです。胆石症肝内結石を予防的に治療することによって胆道がんの発生が低下するかは不明とされています。

IARC(国際がん研究機関)は他に1,2-ジクロロプロパンという化学物質が胆道がんのリスクとなると指摘しています。

参照:IARC(国際がん研究機関)厚生労働省

肝内胆管がんは男性にやや多い傾向にあります。「第22回 原発性肝癌追跡調査報告書」によると2012年から2013年に登録された人数では男性が824人、女性が528人でした。

男性のほうが多いとはいえ、女性にも肝内胆管がんはできます。

少し古いデータですが、「第20回 原発性肝癌追跡調査報告」を参考にして解説します。1998年から2009年の間に診断された4,436人の治療結果はいくつかの方法で分類されています。肝内胆管がんで根治が期待できる治療方法は手術のみと考えられています。「手術をしたかしないか」、「手術の効果はどの程度であったか」に注目して生存率を解説します。

肝内胆管がんを根治するには手術が有力な方法と考えられています。手術ができるかどうかは非常に重要です。ここでいう手術は肝臓を切除する肝切除になります。

「第20回 原発性肝癌追跡調査報告書」によると手術の有無による累積生存率は下の表のような結果でした。

 

1年累積生存率

5年累積生存率

10年累積生存率

手術あり

78.5%

41.9%

28.6%

手術なし

71.5%

37.1%

12.7%

この表からは手術をした場合の生存率が高い結果であることがわかります。

ただし注意が必要なのは、手術なしの人の中には「もともとステージが進んでいて手術ができなかった人」が含まれていることです。肝内胆管がんの人で離れた臓器やリンパ節転移遠隔転移)がある場合は、効果が期待できないため手術をすることはありません。遠隔転移がある場合は全身に小さな転移が隠れていると考えて全身をカバーできる抗がん剤による治療をしたほうが効果が高いと考えられます。

肝内胆管がんの手術は治癒度という表現で手術の効果が判断されます。がんが取りきれなかった場合は治癒度Cです。がんが体の中に明らかに残っている状態はがんの手術の効果としては不十分だと考えられます。

  • 治癒度A:ステージIまたはステージIIのがんに対する取り残しのない切除 

  • 治癒度B:ステージIIIまたはステージIVのがんに対する取り残しのない切除 

  • 治癒度C:ステージに関わらず取り残しのある切除

「第20回 原発性肝癌追跡調査報告書」では治癒度別の累積生存率が以下の表のように報告されています。

 

1年累積生存率

5年累積生存率

10年累積生存率

治癒度A、B

84.2%

51.7%

33.9%

治癒度C

71.8%

31.5%

22.9%

治癒度で比べるとA、Bに比べてCの生存率が低い結果となっています。がんの手術はがんを十分と考えられる範囲で切り取ります。しかし、がんが想定しているより進行していて十分に取りきれないことはあり得ることです。治癒度Cの人はかなりがんが進行していた人を多く含んでいた可能性があります。

上の2つの表で紹介した数値は「第20回 全国原発性肝癌追跡調査報告」の結果です。これは1998-2009年に診断された人に対する治療の結果です。

統計データが集まるには時間がかかるので、今現在の治療による生存率は知ることはできません。がんの治療は日々進歩しています。現在の治療は今知ることができる生存率を上回ることもありえます。がんと診断された後にはどうしても生存率が気になると思いますが、生存率はあくまでも参考程度にとどめる方がよいと思います。

一人ひとりの顔が違うようにがんの状態も一人ひとりで違います。生存率は参考にこそなれど絶対ではありません。大事なことは自分の状態に向き合い日々の生活や治療に前向きに取り組んでいくことです。

ステージとはがんの進行の度合いを指す言葉です。肝内胆管がんのステージはステージIからステージIVの4つに大きく分けられます。ステージIVはさらにステージIVaとステージIVbに分かれます。

ステージはT因子(肝臓でのがんの状態)、N因子(リンパ節転移の有無)、M因子(遠隔転移の有無)の3つの組み合わせから決められます。対応を表に示します。

ステージ

T因子

N因子

M因子

I

T1

N0

M0

II

T2

N0

M0

III

T3

N0

M0

IVa

T4

T1-4

N0

N1

M0

IVb

T1-4

N0-1

M1

以下ではそれぞれの基準について解説します。ただし肝内胆管がんの一部はステージ分類されません。

「原発性肝癌取扱規約 第6版」では、肝内胆管がんの中でも腫瘤形成型もしくは混合型で腫瘤形成型が多くを占めるものに対してのみステージを定めることとしています。

TはTumor(腫瘍)の頭文字です。肝臓でのがんの状態を示しています。肝内胆管がん胆管細胞がん)のT因子は5つの項目から決められます。以下はやや専門的な内容になります。

肝内胆管がんCT検査などによる画像検査が重要です。画像上の形によりタイプを分類します。

  • 胆管浸潤型

  • 腫瘤形成型

  • 胆管内発育型

肝内胆管がんのT因子を決めるには門脈や肝動脈、主要胆管への侵襲、個数、腫瘍の大きさを使います。

  • 門脈侵襲

    • vp0:門脈侵襲なし

    • vp1:3次分枝まで侵襲

    • vp2:2次分枝まで侵襲

    • vp3:1次分枝まで侵襲

    • vp4:本幹まで侵襲

  • 肝動脈侵襲

    • va0:肝静脈に侵襲なし

    • va1:肝動脈末梢枝まで侵襲

    • va2:肝動脈2次分枝まで侵襲

    • va3:左右肝動脈、固有肝動脈に侵襲

  • 主要胆管への侵襲

    • b0:肝内胆管に侵襲・腫瘍栓を認めない

    • b1:胆管二次分枝より肝側(二次分枝を含めない)に侵襲・腫瘍栓を認める(肝側とは肝門から遠い場所を指します)

    • b2:胆管二次分枝に侵襲・腫瘍栓を認める

    • b3:胆管一次分枝に侵襲・腫瘍栓を認める

    • b4:総肝管に侵襲・腫瘍栓を認める  

  • 個数 

    • 単発:1個

    • 多発:2個以上

  • 腫瘍最大径

    • 2cm以下

    • 2cmを超える

5つの項目をそれぞれ評価してT因子を決定します。T因子の決定には以下の表を用います。

 

単発

多発

最大径≦2cm

2cm<最大径

最大径≦2cm

2cm<最大径

血管侵襲なし

  • Vp0

  • Va0

主要胆管浸潤なし

  • B0-B2

のすべてに該当

T1

T2

T2

T3

血管侵襲あり

  • Vp1-Vp4

  • Va1-Va3

主要胆管浸潤あり

  • B3-B4

のいずれかに該当

T2

T3

T3

T4

Nはリンパ節(lymph node)を指すNodeの頭文字です。N因子はリンパ節転移の程度を評価したものです。肝臓の近くのリンパ節を所属リンパ節といいます。N因子は所属リンパ節への転移を評価します。所属リンパ節以外のリンパ節への転移は遠隔転移に入ります。

がんは時間とともに徐々に大きくなり、リンパ管の壁を破壊し侵入していきます。リンパ管は全身で網の目のようなつながり(リンパ網)を作っています。

リンパ網にはところどころにリンパ節という関所があります。リンパ管に侵入したがん細胞はリンパ節で一時的にせき止められます。がん細胞がリンパ節に定着して増殖している状態がリンパ節転移です。

  • N0:リンパ節転移を認めない

  • N1:リンパ節転移を認める

MはMetastasis(転移)の頭文字です。遠隔転移を評価します。肝臓から離れた臓器に肝内胆管がんが転移することを遠隔転移と言います。所属リンパ節転移は遠隔転移とは言いません。「転移」という言葉は、遠隔転移を指し所属リンパ節転移は除くという意味で使われている場合があります。

  • M0:遠隔転移を認ない

  • M1:遠隔転移を認める

参考:原発性肝癌取扱規約 第6版

肝内胆管がんは胆管上皮ががん化したものです。肝内胆管がんは形から3つに分類されます。

  • 腫瘤形成型(しゅりゅうけいせいがた)

  • 胆管浸潤型(たんかんしんじゅんがた)

  • 胆管内発育型(たんかんないはついくがた)

さらにこれらが入り交じったタイプ(混合型)もあります。「第22回 全国原発性肝癌追跡調査報告」によると腫瘤形成型が70.5%、胆管浸潤型が11.0%、胆管内発育型が2.8%でした。ここからはそれぞれの画像診断の特徴などを解説します。専門的な内容が含まれているので読み飛ばしてもこの後の内容の理解には支障はありません。

腫瘤形成型は肝内胆管がんの中で最も多いタイプです。画像上では周囲との境目がはっきりとしていることを特徴としています。造影CT検査では早期相では辺縁が染まりリング状に見えます。また造影剤注入から時間の経過とともに造影効果が強くなる特徴があります。

胆管浸潤型は、できる場所によって診断が難しい場合があります。肝門という肝臓に入っていく血管(門脈、肝動脈)や胆管(肝管)が集まる場所にできた場合は比較的診断しやすいですが、末梢の胆管にできた場合は診断が難しいことがあります。

胆管浸潤型は他のタイプと違い肝臓の実質に浸潤する傾向があります。典型的な場合は木の枝のような形をとることがあります。浸潤傾向が強いので画像診断した場合より広い範囲にがんが及んでいることがあります。

胆管内発育型は胆管上皮から胆管の中に育っていくことを特徴としています。腫瘤形成型や胆管浸潤型に比べると悪性度が低いと考えられています。

肝内胆管がんは診断とともにステージを決めることも大事になります。いくつかの検査を使ってステージなどを決めます。

超音波検査エコー検査)は超音波を利用した検査です。放射線は使用しません。お腹にプローブという機械を当てると、プローブの下にある体の中の様子を観察することができます。

超音波検査では肝臓にあるがんの状態や閉塞のために拡張した胆管を確認することができます。また繰り返して検査ができるので手術後にも使うことがあり様々な場面で登場します。

CT検査はレントゲンと同じX線を使った検査です。肝内胆管がんでは肝臓にある腫瘍を撮影することができます。典型的な場合は肝細胞がんと違う特徴をもった腫瘍を確認することができるので肝細胞がんと区別するのには適した検査です。

造影剤を使ったダイナミックCTという方法が大事です。造影剤は腎臓の機能が低下している場合には使用できないことがあります。その場合には他の検査の所見などを組み合わせて診断します。

MRI検査は、磁気を利用する画像検査です。放射線を使うことはありません。MRI検査の中でも胆道の流れを映し出すMRCPが肝内胆管がんの診断には有用です。肝内胆管がんができて胆管の流れの妨げになると胆管が拡張するなどの所見が確認できることがあります。

胆管に造影剤を注入して胆道の形をレントゲンを利用して観察します。内視鏡から造影剤を注入することで直接胆管を造影します。MRCPではっきりと病気の部分を確認できないときなどに行われます。黄疸などが強く内視鏡的な減黄術が必要な場合には減黄と同時にすることができるので用いられることがあります。

PTCは肝臓越しに肝内胆管に直接針を刺してそこからチューブを挿入します。チューブから造影剤を注入して胆道の形を確認します。

胆道を内視鏡で直接観察します。内視鏡は胆道鏡を使用します。あまり多く用いられる検査ではありませんが直接腫瘍の状況を確認できることが利点です。

病理検査は病変の一部などを直接顕微鏡で観察してがんがあるかどうかを判断します。直接体の一部をみるのでがんがあると判断された場合にはその信頼性はかなり高いです。肝内胆管がんでの病理検査は主に2つの方法があります。

1つはERC(内視鏡的胆道造影)などで胆管の造影などをするときに胆汁を体の外に取り出す方法です。胆汁の中にもがんの細胞が含まれるていることがあり、悪性と判断することができます。

もう1つは体の外から病変に直接針を刺して組織を取り出す方法です。

病理検査はいずれの方法を選んだとしても体への負担がつきものです。このために画像所見で肝内胆管がんと明らかな場合には病理検査をせずに診断することも多いです。

肝内胆管がん腫瘍マーカーにはCA19-9とCEAがあります。一方で肝細胞がんの腫瘍マーカーはAFP、AFPL3分画、PIVKA-IIの3つです。がんの性質が異なるためにそれぞれで腫瘍マーカーが異なります。ここでは肝内胆管がんの腫瘍マーカーであるCA19-9、CEAについて解説します。

基準値:37IU/ml以下

CA19-9は胆管がんの腫瘍マーカーとして知られています。CA19-9は膵臓がん胃がん肺がんなどでも上昇することがあります。

CA19-9はがん以外の病気でも上昇します。がん以外の病気では膵炎、慢性胃炎、腎嚢胞(じんのうほう)などの良性の病気でもCA19-9が上昇することが知られています。

また、がんでも進行するまでは基準値を上回らないこともあります。「第19回 全国原発性肝癌追跡調査報告」によると肝内胆管がんと診断された人のうち36.0%が基準値を下回っていました。がんかどうかをふるい分ける検査(スクリーニング検査)には向かないと考えられています。

基準値:5.0ng/ml以下

CEAは胆管がんの腫瘍マーカーとしても使われます。他のがんでは大腸がん胃がん肺がんなどでもCEAが上昇することがあります。CEAはがん以外の病気でも上昇します。がん以外の病気では肝炎、肺炎糖尿病などの良性の病気でもCEAが上昇することが知られています。喫煙するだけでもCEAが上昇します。

また、がんでも進行するまでは基準値を上回らないことも多いです。「第19回 全国原発性肝癌追跡調査報告」によると肝内胆管がんと診断された人のうち63.7%が基準値を下回っていました。がんかどうかをふるい分ける検査(スクリーニング検査)には向かないと考えられています。

肝臓に腫瘍があると言われて腫瘍マーカーが高いと医師から説明を受けるとそれだけで「自分はがんなのか?」と強い疑いを持ってしまうと思います。しかし「がん」ではないこともあります。例えその後の検査で「がん」ではなかったと言われても不安は残ると思います。

腫瘍マーカーは絶対ではないので「がん」がないのに腫瘍マーカーが上昇することもあります。これを偽陽性(ぎようせい)といいます。逆に腫瘍マーカーが上昇していなくて「がん」が潜んでいることもあります。これを偽陰性(ぎいんせい)といいます。

腫瘍マーカーは数値で目にするためにほかの検査より直感的に理解しやすく、その分だけ記憶にもよく残るものです。しかし、ほかの検査よりも信頼できるとは決して言えません。腫瘍マーカーは絶対的な数値ではないことを憶えておいてください。

肝内胆管がんは治療が難しいがんの一つです。現在のところ手術が最も効果があると考えられています。

手術ではがんのできた場所を正常な部分に腫瘍がくるまれた状態で切り取り摘出します。

肝細胞がんではリンパ節を取り除くリンパ節郭清(かくせい)をすることはまれですが、肝内胆管がんではリンパ節郭清を行います。リンパ節郭清とはがんが転移しやすいリンパ節を摘出することです。肝細胞がんと違い肝内胆管がんはリンパ節に転移をすることが多いので郭清による効果が期待できます。

肝内胆管がんは肝細胞がんに比べてリンパ節や他の臓器に転移しやすいことが知られています。そのために診断時に転移があったり、治療後に遠隔転移が確認されることがあります。遠隔転移に対しては抗がん剤による治療が適していると考えられています。遠隔転移がある場合は、他の場所にもまだ目に見えない小さながん細胞が転移していると考えられます。このため全身をカバーできる抗がん剤治療がもっとも適しています。

図:肝臓のクイノー分類。

肝内胆管がんは肝臓の中にある肝内胆管の上皮から発生したがんです。がんを取り除くには肝臓を切り取る必要があります。肝臓を切り取る手術を肝切除術と言います。

肝切除術にはいくつか種類がありますが、肝内胆管がんに対しては葉切除を選択することが多いです。葉切除は肝臓の左右どちらか半分を切除する方法が多く用いられます。右側を切除する手術を右葉切除、左側の肝臓を切除する手術を左葉切除といいます。

さらに広い範囲で切除が必要と考えられる場合には拡大葉切除術という方法が検討されます。手術後に残る肝機能を推定してもっとも適した手術の方法が選ばれます。「第22回 全国原発性肝癌追跡調査」では肝臓の半分以上を切除する手術(葉切除、3区域切除)が選ばれた人は64.4%でした。

隠れたリンパ節転移を逃さず取り除くために、リンパ節郭清を行います。リンパ節郭清はむやみにリンパ節を取るのではなく、取るべき場所を決めて行っています。

多くの臓器には所属リンパ節と言うものがあります。臓器から流れ出したリンパ液が最初にたどり着くリンパ節が所属リンパ節です。

がんのリンパ節転移は、がん細胞がリンパ液に乗って流れていくことで始まります。リンパ液はリンパ管という管を通ってリンパ節に到達します。がんが広がっていくときにリンパ管を破壊してリンパ管の中にがん細胞が入ります。がんがリンパ管に入り込むことをリンパ管侵襲と言います。リンパ管の中に入ったがん細胞はリンパ液と一緒に流れていきます。リンパ節はいわばリンパ液の関所の役目を担っています。がん細胞がリンパ液に乗って流れてくると、リンパ節で食い止められます。がん細胞がリンパ節に定着して増殖している状態がリンパ節転移です。

肝内胆管がんの手術ではかなり大きく肝臓を切除しなければならないことも想定されます。がんの手術は切り取る範囲が大きいほどその効果は高いと考えられます。肝内胆管がんの手術では肝臓を切除してがんを取り出します。しかし肝臓を切除しすぎると肝臓の機能が保てなくなることもありえます。肝臓の機能が保てない状態を肝不全といいます。肝不全は命に危険が及ぶこともあります。

そのために手術の前に肝臓を大きくする治療をすることがあります。肝臓を大きくするには門脈という血管に塞栓物資(詰め物)を注入して血流を止めます。

例えば手術で右側の肝臓を切除する肝臓右葉切除を予定したとします。右側の肝臓は手術で切除してしまうので残す必要がありません。そこで右側の肝臓を栄養する右の門脈の血流を止めてしまいます。血流がなくなった右葉は小さくなります。その分左葉が大きくなります。左葉が大きくなる分、手術後の肝臓の機能が増加し、手術後の肝不全が起きる危険性が減少し、手術による安全性が向上するとも考えられています。経皮経肝門脈塞栓療法(PTPE)の効果は治療後1ヵ月程度ででてくると考えられています。

経皮的肝門脈塞栓療法と同じ効果を狙うもう1つの方法として、経回結腸静脈門脈塞栓療法(TIPE:Transileocolic portal embolizataion)があります。カテーテルを使った方法です。

肝内胆管がんの手術は肝臓を切除する肝切除です。肝臓を切除する手術は大がかりな手術です。その分だけ注意が必要な合併症もいくつかあります。合併症とは手術によって発生する症状や病気のことです。手術が上手くいってもある程度の確率で合併症が起きてしまうことがあります。

手術では肝臓を切り進んでがんを正常な肝臓の部分と共に摘出します。肝臓は血の塊に例えられる臓器です。肝臓には無数の血管が張り巡らされています。血管の中には糸のように細いものもあります。手術では細い血管を丁寧に糸で縛ったり、止血用の道具で止血をしながら切り進んでいきます。手術中には出血量が多くなり時として輸血が必要になります。

手術中だけでなく手術の後に出血することもあります。手術は止血が十分であることを確認して終了します。しかしながら手術の後にじわじわと出血してくることもあります。出血の程度がひどくなければ様子をみることもあります。出血の程度が重大と考えられる場合にはカテーテル治療や再手術をして止血をすることもあります。

肝不全は肝臓が十分機能しなくなることです。肝内胆管がんでは時として広範囲の肝臓を切除しなければならないこともあります。

手術の前には手術後の肝臓の機能を推定して臨みますが手術後に思ったより肝臓の機能が落ち込んでしまうことがあります。肝動脈に血の塊(血栓)ができてしまうことが原因のこともあります。肝臓の機能の落ち込みが大きい場合には黄疸、脳症(意識障害)、腹水などの症状が現れることがあります。このような状態を肝不全といいます。肝不全が実際に起こることはまれと考えられていますが、もし肝不全になれば命に影響を及ぼすことがあります。

肝臓は血管とともに胆管が張り巡らされています。胆管には胆汁という液体が流れます。胆汁は食べ物の吸収を助けたり、ビリルビンという物質の排泄などをする役割を担っています。

手術では肝臓を切ってがんを取り出します。胆管も血管と同様に糸で縛ったりして手術後に胆汁が肝臓を切った面(切離面)から出ないようにします。出血がないのを確認するのと同様に切離面から胆汁が漏れ出ないことを確認して手術は終えます。手術の後にそのときにはわからなかった胆汁の漏れが見つかることがあります。これを胆汁漏(たんじゅうろう)といいます。

胆汁はアルカリ性の液体です。胆汁が漏れ続けるのは体にとってよいことではありません。胆汁漏の量をみてそのまま経過をみることが可能なのか、再手術が必要なのか、他の治療が必要なのかを検討します。

腹腔内とはお腹の中のスペースです。腹腔内膿瘍はお腹の中にの溜まりができることです。手術後数日後にみつかることもあります。腹腔内膿瘍ができると発熱の原因になったりします。膿の溜まりが大きいときには、膿の溜りに体の外から針を指して膿を体の外にだします。同時に抗菌薬を投与して感染を抑え込みます。

創部(そうぶ)は手術で切った傷のことです。肝内胆管がんの手術はお腹を切開します。手術中は抗菌薬(抗生物質)を使用して感染の予防に努めています。それでも手術後は免疫力が弱まっていることがあります。創部についた細菌が増殖して感染を起こすことがあります。

創部に感染が起こると、傷を開けたりして膿を体の外に出す必要があります。膿を出すために早めに皮膚の抜糸をすることがあります。創部感染は手術後の経過で体調が回復して栄養状態が改善されれば傷口に肉が盛り上がってきてやがて傷が閉じます。創部感染は、患者さんから見やすい場所で起きる合併症なので心配になることもあると思いますが、一日一日、少しずつよくなっていきます。

腹部の手術後には一定の確率で腸が動かなくなる腸閉塞という合併症が発生します。腸閉塞にはいくつかに分類されます。

  • 機能性腸閉塞(きのうせいちょうへいそく)

  • 機械性腸閉塞(きかいせいちょうへいそく)

手術の後によく起こるのは麻痺性腸閉塞です。手術による影響が腸管に及び、腸が動きを止めてしまうことが原因になります。一番気を付けなければならない腸閉塞は絞扼性腸閉塞です。絞扼性腸閉塞とは腸が捻(ねじ)れて腸への血流がなくなり腸が壊死する危険な状態です。この2つの腸閉塞を手術後に見分けることが重要です。腸閉塞は早期に対応する必要があります。このために手術後、医師は腹部の診察を繰り返し、適宜レントゲン撮影などを行います。

腸閉塞(麻痺性、閉塞性)の治療として以下のことを行います。

  • 食事を一度やめてみる  

  • 経鼻胃管、またはイレウスチューブの挿入

  • 脱水を予防するために点滴を行う

  • 消化管の動きを良くする薬の内服や点滴

麻痺性腸閉塞や閉塞性腸閉塞では、腸を安静にするために食事を一時中止します。飲水は許可されることもありますが、腸閉塞になると脱水になりやすいので十分な点滴を行い、後述する経鼻胃管やイレウスチューブを鼻から胃や腸まで挿入して腸液を身体の外に出して腸管の負担を軽減します。他には消化管の動きをよくする漢方薬(大建中湯)などを飲んで腸の動きが良くなるのを待ちます。

図:経鼻胃管(NGチューブ)。

経鼻胃管は細長いチューブです。鼻から入れて胃まで挿入し、溜まった胃液を体の外に出します。経鼻胃管のことをNGチューブ(nasogastric tube)という施設もあります。

イレウスチューブは経鼻胃管より長いもので先端が胃の先の腸まで到達することができます。

漢方薬の大建中湯は消化管運動を改善する効果を期待して使われることがあります。大建中湯は乾姜(カンキョウ:生姜の根茎を乾燥したもの)、人参(ニンジン)、山椒(サンショウ)という3種類の生薬から構成されます。3種類とも食品などとしても比較的身近なものです。大建中湯は、一般的には「お腹や手足が冷えて腹痛、吐き気、腹部膨満感などがある」ような状態に適するとされています。大建中湯は腸管血流量の増加作用や抗炎症作用などをあらわし、術後の腸閉塞腸閉塞による腹痛、膨満感などの改善に対して有用とされています。また神経伝達物質セロトニン系への作用、消化管ホルモンであるモチリンの分泌促進作用、知覚神経への作用などによって腸管収縮などを促すことで開腹手術の後に生じる消化管運動障害を改善する効果が期待できるとされています。

肝臓は右上腹部にある臓器です。腹部の臓器では胸に近い位置にあります。肝臓の手術の影響が胸にまで影響して胸に水が溜まることがあります。特に右胸に水が溜まることが多いです。手術で肝臓の右側を剥がしてくる操作などが影響していると考えられています。手術後の胸水は時間とともに少なくなっていきます。胸水が多い場合には呼吸に影響する可能性があるので胸に針を刺して胸水を抜く場合があります。

参考:日本消化器外科学会誌 1993;26:51-55

手術後にお腹に水が溜まることがあります。お腹に溜まる水を腹水といいます。手術後の腹水は肝臓の機能が低下していることなどを原因として起こります。肝臓を切り取ると肝臓の機能が低下します。腹水が溜まるとお腹が張って苦しく感じるかもしれません。

腹水は手術後に体の状態がよくなるにしたがって減っていきます。溜まっている腹水を尿として出すために利尿剤を使用することもあります。腹水の量があまりにも多いときにはお腹に針を刺して腹水を直接抜いたりもします。

深部静脈血栓症(しんぶじょうみゃくけっせんしょう)とは、足などの静脈の中に血栓ができることです。血栓とは血の塊のことです。

同じ姿勢で長時間過ごすと足などの血液の流れが滞り、血栓ができやすくなることが知られています。手術中や手術後は患者さんの姿勢が変わらないことが多いので血栓ができやすいです。飛行機などで同じ姿勢を継続することで血栓ができるエコノミークラス症候群も同じ現象です。

血栓ができるだけでは大きな問題にならないこともあります。しかし血液の塊が体を流れていくと、肺の血管に詰まる肺塞栓症(はいそくせんしょう)やそれに伴い肺が壊死してしまう肺梗塞(はいこうそく)を起こし、致死的な状態に陥ることがあります。深部静脈血栓症を予防するために施設によっては血液を固まりにくくする薬を使用したり、機械を使い足を持続的にマッサージすることもあります。手術後には許可の出ている範囲内で体を動かすことが大事です。

せん妄譫妄、せんもう)とは、軽度から中等度の意識混濁に幻覚、妄想、興奮などの様々な精神症状を伴うものとされています。たとえば下記のような症状が現れます。

  • 話しかけても反応が通常より悪い

  • 見えないものが見えるとの発言がある

  • 妄想をしていると思われる発言が繰り返される

  • 異常に興奮している

せん妄は高齢者に起こりやすく、血液中の電解質のバランスが崩れることも原因です。環境の問題としては手術などで身体にストレスが加わり環境が大きく変わることも原因のです。

せん妄には薬物療法に効果があります。あまりにもせん妄の状態が重度で患者さんや身の回りの人の身体に危険が及ぶと判断されたときには、やむをえず身動きができないようにすることがあります。これは手術後でドレーンなどの管が身体に入っているのを抜いたりすることを予防するためです。

せん妄は一時的なことが多く、身体の回復に伴い改善することが多いですが、頻繁にせん妄状態に陥るときには精神科の医師によって専門的な治療が開始されることがあります。

肝内胆管がんの抗がん剤治療には胆道がんで使う薬剤を使います。主に下記の治療法があります。

  • GC療法

  • S-1療法

同じ肝臓にできるがんでも、肝細胞がんと肝内胆管がんでは抗がん剤の種類が全く異なります。肝細胞がんに関しては「肝臓がんに抗がん剤は効く?」を参考にしてください。

抗がん剤治療を行う際に「レジメン」という言葉を耳にするかもしれません。レジメンとは使用する抗がん剤の種類や投与する量、期間、手順などを時間の流れで表した計画表のことです。抗がん剤のレジメンは臨床試験などを経て効果が確認されたものです。

標準的なレジメンをいつでも厳守しないといけないわけではありません。副作用が出た場合など、患者さんの状態に合わせて調整しながら治療が続けられます。

GC療法はゲムシタビン(略号:GEM)とシスプラチン(略号:CDDP)の2種類による抗がん剤治療です。2つの薬剤の略号の頭文字を合わせてGC療法と呼ばれることもあります。GC療法は、ゲムシタビン単独療法と比較して生存期間の延長などが確認されています。

1 8 21

ゲムシタビン  1000mg/m2

 

   

シスプラチン   25mg/m2

 

   

上記のスケジュールを3週間(21日)を1サイクルとして繰り返していきます。

この他に副作用対策として一般的に 5-HT3受容体拮抗薬(吐き気止め) 副腎皮質ホルモンなどが併用されます。また治療中は抗がん剤の効果、副作用、腎臓などの機能や骨髄機能などを画像検査や血液検査で確認します。画像検査ではCT検査などが用いられます。CT検査では転移している部位の大きさの変化や新しい病変が出てこないかなどを確認します。新しい病変が出てきた場合はがんが進行していると判断されます。

GC療法の効果を調べた臨床試験を紹介します。

局所で進行したまたは遠隔転移のある胆道がんの人に対して、GC療法と、それまでよく使われていたゲムシタビン単独療法が比較されました。対象者をランダムにGC療法、ゲムシタビン療法の2つのグループに分けて治療がされました。評価の項目は生存期間、進行までの期間、治療による副作用です。

 

GC療法

ゲムシタビン単独療法

生存期間

11.7ヵ月

8.1ヵ月

進行までの期間

8.0ヵ月

5.0ヵ月

結果は上の表に示した通りになりました。表の数字は中央値です。ここでいう中央値は生存期間を長かった順に並べたときにちょうど真ん中に当たる数値です。

GC療法が生存期間、進行までの期間でゲムシタビン単独療法より長いことが確認されました。この結果から胆道がんに対する抗がん剤治療はGC療法が第一選択として考えられています。

参考:N Eng J Med.2010;362:1273-81

S-1は内服薬(飲み薬)です。成分名で言うとテガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤です。S-1の一剤による抗がん剤治療で効果が確かめられています。S-1は肝内胆管がん胆道がん)のほかにも膵臓がん大腸がんなどの治療で用いられることがあります。

通常「28日連日服用後、14日間休薬」を1サイクルとし、1サイクルを繰り返して使います。

1-28

29-42

S-1 80mg/m2

◯(連日服用)

休薬

用量は通常、体表面積によって変更されます。体表面積1.25m2未満の人であれば80mg/日、1.25〜1.5m2であれば100mg/日、1.5m2以上であれば120mg/日となります。全身の状態などによっても増減が考慮されます。副作用にはやや注意が必要で、下痢が多い人には特に注意するべきと考えられます。

ゲムシタビン単独療法で進行が見られた胆道がんに対してS-1療法の効果が確かめられました。この試験に参加した人のうち64%が手術後に再発をした人です。

S-1療法の結果は全生存期間の中央値が13.5ヵ月、病気が進行するまでの期間の中央値が5.4ヵ月でした。中央値は、順位でちょうど真ん中に当たる値です。

重い副作用としては、好中球の減少(5%)、貧血(5%)が認められました。その他の副作用としては吐き気(27%)、食思不振(55%)、顔、爪などへの色素沈着(32%)が報告されました。

この結果からS-1療法は胆道がんの2つ目の抗がん剤などとして使われることがあります。

参考:Invest New Drugs.2012;30:708-13

肝内胆管がんで効果の確認されている抗がん剤は多くはありません。ここでは肝内胆管がんの治療で用いる抗がん剤の特徴などについて解説します。

ゲムシタビンは、細胞分裂に必要なDNA合成の過程を阻害し、がん細胞の増殖を抑える代謝拮抗薬(たいしゃきっこうやく)という種類に分類される抗がん剤です。

ゲムシタビンは細胞内で代謝された後、DNA鎖に取り込まれることで細胞の自滅(アポトーシス)を誘発させる作用などによって抗腫瘍効果をあらわします。

肝内胆管がんでは主にシスプラチンとの併用によるGC療法のレジメンで使われたり、ゲムシタビン単独で使われることがあります。他にも非小細胞肺がん膵がん卵巣がん膀胱がん乳がんといった多くのがんに保険適用を持つ抗がん剤です。

注意すべき副作用に骨髄抑制、間質性肺炎、吐き気や食欲不振などの消化器症状、肝機能障害などがあります。また発熱は特に初回の治療後に出現しやすいとされ、感染症にかかっている可能性なども考慮し、発熱があらわれた場合は自己判断せずに医師などの指示に従い適切に対処することも大切です。

シスプラチン(商品名:ランダ®、ブリプラチン®など)は、化学構造中にプラチナ(白金:Pt)を含むことからプラチナ製剤という種類に分類される抗がん剤です。細胞増殖に必要な遺伝情報を持つDNAに結合することでDNA複製を阻害し、がん細胞の分裂を止め、がん細胞の自滅(アポトーシス)を誘導することで抗腫瘍効果をあらわします。

胃がん治療でS-1(テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤)との併用によるCS療法(またはSP療法)、カペシタビン及びトラスツズマブとの併用療法、フルオロウラシル及びトラスツズマブとの併用療法などが行われています。

シスプラチンは多くのがん化学療法のレジメン(がん治療における薬剤の種類や量、期間、手順などの計画書)で使われる薬剤です。胆管がん以外にも肺がん胃がん食道がん子宮頸がん乳がん膀胱がん、など色々ながん治療に対して承認されています。

シスプラチンの注意すべき副作用に腎障害(急性腎障害など)、過敏症、骨髄抑制、末梢神経障害、消化器障害、血栓塞栓症、低マグネシウム血症などがあります。その他、難聴・耳鳴り、しゃっくりなどがあらわれることもあります。

また治療中に水分を摂る量が減ると腎障害の悪化などがおこる可能性があります。医師から治療中の具体的な水分摂取量が指示された場合はしっかりと守ることも大切です。

S-1はテガフール、ギメラシル、オテラシルカリウムという3種類の成分からできている配合剤です。商品名としてはティーエスワン®などがあります。

中心となるのはテガフールです。テガフールは体内でフルオロウラシル(5-FU)という成分に徐々に変換され抗腫瘍効果をあらわします。テガフールのように体内で代謝を受けることで薬効をあらわす薬のことを一般的にプロドラッグと呼びます。

5-FUは細胞増殖に必要なDNAの合成を障害する作用やRNAの機能障害を引き起こすことでがん細胞の自滅(アポトーシス)を誘導させる代謝拮抗薬(ピリミジン拮抗薬)という種類の抗がん剤です。

テガフール以外の2種類の成分はテガフールを補助する役割を果たします。

ギメラシルは5-FUを分解するDPD(dihydropyrimidine dehydrogenase)の活性を阻害することで5-FUの血中濃度を高めて抗腫瘍効果を増強する役割を果たします。オテラシルカリウムは5-FUの主な副作用である消化器症状(消化管粘膜障害)を軽減する作用をあらわします。

S-1は胃がんの抗がん剤として1999年に承認されました。胆管がん以外では頭頸部がん、大腸がん肺がん(非小細胞肺がん)、乳がん膵がんといったがんに対しても承認されています。

S-1による治療は休薬期間を設ける場合も多く、胆管がんでは「28日間服用後、14日間休薬」されることが多いです。処方医や薬剤師から服薬方法などをしっかりと聞いておくことも大切です。

S-1の副作用として、オテラシルカリウムによって負担が軽減されているとはいえ食欲不振、吐き気、下痢、口内炎などの消化器症状には注意が必要です。他に骨髄抑制、肝機能障害、間質性肺炎などにも注意が必要です。

また、皮膚や爪などが黒くなる色素沈着や流涙(涙管が狭まり涙があふれ出る)といった症状があらわれる場合もあります。

S-1は内服薬(飲み薬)ですが、嚥下機能の状態などによりカプセル(ティーエスワン®配合カプセルなど)が飲み込みにくい場合には口腔内崩壊錠(ティーエスワン®配合OD錠)や顆粒剤(ティーエスワン®配合顆粒)といった剤形の変更も可能です。

肝内胆管がんに対して「免疫療法」の効果が科学的に証明されたことは現在のところありません。

免疫療法について説明する前に標準治療について説明します。標準治療は言葉の響きからは「平凡な治療」、「並の治療」という印象を受けるかもしれません。実際はそうではありません。標準治療は科学的な検証を経て最も治療効果が高いと考えられる治療のことです。効果がはっきりしているものは多くの人に推奨できるので「標準」になるということです。肝内胆管がんの標準治療は遠隔転移がない場合には手術、遠隔転移がある場合は抗がん剤治療です。肝内胆管がんを根治できる可能性がある治療は、手術になります。抗がん剤治療の目的は余命の延長です。

世の中にはあたかも標準治療を上回るような言い回しで宣伝をする治療法がいくつも存在します。その中には「何千例を治療しました」と謳う治療法もありますがそれにには疑問を抱かざるを得ません。本当に優れた治療があるのならば、すでに標準治療として普及しているはずです。

自らの免疫力を高めて治療効果を発揮すると宣伝している「免疫療法」はその代表です。現在のところ肝内胆管がんに対して効果があることを科学的に証明された免疫療法は存在しません。もちろん今後、肝内胆管がんに効果のある免疫療法が登場してくる可能性はあると思います。そのときにはこの治療は標準治療なのかということを確認することを忘れないようにしてください。

肝内胆管がんのように治療の難しい病気では今、よく使われている治療の効果がなかったり効果がなくなったりすることもしばしば見られます。その際には医師から臨床試験に参加することを提案されるかもしれません。臨床試験は診断や治療などあらゆる場面で行われています。ここでは臨床試験について抗がん剤を例にとって説明します。

臨床試験は、抗がん剤の効果や副作用を、実際に患者さんの治療に使うことで確かめる試験です。新しい治療の効果が認められるには臨床試験が必要です。特に新しい薬の開発のために、まだ保険で承認されていない薬を試す臨床試験は治験(ちけん)とも言います。

新しい治療は効果が試されない段階では使うことはできません。もし新しい薬を使ってみたいと思うならば臨床試験に参加することは一つの選択肢です。

臨床試験には簡単に参加することはできません。臨床試験ができる健康状態などが条件になるほか、限られた施設でしか実施していないからです。もし興味があるならば主治医に相談して紹介してもらうことも一つの手段かもしれません。

ただし、臨床試験では必ずしも効果のある治療が受けられる訳ではないことなどについてもしっかりと考えることが大事です。

臨床試験で試される治療は、「有効かもしれないが無効かもしれない、害のほうが大きいかもしれない」という段階のものです。有効な治療に出会えて効果が得られる可能性もありますが、逆の可能性もあります。

標準治療で効果が得られなかった場合などに、「使える治療がなくなった」と感じて臨床試験に望みを託したい気持ちになるのは間違っていません。しかし、代わりに緩和治療に重点を置くなどして生活を充実させるよう努めるといった選択肢もあります。

医師から臨床試験を提案されたとしても、もちろん断る権利はあります。不確かでも新しい可能性にチャレンジしようと思うか、より見通しの立てやすい方法の中で希望を叶えようと思うかは個人や家族などの価値観によって違うでしょう。治療の中で何を目指そうと思うか、望んだ結果が得られる見込みはどの程度なのかをよく考えて選んでください。

診療ガイドラインは、治療にあたり妥当な選択肢を示すことや、治療成績と安全性の向上などを目的に作成されています。肝内胆管がんにも診療ガイドラインがあります。肝内胆管がんでは抗がん剤の選択などでは胆道がんガイドラインが用いられます。胆道がんでは、日本肝胆膵外科学会が作成した「胆道癌診療ガイドライン」があります。

外国にもいくつかのガイドラインがあります。ガイドラインがいくつも存在するのは理由があります。国ごとに病院に行くときの環境などが違うことや、使うことのできる薬剤の違いなどが考慮されています。

医学は日々進歩を遂げているので、ガイドラインは数年に1回のペースで中身が更新されています。ガイドラインにはまだ反映されていない情報がすでに一般的な治療として認知され実践されていることも珍しくはありません。ガイドラインは医師が治療を進めていく上で役立ちますが、厳密にガイドライン通りの治療が一番正しいわけではありません。実際にはその時々、患者さんの状態はひとりひとり異なることを考えに入れて治療します。