かんぞうがん
肝臓がん
肝臓にできた悪性腫瘍のこと
1人の医師がチェック 71回の改訂 最終更新: 2022.10.17

肝臓がんの症状:初期症状から進行した場合の症状を解説

肝臓がんの初期には症状はないことが多いです。進行すると痛みなどの症状がでます。また肝臓がんは慢性肝炎や肝硬変を背景として発生するので肝臓の機能が低下したことを原因とする症状も現れます。 

肝臓がんはかなり進行するまで症状を現すことは少ないです。肝臓がんが進行するとがんが大きくなって右の脇腹やみぞおちの辺りが痛くなることがあります。

肝臓がんはかなり進行するまで症状があまり出ません。症状から肝臓がんを疑うのは難しいと思います。

肝臓がんと診断されている場合は少しの症状の変化も気になることがあると思います。症状の原因は肝臓がんのこともあればそうでないこともあります。かゆみと腰痛という症状について考えてみます。

かゆみの原因の一つに黄疸(おうだん)があります。黄疸は肝臓の機能が低下することでおきます。黄疸とは皮膚や眼球結膜(しろ眼の部分)が黄色く染まる状態のことです。原因は、ビリルビンという物質が血液内で多くなることです。体が黄色くなることやかゆみ以外にも下記のような症状があります。

  • 体がだるく感じる(全身倦怠感、疲労感)

  • 風邪のような症状

  • 微熱

  • 尿の色が濃くなる

黄疸の原因はやや複雑です。黄疸についてやや専門的な内容を説明します。

黄疸は血液中のビリルビンの濃度が高くなることで起こります。ビリルビンは赤血球が壊れてできる物質です。ビリルビンは肝臓で処理されることで体の外に出されます。肝臓でビリルビンはグルクロン酸という物質とくっつきます。グルクロン酸抱合(ほうごう)と言います。グルクロン酸抱合によって、ビリルビンは水に溶けやすい状態になり、効率的に排泄されます。

グルクロン酸抱合は肝臓で行われます。肝臓の機能が低下している場合にはビリルビンの処理が追い付かず血液中にビリルビンがたまってしまいます。すなわち、肝臓の機能が低下することは黄疸の原因のひとつです。

ビリルビンの発生量が増えたときにも黄疸になることがあります。肝臓は肝硬変を背景に発生します。肝硬変が起きると血液の流れにも影響して脾臓への血流が増加します。脾臓は赤血球を破壊する臓器です。脾臓への血流が多くなると脾臓の機能がましてその分赤血球が多く破壊されてしまいます。これら2つの要因で肝硬変の人には黄疸が起きやすくその症状の一つとしてかゆみがでます。

しかし、かゆみがあるから黄疸だとは言えません。かゆみの原因はほかにもたくさんあります。

黄疸の多くの症状がでている場合は別ですが、体がかゆいからといって「肝臓がんになったか」と考えるのは早計かもしれません。かゆみが収まらずに持続するときには医療機関を受診して原因を調べることをお勧めします。

黄疸による症状はかゆみが主体になります。肝臓がんで黄疸が出るときには肝臓の機能も低下していることが多いです。肝臓の機能が低下すると体がむくみやすくなります。むくみ(浮腫)があると皮膚は薄く乾燥しやすくなり、かゆみをさらに助長します。

皮膚に傷がつくとかゆみは増強するのでとにかく引っかかないことが大事です。

  • 体の水分を保つ(保湿)

    • ローションなどを使用する 

    • かゆみは蒸れたり、乾燥したりすると強くなるので、適度な温度と湿度を保つ

  • 爪を短くしておく

以上のような工夫が有効と考えられます。個人個人でかゆみに対して有効な方法も異なるので、自分にあった方法を探してみてください。

がんで腰痛が症状としてでるのは骨に転移をした場合などです。肝臓がんは骨に転移をしやすいかというとそうではありません。肝臓がんはかなり進行するまでは遠隔転移(肝臓以外の場所への転移)をしにくいことでも知られています。つまり骨転移を原因とする腰痛で肝臓がんが見つかることは多くはないと考えられます。

腰痛の原因となる病気の例として以下のものが考えられます。

  • 泌尿器科の病気

    • 水腎症(すいじんしょう)

    • 尿管結石(にょうかんけっせき)

    • 腎盂腎炎(じんうじんえん)

  • 消化器内科の病気

    • 膵炎(すいえん)

    • 胆嚢炎(たんのうえん)

  • 循環器内科の病気

すでに肝臓がんと診断されていて、腰痛が出てきた場合には骨転移の可能性もあるので、主治医に相談してみることが大事です。

肝臓がん以外にも腰痛の原因にはさまざまな可能性があります。原因を探ることで早期に手を打つことができたり、逆に心配ないことがわかって安心できたりもします。しっかりとした原因追求の姿勢が重要です。

肝臓がんの初期には症状があることはほとんどありません。肝臓がんが進行して大きくなると症状が現れることがあります。

  • 痛み

    • 右の脇腹の痛み:右季肋部痛(みぎきろくぶつう)

    • みぞおちの痛み:心窩部痛(しんかぶつう)

  • 食欲不振

  • 全身倦怠感

  • 浮腫(ふしゅ、むくみ)

  • 腹水(ふくすい)

肝臓は体の右側の上腹部にある臓器です。肝臓がんが大きくなると右の上腹部を中心に痛みを自覚することがあります。

加えて肝臓がんは肝硬変を背景にして発生します。もともとの肝臓の機能が低下しているところに肝臓がんが大きくなって、機能できる肝臓が少なくなりさらに機能が低下することで肝不全の症状が現れます。肝不全の症状には浮腫、腹水、全身倦怠感、食欲不振などの症状があり、これらの症状にはがんの影響もあります。

肝臓がんが進行するとどの症状が肝臓がんによるもので、どれが肝不全によるものかの区別が難しくなります。現れる症状に対して適切な治療をしていくことが大事です。

肝臓がんで痛みが出る場合として、肝臓がんが骨に転移をしたり肝臓がんが大きくなって肝臓の周りの膜が引き伸ばされて痛む場合が考えられます。

  • 骨転移による痛み

  • 肝臓がんが大きくなることによる痛み

肝臓がんが骨に転移することは多くはありませんが、かなり進行した状態ではありえます。骨への転移に対しては、放射線療法やオピオイド鎮痛薬などを使うことで症状の緩和が期待できます。

肝臓の周りには薄い膜があります。この膜を被膜(ひまく)といいます。被膜が引き延ばされると痛みを感じます。肝臓がんが大きくなり、大きくなるのを抑える治療が難しくなった時には肝臓の被膜が伸ばされて痛みが出ます。痛みの状態としては鈍い痛みが持続する感じがすると表現されます。

急な腹痛は肝臓がんが破裂した可能性もあります。肝臓がんの特徴として破裂することが挙げられます。破裂する割合は肝臓がん全体の0.6%ほどとされています。

肝臓がんの痛みに対しては、鎮痛薬を使用して症状を抑えます。NASIDsやアセトアミノフェンなどの一般的な鎮痛薬も使用可能です。痛みが強いなどで効果が不十分な時はモルヒネなどのオピオイド鎮痛薬が有効です。モルヒネは肝臓の機能が落ちているときなどは慎重に使わなければならない場合もあります。そのときの状況で最も適した鎮痛剤を選択していきます。

肝臓がんが進行すると肝臓の機能が落ちて全身倦怠感などともに食欲も低下していきます。がんが体中に広がった悪液質(あくえきしつ)という状態が原因になることもあります。

  • 進行した肝臓がんによる悪液質 

  • 肝臓の機能低下による食欲不振

食欲不振を改善することは難しいです。食欲不振が続くと体の中の栄養が減ってきて腹水などの症状がでることがあります。

治療薬の副作用で食欲不振になる場合もあります。肝臓がんによる痛みに対してオピオイド鎮痛薬を使うことがあります。オピオイド鎮痛薬の副作用のひとつが便秘です。腹水や便秘は食欲不振を増す材料になります。

食欲不振を大きく改善するのは難しいですが、食事の内容を工夫するなどが助けになることもあります。食欲がわかない場合に試すこととして知られている例を挙げます。

  • 餅、おはぎなど、もち米を利用したものは少しでもエネルギーは大きい

  • 香辛料が苦にならないならば香辛料を多めにしてみる

  • 目の前に少しずつ出していくことも良い

吐き気がある場合は、冷たいものやあっさりしたものなら食べやすいという人もいます。

  • 水分の多い野菜や果物

  • プリン、ゼリー

  • シャーベット

  • 麺類

無理に食事を取る必要はありません。食事を取らなければならないと考えすぎるのも辛いものです。苦痛にならない範囲で少しずつでもいいので、食事を取れるような工夫をしてみてください。

肝臓がんが進行すると全身倦怠感が症状として現れます。がんが進行すると悪液質という状態を引き起こします。悪液質は様々な症状の原因になりますが、全身倦怠感もその一つです。また肝不全によっても全身倦怠感は起きるので肝臓がんと肝不全の両方が原因にもなります。

がんが体へ影響していても、気持ちをリラックスできるようなものを身の周りに調えることでだるい感じが紛れるかもしれません。

家族や周りの人は、少しでも患者さんが過ごしやすいような環境をつくることも大事です。

浮腫とは体のむくみのことです。がんが進行すると身体から栄養が減っていきます。栄養が減っていくとアルブミンというたんぱく質も減少していきます。アルブミンの役割の一つに血管の中の水分を血管の中に留めておく役割があります。つまりアルブミンが減少すると血管の中の水分が出ていくことになります。血管の中から出ていった水分はお腹の中にたまったり、足がむくむ原因になります。栄養状態の低下以外でも、リンパ管が閉塞することによって浮腫が生じることもあります。

浮腫が強くなると痛みの原因になることがあります。痛みがひどくなれば鎮痛剤などで対応することになります。

腹水はお腹の中の腹腔(ふくくう)というスペースに溜まった水のことです。腹水の原因はいくつかあります。体の中のアルブミンが減ったりすることも原因の一つです。アルブミン減少は肝臓が悪くなることとがんが進行することの両方が原因になります。他には肝硬変によって血液の流れが悪くなることも原因の一つです。流れが悪くなることで、肝臓に血液を送る門脈の圧力が上がり、腹水が溜まることにもつながります。

肝臓がんの脳転移は多いとは言えません。

脳転移による症状は、転移がある場所によって大きく違います。症状の例を挙げます。

  • 頭痛

  • 嘔吐

  • 体の動かしにくさ(麻痺)

  • 痙攣(けいれん)

がんは時間の経過とともに体の中で大きくなっていきます。脳転移があると、転移したがんが大きくなるに従って脳が影響されて上記のような症状が出現します。

治療として、抗がん剤は脳の転移している部位まで届かないのであまり効果が期待できません。症状を和らげる目的で放射線治療ステロイドなどの薬物治療を行います。

肝臓がんのうち、サイズが大きく肝臓の表面から突出している腫瘍は破裂することがあります。肝臓がんは血管が多いので破裂するとお腹の中で大量出血をしてしまい命に危険が及びます。一方、肝臓がんの破裂はそれほど多く起こるわけではありません。「第22回 全国原発性肝癌追調査報告」によると肝臓がんと診断された人の中で肝臓がんの腹腔内破裂の割合は2.4%でした。また、肝臓がんにより死亡した人のうち、破裂が死因となった人は2.3%でした。

肝臓がんが破裂したときの症状は以下のようなものです。

  • 腹痛 

  • 嘔気・嘔吐 

  • 冷や汗

  • 頻脈(脈が速くなる)

  • 意識消失

肝臓がんの破裂はその程度により自然に収まることもあります。一方で出血量が多いと考えられる場合は緊急でカテーテル治療が必要になることもあります。カテーテル治療は出血の原因となっている血管にカテーテルを介して詰め物を送り込んで血管を塞ぎます。血管を塞ぐことで出血がとまることが期待できます。肝臓がんは小さなものでも破裂することがあります。肝臓がんの診断がされていて急に腹痛が起きたときには肝臓がんが破裂した可能性もあります。速やかに医療機関を受診して原因について調べることが大事です。

肝臓がんの末期では肝臓が機能しなくなることが多いです。肝臓がんができる人は、もともと肝臓の機能が低下している肝硬変の状態の人が半数以上を占めます。肝臓の機能が極端に低下すると肝不全の状態になります。肝不全による症状を自覚することもあります。

  • アルブミンなどが減ることによる症状

    • 腹水:お腹が張る

    • 浮腫:足がむくむ

  • 黄疸にともなう症状

    • 体がだるくなる 

    • 尿が濃くなる

    • 皮膚や結膜が黄色くなる

    • 体がかゆくなる

  • 肝性脳症

    • 意識がぼーっとしたりおかしな行動をとる

    • 眠ったような状態になる

肝臓はたんぱく質をつくったり、体にとって不要な物質を代謝する働きがあります。大事なたんぱく質の一つにアルブミンがあります。アルブミンの働きのひとつは血管の中に水分をとどめておくことです。肝不全になりアルブミンが体の中から減っていくと血管の中の水分が血管の外に出ていきます。血管の外に水分が出て行くと、腹腔というお腹の中のスペースに水が溜まったり足がむくんだりします。腹水や足の浮腫はできるだけ体の中から水分を減らすことで症状が改善することがあります。体の水分を外にだす方法として尿の量を増やすことをします。尿量を増やすには利尿剤を使いますが、効果は一時的で限られています。腹水がかなり溜まってしまった場合にはお腹に針を刺して直接腹水を抜いたりもします。腹水を抜くことで症状は一時的に良くなりますが、時間がたつとまた腹水がたまります。腹水にはたんぱく質も含まれているので抜ける量には限界もあります。

肝臓は様々な物質を代謝して尿や便とともに体の外に出せるようにしています。肝臓が機能しなくなると体にとって不要な物質が溜まっていきます。特に問題になるのがビリルビンとアンモニアです。ビリルビンは寿命を過ぎた赤血球が壊れることででる物質です。ビリルビンを体の外に出せない状況が続くと黄疸(おうだん)が現れます。

黄疸は皮膚や眼球結膜(白眼の部分)が黄色く染まる状態のことです。原因は、ビリルビンが血液内で多くなることです。見た目で黄疸と診断されるのは血液中のビリルビンがある程度上昇してからになります。初期の黄疸は、尿の色が黄色く見えたりすることがあります。黄疸では体が黄色くなる以外にも症状があります。

  • 皮膚や眼球結膜が黄色くなる
  • 体がだるく感じる(全身倦怠感、疲労感)
  • 皮膚がかゆくなる
  • 風邪のような症状
  • 微熱
  • 尿の色が黄色くなる

肝不全による黄疸を改善するのは難しいです。肝臓の機能を保護する薬などを使って治療しますが効果は限られています。

肝不全では意識状態が悪くなることもあります。アンモニアが原因です。肝不全が深刻でいわゆる末期の状態ではアンモニアが体の中に溜まっていきます。アンモニアが蓄積すると意識状態に影響し、この状態を肝性能症といいます。少し詳しく解説します。

  • 軽度の症状 

    • 時間や場所について認識できないことがある 

    • 異常な行動をとる

    • うつらうつらしているが呼びかけで起きることができる 

  • 重症の症状

    • 興奮状態や混乱した発言などをする

    • ほとんど眠っている

    • 指示に従わない、または従えない

    • 意識の消失

体の中にあるアンモニアの量が肝性脳症の程度に関係しています。たんぱく質を多く摂取すると血液中のアンモニアの量が上昇することが知られています。アンモニアの量を減らす治療が有効です。

  • たんぱく質の多い肉や魚などの摂取を少なくする

  • ラクツロースを服用したり浣腸したりする

  • 分岐鎖アミノ酸の点滴投与

  • リファキシミンの服用

たんぱく質を摂取すると血液中のアンモニアが増えるので極力たんぱく質を食べないようにします。ラクツロースは腸内の環境を酸性に傾けます。腸内を酸性に傾けることでアンモニアを産生する細菌を少なくすることができます。アミノ酸の中でも分岐鎖アミノ酸は血液中のアンモニアを減らす働きがあるので予防目的でも点滴や栄養剤として摂取します。アンモニアは腸内細菌がタンパク質を分解することでできます。腸内細菌を少なくすることでもアンモニアの量を減らすことができます。腸内細菌を減らすリファキシミン(商品名リフキシマ®)という薬もあります。

肝臓がんの症状が出るか出ないか、いつ出るかは人によって非常に多様です。このため症状から余命を読み取ることは非常に難しいです。

一人ひとりの顔が異なるように症状の出方もそれぞれで異なります。極端な例では、全く症状がなくてある日突然かなり進行した肝臓がんと診断されることもあります。つまりこんな症状やあんな症状があるから余命はあとどれだけと予測はできないとも言えます。

肝臓がんとすでに診断されていて、治療中に新たに症状が現れたとしても、必ずしもがんが進行したことを意味しません。治療中は特に症状に敏感になってしまう気持ちは理解できますが、すべての症状ががんの進行を原因としているとは限りません。実は薬の副作用による症状で、薬を替えれば症状がなくなるという可能性も考えられます。治療中には体調の変化を感じたらこまめに主治医に相談することが大切です。

一方で、肝臓がんが末期に近づくといろいろな症状が出現します。例えば腹水が溜まってお腹が膨れてきて身動きが辛くなったり、胸に水(胸水)が溜まって呼吸が苦しくなったりもします。腹水や胸水は、身体の中の栄養がかなり減っていることが原因の一部です。このため腹水や胸水が溜まる状態は一般的には良くない兆しです。

症状が重くなった時に大事なのは、正しい緩和ケアでできる限り症状を和らげることとともに、安心感のある環境を作ることです。看病をする人が無理のない範囲でできるだけ時間を共にすることも大切です。