かんぞうがん
肝臓がん
肝臓にできた悪性腫瘍のこと
1人の医師がチェック 71回の改訂 最終更新: 2022.10.17

肝臓がんの末期・ステージIV:末期の症状や過ごし方について

肝臓がんは肝硬変を背景として発生することが多いです。肝硬変とは肝臓が固くなり機能が低下している状態です。肝臓がんの末期の症状は肝硬変の症状と重なる部分が多くあります。

1. ステージIVは「末期がん」か?

ステージIVは肝臓がんのステージ分類では最も進行した段階に当たりますが、ステージIVだからといって「末期がん」とは限りません。

実は、「末期がん」には厳密な定義はありません。ステージIVと診断がされた場合、「末期がん」を思い浮かべてしまうかもしれません。しかしながらそれは正確とは言えません。

肝臓がんにおけるステージIVとは以下の場合です。肝臓がんにはステージIVにはIVAとIVBの2つがあります。

  • ステージIVA:肝臓でのがんの状態が以下の条件のいずれか一つでも満たすもの
    • 腫瘍が2cmより大きく多発しており脈管侵襲もある
    • 所属リンパ節転移がある
  • ステージIVB:肝臓から離れた場所に転移がある

いずれかに該当するのがステージIVです。ステージIVについて考えてみます。

ステージIVでは手術できない?

ステージIVでも残された治療は多くあります。肝臓の機能が手術に耐えられると判断された場合はステージIVでも手術の対象になることがあります。ステージIVと診断されてもその状態は様々です。

とはいえステージIVで手術が可能な人はそう多くはいません。「第22回 全国原発性肝癌追跡調査報告」によると、肝臓がんの手術を受けた人の中でステージIVAだった人は6.7%、ステージIVBだった人は0.9%です。わずかですが手術をすることができる人もいます。

ステージIVの生存率は?

「がんの統計2021」によると、ステージIVの5年生存率は4.5%です。このうち手術ができた人の5年生存率は16.8%でした。

生存率はほかのステージに比べると厳しい数字ですが、中にはステージIVから長期生存する人もいます。ステージIVは必ずしも末期がんを意味しません。ステージIVと告知されると誰しも大きな衝撃を受けると思います。しかし大事なのはイメージや数値にとらわれることではなく自身の状況を正面からみつめて日々の生活を大事にしていくことです。

末期がんの状態は?

では「末期がん」はどんな状態でしょうか。

最初に述べましたが末期がんには定義がありません。一般的なイメージをふまえて考えてみることにします。末期というと余命がかなり限られていることが明らかな状態だと考えられます。そこで、ここで言う「末期」は抗がん剤による治療も行えない場合、もしくは抗がん剤などの治療が効果を失っている状態で、日常生活をベッド上で過ごすような状況を指すことにします。

肝臓がんの末期は、すでにいくつかの臓器に転移があったり肝臓の機能がかなり低下している段階です。肝臓がんは肺、骨などに転移し、体に影響を及ぼします。このような状況では、以下のような症状が目立つ悪液質(カヘキシア)と呼ばれる状態が引き起こされます。

  • 常に倦怠感につきまとわれる
  • 食欲がなくなり、食べたとしても体重が減っていく
  • 身体のむくみがひどくなる
  • 意識がうとうとする

悪液質は身体の栄養ががんに奪われ、点滴で栄養を補給しても身体がうまく利用できない状態です。気持ちの面でも、思うようにならない身体に対して不安が強くなり、苦痛が増強します。

末期の症状は抗がん剤などでなくすことができません。緩和医療で症状を和らげることが重要です。また不安を少しでも取り除くために、できるだけ過ごしやすい環境を作ることも大事です。

参照:第22回 全国原発性肝癌追跡調査報告

2. 腹水が出たら末期?

腹水の程度にもよりますが肝臓がんで腹水がでるといわゆる末期に近い状態と考えられています。腹水は腹腔(ふくくう)に溜まった水分です。肝臓がんは肝硬変の状態から発生することが多いです。肝硬変は肝臓の機能がかなり低下している状態です。肝硬変の状態が進行すると腹水が溜まりやすくなります。

腹水が溜まるとお腹が張った状態で少し動くのにもかなり苦しい状態になります。お腹の張りで胃や腸が圧迫されて食欲もなくなっていき、栄養状態が悪化していきます。栄養状態が悪化すると体の中からアルブミンというたんぱく質の一種が減っていきます。アルブミンは血管内に水分を保つ働きがあります。アルブミンが減ると血管内の水分がお腹の中のスペースに出ていきます。腹水はこの悪循環で溜まり続けていきます。

腹水は利尿剤の投与などで症状が緩和されることもありますが効果は限界があります。腹水による症状が強くなればお腹に針を刺すなどして腹水を抜くことも考慮されますが、症状が緩和されるのは一時的です。腹水が目立つ段階では残された時間は多いとは言えません。

腹部が張って苦痛が増すときなどは、オピオイド鎮痛薬などを使用すると痛みが軽減することがあります。楽な体勢を見つけたり、日常の介助を求めたりすることも大事です。

3. 黄疸が出たら末期?

黄疸は皮膚や眼球結膜(白眼の部分)が黄色く染まる状態のことです。原因は、ビリルビンが血液内で多くなることです。見た目で黄疸と診断されるのは血液中のビリルビンがある程度上昇してからになります。初期の黄疸は、尿の色が黄色く見えたりすることがあります。黄疸では体が黄色くなる以外にも症状があります。

  • 皮膚や眼球結膜が黄色くなる
  • 体がだるく感じる(全身倦怠感、疲労感)
  • 皮膚がかゆくなる
  • 風邪のような症状
  • 微熱
  • 尿の色が濃くなる

肝臓がんが進行して肝不全になった状態の黄疸を改善するのは難しいです。肝臓の機能を保護する薬などを使って治療しますが効果は限られています。

4. 肝臓が悪いと血尿が出る?

血尿は尿に血が交ざることです。肝臓が悪くなっても血尿が出ることは多くはありません。血尿の原因は膀胱や腎臓の病気が多くを占めます。

肝臓の機能が低下することで血尿がでる場面を考えてみたいと思います。肝臓の機能が低下すると血液を固めるプロトロンビンなどを十分に作れなくなります。したがって出血した場合、血がとまりにくくなります。肝臓の機能が低下している原因が肝硬変の場合は血小板という血液を固める細胞も少なくなります。この状態で膀胱や腎臓に衝撃などが加わって出血がおきれば血尿がでることはありえるでしょう。

血尿ではない?

もうひとつの可能性としては、尿に血液と見間違うような色が付いているのを血尿だと思うこともありうることだと思います。肝臓の機能が低下して尿中のビリルビンが増えるとやや赤みがかってみえることもあるので、血尿だと思ってもおかしくはありません。肝臓が悪いと言われていて血尿がでるときには主治医または泌尿器科を受診して相談してみてください。血尿かどうかは尿検査ではっきりわかり、血尿だった場合は原因を調べてくれます。

血尿の原因は何がある?

肝臓の機能が低下していると言われていない状態で血尿が出た場合はまず泌尿器科を受診して血尿の原因を調べることをお勧めします。血尿には以下のような原因が考えられます。

血尿をきっかけにして見つかる病気は多くあります。自己判断をせずに速やかに医療機関を受診することが大事です。

5. 肝臓がんは破裂する?

肝臓がんは破裂することがあります。肝臓がんは血管が多いので破裂するとお腹の中で大量出血をしてしまい命に危険が及びます。肝臓がんが破裂することは多いことではありません。「第20回 全国原発性肝癌追調査報告」によると肝臓がんを診断された人のうち腹腔内破裂していた人は0.9%、肝臓がんにより死亡した人のうち破裂が死因となった人は2.6%でした。肝臓がんが破裂した場合は以下のような症状がでることがあります。

  • 腹痛 
  • 嘔気・嘔吐 
  • 冷や汗
  • 頻脈
  • 意識消失

肝臓がんの破裂はその程度により自然に収まることもありますが、出血量が多いと緊急でカテーテル治療が必要になることもあります。カテーテル治療は出血の原因となっている血管にカテーテルを介して詰め物をして血管を塞ぎます。血管を塞ぐことで出血がとまることが期待できます。肝臓がんは小さなものでも出血します。肝臓がんの診断がされていて急な腹痛などが起きたときには肝臓がんが破裂した可能性もあります。速やかに医療機関を受診することが大事です。

6. 肝臓がんの末期の余命は?

まず始めに、余命の告知は必ずしも正確ではないことに気を付けてください。

余命を告知されたときに考えてほしいことは、月並な言い方になりますが、1日1日を大事に生きることです。

がんに明確な末期という定義はありませんが、肝臓がんでは肝機能が低下して抗がん剤などの治療が行えなくなった状態がそれに近いと思います。末期と考えられる状況では何をするべきなのかを考えてみいたいと思います。

まずはご自分の病気の状態をよく知ることが大事です。確かに簡単にできることではありません。臨床医としての経験からも、肝臓がんで積極的な治療ができない状況を冷静に受け止めることの難しさは実感します。少しずつでもいいのでこれからどのように過ごせばいいのか主治医に質問してください。同じことを繰り返し尋ねることになっても遠慮する必要はありません。あらかじめ質問を紙に書いておくと答えやすいかもしれません。

がんと診断されるとつらい状況に陥ります。それは皆同じです。がんに対して魔法のような治療はないのです。がんと向き合うことは簡単ではありませんが、前向きにできることは何かを考えていくことが重要なことです。

まずは主治医からご自分の状況についてしっかりと話を聞き、家族と情報を共有し気持ちをしっかりと整えることをお勧めします。がんに向き合うことになっても一人ではありません。家族、医療者とあなたを支えてくれる人は大勢います。怖さを乗り越えるためにまず知ることから始めてみるのがいいと思います。

7. 肝臓がんの末期の治療はどうする?

がんの末期には明確な定義はありません。ここでは肝臓がんに対して積極的な治療方法ができなくなり、症状を抑える治療が主体になった時期とします。

肝臓がんの末期の治療は低下した肝臓の機能に気を配りながらすることが多いです。肝臓がんは肝硬変という状態から発生することが多いです。肝臓がんが大きくなったり、転移した先で大きくなってでてくる症状とそれに加えて肝臓の機能が落ちてくることで現れる症状についての治療もしていく必要があります。

  • 肝臓がんが大きくなることで現れる症状 
  • 肝臓の機能が低下することで現れる症状

それぞれの状況に合わせて説明します。

肝臓がんが大きくなるとどうすればいいか?

肝臓の表面には被膜という膜があり、これが引き伸ばされると痛みがでます。肝臓がんが大きくなり表面から飛び出すほど大きくなると被膜が引き伸ばされて痛みが現れます。痛みに対しては鎮痛剤などを使い、症状を和らげます。

肝臓の機能が低下するとどうすればいいか?

低下した肝臓の機能を回復することは難しいです。このために肝臓の機能をできるだけ落とさないような治療をします。治療では肝庇護剤(かんひござい)という薬を使うことがあります。

肝臓の機能が低下すると腹水という症状もでます。腹水は腹腔内に水分が溜まることです。腹腔はお腹の中のスペースです。腹腔には胃や腸が収まっています。腹水を減らすには尿の量を増やす薬(利尿剤)などを使ったりします。利尿剤の効果は限られているので腹水の量が多いときにはお腹に針を刺して腹水を抜くことがあります。

8. モルヒネは使っても大丈夫?

肝臓がんは治療中に痛みがでることがあります。このためにモルヒネなどのオピオイド鎮痛薬を使用して痛みを抑えることがあります。しかし肝臓がんの患者さんに対してどのようにモルヒネなどのオピオイド鎮痛薬を使用するかの統一した見解は今のところありません。またモルヒネは肝臓の機能が低下している状況で使うべきではない(禁忌)ともされているので肝臓の機能などを考えながら治療をしていきます。

モルヒネに似たほかのオピオイド鎮痛薬(オキシコドン、フェンタニル)が多く使われることもあります。

モルヒネは使う?オピオイド以外の痛み止めとは?

がんの痛みを抑える治療は、まずNSAIDsやアセトアミノフェンといった鎮痛薬が検討されることもあります。これらの薬は鎮痛効果に限界があるので、中等度以上の強さの痛みにはオピオイド鎮痛薬の使用が推奨されています。

オピオイドを使う状況は?

肝臓がんが全身に転移している場合にはオピオイドを使って痛みをコントロールする必要があります。多くはありませんが、肝臓がんは進行すると骨などに転移をすることがあります。骨に転移をすると痛みで生活が不自由になったりもします。

また肝臓がんが大きくなると肝臓を包んでいる被膜が引き伸ばされて痛みの原因になります。肝臓がんでオピオイドを使うのは骨転移、肝臓がんが大きくなったときの痛みです。

  • 骨転移 
  • 肝臓がんが大きくなってでる痛み

がんを原因とした痛みにはオピオイドに効果があります。

オピオイドで注意が必要な点は?

オピオイドは肝臓で代謝されます。肝臓の機能が低下した状態ではオピオイドの血液中での濃度が想定より高くなってしまうことも有り得ます。

またオピオイドに共通した副作用である便秘が起きると肝臓の機能低下を原因とした意識の障害などが起きやすくなることがあります。この意識の障害を肝性脳症といいます。

痛みを抑えることと副作用のバランスを見ながら慎重にオピオイドを使っていくことが大事なので慎重に投与量などを決めています。

参照:Palliative Care Research.2014;9:101-106

9. 肝臓がんの末期の食事はどうする?

がんの末期には明確な定義はありません。ここでは肝臓がんに対して積極的な治療方法ができなくなり、症状を抑える治療(対症療法)が主体になった時期とします。

肝臓がんの末期に適した食事は肝臓の機能が落ちていることに注意をしながら進行したがんによって消耗される体力を補うことが望まれます。

  • 肝臓の機能低下に対応する
  • がんによって奪われる栄養を補う

肝臓の機能が低下するとは?

肝臓がんはB型肝炎ウイルスC型肝炎ウイルスなどを原因とした肝炎、肝硬変を背景として発生します。肝炎や肝硬変が進行すると肝臓の機能がかなり低下して様々な問題がおきます。肝臓は食事から体を構成するタンパク質を作り出したり、体にとって害になる毒の解毒などの役割も担っています。肝臓の機能が低下すると体の中のタンパク質が減少したり、体に毒素が蓄積しやすい状態になります。

肝臓がんが進行すると症状が出る?

がんがかなり進行すると体の栄養ががんに奪われていきます。以下の症状が現れます。

腹水は、アルブミンという血管の中に水分をとどめておくのに重要なタンパク質が減少することや、肝臓に流れ込む門脈という血管の圧が肝硬変によって上昇することなどが原因と考えられています。肝硬変がかなり進行した状態で現れる腹水を改善することは難しいです。利尿剤や腹腔内に針を刺して腹水を抜くなどすると「お腹がはって苦しい」などの症状は一時的に緩和されたりしますが効果は一時的です。お腹の水を抜いても再び腹水がたまります。

肝臓の機能低下に食事で対応できる?

少しでも腹水や足の浮腫を少なくするために水分や塩分を少し控えると溜まる腹水の量が減少したり足の浮腫が改善したりして症状の緩和に役立つと考えられています。がん患者さんは末期になると食欲は落ちがちなのでどうしても水分の助けが必要になります。栄養のバランスと腹水や足の浮腫などとのバランスをとることが大事です。口の中がかわくなどの症状には飲水ではなく、うがいや口の中をスポンジで湿らせるなどの工夫で体の中に入る水分を減らすことができるかもしれません。

肝性脳症はアンモニアの血液中の濃度が上昇することでおきます。アンモニアはタンパク質の摂取量が多いと多くなります。肝性脳症が起きた場合はタンパク質を摂取する量が肝臓の機能に比べて多いのかも知れません。他に便秘なども肝性脳症が発生する危険性をあげます。まずは便秘などの解消をしてその後にタンパク質を摂取する量を決めるのがよいと思います。他には分岐鎖アミノ酸などを食事の時にたべることも血液中のアンモニア濃度の上昇を抑えることが期待できます。