[医師監修・作成]急性胃腸炎にはどんな治療をする? | MEDLEY(メドレー)
きゅうせいいちょうえん
急性胃腸炎
下痢・吐き気・腹痛などを起こす病気。食中毒やほかの患者からうつることが原因。抗生物質が効くのは一部の場合だけでほとんどは自然に治る
21人の医師がチェック 158回の改訂 最終更新: 2019.11.05

急性胃腸炎にはどんな治療をする?

急性胃腸炎になっても治療の必要が無いことは多いです。一方で、診察を受けた後に治療することがあります。どういったときに治療を受けることになるのでしょうか、また治療にはどういったものがあるのでしょうか。

1. 補液(点滴治療)

急性胃腸炎の治療において最も大切なのは補液です。急性胃腸炎で脱水が起こると非常に重症になるので、脱水を避けるために適切に補液を行うことが大切です。飲水できる場合には経口補液(水分を口から摂る)を行いますが、吐き気がひどくて飲めない場合や飲んでもすぐに下痢となって出てしまう場合には点滴で補液します。

急性胃腸炎では嘔吐や下痢が起こりやすいために、水分喪失が起こりやすいです。脱水がひどくなると、血圧が下がったり意識が朦朧としたりします。この状態まで至ると命にかかわるため脱水を疑った場合には医療機関にかかるようにして下さい。

脱水を考える状態は次のような場合です。

  • のどの渇きが強い
  • 唇が乾いている
  • 舌が乾いている
  • ぼんやりする
  • 汗が出ない
  • 血圧が低くなる
  • 脈が早くなる
  • 頭痛
  • めまいがする
  • 意識がもうろうとする

これらの症状があって水が飲めない状態は一度お医者さんに診察してもらう必要があります。

2. 薬物治療:処方薬、市販薬など

急性胃腸炎に対して薬が使われることがあります。抗菌薬が特効薬になる場合や症状の緩和が期待できる場合には薬物治療が行われます。一方で、急性胃腸炎に対して抗菌薬や下痢止め(止痢薬)を用いる場合にはかえって状態が悪くなることがあるので注意が必要です。

この章では急性胃腸炎に対する上手な薬の使い方に関して説明します。

抗菌薬(抗生剤、抗生物質)

抗菌薬は感染治療の大きな武器となる薬です。しかし、使い方を誤ると全く良いことがないばかりか、かえって状態が悪くなります。具体的には次のことを意識しなくてはなりません。

  • 細菌感染による急性胃腸炎かどうか
  • 細菌性胃腸炎であった場合に、抗菌薬を使用したほうが良いのかどうか

抗菌薬は細菌にしか効きません。ウイルスには全く効きません。実は急性胃腸炎の原因は細菌感染よりもウイルス感染の方が多いため、抗菌薬は使用しても意味が無い場合の方が多いです。また、細菌性胃腸炎の中でも抗菌薬を使用しても意味が無いものがあります。例えばO157と呼ばれる腸管出血性大腸菌感染症などはこれに当たります。そのため、急性胃腸炎に対する抗菌薬の使用は慎重に判断する必要があります。

また、抗菌薬の乱用は大きな問題となっています。耐性菌の問題や腸内細菌のバランスを乱す問題があるため、必要な場面でのみ使用するべきです。是非このページの情報を参考にして下さい。(もっと詳しく知りたい方は抗菌薬の適正使用に関するコラム抗菌薬と耐性菌の関係に関するコラムを参考にして下さい)

抗菌薬の使用によって効果の期待できる細菌性胃腸炎の主なものは次になります。

  • 腸管毒素性大腸菌による腸炎
    • レボフロキサシン(クラビット®など)
    • シプロフロキサシン(シプロキサン®など)
    • ST合剤(バクタ®など)
    • アジスロマイシン(ジスロマック®など)
  • 腸チフスパラチフス
    • シプロフロキサシン(シプロキサン®など)
    • レボフロキサシン(クラビット®など)
    • セフトリアキソン(ロセフィン®など)
    • アジスロマイシン(ジスロマック®など)
  • 赤痢
    • シプロフロキサシン(シプロキサン®など)
    • レボフロキサシン(クラビット®など)
    • ST合剤(バクタ®など)
    • アジスロマイシン(ジスロマック®など)
  • (高齢者、子ども、免疫が弱い人の)カンピロバクターによる腸炎
    • エリスロマイシン(エリスロシン®など)
    • シプロフロキサシン(シプロキサン®など)
    • ドキシサイクリン(ビブラマイシン®など)
  • コレラ
    • ドキシサイクリン(ビブラマイシン®など)
    • エリスロマイシン(エリスロシン®など)
    • アジスロマイシン(ジスロマック®など)
    • シプロフロキサシン(シプロキサン®など)
  • エルシニア感染症
    • セフトリアキソン(ロセフィン®)+シプロフロキサシン(シプロキサン®)
    • セフトリアキソン(ロセフィン®)+ゲンタマイシン(ゲンタシン®など)
  • クロストリジウム・ディフィシル感染症
    • メトロニダゾール(フラジール®、アネメトロ®など)
    • バンコマイシン(塩酸バンコマイシンなど)
  • ヘリコバクター・ピロリ感染症
    • アモキシシリン(サワシリン®)+クラリスロマイシン(クラリス®)
    • アモキシシリン(サワシリン®)+メトロニダゾール(フラジール®)
    • クラリスロマイシン(クラリス®)+メトロニダゾール(フラジール®)

これ以外の感染症に対しては、場合によって抗菌薬を使用することもありますが、よほど重症であったり合併症が出現していない限り使用することはありません。安易に抗菌薬を使用すると状態が悪化することもあるため、急性胃腸炎に対して抗菌薬を使用する前に一呼吸おいて、本当に意味があるのかを確認するようにして下さい。

また、細菌性胃腸炎に対してもっと詳しく知りたい方は、「急性胃腸炎の原因は?感染性胃腸炎、薬剤性胃腸炎、異物による胃腸炎など」のページを参考にして下さい。

止瀉薬(下痢止め)

一般的に下痢止めとして使われる薬です。止瀉薬(ししゃやく)や止痢薬(しりやく)などの名称で呼ばれることもあります。

この章の消化管運動抑制剤の欄にある抗コリン薬なども下痢止めとして使われる場合がありますが、ここではその他の主な下痢止めに関していくつか挙げてみていきます。

  • タンニン酸アルブミン(タンナルビン)

タンニン酸とカゼインというタンパク質の化合物で、主に腸管内で徐々に分解され、遊離したタンニン酸が腸の粘膜の炎症面を防御する作用などをあらわすことで下痢などの症状を改善する効果が期待できます。成人だけでなく子供(小児)にも使われることがある薬ですが、成分の一部が牛乳由来のタンパク質であるため、牛乳アレルギーの体質がある場合は使用を控える必要があります。

  • ケイ酸アルミニウム(商品名:アドソルビン®など)

胃や腸管内における有害物質や過剰な水分・粘液などを吸着させ除去する作用などをあらわす止瀉薬です。金属のアルミニウムを含む薬のため、アルミニウム脳症やアルミニウム骨症などへの懸念から、透析療法を受けていたり腎障害を持っている場合には使用できない場合があります。またアルミニウムはテトラサイクリン系やニューキノロン系といった一部の抗菌薬などの吸収を低下させる可能性があり、これらの薬との飲み合わせにも注意が必要です。

  • ロペラミド(商品名:ロペミン®など)

腸の過剰な運動や腸の粘膜における水分調節を改善するロペラミドも止瀉薬として使われる薬です。ロペラミドは下痢を誘発させる消化管のアセチルコリンやプロスタグランジンといった神経伝達物質の放出を抑えることで消化管の運動を抑える作用などをあらわし、一般的に止瀉薬の中でも強い作用をあらわす薬のひとつです。

  • その他の薬剤

この他、腸内の異常発酵の抑制作用などをあらわす次硝酸ビスマス、腸管内の病原菌の増殖を抑えるなどの作用をあらわすベルベリンなども止瀉薬として使われます。また消化管の運動を抑える作用などによって下痢や胃腸機能の改善効果が期待できる生薬のゲンノショウコが使われることがあります。ゲンノショウコとベルベリンを配合した製剤(商品名:フェロベリン®配合錠など)も止瀉薬として使われています。

下痢症状に対して止瀉薬(下痢止め)、抗コリン薬やオピオイド薬などの消化管運動を抑える薬などを使う場合には「下痢の原因がなんであるか?」という問いが非常に重要です。

下痢を引き起こしている原因が感染によるものである場合、止瀉薬によって下痢を止めることで原因となっている細菌やウイルスなどが体内に留まりやすくなるため、逆に状態が悪化することもあります。

止瀉薬や消化管運動を抑える薬を下痢症状の改善目的で処方された場合は、医師の指示の下で用法・用量などを守って使用してください。症状が改善しない場合やむしろ悪化するような場合には再受診することも大切です。

整腸剤(乳酸菌などを含む製剤)

ヒトの腸内には多種多様な細菌が生息していて、それぞれの種類ごとに集団(グループ)を作っています。この集団を腸内菌叢(ちょうないきんそう)といって、その様子が植物が群生している様にみえることから腸内フローラという言葉で呼ばれたりもします。

腸内細菌は大きく善玉菌、悪玉菌、どちらにも属さない日和見菌の3つに分かれますが、このバランスが崩れる、つまりなんらかの理由で悪玉菌が優勢になり腸内環境が崩れることなどによって下痢や便秘などの消化器症状を引き起こす場合があります。

腸内環境のバランスを改善するには食事などによる方法もありますが、整腸剤によって善玉菌を補うことで改善する方法も選択肢のひとつです。

善玉菌には乳酸菌をはじめ多くの種類が存在し、その善玉菌を含む整腸剤は医療用(処方薬)としてだけでなく一般用(市販薬)としても多くの製剤が発売されていて、急性胃腸炎の症状改善に対して有用となることも考えられます。

  • ビオフェルミン

「ビオフェルミン」は医療用だけでなく市販薬としても発売されている主な整腸剤のひとつです。医療用と市販のビオフェルミンでは含まれている菌の種類や量が異なる場合があります。また医療用のビオフェルミンの中でも剤形の違いなどによって含まれている成分などに違いがあります。

散剤(粉薬)のビオフェルミン®配合散は乳酸菌であるラクトミンにこの乳酸菌の働きを助ける助ける糖化菌を含む製剤です。一方で錠剤であるビオフェルミン®錠剤は腸内で定着しやすいとされるビフィズス菌を含む製剤になっています。

医療用のビオフェルミンにはこの他、ビオフェルミン配合散の乳酸菌に抗菌薬(抗生物質)の投与下においても効果を発揮できるように耐性を付与した耐性乳酸菌製剤であるビオフェルミンR®散及びビオフェルミンR®錠もあります。(名称にある「R」は「耐性、抵抗」を意味する「Resistance」の頭文字を由来とします)

  • ラックビー

ラックビーは凍結乾燥したビフィズス菌を含む医療用製剤です。剤形に散剤(ラックビー®微粒N)と錠剤(ラックビー®錠)があり、散剤1gと錠剤1錠中にビフィズス菌を同量(10mg)含みます。ラックビー®にも抗菌薬(抗生物質)の投与下において効果を発揮できるように耐性を付与したラックビー®R散があります。

  • ビオスリー

乳酸菌であるラクトミン、酪酸菌、糖化菌といった酸素感受性の異なる3種類の菌を含む整腸剤で糖化菌が乳酸菌を、乳酸菌が酪酸菌の増殖を促進させることで整腸効果が期待できます。「医療用のビオスリー」には散剤(ビオスリー®配合散)と錠剤(ビオスリー®配合錠)があります。また2016年には口腔内崩壊錠であるビオスリー®配合OD錠も発売され、嚥下機能が低下した場合などへのメリットも考慮できます。

  • ミヤBM

一般的な乳酸菌とは異なり酪酸菌のひとつである宮入菌は強酸性下の胃液中において影響をほとんど受けないなどの性質を持っています。この宮入菌を成分とした医療用製剤がミヤBMで、散剤(ミヤBM®細粒)と錠剤(ミヤBM®錠)が使われています。

宮入菌は腸管の病原性細菌に対して拮抗作用をあらわし、食中毒や腸カタルなどの消化器疾患に対しても有用であることが確認されています。また、抗菌薬(抗生物質)や化学療法剤の投与などに伴う腸内菌叢の異常による諸症状に対しても有用とされています。

  • その他の整腸剤

この他、ビフィズス菌とラクトミンの配合製剤であるビオスミン®配合散、耐性乳酸菌製剤のエンテロノン®-R散、乳酸菌飲料などの製造・販売でもよく知られているヤクルト(ヤクルト株式会社)が製造している乳酸菌(カゼイ菌)製剤であるビオラクチス®散などが医療用の整腸剤として使われています。

吐き気止め(制吐薬)

文字通り吐き気を抑える作用をあらわす薬で、急性胃腸炎における吐き気・嘔吐などの症状改善が期待できます。

吐き気止め(制吐薬)にはいくつかの種類があります。吐き気や嘔吐を引き起こす原因は様々ですが、急性胃腸炎においては消化管の粘膜障害や消化管運動の失調などにより延髄にある嘔吐中枢に刺激が伝わることによって引き起こされることが考えられます。そのため、消化管の運動を改善したり、嘔吐中枢に作用する薬が一般的に吐き気止めとして使われています。

  • ドンペリドン(主な商品名:ナウゼリン®)

主に体内の神経伝達伝達物質ドパミンの働きを抑える(ドパミンが作用するD2受容体を遮断する)ことで制吐作用などをあらわす薬です。

胃運動や胃・十二指腸の協調運動を促進し、胃排出能を正常化することで、吐き気だけでなく、食欲不振、腹部膨満、腹痛、胸やけなどの症状の改善効果が期待できます。

ドンペリドン製剤には内服薬(錠剤、散剤)の他、坐剤(坐薬)の剤形もあり、吐き気など症状が比較的強い状態で経口投与が難しい状況においても直腸からの投与が可能であるメリットも考えられます。また散剤の中にも甘み(糖類)などが添加されたドライシロップ剤(ナウゼリン®ドライシロップなど)もあり、大人だけでなく小児(子供)に対しても使われる薬剤です。

ドンペリドンは抗ドパミン作用をあらわす薬の中でも比較的、脳などの中枢へ移行しにくい性質をもっていますが、それでも錐体外路障害などの中枢への抗ドパミン作用によって引き起こされる副作用には特に注意が必要です。急性胃腸炎ではドンペリドンを使う回数・日数はそれほど多くはならないと思いますが、慢性胃炎などにおいて中〜長期的に使用を継続する場合にはこれら副作用に対してより注意が必要になってきます。

また坐剤を使う場合には効果発現まで比較的時間がかかってしまう・・・という点に注意が必要です。内服薬(飲み薬)と同成分の坐剤の効果発現までの時間を比べた場合、一般的には坐剤の方が効果発現までの時間は速い傾向にありますが、ドンペリドンに関しては逆で坐剤の方が内服薬よりも効果発現に時間がかかるという特徴があります。(これに関してはメドレーコラム「坐薬より飲み薬の方が早く効く!?」でも紹介しています。なお、薬の効果発現には個人差が生じる場合なども考えられます)

ドンペリドンやその坐薬に限ったことではありませんが、吐き気止めなどが処方された場合には「どのくらいで薬の効果があらわれるのか?」などを医師や薬剤師からしっかり聞いておくことも大切です。

  • メトクロプラミド(主な商品名:プリンペラン®)

メトクロプラミドは体内物質ドパミンの働きを抑える抗ドパミン作用(D2受容体遮断作用)の他、吐き気などにも関わる体内の伝達物質であるセロトニンの受容体に対する作用をあらわすとされています。この作用の仕組みにより中枢性、末梢性のどちらの嘔吐に対しても制吐作用をあらわし、消化管の運動調整作用もあらわすことで、胃炎などによる吐き気、食欲不振、腹部膨満感などの改善が期待できる薬です。まためまいなどによる吐き気を抑える目的などで使われることもあります。

錠剤に加え、散剤、水剤(シロップ剤)があり小児(子供)に対しても使われる場合があります。また剤形に注射剤もあり、急性期や強い症状がある場合などにも投与できるメリットが考えられます。先ほどのドンペリドンなどの薬にも考えられることですが、中枢への抗ドパミン作用により、錐体外路障害などの副作用があらわれることが考えられるため、特に中〜長期的に使用を継続する場合などにおいては、より注意が必要となります。

  • その他

吐き気や嘔吐といった症状に対しては漢方薬が有用となる場合もあります。体内の水の停滞

などを改善する五苓散(ゴレイサン)、下痢や食欲不振、口内炎などの症状にも使われる半夏瀉心湯(ハンゲシャシントウ)などが個々の症状や体質などに合わせて使われています。(これらの漢方薬に関しては「急性胃腸炎に効果が期待できる漢方薬とは?」でも解説しています)

急性胃腸炎における吐き気とは少しケースが異なりますが、吐き気を伴う症状に使われる薬は他にもあります。以下はその一例です。

乗り物酔い動揺病)などにはジフェンヒドラミンなどの抗ヒスタミン薬という種類の薬が使われることがあります。抗ヒスタミン薬は一般的に花粉症などのアレルギー疾患の治療薬として使われる薬ですが、嘔吐中枢へ作用し、その興奮を抑えることで吐き気などを改善する効果が期待できると考えられています。一般用医薬品(市販薬)でも発売されているトラベルミン®はジフェンヒドラミンとジプロフィリンという2種類の成分が配合されていて、医療用としては一般的に乗り物酔いやメニエール症候群などによる吐き気やめまいなどに対して使われています。(一般用医薬品のトラベルミン®シリーズには上記以外の成分を含む商品もあります)

がんの化学療法による吐き気や嘔吐への治療(制吐管理)には5-HT3受容体拮抗薬NK1受容体拮抗薬といった薬が使われています。5-HT3受容体拮抗薬の中には過敏性腸症候群の治療に使われる薬(ラモセトロン(商品名:イリボー®))もあります。また、がん化学療法における制吐管理には抗精神病薬抗不安薬といった精神神経系に作用する薬も使われています。これらの薬には吐き気などに関わる神経伝達物質ドパミンの働きを抑えたり、不安などを起因とする吐き気などを抑える効果などが期待でき、抗精神病薬のハロペリドールやオランザピンなど、抗不安薬のロラゼパムやアルプラゾラムなどが有用とされています。その他、ステロイド(デキサメタゾンなどの副腎皮質ホルモン製剤)、H2受容体拮抗薬、プロトンポンプ阻害薬(PPI)などの薬と合わせて制吐管理が行われています。

急性胃腸炎に効果が期待できる漢方薬

急性胃腸炎を引き起こす要因のひとつとしてウイルス感染症や毒素型の細菌感染によるものがあります。一般的にノロウイルスやロタウイルスなどが原因となる感染性の胃腸炎に対しては補水液や制吐薬(吐き気止め)、整腸剤などが使われますが、漢方薬が有用となることも考えられます。

ここでは主に下痢などの症状を伴う急性胃腸炎に対して効果が期待できる漢方薬をいくつか挙げてみていきます。

  • 五苓散(ゴレイサン)

水滞(水毒)など体内の「水」の改善に効果が期待できる漢方薬で、下痢や吐き気などの消化器症状に対して効果が期待できる漢方薬です。

猪苓(チョレイ)、沢瀉(タクシャ)、蒼朮(ソウジュツ)、茯苓(ブクリョウ)、桂皮(ケイヒ)の5種類の生薬から構成され、名前(方剤名)の由来は種類の生薬と主薬となる猪からとったものです。(味猪苓散が詰まってできた名前とされています)

猪苓、沢瀉、蒼朮、茯苓といった生薬は水分代謝や水分貯留に関わる症状の改善が期待できるとされています。香辛料のシナモン(ニッキ)としても使われる桂皮は末梢血管拡張作用、鎮静作用、発汗解熱作用などにより頭痛や発熱に対する改善作用の他、水分代謝調節作用なども期待できる生薬とされています。

感染性胃腸炎などによって水様性の下痢や吐き気などを伴う症状に対して有用とされ、漢方薬の中でも速効性が期待できる薬のひとつです。

  • 柴苓湯(サイレイトウ)

体内の「水」の改善に使われる五散(ゴレイサン)に小胡湯(ショウサイコトウ)という漢方薬を合わせた薬で両方の方剤名から一文字ずつ取ったものが名前(方剤名)の由来です。小柴胡湯はその名前にも含まれている柴胡(サイコ)など計7種類の生薬から構成されていて気管支炎や感冒、肝機能の改善などに使われることがある漢方薬です。 

柴苓湯は急性だけでなく慢性の胃腸炎などにも効果が期待でき、熱感を伴うような症状に対して適するとされます。水様性の下痢、急性・慢性胃炎などの他、ネフローゼなどの腎疾患の治療薬としても使われる場合もあります。

  • 真武湯(シンブトウ)

新陳代謝や体力が低下している状態における全身倦怠感、下痢、腹痛などに対して効果が期待できる漢方薬です。冷えなどを改善する生薬の附子(ブシ)を含むことからも、悪寒や四肢の冷感などを伴うような下痢の症状に適するとされます。真武湯はもともと中国における四神のひとつで北方の守護である玄武の名前から玄武湯(ゲンブトウ)と呼ばれていたことがあり、北が「水」の属性をもつとされることなどからも下痢などの症状改善がイメージできる漢方薬です。

真武湯はノロウイルスなどの感染性胃腸炎に対しても有用で、体力や胃腸機能が低下している場合に使われる人参湯(ニンジントウ)と合わせて使われることも考えられます。

  • 黄連解毒湯(オウレンゲドクトウ)

比較的体力があり、のぼせ気味でいらいら傾向があるような体質や症状に適するとされ、高血圧、動悸皮膚炎などの他、胃炎や二日酔いなどの消化器症状にも効果が期待できる漢方薬です。

名前(方剤名)にある「解毒」という文字からも作用を比較的イメージしやすい漢方薬でもあります。苦みが比較的強く感じられる(個人差はあります)漢方薬のひとつですが、特に下痢の症状に合わせて排便時にヒリヒリするような感覚などがある場合に適するとされています。

  • 半夏瀉心湯(ハンゲシャシントウ)

一般的にはみぞおちにつかえがあり、吐き気や嘔吐、下痢、食欲不振がある場合などに使われる漢方薬です。急性だけでなく慢性の胃腸炎に対しても使われることがあり、感染性胃腸炎による下痢や嘔吐が治った後で吐き気や軟便などが続く症状に対しても効果が期待できるとされています。半夏瀉心湯は口内炎や二日酔い、神経性胃炎など様々な消化器症状に対して効果が期待でき、近年ではがん化学療法による口内炎や下痢に対しても使われることがあるなど、その有用性が注目されている漢方薬のひとつです。

  • その他、急性胃腸炎に効果が期待できる漢方薬

急性胃腸炎によって腹痛が強い場合には芍薬甘草湯(シャクヤクカンゾウトウ)が使われる場合があります。この漢方薬はその名前の通り芍薬(シャクヤク)と甘草(カンゾウ)の2種類の生薬から構成され、主に筋肉のけいれんや痛みに対して有用です。速効性が期待できる漢方薬でもあり、急な筋肉のけいれんを伴う痛みや関節痛、胃痛、腹痛などに対して使われています。

ウイルスなどによる感染が治った後に胃もたれや食欲不振などの消化器症状が続く場合には六君子湯(リックンシトウ)などの漢方薬が有用となることもあります。六君子湯は近年その作用の仕組みが解明されつつある漢方薬のひとつで、食欲を高めるグレリンというホルモンの働きを増強する作用や胃の機能改善作用などにより食欲低下や胃もたれといった症状に有用とされています。

他にも悪寒や節々の痛みなどを伴う症状には一般的に感冒時にもよく使われる葛根湯(カッコントウ)、水様性の下痢には五苓散(ゴレイサン)に茵蔯蒿湯(インチンコウトウ)という漢方薬を合わせた茵蔯五苓散(インチンゴレイサン)などが有用となる場合もあります。

  • 漢方薬にも副作用はある?

一般的に安全性が高いとされる漢方薬も「薬」の一つですので、副作用がおこる可能性はあります。

例えば、生薬の甘草(カンゾウ)の過剰摂取などによる偽アルドステロン症(偽性アルドステロン症)や黄芩(オウゴン)を含む漢方薬でおこる可能性がある間質性肺炎や肝障害などがあります。しかしこれらの副作用がおこる可能性は非常に稀であり、万が一あらわれても多くの場合、漢方薬を中止することで解消されます。

また漢方医学では個々の症状や体質などを「証(しょう)」という言葉であらわしますが、漢方薬自体がこの証に合っていない場合にも副作用が現れることは考えられます。

例えば、真武湯(シンブトウ)などの漢方薬に含まれる生薬の附子(ブシ)は冷えや痛みなどを改善する効果が期待できますが、強心作用などもあらわします。場合によっては動悸やのぼせなどの症状があらわれる可能性もあり、特に心疾患などを持病に持つ場合には注意が必要です。

ただし、何らかの気になる症状が現れた場合でも自己判断で薬を中止することはかえって治療の妨げになる場合もあります。もちろん非常に重い症状となれば話はまた別ですが、漢方薬を服用することによってもしも気になる症状が現れた場合は自己判断で薬を中止せず、医師や薬剤師に相談することが大切です。

胃薬(制酸薬)

胃酸は塩酸などを含む強い酸で食物などの消化や細菌の殺菌などを行っています。しかし、なんらかの原因によって胃酸が過多に分泌されると胃粘膜を傷つけたり、場合によっては胃潰瘍などの消化性潰瘍逆流性食道炎などを引き起こす要因にもなります。急性胃腸炎では胃酸過多による胃痛や胸やけなどの症状があらわれることも考えられ、胃酸の分泌を抑えたり、胃酸を中和する薬などが有用となる場合もあります。

  • H2受容体拮抗薬

胃酸分泌に関わる体内のH2受容体を阻害(ブロック)することで胃酸分泌を抑えることからH2ブロッカーと呼ばれることもある薬です。

胃潰瘍などの消化性潰瘍や逆流性食道炎など慢性疾患に対して保険承認されている薬ですが、比較的即効性があり急性胃炎慢性胃炎急性増悪期などの治療に対しても承認されています。

ファモチジン(主な商品名:ガスター®)、シメチジン(主な商品名:タガメット®)、ラニチジン(主な商品名:ザンタック)、ニザチジン(主な商品名:アシノン®)、ロキサチジン(主な商品名:アルタット®)などが使われています。H2受容体拮抗薬の多くは主に腎臓で排泄される傾向があり、腎疾患の持病を持っていたり、腎機能になんらかの異常がある場合では使用できないこともあるため注意が必要です。H2受容体拮抗薬の中でもラフチジン(主な商品名:プロテカジン®)は肝臓で代謝及び胆汁排泄される傾向があるため、腎機能になんらかの懸念がある場合でも比較的負担がかかりにくいというメリットが考えられます。

H2受容体拮抗薬は一般用医薬品(市販薬)の成分としても使われていてファモチジン(主な商品名:ガスター10)、ニザチジン(主な商品名:アシノン®Z)などが発売されています。

  • プロトンポンプ阻害薬(PPI)

体内で胃酸分泌を促進させる神経伝達物質は主にヒスタミン、アセチルコリン、ガストリンの3種類で、ファモチジン(主な商品名:ガスター®)などのH2受容体拮抗薬(通称:H2ブロッカー)はこのうちヒスタミンのH2受容体を阻害(ブロック)することで胃酸過多を改善する薬です。

一方、プロトンポンプ阻害薬(PPI:Proton Pump Inhibitor)は胃酸分泌の最終段階である

プロトンポンプ(H+,K+-ATPase)という部分を阻害するため、一般的にはH2受容体拮抗薬

よりも強い胃酸分泌抑制効果が期待できる薬になります。オメプラゾール(主な商品名:オメプラール®、オメプラゾン®)、ランソプラゾール(主な商品名:タケプロン®)、ラベプラゾール(主な商品名:パリエット®)、エソメプラゾール(商品名:ネキシウム®)といった薬が使われています。PPIはどちらかというと慢性的な疾患や症状に対して使われることが多い薬で胃潰瘍などの消化性潰瘍、逆流性食道炎抗血小板薬であるアスピリンとの併用療法などに対して保険承認されています。

強い胃酸分泌抑制作用をもち慢性的な疾患や症状に対してだけでなくピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)の除菌療法にも使用されるなど高い有用性を持つ一方で、急性胃腸炎における胃痛や胸やけなどを想定した場合の即効性という点ではH2受容体拮抗薬にやや分があるかもしれません。PPIの中でもボノプラザン(商品名:タケキャブ®)は他のPPIとは異なる作用の仕組みを持つ薬です。詳しくは割愛しますが、体内で酸による活性が必要ないなどの特徴により他のPPIに比べて早く作用があらわれるとされています。

PPIは他の薬との飲み合わせや相互作用への注意などが個々の薬ごとに少なからず異なります。処方された場合には医師や薬剤師からしっかり説明を聞いておくことも大切です。

  • 制酸薬(アルミニウムなどの制酸成分を含む製剤)

アルミニウム、マグネシウム、カルシウムなどの金属成分は胃酸を中和する制酸作用をあらわすため、これらの成分を含む製剤は胃酸過多による胃炎や胸やけなどの症状を改善する効果が期待できます。

スクラルファート(主な商品名:アルサルミン®)はその化学構造の中にアルミニウムを含み胃酸を中和すると共に胃の荒れた患部の保護や修復作用が期待できる薬です。アルミニウムは他にも水酸化アルミニウム(商品名:アルミゲル®など)などが制酸薬として使われています。

マグネシウムは一般的に下剤(緩下剤)として使われる成分ですが、制酸成分としても使われます。マグミット®などの酸化マグネシウム製剤やミルマグ®など水酸化マグネシウム製剤などが使われています。

この他、マーロックス®やマルファ®などは水酸化アルミニウムと水酸化マグネシウムの配合製剤です。この配合製剤には制酸作用の他、胃粘膜に付着することで潰瘍などの治療に対して有用となることも考えられます。

沈降炭酸カルシウムは制酸成分としてだけでなく、文字通りカルシウムを補う目的で使われることもあり、特にリンを吸着する性質を利用して腎疾患などにおける高リン血症の治療薬としても使われています。カルシウム製剤では乳酸カルシウムもカルシウム補充目的以外に消化器症状の改善のためにも使われることがあり、小児(子供)の下痢症状などにも使われています。

他の金属含有の制酸薬としては炭酸水素ナトリウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウムなどが使われています。

これらの制酸成分は健胃作用などをあらわす生薬や消化を助ける消化酵素などの成分と一緒に配合されている場合もあり、症状などに合わせて使われています。例として、金属成分と消化酵素及びウイキョウなどの生薬成分を配合したS・M配合散つくしA・M配合散など、金属成分と過剰な消化管運動などを改善する抗コリン薬を配合したコランチル®配合顆粒などが挙げられます。

アルミニウムやマグネシウムなどの金属成分を含む製剤は腎疾患などを持病に持つ場合に注意が必要で、中でも透析治療を受けている場合には原則としてアルミニウムを含む製剤は服用できないため特に注意が必要となります。

また、アルミニウムやマグネシウムなどの金属成分はテトラサイクリン系抗菌薬やニューキノロン系抗菌薬といった一部の抗菌薬などの吸収を低下させる可能性があり、飲み合わせに注意が必要となる場合もあります。金属を含む制酸成分は一般用医薬品(市販薬)にも配合されていることがあるため注意が必要です。

これらの他にも、胃酸分泌抑制作用などをあらわすピレンゼピン(主な商品名:ガストロゼピン®)、局所麻酔作用以外にも胃酸分泌抑制作用などが期待できるオキセサゼイン(主な商品名:ストロカイン®)なども胃酸過多の状態を改善することで急性胃腸炎に対して有用となる場合があります。

胃薬(防御因子増強薬)

胃の防御因子である胃粘膜を強くしたり胃粘液を増やす作用などによって急性胃炎の症状を和らげる効果が期待できます。急性胃腸炎による消化器症状に有用となる他、胃への攻撃因子である胃酸の分泌を抑える薬であるPPI(プロトンポンプ阻害薬)やH2受容体拮抗薬などと一緒に消化性潰瘍などの治療に使われる薬もあります。

防御因子増強薬は複数の薬理作用を併せ持つものが多く、中には胃酸などの攻撃因子を抑える作用を持つものもあります。ここでは主な作用ごとにいくつかの薬を挙げてみていきます。

  • 粘液産生や分泌を促進する薬

レバミピド(主な商品名:ムコスタ®)は胃粘液の産生や分泌を促進させる作用などによって防御因子を増強する薬です。急性胃炎の他、慢性胃炎の急性増悪期、潰瘍治療などに使われることもあります。またロキソプロフェンナトリウム(主な商品名:ロキソニン®)などのNSAIDsによる胃への負担軽減を目的として併用される場合も多い薬です。

テプレノン(主な商品名:セルベックス®)も胃粘液を増加する作用などによって防御因子を増強する効果が期待できる薬です。レバミピド同様、NSAIDsによる胃への負担軽減を目的として併用される場合も多い薬です。また医療用(処方薬)だけでなく、一般用医薬品(市販薬)として新セルベール®整胃(細粒、錠)などの成分としても使用されています。

  • 潰瘍などの病巣を保護する薬

胃酸を中和する制酸作用もできるスクラルファート(主な商品名:アルサルミン®)には潰瘍などの病巣を保護する作用などが期待できます。この薬は金属のアルミニウムを化学構造中に含むため、腎機能が低下している場合などには注意が必要で、特に透析治療を受けている場合には原則として使用できない薬になっています。

潰瘍などの病巣保護薬ではポラプレジンク(主な商品名:プロマック®)も使われています。この薬は化学構造中に金属の亜鉛を含むため、亜鉛不足によっておこる味覚障害などにも効果が期待できる薬です。

  • 胃の組織修復を促す薬

エカベトナトリウム(主な商品名:ガストローム®)は障害を受けた胃粘膜の保護作用やペプシン(胃粘膜などへの攻撃因子のひとつ)などによって防御因子増強作用をあらわします。また消化性潰瘍の主な原因とされるピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)に対しての作用(ウレアーゼ阻害作用を伴う殺菌作用)なども確認されています。

  • プロスタグランジン製剤

胃炎や潰瘍といった症状を引き起こす要因のひとつにアスピリンなどのNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)による胃腸障害がありますが、ミソプロストール(商品名:サイトテック®)は防御因子となるプロスタグランジン(PG)と呼ばれる体内物質を元に造られた製剤で、防御因子を増強する作用以外に胃酸分泌を抑える作用もあらわします。主にNSAIDsの投与時に引き起こされることがある消化性潰瘍などの治療に使われる薬です。本剤が持つ子宮収縮作用により流産を引き起こす懸念があるため、妊婦や妊娠している可能性がある女性には原則として使えません。

この他の防御因子増強薬としては、潰瘍などの病巣保護作用などをあらわすエグアレンナトリウム(商品名:アズロキサ®)、粘膜保護や組織修復作用などをあらわすソファルコン(主な商品名:ソロン®)、胃粘膜微小循環改善作用などをあらわすセトラキサート(主な商品名:ノイエル®)などがあります。

抗精神病薬としても使われるスルピリド(主な商品名:ドグマチール®)は胃粘膜の血流改善作用などもあらわすことで、特にストレスから生じる消化器症状などに対して効果が期待できる薬とされています。

アズレンスルホン酸ナトリウムは含嗽薬(うがい薬)のアズノール®うがい液4%などの成分して使われますが、炎症を抑え胃粘膜の修復を促す効果も期待できるためマーズレン®S配合顆粒などの胃薬の成分としても使われています。

消化管運動亢進薬・調整薬

なんらかの原因によって消化管の運動機能が低下したり胃の知覚過敏などが引き起こされると、胃もたれ、胸やけ、吐き気などの症状があらわれる場合があります。

消化管の運動は主に副交感神経の働きによって調節されていて通常、この神経が活発になることで消化管運動の亢進作用があらわれます。

そのため消化管運動の亢進薬としては、神経伝達物質アセチルコリンの作用を増強し副交感神経の働きを活発にする薬であったり、交感神経の働きを抑える抗ドパミン作用をあらわすことで結果として副交感神経を優位にする薬などが使われています。ここでは消化管運動の亢進作用や調整作用をあらわす薬をいくつか挙げてみていきます。

  • モサプリド

神経伝達物質のセロトニンの受容体(5-HT4受容体)に作用し消化管運動を亢進する作用をあらわします。モサプリドの先発医薬品である「ガスモチン®」の名前が「Gastric Motility:胃の運動」に由来することからも消化管運動の改善がイメージできます。

作用の仕組みをもう少し詳しくみていくと、セロトニンの5-HT4受容体の刺激作用により、アセチルコリン遊離を増やすことで消化管運動の促進作用や胃排出促進作用をあらわします。慢性的胃炎による胸やけや吐き気などの症状にも使われますが、比較的速やかに効果があらわれる薬で急性の消化器症状にも使われる場合があります。また胃もたれなどが慢性的に続く機能性ディスペプシアなどの改善にも効果が期待できるとされています。

  • アコチアミド

消化管運動や胃排出能の低下によって引き起こされ、胃もたれなどが慢性的に続く機能性ディスペプシアへの適応を取得した世界初の薬です。

消化管運動を亢進させる神経伝達物質アセチルコリンはアセチルコリンエステラーゼ(AChE)という酵素によって分解されます。アコチアミド(商品名:アコファイド®)はこのAChEという酵素を阻害する作用により、アセチルコリンの作用を増強し、消化管運動や胃排出能を改善する作用をあらわし、機能性ディスペプシアにおける膨満感などを改善する効果が期待できます。

  • イトプリド

自律神経系は交感神経と副交感神経によってバランスがとられていますが、イトプリド(主な商品名:ガナトン®)は交感神経のドパミン受容体への阻害作用(D2受容体拮抗作用)により、アセチルコリンの遊離を促します。またアセチルコリンを分解するアセチルコリンエステラーゼ(AChE)を阻害することで、遊離されたアセチルコリンの分解を抑える作用もあらわします。これらの協力作用により、アセチルコリンの作用を強め消化管運動の亢進作用をあらわし、膨満感や食欲不振、胸やけ、吐き気などの消化器症状の改善が期待できます。抗ドパミン作用をあらわす薬の中では比較的、錐体外路障害やプロラクチン分泌亢進による乳汁分泌や女性化乳房などの副作用は少ないとされますが注意は必要です。

その他では、抗ドパミン作用をあらわし、制吐薬(吐き気止め)としても使われるドンペリドン(主な商品名:ナウゼリン®)やメトクロプラミド(主な商品名:プリンペラン®)なども消化管運動を亢進させる効果が期待できる薬です。(ドンペリドン、メトクロプラミドに関してはこのページの「吐き気止め(制吐薬)」の欄でも解説しています)

また副交感神経の刺激作用(ムスカリン様作用)により胃腸の運動などを高めることで消化管運動亢進作用をあらわすベタネコール(商品名:ベサコリン®)やアセチルコリンの受容体に直接作用して消化管運動を亢進させるアクラトニウムナパジシル酸塩(商品名:アボビス®)などの薬もあります。

トリメブチン(主な商品名:セレキノン®)は一般的に消化管運動調律薬と呼ばれる薬です。この薬は消化管の平滑筋へ直接作用することで、消化管運動を正常に近づけ主に慢性胃炎による腹痛、吐き気、膨満感、便通異常などを改善する効果が期待できます。腸管が運動低下状態にある場合には消化管運動を亢進させ、腸管が運動亢進状態である場合には過度な消化管運動を抑える作用をあらわします。これにより便秘や下痢などの複数の症状があらわれることもある過敏性腸症候群の治療にも使われることがある薬です。

消化管運動を亢進させる薬は胃もたれや膨満感などの改善が期待できる一方で、過度な運動亢進による下痢や腹痛などの消化器症状があらわれる場合があります。また抗ドパミン作用をあらわす薬では少なからず錐体外路障害や高プロラクチン血症などへの懸念もあり注意が必要です。

消化管運動抑制剤

なんらかの理由によって消化管の運動が亢進している状態ではお腹の下りや腹痛などがあらわれる場合があります。副交感神経は神経伝達物質のアセチルコリンによって活発になりますが、これによって一般的には消化管運動も亢進するため、アセチルコリンの働きを抑える(阻害する)抗コリン作用をあらわす薬(抗コリン薬)が止瀉薬(下痢止め)や腹痛や胃腸の痙攣を抑える鎮痙薬(ちんけいやく)として使われることがあります。

また消化管の過剰な運動を抑える薬としては体内のオピオイドと呼ばれる受容体に作用する薬が使われることもあります。

  • 抗コリン薬

ロートエキスは医療用医薬品(処方薬)の他、一般用医薬品(市販薬)としても比較的よく使われている抗コリン薬です。処方薬としては主に散剤(ロートエキス散)として使われれ、市販ではストッパ下痢止めEXビオフェルミン下痢止めなどの製剤に配合されています。

ブチルスコポラミン(主な商品名:ブスコパン®)やチキジウム(主な商品名:チアトン®)なども主な抗コリン薬ですが、こちらは胃痛や腹痛などを改善する鎮痙薬としてもよく使われ、胃炎や下痢などの消化管運動亢進に伴う症状も含めて効果が期待できる薬です。

また体内に胆石や腎結石などの「石」が存在する場合、消化管運動が活発になることで強い痛みがあらわれることがありますが、ブチルスコポラミンやチキジウムなどは抗コリン作用によって過剰な消化管運動を抑えることで「石」が原因となる痛みを改善する目的で使われる場合もあります。この他、ブチルスコポラミンなどは月経困難症(月経痛)などの痛みに対して使われる場合もあります。

急性胃腸炎による消化器症状の改善にはこの他、ピレンゼピン(主な商品名:ガストロゼピン®)、ブトロピウム(商品名:コリオパン®)などの抗コリン作用をあらわす薬が使われる場合もあります。

抗コリン作用を持つ薬は副作用として口渇、便秘、眼圧上昇(散瞳)、排尿障害などがあらわれる可能性もあります。イレウスなどの既往歴があったり、持病に緑内障前立腺肥大などがある場合には特に注意が必要です。

  • オピオイド薬(オピオイド受容体に作用する薬)

オピオイド(オピオイド薬)とは一般的に体内のオピオイド受容体に作用する薬の総称です。主な薬としてモルヒネ、オキシコドン、フェンタニル、トラマドール、コデインなどがあり、モルヒネ、オキシコドン、フェンタニルなどは主にがんなどの疼痛緩和に使われています。

オピオイドの中でもコデインは鎮咳薬(咳止め)として使われることが多く、モルヒネなどのオピオイドに比べて依存性などのリスクも少ないとされていることもあり、医療用医薬品(処方薬)だけでなく、一般用医薬品(市販薬)の成分としても利用されています。

オピオイド薬には疼痛緩和作用や鎮咳作用の他、消化管の運動を抑える作用などがあり、そのため、オピオイド薬を使うと便秘などの消化器症状があらわれやすくなります。この消化管への作用を利用してコデインなどを比較的症状の激しい下痢症状の改善を目的として使う場合もあり、コデインリン酸塩などの製剤は効能・効果として保険承認もされています。

このページの止瀉薬(下痢止め)の欄や市販薬の欄でも登場するロペラミド(主な商品名:ロペミン®)もμ(ミュー)などのオピオイド受容体に作用することで止瀉作用などをあらわすとされている薬です。こちらはコデインやモルヒネなどの薬に比べて脳などの中枢への作用が非常に少なく腸管に対してより選択的に効果をあらわす特徴を持っています。

下痢症状に対して止瀉薬(下痢止め)、抗コリン薬やオピオイド薬などの消化管運動を抑える薬などを使う場合には「下痢の原因がなんであるか?」が非常に重要です。

下痢を引き起こしている原因が細菌などの感染によるものである場合、止瀉薬によって下痢を止めることにより、原因となっている細菌やウイルスなどが体内に留まりやすくなることで、逆に症状の悪化や治療期間の延長をきたす可能性もあります。

止瀉薬や消化管運動を抑える薬を下痢症状の改善目的で処方された場合は基本的に医師の指示の下、用法・用量などを守って使用し、もしも症状が改善しなかったり、むしろ悪化するような場合には再受診などを考慮することも大切です。

急性胃腸炎に対して効果が期待できる市販薬

急性の胃腸炎を引き起こす要因は胃酸過多、ストレス、細菌やウイルスなどの感染、飲みすぎや食べ過ぎなど様々ですが、これらの症状に対して市販薬(一般用医薬品)が有用な場合もあります。もちろん症状が重度であったり慢性化したなどの場合には医療機関への受診が必要となりますが、比較的軽度で一時的な症状である場合には市販薬によって治療を行うことも選択肢のひとつです。ここでは急性胃腸炎に対して効果が期待できる市販薬をいくつか挙げてみていきます。

※なお、本記事に登場する薬剤に関して、株式会社メドレーは特定の製薬企業やその関係団体との利害関係はありません。

  • H2受容体拮抗薬

胃酸過多を改善する薬で胃酸分泌に関わる体内のH2受容体を阻害(ブロック)することで胃酸分泌を抑えることからH2ブロッカーと呼ばれることもある薬です。

医療用医薬品(処方薬など)から一般用医薬品(市販薬:OTC医薬品)へ、スイッチされたスイッチOTCのひとつで、ファモチジン、ラニチジン、ニザチジン、ロキサチジンなどの有効成分を含む製剤が発売されています。

「ガスター」などの名前で製剤化されているファモチジンの錠剤は医療用では10mg(1錠中にファモチジンを10mg含む)と20mgの規格があり、急性や慢性の胃炎の他、消化性潰瘍(胃潰瘍など)や逆流性食道炎などの疾患に対して承認されています。一方で市販薬(一般用医薬品)のファモチジン製剤(ガスター10®など)は1回服用量(1錠中など)にファモチジンを10mg含む製剤になっていて、その用途は一時的な胃痛、胸やけなどの症状緩和を目的としたものです。

ファモチジンの例でもわかるように、一般的に市販薬で発売されているH2受容体拮抗薬は医療用の製剤に比べ、薬の規格や1日の限度量などが低用量に設定されていたり、その用途も一時的な症状の緩和に限定されています。そのため、一般的には3日間ほど続けても症状の改善がみられない場合は消化性潰瘍など慢性的な疾患や症状である可能性もあるため、一旦服用を中止し、医師や薬剤師に相談したり医療機関への受診を考慮することが必要となります。

また一部の成分を除き、多くのH2受容体拮抗薬は主に腎臓で排泄される傾向があり、腎疾患の持病を持っていたり、腎機能になんらかの異常がある場合では使用できないこともあるため特に注意が必要です。

  • 制酸薬(アルミニウムなどの制酸成分を含む薬)

アルミニウム、マグネシウム、カルシウムなどの金属成分は胃酸を中和する制酸作用をあらわすため、これらの成分を含む製剤は胃酸過多による胃炎や胸やけなどの症状を改善する効果が期待できます。一般用医薬品(市販薬)としても多くの製剤が発売されていて、治療の選択肢になっています。

スクラルファートはその化学構造の中にアルミニウムを含み胃酸を中和すると共に胃の荒れた患部の保護や修復作用が期待でき、スクラート胃腸薬などの成分として使われています。

合成ヒドロタルサイトはアルミニウムやマグネシウムなどの化合物で制酸作用などにより胃炎などの症状改善が期待できる成分です。アスピリン(アセチルサリチル酸)などの解熱鎮痛薬(NSAIDs:非ステロイド性抗炎症薬)による消化器症状を軽減する目的で鎮痛成分と一緒に配合されていることもあります(主な製剤としてアスピリンに合成ヒドロタルサイト(ダイバッファーHT)が配合された「バファリンA」などがあります)。

マグネシウムは臨床で下剤(緩下剤)として使われる成分ですが、制酸成分としても使われます。先ほどの合成ヒドロタルサイト同様、NSAIDsの消化器症状の軽減目的でも使われ、ロキソニン®Sプラス(NSAIDsのロキソプロフェンナトリウムに酸化マグネシウムを配合)などの製剤にも利用されています。

他には炭酸水素ナトリウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、沈降炭酸カルシウムなども制酸成分として使われています。

これらの制酸成分は健胃作用などをあらわす生薬や消化を助ける消化酵素などの成分と一緒に配合されている場合もあり、症状などに合わせた商品選択も可能です。

アルミニウムやマグネシウムなどの金属成分を含む製剤は腎疾患などを持病に持つ場合に注意が必要で、中でも透析治療を受けている場合には原則としてアルミニウムを含む製剤は服用できないため特に注意が必要となります。

また、アルミニウムやマグネシウムなどの金属成分はテトラサイクリン系抗菌薬やニューキノロン系抗菌薬といった一部の抗菌薬などの吸収を低下させる可能性があり、飲み合わせに注意が必要となる場合もあります。

  • 防御因子増強薬(胃粘膜増強成分などを含む薬)

胃の防御因子である胃粘膜を強くする作用などによって急性胃炎の症状を和らげる効果が期待できます。制酸薬としても使われるスクラルファートにも胃粘膜を増強する効果が期待できます。

アルジオキサは胃粘膜の修復及び保護作用をあらわす薬です。アルミニウムやマグネシウムなどの制酸成分や健胃作用をあらわす生薬成分と一緒に配合された製剤も発売されています。

アズレンスルホン酸ナトリウムは含嗽薬(うがい薬)としても使われますが、炎症を抑え胃粘膜の修復を促す効果が期待できる薬で一般用医薬品にも配合されている場合があります。

胃粘液の産生・分泌促進作用などをあらわすテプレノンは医療用としてセルベックス®などの製剤に使われていますが、一般用医薬品としてもセルベール®などの製剤に使われています。

メチルメチオニンスルホニウムクロリドは胃粘膜の修復作用などをあらわし「キャベジン」の名前でよく知られた製剤の主な成分として使われています。この成分に制酸成分や生薬成分などを配合することで、胃酸過多や胸やけ、飲みすぎや食べ過ぎなどの症状に対して効果が期待できる製剤も発売されています。

この他、胃粘膜修復成分としてソファルコンやセトラキサートなどを含む製剤が一般用医薬品としても発売されています。

  • 止瀉薬(お腹の下りを止める薬:下痢止め)

一般的に下痢止めとして使われる薬です。止瀉薬(ししゃやく)や止痢薬(しりやく)と呼ばれることもあります。

なんらかの理由によって消化管の運動が亢進している状態ではお腹の下りや腹痛などがあらわれる場合があります。副交感神経は神経伝達物質のアセチルコリンによって活発になりますが、これによって消化管運動も亢進するため、アセチルコリンの働きを抑える(阻害する)抗コリン作用をあらわす薬が止瀉薬として使われることがあります。抗コリン薬のロートエキスは一般用医薬品としても多くの製剤に使われていて、ストッパ下痢止めEXビオフェルミン下痢止めなどの成分として配合されています。抗コリン作用を持つ薬は副作用として口渇、便秘、眼圧上昇(散瞳)、排尿障害などがあらわれる可能性もあります。イレウスなどの既往歴があったり、持病に緑内障や前立腺肥大などがある場合には特に注意が必要です。

お腹の下りを抑える薬としてはタンニン酸ベルベリンも使われます。この薬は腸内でタンニン酸とベルベリンに分解されます。タンニン酸は腸の粘膜の炎症面を防御する作用などをあらわし、ベルベリンは腸管内の病原菌の増殖を抑えるなどの作用をあらわします。先ほどのストッパ下痢止めEXはロートエキスとタンニン酸ベルベリンの配合製剤になっています。

同じタンニン酸が含まれる薬でタンニン酸アルブミンも止瀉薬として使われます。こちらは胃粘膜を保護したり炎症をしずめる効果が期待できる成分ですが、成分の一部が牛乳由来のタンパク質であるため、牛乳アレルギーの体質がある場合は使用を控える必要があります。

腸の過剰な運動や腸の粘膜における水分調節を改善するロペラミドも止瀉薬として使われる薬です。医療用製剤(主な商品名:ロペミン®)にも使われているロペラミドは下痢を誘発させる消化管のアセチルコリンやプロスタグランジンといった神経伝達物質の放出を抑えることで一般的に止瀉薬の中でも強い作用をあらわす薬のひとつです。一般用医薬品としてもトメダインコーワフィルムなどの製剤に使われていて、特に突然の下痢症状に対して有用です。

この他には正露丸の主な成分としても知られ腸内の水分バランスを調整するクレオソート、腸内の異常発酵の抑制作用などをあらわす次硝酸ビスマスも止瀉薬として使われます。また消化管の運動を抑える効果などが期待できるゲンノショウコや腸内環境を整える効果などが期待できるアカメガシワなどの生薬成分が使われる場合もあります。

止瀉薬を使う場合には「下痢の原因がなんであるか?」が非常に重要です。下痢を引き起こしている原因が細菌などの感染によるものである場合、止瀉薬によって下痢を止めることにより、原因となっている細菌やウイルスなどが体内に留まりやすくなることで、逆に症状の悪化や治療期間の延長をきたす可能性もあります。下痢の症状が感染によるものかどうかはなかなかわかりづらいところではありますが、一般的に数日(数回)服用しても症状が改善しなかったり、むしろ悪化するような場合には医療期間の受診などを考慮することが必要です。

  • 整腸剤(乳酸菌などを含む製剤)

ヒトの腸内には多種多様な細菌が生息していて、それぞれの種類ごとに集団(グループ)を作っています。この集団を腸内菌叢(ちょうないきんそう)といって、その様子が植物が群生している様にみえることから腸内フローラという言葉で呼ばれたりもします。

腸内細菌は大きく善玉菌、悪玉菌、どちらにも属さない日和見菌の3つに分かれますが、このバランスが崩れる、つまりなんらかの理由で悪玉菌が優勢になり腸内環境が崩れることで下痢や便秘などの消化器症状を引き起こす場合があります。

腸内環境のバランスを改善するには食事などによる方法もありますが、整腸剤によって善玉菌を補うことで改善する方法も選択肢のひとつです。

善玉菌には乳酸菌をはじめ多くの種類が存在し、その善玉菌を含む整腸剤は医療用としてだけでなく一般用(市販薬)としても多くの製剤があります。

「ビオフェルミン」は医療用だけでなく市販薬としても発売されている主な整腸剤のひとつです。医療用と市販のビオフェルミンでは含まれている菌の種類や量が異なる場合がありますが、市販で売られている「新ビオフェルミン®S」(細粒、錠)にはビフィズス菌・フェーカリス菌・アシドフィルス菌という3種類の乳酸菌が配合されています。ちなみに通常、一般用医薬品(市販薬)は薬局やドラッグストアなどの薬剤師や登録販売者(登録販売者は一般用医薬品のリスク分類の中で第2類と第3類、薬剤師はすべてのリスク分類を販売することが可能です)によって販売されますが、この「新ビオフェルミン®S」は医薬部外品(指定医薬部外品)扱いですので、コンビニエンスストアなどの一般の小売店でも購入可能です。市販のビオフェルミンにはビタミン成分などが含まれている「ビオフェルミン®VC」(第3類医薬品)や止瀉薬(下痢止め)の欄で登場したロートエキスなどの成分を含む「ビオフェルミン®下痢止め」(第2類医薬品)、「ビオフェルミン®止瀉薬」(第2類医薬品)などもあり、これらは一般用の医薬品扱いですので、店頭で購入する場合は薬局やドラッグストアなどで薬剤師や登録販売者から購入する薬になっています。

「ビオスリー」も「ビオフェルミン」と同じく医療用だけでなく市販薬としても発売されている整腸剤で市販では「ビオスリー®H」(細粒、錠)や「ビオスリー®Hi」(共に指定医薬部外品)の名称で発売されています。こちらは医療用と同様にラクトミン(乳酸菌)・酪酸菌・糖化菌の3種類を配合した製剤になっています。

一般的な乳酸菌とは異なり酪酸菌のひとつである宮入菌は強酸性下の胃液中において影響をほとんど受けないという性質を持ちます。この宮入菌を成分とした医療用製剤にミヤBM®(細粒、錠)がありますが、市販でも宮入菌を含む製剤が発売されています。「ミヤリサン®」や「ミヤリサン®U錠」などは宮入菌を含む製剤で、先ほどの「新ビオフェルミン®S」同様、医薬部外品(指定医薬部外品)に区分されている製剤です。市販の中でも「新ミヤリサンアイジ®整腸薬」(第3類医薬品)という製剤は宮入菌の他にビタミン成分を含み、一般用の医薬品としての扱いになっています。宮入菌製剤は抗菌薬(抗生物質)の投与時に起こる下痢などの症状に対して改善効果が期待できるなどその有用性が高いとされている整腸剤でもあります。

この他にも乳酸菌などの整腸成分は生薬成分や消化剤などの成分と一緒に配合され一般用医薬品(市販薬)として発売されています。それぞれの症状などに合わせて製剤を選択することが可能です。

  • その他

アセチルコリンの過剰な働きを抑える抗コリン薬のひとつブチルスコポラミン(商品名:ブスコパン®A錠など)は主に鎮痙薬(ちんけいやく)といって消化管の痙攣などを緩和することで胃痛や腹痛などを改善する目的に使われます。

オキセサゼイン(商品名:サクロン®Qなど)は胃粘膜に作用し神経の伝わりをブロック(局所麻酔)することで胃酸やアルコールなどが胃粘膜を刺激して引き起こす胃痛や吐き気などの症状を改善する効果が期待できる薬です。

また健胃作用などが期待できるウイキョウやケイヒなどの生薬成分や胃腸運動の調整作用などが期待できるトリメブチンなどの薬が一般用医薬品としても使われています。

一般用医薬品の多くは一時的な症状緩和を目的としたものですが、自分自身の健康に責任を持って軽度な身体の不調は自分で手当てするセルフメディケーションを行う上でも有用な選択肢のひとつになっています。

3. 他人の便を飲むのが治療?便移植治療

急性腸炎に対して他人の便を使うことで治療を行うことがあります。これを糞便移植といいます。詳しくはニュースでも解説していますが、特にクロストリジウム・ディフィシル感染症潰瘍性大腸炎などでは有力な治療法となっています。

便移植は他人の便の中にいる正常細菌叢を患者さんの腸に入れることで、患者さんの腸内細菌のバランスを良くすることが目的です。そのため、腸内細菌叢が乱れている人に便移植は効果があります。

一方で、他人の便を用いることに抵抗を感じる人も多いでしょう。便移植は他人の便をそのまま移植するわけではありません。便を精製して繊維などの不純物は除去したものを用います。また、使用方法も便をそのまま食べるのではなく、大腸カメラを用いて大腸にそのまま撒く方法や冷凍保存したカプセルを飲む方法などがあります。

現状では便移植を実用化している施設は国内に多くはありませんが、今後この治療は主流になっていく可能性があります。抗菌薬を使用すると細菌の耐性化や副作用の問題が出てきますが、便移植は抗菌薬を使用しない治療ですので大きな可能性を秘めていると考えられています。

【参考】

Oral, Capsulized, Frozen Fecal Microbiota Transplantation for Relapsing Clostridium difficile Infection. JAMA. 2014;312(17):1772-8

4. どういうときには入院になるのか

急性胃腸炎の多くは入院する必要はありません。多くの感染性胃腸炎のように自然と治る場合や多くの薬剤性胃腸炎のように外来の治療で事足りる場合が多いです。一方で、頻度は高くはないですが入院治療が必要なこともあります。

  • 脱水の強い場合
  • 全身の衰弱している場合
  • 急性胃腸炎の原因がわからない場合
  • 感染症流行の観点から隔離したほうが良いと判断された場合

これらに該当する場合には入院するように勧められる場合があります。症状がなかなか治らない場合や脱水が強い症状が出ている場合には医療機関を受診するようにして下さい。脱水が強いことを示唆する状態はこのページの一番先頭に書いてありますので参考にして下さい。