ちょうちふす、ぱらちふす
腸チフス、パラチフス
サルモネラ菌による感染症であり高熱、下痢または便秘を引き起こす
3人の医師がチェック 86回の改訂 最終更新: 2024.04.18

腸チフス、パラチフスの基礎知識

POINT 腸チフス、パラチフスとは

サルモネラ菌の一種であるチフス菌あるいはパラチフス菌による感染症です。中南米・アフリカ・東南アジアに多く、保菌者の便に汚染されたものを飲食することで感染します。病気が4期に分かれており、それぞれに出やすい症状があります。 国内で発症した場合、1ヶ月以内に海外に行ったことがないかを確認します。また、血液や便を培養して菌の存在を確認することで診断します。治療には抗菌薬を用います。腸チフス、パラチフスが心配な人や治療したい人は、感染症内科や消化器内科を受診して下さい。

腸チフス、パラチフスについて

  • サルモネラという細菌の一種である、チフス菌またはパラチフスA菌の感染により、高熱、下痢または便秘が起こる
  • 保菌者の便に汚染された食品や水を摂取することによって感染する
    • 海外旅行先で起こることもある
  • 腸の感染だけでなく、菌血症が起こることも多い
  • 国内では、年間約100人程度
    • 国内で発症したのではなく、東南アジア、中南米、アフリカで感染して国内に帰ってきてから発症したパターンがほとんど
  • パラチフス腸チフスに比べて症状が軽いことが多い

腸チフス、パラチフスの症状

  • 10-14日の潜伏期がある
  • 38℃以上の高熱
  • 下痢
  • 便秘
  • 重症のときはまれに意識障害を起こすことがある
  • 週ごとに症状が変わることが多い
    • 第1週
      • 徐々に上昇する発熱(最高39-40 ℃くらい)、比較的徐脈、バラ疹、肝脾腫
    • 第2週
      • 稽留熱(40 ℃くらいの熱がずっと続く)、チフス性顔貌、意識障害
    • 第3週
      • 弛張熱(発熱の状態が続くが、熱が高熱と微熱を繰り返す)、腸出血、腸穿孔(2-3%程度で起こる)
    • 第4週
      • 解熱

腸チフス、パラチフスの検査・診断

  • 問診:過去1か月以内の発展途上国などへの海外渡航歴を調べる
  • 細菌検査:血液、便、胆汁を培養してチフス菌、パラチフスA菌の有無を調べる

腸チフス、パラチフスの治療法

  • 安静:腸出血の危険があるため
  • 食事:消化のよい食事
  • 抗菌薬:通常の抗菌薬投与期間は2週間であるが、重症の場合は2週間以上に渡り使用を続けることがある
    • ニューキノロン系抗菌薬:近年ニューキノロン系抗菌薬に対して耐性化が進んできている
    • セフトリアキソン
    • アジスロマイシン
  • 以下のことを行うことで感染の予防をすることができる
    • 患者自身が手洗いの徹底
    • 排泄の介助が必要な場合は介助者も手洗いの徹底
    • 流行している地域では、生水を飲まない、生野菜、カットフルーツ、生の魚介類などを食べない
  • 一般的な経過をたどると、回復まで4週間程度かかる
  • 正しい治療を行わないと、生涯にわたって保菌者になる可能性がある

腸チフス、パラチフスに関連する治療薬

ST合剤

  • 細菌などが行う葉酸合成と葉酸の活性化を阻害し増殖を抑えることで抗菌作用をあらわす薬
    • 細菌などの増殖には遺伝情報を含むDNAの複製が必要でDNAの複製には葉酸が必要となる
    • 細菌などは自ら葉酸を作り、活性化させることでDNAの複製に使用する
    • 本剤は葉酸合成阻害作用をもつ薬剤と葉酸の活性化を阻害する薬剤の配合剤
  • 真菌が原因でおこるニューモシスチス肺炎に使用する場合もある
ST合剤についてもっと詳しく

ニューキノロン系抗菌薬

  • 細菌の増殖に必要な酵素を阻害して殺菌的に抗菌作用をあらわす薬
    • 細菌の増殖にはタンパク質合成が必要でそれには遺伝情報をもつDNAという物質が不可欠となる
    • DNAの複製にはいくつかの酵素の働きが必要となる
    • 本剤はDNA複製に必要な酵素を阻害し抗菌作用をあらわす
  • 尿路感染症、腸管感染症、呼吸器感染症など幅広い感染症で有効とされる(薬剤によって抗菌作用の範囲は異なる)
ニューキノロン系抗菌薬についてもっと詳しく

腸チフス、パラチフスの経過と病院探しのポイント

腸チフス、パラチフスが心配な方

腸チフスパラチフスは、海外を中心に見られる消化管の感染症です。衛生状態が良くない国で水道水を飲んだり生もの(かき氷やカットフルーツを含む)を食べたりして感染することが多いです。人から人へと周囲へ感染するため、海外で感染した人が帰国した後に、その人が元となって周囲へ感染が拡大していくこともあります。そのような方が周囲にいる場合、あるいはご自身が海外旅行の最中や帰国後に、腹痛、熱、下痢(時には便秘)、皮膚の赤みやぶつぶつが出た場合には腸チフスパラチフスの可能性があります。

腸チフスパラチフスを疑った場合には、まずはお近くの内科を受診するようにしましょう。一般内科でも良いですし、その中でも絞り込むのであれば消化器内科が専門の診療科です。診断は便からチフス菌が検出されるかどうかで確定します。しかし、すぐに結果が出る検査ではありませんので、検査を行うことなく「腸チフス(またはパラチフス)の疑い」または「感染性胃腸炎の疑い」といった暫定的な診断で治療を行います。

海外で感染するような腸炎の多くは抗菌薬の使用で改善しますので、原因がチフス菌だということが分からなくても結果的には治ってしまう場合もあります。ただし、抗菌薬が効かない腸炎や抗菌薬を使用しない方が良い腸炎もあるため、症状や経過から大きな方向性(細菌性かウイルス性か、検査を行って病原体を突き止める必要性がどの程度高いかなど)を判断するのが医療機関の主な役割となります。

この判断をする上で、どこで感染したかという情報がとても大切ですので、帰国後の方はいつからいつまでどこに旅行をしていたかを医師にぜひ伝えてください。

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腸チフス、パラチフスでお困りの方

腸チフスパラチフスの場合に気をつけなければならないのが、周囲の方への感染の拡大です。チフス菌、パラチフス菌は便の中に含まれています。したがって、本人はトイレの後には周囲をあちこち触る前に必ず手洗いをすること、そして周囲の方は食事をする前に必ず手洗いをすることが重要です。

特に治療を行わなくても自然の経過で症状が治まることはありますが、その場合、体内に菌が残ってしまうリスクがあります。ご自身の症状再発はもちろんながら、ご自身には症状がなかったとしても周囲へ感染を拡大させ続ける原因となりますので、抗菌薬を内服することと、症状が改善しても処方された分を最後まで飲み切ることが大切です。

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