かんぞうがん
肝臓がん
肝臓にできた悪性腫瘍のこと
1人の医師がチェック 71回の改訂 最終更新: 2022.10.17

肝臓がんに抗がん剤治療:ソラフェニブや肝動注療法について解説

肝臓がんに効果のある抗がん剤は限られています。ソラフェニブという分子標的薬が肝臓がんに効果があることが知られています。ソラフェニブ以外では肝臓がんを栄養している肝動脈に直接抗がん剤を流し込む肝動注療法があります。 

肝臓がんに対して効果のある抗がん剤はソラフェニブ(商品名ネクサバール®)です。ソラフェニブは分子標的薬に分類されます。分子標的薬とは、体の中にある特定の物質に働きかけることで作用をあらわす薬剤の総称です。ソラフェニブは、がん細胞の増殖やがんに栄養を送る血管が作られるのを抑えて、がんの成長を妨げます。

肝臓には体にとって有害な物質を解毒する機能があります。肝臓の機能は薬剤の代謝にも関わります。薬によっては、肝臓の機能が落ちている人には毒性が強く出てしまう恐れがあります。

ソラフェニブも重度の肝機能障害がある人には注意が必要とされます。肝硬変は肝臓が肝炎ウイルスやアルコールなどで障害されて機能が落ちた状態です。肝硬変になると肝臓がんができやすくなります。肝硬変が元で肝臓がんができた人は、ソラフェニブの使用を検討する際には肝機能に十分注意するべきと考えられます。

ソラフェニブは手術、焼灼療法(RFA、PEIなど)、肝動脈化学塞栓療法(TACE)が適していない人に対して用いられます。ソラフェニブは肝臓の機能と肝臓がんの状況で適応が決まります。

ソラフェニブを使う際には肝臓に負担がかかります。肝臓の機能がどれほどあるかが大事です。肝臓の機能はChild-Pugh(チャイルド・ピュー)分類で判定されることが多いです。Child-Pugh分類は肝臓の機能をA、B、Cの3段階に分類します。Aが最も機能が良好です。ソラフェニブは肝臓の機能がChild-Pugh分類でA以外の人は副作用が懸念されます。ソラフェニブの使用は慎重になります。

肝臓がんの治療は抗がん剤以外では手術、焼灼療法、化学塞栓療法の3つが主体です。しかしそれらの治療は肝臓への負担も大きく、特に血管にがんが入り込んでいる場合には治療が難しいと判断されます。その時には抗がん剤で治療します。

  • 手術、焼灼療法、化学塞栓療法での治療が難しい場合

    • 門脈などの太い血管にがんが入り込んでいる 

    • 肝臓がんがかなり大きい 

    • リンパ節や他の臓器に転移がある

Child-Pugh分類は肝臓の機能を評価する方法です。Child-Pugh分類は、以下の5つの項目をもとに判定します。

  • 血清ビリルビン

  • 血清アルブミン

  • 腹水 

  • 精神神経症状(昏睡度) 

  • プロトロンビン活性値(%)

ビリルビンとアルブミンは血液(血清)の検査で測定します。

ビリルビンは赤血球が壊れた後にできる物質です。ビリルビンは肝臓で処理され体の外に出されます。肝臓の機能が低下している場合にはビリルビンが十分処理されなくなり体の中に溜まります。

アルブミンはたんぱく質の一種です。アルブミンは肝臓でつくられます。肝臓の機能が低下するとアルブミンをつくる勢いがなくなり体の中のアルブミンが低い値となります。

腹水はお腹の中の腹腔(ふくくう)というスペースに水が貯まることです。腹水はアルブミンが低くなると溜まります。

肝臓の機能が低下することで精神神経症状が現れます。体の中ではタンパク質を分解する時などにアンモニアが発生します。アンモニアは肝臓で処理されて尿として排泄されます。肝臓の機能が低下すると、体の中にアンモニアが溜まります。アンモニアが溜まると異常な行動をとるようになったり、意識状態が低下したりします。

プロトロンビンは血液を固める役割をもっています。プロトロンビンは肝臓でつくられるので肝臓の機能が低下するとプロトロンビンが低下します。

以下の表に基準値を示します。

  1点 2点 3点
血清ビリルビン(mg/dl) 2.0未満 2.0-3.0 3.0超え

血清アルブミン(g/dl)
3.5超 2.8-3.5 2.8 未満
腹水 ない 少量 中等量
精神神経症状(昏睡度) ない 軽度 重症
プロトロンビン活性値(%) 70超 40−70 40未満
  • A:5−6点

  • B:7-9点

  • C:10−15点

5項目を評価して合計点数で分類します。例えば7点だった場合Child-Pugh Bとなります。ソラフェニブが使える肝機能の状態はChild-Pugh Aと考えられています。

ソラフェニブの効果が確認された臨床試験の結果を紹介します。そのためにまず臨床試験や標準治療について以下で説明します。少し難しい内容です。

抗がん剤を例にとって説明します。臨床試験は、抗がん剤の効果や副作用を、実際に患者さんの治療に使うことで確かめる試験です。新しい治療の効果が認められるには臨床試験が必要です。特に新しい薬の開発のために、まだ保険で承認されていない薬を試す臨床試験は治験(ちけん)とも言います。

古い治療と新しい治療のどちらを選ぶべきかにも臨床試験が役立ちます。実際に両方の治療を試してどちらかが優れた結果を出せば、そちらを優先して使うべきかもしれません。もちろん新しい治療が優れているとは限りません。

標準治療が選ばれるまでには多くの臨床試験による情報が参考にされています。

標準治療とは、実際に多くの患者さんが治療を受けた結果に基づいて、効果があると判断された治療です。根拠とされる情報にはもちろん臨床試験も含まれますが、少数の事例の報告なども加味されます。

標準治療という名前からは「平凡な治療」ということを想像されるかもしれません。しかし決してそうではありません。標準治療とは、過去に知られた情報を積み重ねた結果に基づくものなので、最も確実で安全な治療と言い換えることもできます。

つまり標準治療でない治療は、標準治療よりも何かの点で効果と安全性の証拠が弱いと言えます。たとえば「最新治療」は「最も優れた治療」という意味ではありません。最新治療として始まった治療が多くの人に使われ、実際に効果と安全性を示し続けることによって、標準治療に取り込まれるかどうかが決まっていきます。「先進医療」という用語もありますが、先進医療も同様に、誰にでも勧められるものではありません。

これ以降はソラフェニブの効果が確かめられた臨床試験の結果について解説します。SHARP(シャープ)試験という名前の臨床試験でソラフェニブが試されました。

SHARP試験は、進行した肝臓がんの患者さんが対象になった試験です。患者さんは2つのグループに分けられ、ソラフェニブを飲むグループと、プラセボ(有効成分のない偽薬)を飲むグループとされました。

SHARP試験で効果判定には生存期間、症状の進行、画像での病変の進行と薬の安全性が基準とされました。

 

ソラフェニブのグループ

偽薬のグループ

生存期間

10.7ヵ月

7.9ヵ月

画像診断による病変の進行までの期間

5.5ヵ月

2.8ヵ月

上の表の値は全て中央値です。中央値とは、順位でちょうど半分に当たる人の値のことです。生存期間、画像診断による病変の進行までの期間では2つのグループに差があるという結果でした。

この試験で見られた副作用は、下痢、体重減少、手足症候群、低リン血症などでした。この試験に参加した患者さんの肝臓の機能はChild-Pugh分類でAの人がほとんどでした。肝障害度がより進んでいる人々に対しての効果は確かめられてはいません。このためにソラフェニブはChild-Pugh分類Aの肝臓の機能がある人が使用することが望ましいと考えられています。

参照:N Eng J Med.2008;359:378-390
 

ソラフェニブの作用の仕組みや副作用などについて詳しく説明します。

ソラフェニブは細胞増殖や腫瘍進行などに関わるCRAF(C-Raf)、BRAF(B-Raf)、ELT-3、c-KIT、RETなどの活性を阻害することで細胞増殖のシグナル伝達系に対して阻害作用をあらわします。また、がん細胞の増殖には酸素や栄養などを運ぶ血管が新たに作られる(血管新生が行われる)必要があります。ソラフェニブは血管新生に関与するVEGFR(血管内皮増殖因子受容体)やPDGFR(血小板由来成長因子受容体)の活性を阻害することで血管新生を阻害します。

このようにソラフェニブは腫瘍細胞における細胞増殖のシグナル伝達を阻害することや血管新生を阻害することで抗腫瘍効果をあらわします。特定分子の情報伝達を阻害することから分子標的薬という種類に分類されます。

ソラフェニブは2008年に腎がん(切除不能又は転移性腎細胞がん)の治療薬として承認を受け、2009年に肝がん(切除不能な肝細胞がん)の治療薬としても承認されました。その他、甲状腺がんの治療薬としても承認されています。

ソラフェニブ(商品名:ネクサバール®錠 200 mg)は通常、1 回400 mg(2錠分)を1 日2 回(1日量として800 mg(計4錠))服用します。基本的に服用するタイミングは食事の有無に関わらず決まった時間とします(ただし、担当医から「食前1時間」や「食後2時間」などの指示があった場合はその指示にしたがって下さい)。

安全性などに問題がない場合は、同じ服用量の内服を継続していきます。副作用の状態などによっては減量(又は休薬)の指示が出される場合もあります。例えば、1日の服用量を400mg(計2錠)へ減量したり、1回400mg(計2錠)を隔日投与(1日おきに服用)する、などの指示が出される場合が考えられます。

服用量や服用方法の変更、服用の中止などは、医師が患者個々の状態を診察して決定します。自己判断での中止や用量変更は危険なので避けてください。もしも気になる症状や心配なことがある場合、また薬を飲み忘れたり飲む量を間違えた時なども担当医に連絡・相談してください。

グレープフルーツジュースは、薬の効き目を強めてしまう恐れがあります。薬の効き目が強く出ると副作用が強くなることがあります。服用期間中は原則として摂取を避けて下さい。また、セントジョンズワート(セイヨウオトギリソウ)を含む食品(サプリメントなどを含む)は、薬の効き目を弱めてしまう可能性があるため原則として摂取を避けて下さい。

高脂肪食(1食当たり約900〜1000kcalで脂肪含有量が50〜60%)を摂取した後で本剤を服

用した場合、薬の効き目に影響があらわれる可能性があります。一般的に高脂肪食を摂取時

の服用は食前1時間〜食後2時間の服用を避けることが無難とされています。

一般的な日本食であれば高脂肪食となる可能性は少ないのですが、洋食や脂肪分が多いデ

ザートなどを食べた場合には注意が必要となります。

■手足症候群や皮膚症状

手や足底に皮疹が出て、赤く腫れたり、皮膚がむけたり、痛みを伴うことがあります。その他、脱毛、皮疹、掻痒症、色素沈着などの皮膚症状があらわれる場合もあります。

これらの症状が現れたら、できるだけ刺激を与えないようにすることが大切です。洗いものの際に熱いお湯を使用したり長時間の入浴、刺激が強い石鹸などの使用、窮屈な靴を履いたり長時間の歩行などは皮膚へ刺激を与える要因となるため避けることが無難です。

また患部を清潔に保つようにし、保湿(例えば、保湿クリームを使用する)などにより症状を軽減または予防する事が大切です。

■高血圧(高血圧クリーゼ

副作用によって血圧が上がることがあります。(服用開始から6週頃までは特に注意が必要とされています)

重症の場合は心筋梗塞などの深刻な状態を引き起こす可能性もあるため、治療中は定期的に血圧を測定します。多くの場合は、高血圧になっても降圧薬を併用するなど適切に対処することでソラフェニブの治療を続けることができます。

■出血傾向

出血傾向とは、出血しやすくなったり、出血が止まりにくくなったりすることです。ソラフェニブの副作用としては主に血小板が減少することが原因で出血傾向が現れます。歯茎からの出血や鼻血、便に血が付くなどで気付くことがあります。怪我に注意することも大切です。またワルファリンカリウム(主な商品名:ワーファリン®)などの血液が固まるのを抑える薬(抗凝固薬など)による治療を行っている場合は出血傾向が増量する可能性もあるため、事前に医師や薬剤師にその旨を話しておくことが大切です。

■消化器症状

下痢、食欲不振、吐き気、嘔吐、腹痛などが現れる場合があります。消化器症状がある時の食事は特に少しずつゆっくり食べ、熱いものや辛いものなど刺激の強いものはできるだけ避けてください。また嘔吐や腹痛などの症状が激しい場合は、放置せず主治医に連絡してください。

■疲労感などの全身症状

疲れやだるさなどを感じる事があります。多くの場合、休薬をはさむことなどによって改善されます。

■肝機能障害

ソラフェニブは主に肝臓で代謝されることによって体からなくなっていくため、肝胆道系に障害が現れることがあります。肝細胞がんの治療でソラフェニブを使う場合においても肝機能障害が現れることは考えられます。ソラフェニブ使用中の疲れやだるさ、食欲不振、吐き気、黄疸、痒みなどは肝機能低下のシグナルである可能性があり、これらの症状がみられる場合は放置せず、医師や薬剤師へ連絡してください。

■膵機能低下

ソラフェニブは膵臓に影響する場合もあります。膵機能低下によって胃のあたりがムカムカする、食欲がないなどの症状が現れることがあります。臨床試験では膵臓の機能低下を検査値で評価した結果、リパーゼ上昇やアミラーゼ上昇などが報告されています。

骨髄抑制/感染症

血液をつくっている骨髄に薬が影響することで、赤血球、白血球、血小板が少なくなります。中でも白血球(好中球)が少なくなると病原菌に対する体の免疫力が弱くなり、感染症を引き起こしやすくなります。日頃から手洗い・うがいなどを心がけるなど感染症に対しての対策が重要です。発熱や咳などがあらわれた場合は重症になる可能性もあるため自己判断せず、早めに医師や薬剤師に連絡するなど適切に対処してください。

■呼吸器症状

嗄声(しわがれ声)が現れる場合があります。特に声を使う職種に就いている人は事前に医師からしっかりと説明を聞いておくことが大切です。

また呼吸器症状としては咳、息苦しさなどが現れる場合があります。頻度はまれとされていますが間質性肺炎などが現れる可能性もあり、咳や息苦しさ、発熱などの症状が続く場合は放置せず、医師や薬剤師に連絡してください。

■創傷治癒遅延

ソラフェニブの抗腫瘍効果をあらわす仕組みのひとつに、血管が新しく作られる過程を阻害する(血管新生を阻害する)作用があります。傷などは治っていく過程で血管を新たに作ることで治癒していきます。血管新生阻害が起きるのは腫瘍だけではなく、傷にも影響するので通常、手術後や出血性潰瘍などがみられる場合のソラフェニブの使用は傷の治癒状態などを十分考慮した上でおこないます。

レゴラフェニブはソラフェニブに効果のなくなった人に対して効果を示した分子標的薬です。効果が確かめられた臨床試験では、ソラフェニブを使って効果のなくなった人が対象になりました。試験の結果ではがんが大きくなったり新しい場所に転移しなかった期間(無増悪生存期間)、生存期間の両方がプラセボに比べてレゴラフェニブの方が長いという結果でした。プラセボは比較のために使う有効成分のない薬で偽薬といわれることもあります。レゴラフェニブは日本でも2017年6月からソラフェニブに効果のなくなった人に対して保険での使用が可能になりました。また、胃がん肺がんに使われるラムシルマブが、抗がん剤治療後に悪化し手術ができない人(血清AFP値が400ng/ml以上)の治療に使えるようになりました。
また、その後にいくつかの治療薬が登場しており、現在は下記のように治療が行われます。
【肝細胞がんの治療薬】

  • 1次治療薬
    • ネクサバール(ソラフェニブ®)
    • レンバチニブ(レンビマ®)
    • アトゾリズマブ(テセントリンク®)+べバスチン(アバスチン®)
  • 2次治療薬
    • ラムシルマブ(サイラムザ®)
    • レゴラフェニブ(スチバーガ®)
    • カボザンチニブ(カボメティックス®)

1次治療とはまず最初に治療をする際に選ばれるもので、1次治療薬に効果がなくなった場合にはその次の治療として2次治療薬の中から薬剤が選ばれます。どの薬を使うかについては患者さんの

肝動脈注入化学療法とは抗がん剤を直接肝動脈に注入する治療法です。似た治療に肝動脈化学塞栓療法(TACE)があります。

肝動脈注入化学療法はソラフェニブと同様に手術、焼灼療法、肝動脈化学塞栓療法が勧められない人に対して使われます。

  • 肝臓の機能が保たれている(Child-Pugh分類でA)

  • 門脈などの太い血管にがんが入り込んでいる 

特に門脈にがんが入り込んで蓋をしている状態(門脈腫瘍塞栓)に対しても有効であるという意見があります。抗がん剤は肝動脈に直接流れ込むので全身に与える影響も少ないと考えられています。

肝動脈注入化学療法のやり方は2通りあります。リザーバーというものを体に留置する方法と、そのつどカテーテルを挿入する方法です。

リザーバーは肝動脈まで達したカテーテルのための投与口です。カテーテルの先端を肝動脈まで進めていき良い場所で固定します。カテーテルは管になっているのでもう一方の先端から抗がん剤を流し込むと管の中を抗がん剤が通って肝動脈に流れ込みます。肝動脈の先端と反対側の先端を体に埋め込むことで簡単に治療ができるようにします。埋め込むものをリザーバーといいます。リザーバーは足の付根に埋め込まれることが多いです。リザーバーは何回でも使えます。リザーバーがあれば抗がん剤治療のたびにカテーテル治療を受ける手間を省くことができます。

もう1つのやり方は一回一回、カテーテル治療をして抗がん剤を肝動脈に送り込む方法です。単回動注(単回肝動脈注入化学療法)などとよぶこともあります。肝機能が悪くて持続的に肝動脈注入療法ができない場合が想定されるときには単回動注も選択肢にあがります。

参照:

日本IVR学会リザーバー研究会

肝動脈注入化学療法は日本では何十年も前から行われている治療です。肝動脈注入化学療法は、門脈という太い血管にがんが入り込んで血管を塞ぐような状態になっている場合や、肝機能が低下していて手術、焼灼療法、肝動脈塞栓化学療法などができない人に対しても選択できる点は利点です。治療できる人が幅広いです。

肝動脈注入化学療法の利点は他にもあります。抗がん剤を肝動脈に直接流し込むので肝臓がんに対してダイレクトに効果を与えることができるので抗がん剤を全身に投与するより高い効果が期待できます。また抗がん剤は肝臓で代謝されるので、肝臓に抗がん剤を流し込むと肝臓がんに対して影響を与えた後、すぐに代謝されます。そのために全身に与える影響はすくないのが良い点と考えられています。

肝動脈注入化学療法の効果は長年の経験で高いものがあると考えられています。しかしながら他の治療に比べてどの程度よいのかがまだはっきりとはしていません。このために肝動脈注入化学療法の位置付けは手術、焼灼療法、肝動脈化学塞栓療法、分子標的薬(ソラフェニブ)が使えない人が対象になっているところがあります。

肝動脈注入化学療法の薬剤はシスプラチンと5-FUが中心となります。シスプラチンと5-FUについて解説します。

化学構造中にプラチナ(白金:Pt)を含むことからプラチナ製剤という種類に分類される抗がん剤です。細胞増殖に必要な遺伝情報を持つDNAに結合することでDNA複製を阻害し、がん細胞の分裂を止め、がん細胞の自滅(アポトーシス)を誘導することで抗腫瘍効果をあらわします。

肝がん(肝細胞がん)の肝動注化学療法(HAIC:Hepatic Arterial Infusion Chemotherapy)においては、シスプラチンを(抗がん剤として)単独で使う治療法(CDDP単独動注)やフルオロウラシル(5-FU)との併用療法(Low dose FP)などで使われることが考えられます。

シスプラチンは多くのがん化学療法のレジメン(がん治療における薬剤の種類や量、期間、手順などの計画書)で使われる薬剤で、肝がん(肝細胞がん)以外にも肺がん食道がん子宮頸がん乳がん胃がん膀胱がんなど色々ながん治療に対して承認されています。

注意すべき副作用に腎障害(急性腎障害など)、過敏症、骨髄抑制、末梢神経障害、消化器障害、血栓塞栓症、低マグネシウム血症などがあります。その他、難聴・耳鳴り、しゃっくりなどがあらわれることもあります。シスプラチンの動注化学療法ではチオ硫酸ナトリウム(商品名:デトキソール®)という中和剤を静脈から投与することで全身的な副作用を軽減する方法も考慮されています。

なお、治療中に水分を摂る量が減ると腎障害の増悪などがおこる可能性があります。医師から治療中の具体的な水分摂取量が指示された場合はしっかりと守ることも大切です。

がん細胞の代謝を阻害しがん細胞を死滅させる 代謝拮抗薬(ピリミジン拮抗薬) という種類に分類されます。もう少し詳しく作用の仕組みをみていくと、細胞増殖に必要なDNAの合成を障害する作用やRNAの機能障害を引き起こすことでがん細胞の自滅(アポトーシス)を誘導する作用があります。

単剤(抗がん剤として単独)で使うこともありますが多くの場合、他の抗がん剤もしくは5-FUの効果を増強する薬剤(主に活性型葉酸製剤)との併用により使われます。

肝がん(肝細胞がん)の肝動注化学療法(HAIC:Hepatic Arterial Infusion Chemotherapy)においてはプラチナ製剤であるシスプラチンとの併用療法(Low dose FP)やインターフェロン(IFN)製剤との併用療法などで使われることが考えられます。

肝がん以外にも大腸がん(FOLFOX療法、FOLFIRI療法など)、乳がん(CEF療法など)、胃がんでのシスプラチン及びトラスツズマブとの併用療法など、多くのがん化学療法のレジメン(がん治療における薬剤の種類や量、期間、手順などの計画書)で使われている薬剤の一つです。

5-FUで注意すべき副作用は吐き気や下痢、食欲不振などの消化器症状、骨髄抑制、うっ血性心不全、口腔粘膜障害、手足症候群などです。他の抗がん剤との併用療法ではこれら5-FU自体の副作用に加え、併用する抗がん剤の副作用が加わることが考えられます。この他、5-FUは亜鉛の吸収を悪くするため味覚障害があらわれる場合があり、食欲不振と合わせて注意したい副作用です。

また5-FUは主に肝臓にあるDPD(dihydropyrimidine dehydrogenase)という酵素によって代謝されますが、肝機能障害が高度である場合などではこの酵素の活性に影響が現れる可能性も考えられ、5-FUの効果や副作用などに影響が出る可能性も考えられます。