クロストリジウムディフィシル感染症(偽膜性腸炎)の基礎知識
POINT クロストリジウムディフィシル感染症(偽膜性腸炎)とは
腸管に膜が覆うような状態になっている病気です。多くの場合、抗菌薬を使用したことによって腸内の細菌のバランスが崩れてしまい、クロストリジウム・ディフィシルという菌がはびこったことが原因です。近年はクロストリジオイデス・ディフィシルとも呼ばれます。主な症状は、高熱・下痢・腹痛・吐き気です。本来は大腸カメラを行って腸の中で偽膜があるかどうかを調べることが必要ですが、身体の負担が強く容易に行えないこともあります。そのためクロストリジウム・ディフィシルのだす毒素などを便の中から検出して診断されます。原因と考えられる抗菌薬を中止して、メトロニダゾールあるいはバンコマイシンなどを用いて治療します。偽膜性腸炎が心配な人や治療したい人は、消化器内科や感染症内科を受診して下さい。
クロストリジウムディフィシル感染症(偽膜性腸炎)について
- クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)という
細菌 が原因で腸に起きる炎症 - クロストリジオイデス(Clostridioides)と近年は名称が変更されている
- 腸内にクロストリジウム・ディフィシルが常在している人は1-2割ほどいると考えられている
- クロストリジウム・ディフィシルが常在していても普通は症状を起こさない
抗菌薬 を使用することで腸内の細菌が変化し、クロストリジウム・ディフィシルの割合が増えると考えられている
- クロストリジウム・ディフィシルの産生する毒素によって腸の粘膜に炎症が生じることが原因となる
内視鏡 検査で大腸の壁に特徴的な小さい円形の膜(偽膜)が見られる
- クロストリジウム・ディフィシルは偽膜を作らずに同様の症状を起こすことも多い
- 偽膜の有無を問わず、まとめてクロストリジウム・ディフィシル感染症(CDI)と呼ぶ
- 抗菌薬を服用中または服用終了1-2週間後に起こりやすい
- 特に長期の入院中に多い
- 院内感染のうち最も頻度が高い疾患である
- 抗菌薬中止後でも起こることがある
- まれに中毒性巨大結腸症などの命に関わる状態を引き起こす
クロストリジウムディフィシル感染症(偽膜性腸炎)の症状
- 繰り返す下痢
- 粘りけのある便
- おなかが張る
- 腹痛
- 発熱
- 吐き気
- 重篤な場合には脱水状態となり、
ショック を起こす
クロストリジウムディフィシル感染症(偽膜性腸炎)の検査・診断
- 血液検査:
炎症 の程度を調べる 大腸カメラ (下部消化管内視鏡検査 ):クロストリジウム・ディフィシル感染症に特徴的なな丸形の膜の有無を調べる- 便検査:クロストリジウム・ディフィシルの有無を調べる
- 抗原検査とCD toxin検査がある
- 実際には
内視鏡 検査で偽膜を確認することなく、症状とCD toxin検査の結果を踏まえて治療することが多い 培養 や抗原検査でクロストリジウム・ディフィシルが陽性であっても、症状のない場合は常在しているだけと考えるため、症状がなければCDIには当たらない
鑑別 が必要な疾患- 虚血性大腸炎
- 他の感染性大腸炎
クロストリジウムディフィシル感染症(偽膜性腸炎)の治療法
- 重篤でなければ、
保存療法 で徐々に改善することも多い- 原因となった可能性のある
抗菌薬 を中止する - 下痢止めの薬を使用している場合は中止する
- コデイン、モルヒネといった腸の運動を抑制する効果のある薬は使用しない
- 点滴で脱水を改善する
- 原因となった可能性のある
- 治療には抗菌薬(
抗生物質 )を使用する- バンコマイシン(飲み薬)
- メトロニダゾール(飲み薬、点滴薬)
- 院内感染も多いため以下の対応が必要
- 菌に触れた可能性がある際には手洗いを行う
- 汚物処理には使い捨て手袋を使用する
- アルコール消毒は効かない
クロストリジウムディフィシル感染症(偽膜性腸炎)の経過と病院探しのポイント
クロストリジウムディフィシル感染症(偽膜性腸炎)が心配な方
偽膜性腸炎では、発熱と下痢、そして波のある腹痛が見られます。症状だけでは感染性腸炎など他の腸の病気と区別がつきづらいものですが、この病気は、抗生物質を使用したあと数週間以内に起こりやすいのが特徴です。何らかの原因で入院して抗生物質を使用し、その病気が治ったと思ったら下痢をし始めた、というのが典型的なパターンです。
大半の抗生物質は多かれ少なかれ下痢をしやすくなるものですし、特にマクロライド系と呼ばれるものでは強い下痢が出ることがあります。しかし、これだけでは説明がつかないような血液検査での炎症や強い症状が見られるときに偽膜性腸炎が疑われます。
ご自身で症状だけから診断をつけるのは難しい病気ではありますが、心当たりがある場合にはかかりつけ医を受診して、その際にはいつからいつまでど何の病気にかかっていて、その時に抗生物質を使用していたということをぜひ伝えてください。その後は便の検査や大腸内視鏡を用いて診断を確定させることになります。
クロストリジウムディフィシル感染症(偽膜性腸炎)でお困りの方
偽膜性腸炎については、診断がつき次第その場で治療が開始されますし、治療の方法にもバリエーションが少ないため、どこでどのような治療を受けるか迷う余地は少ない病気かもしれません。
軽症の場合には抗生物質を中止して安静にしているだけで症状が徐々に改善してきます。重症の場合には別の種類の抗生物質を使用して治療しますが、そのような方では発熱や下痢といった症状が強くなるため入院の上で治療が必要です。
偽膜性腸炎では周囲へ感染が広がることに注意する必要があります。便の中に細菌が存在することから、本人および周囲の人は頻繁に手を洗うようにすることと、便がもれてしまった場合には衣服や床を次亜塩素酸で消毒することに気をつけましょう。清掃や選択をする際には使い捨ての手袋を装着しての対応が必要です。