2017.09.04 | コラム

抗菌薬の適正使用とは?

耐性菌の少ないきれいな未来に
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抗菌薬は決められた量を決められた期間用いる必要があります。これを抗菌薬の適正使用というのですが、どうして適正使用が望まれるのでしょうか?

抗菌薬の適正使用について考える

感染症を治す上で非常に重要になるのが抗菌薬です。そんな抗菌薬も不適切に使ってしまうと耐性菌が増えてしまうことが分かっています。

この「細菌感染を治すために使用した抗菌薬が、未来の感染治療を難しくする」といったジレンマは容易ならざる状況ですが、未来の子どもたちの世代へ負の財産を残さないためにも、今我々がきちんと向き合う必要のある状況とも言えます。

 

そもそも抗菌薬はどんな薬?

抗菌薬とは、細菌の増殖を抑えたり、殺菌したりする効果のある薬のことです。ここで1つ重要なことは、細菌とウイルスは全く違う微生物ですので、抗菌薬はウイルス感染には効果を発揮しないということです。例えばインフルエンザ感染やノロウイルス感染といったウイルス感染を治療するのに抗菌薬の出番はありません。細菌が原因で起こった肺炎膀胱炎などに対してのみ抗菌薬は有用なのです。

抗菌薬にはどんな種類がある?

抗菌薬には多くの種類があります。その代表的なものを示します。

 

 

ここではこれらの抗菌薬の詳細な説明は省きますが、違った系統の抗菌作用があるからこそ、さまざまな種類の細菌感染に対する治療ができるのです。

 

抗菌薬の効き方の特徴

上で述べたように、抗菌薬はさまざまなタイプがあります。その中でも2種類に大別することができます。

 

  • 時間依存性の抗菌薬

  • 濃度依存性の抗菌薬

 

この分類は細菌に対する効き方の特徴を示しています。もう少し詳しく見ていきましょう。

 

抗菌薬は細菌が増殖するのを妨げる効果を持っています。しかし、ただ抗菌薬を使えばよいというわけではありません。血液中に含まれる薬物の量(血中濃度)が高くないと効果が見られないのです。

薬物がある一定の濃度になると細菌は増殖できなくなります。この濃度のことをMIC(最小発育阻止濃度)と言います。つまり、MICを超えるくらいの抗菌薬を使うと細菌は増殖できなくなるのです。MICは細菌と抗菌薬の組み合わせによって変わります。また、同じ菌種に同じ薬を使う場合でも一定ではありません。細菌の耐性化傾向などに影響されます。

 

時間依存性の抗菌薬

時間依存性の抗菌薬はどういったタイプなのでしょうか。

MICを超えると細菌の増殖を抑えることができるのですが、時間依存性の抗菌薬はMICを超えている時間が重要になります。

時間依存性の抗菌薬を使うときのポイントは、MICを超える血中濃度をなるべく長い時間維持することです。そのためには一度に大量に飲んでも効率が悪いので、1日に数回に分けて用いることになります。時間依存性の抗菌薬の代表例は以下のものです。

 

  • ペニシリン系抗菌薬

  • セフェム系抗菌薬

  • カルバペネム系抗菌薬

  • (マクロライド系抗菌薬)

  • (テトラサイクリン系抗菌薬)

 

(*マクロライド系抗菌薬とテトラサイクリン系抗菌薬では、Time above MICよりもAUC/MICが重要になる)

 

各々の抗菌薬によって用いるべき投与量と投与間隔は決まっているので、決められた通りに用いることが大切です。

 

濃度依存性の抗菌薬

一方で、濃度依存性抗菌薬はどういったタイプなのでしょうか。

MICを超えると細菌の増殖を抑えることができるのですが、濃度依存性の抗菌薬はMICを超えている濃度が重要になります。

濃度依存性の抗菌薬を使うときのポイントは、短時間であっても血中濃度をなるべく高い水準まで届かせることです。そのためには1日に用いる回数をできるだけ少なくして一度に使うことになります。時間依存性の抗菌薬の代表例は以下のものです。

 

  • ニューキノロン系抗菌薬

  • アミノグリコシド系抗菌薬

 

濃度依存性の抗菌薬も投与量と投与期間が各々で決まっているので、これを守ることが大切です。ただし、一度に使うことによって血中濃度が高くなりすぎてしまいやすい点には注意が必要です。血中濃度が高すぎると副作用も出やすくなってしまいます。血中濃度は体調や腎機能の影響を受けるため、濃度依存性の抗菌薬には特に注意が必要なもの多いです。

 

抗菌薬は万能薬なのか?

抗菌薬は細菌感染を治療する上で重要な存在であることは間違いないのですが、抗菌薬を使えば絶対に治るわけではありません。医者が「この抗菌薬を飲んでください」という時は、最も勝率の高いと思われる抗菌薬をチョイスしています。それでも勝率100%ではないので注意が必要です。もし抗菌薬を使ってしばらく経っているのに症状が良くならない場合は、抗菌薬が有効でない可能性を考えなくてはならないので、処方した医師に相談するようにしてください。

 

抗菌薬が効かない場合

抗菌薬が効かない場合にはさまざまなことが考えられます。例えば、抗菌薬が効かない耐性菌であることもあれば、もともと細菌感染ではなかったというようなこともあります。よくあるパターンを列挙します。

 

  • 適切な抗菌薬を使われていない

  • 抗菌薬の投与量や投与間隔が正しくない

  • 感染の原因菌が耐性菌である

  • 薬が届きにくい場所で感染が起こっている

  • 実は効いているが気付いていない

  • もともと細菌感染ではない

 

抗菌薬に潜む副作用

また、抗菌薬には一定確率で副作用が存在することも忘れてはいけません。抗菌薬に限らず全ての薬に関して言えることですが、効能・効果ばかりにとらわれると副作用に足下をすくわれてしまうことがあります。そのため、メリットとデメリットを天秤にかけて、本当にこの薬が必要なのかを考えなければなりません。

抗菌薬にはどんな副作用があるのでしょうか。その代表的な例は以下のものになります。

 

  • 腎障害(その代表的抗菌薬の例)

    • アミノグリコシド系抗菌薬

    • グリコペプチド系抗菌薬

  • 肝障害(その代表的抗菌薬の例)

    • ペニシリン系抗菌薬

    • セフェム系抗菌薬

    • カルバペネム系抗菌薬

    • マクロライド系抗菌薬

    • テトラサイクリン系抗菌薬

    • ニューキノロン系抗菌薬

  • めまい・聴力障害(その代表的抗菌薬の例)

    • アミノグリコシド系抗菌薬

  • 神経筋接合部障害(その代表的抗菌薬の例)

    • テトラサイクリン系抗菌薬

  • 末梢神経障害(その代表的抗菌薬の例)

    • イソニアジド

    • エタンブトール

    • クロラムフェニコール

  • 中枢神経障害(その代表的抗菌薬の例)

    • ペニシリン系抗菌薬

    • セフェム系抗菌薬

    • カルバペネム系抗菌薬

    • ニューキノロン系抗菌薬

  • 血液凝固障害(その代表的抗菌薬の例)

    • セフェム系抗菌薬

  • 血糖調節機能障害(その代表的抗菌薬の例)

    • ニューキノロン系抗菌薬

 

ここで挙げた副作用は主なものですが、上で述べていない副作用が現れることもあるので注意が必要です。抗菌薬は最大限の効果を発揮しつつ副作用のリスクは最も小さいものになるように用いることが望ましいです。

抗菌薬は実際にどのような使い方をすればよいのか考えてみましょう。

 

抗菌薬はどういう使い方をすると良いのか?

抗菌薬をうまく使用するには以下のことを考えると良いです。

 

  • 細菌感染にのみ使用する

  • 最も有効性(治療成功率)の高いと思われる抗菌薬を選択する

  • 決められた量を決められた期間だけ使用する

  • 起炎菌が分かったら、抗菌薬を最適化する

 

最も有効性の高いと思われる抗菌薬の選択について少し補足すると、「起炎菌の推定」「感染部位」「重症度」などを鑑みて過去のデータから最も適切であろう抗菌薬を選ぶということになります。

これらを守ることで、最も勝率の高い細菌感染治療に近づくことになります。もう少し詳しく見ていきましょう。

 

細菌感染にのみ使用する

抗菌薬は細菌感染にしか効きません。感染症以外の病気を治すことはできませんし、ウイルス感染を治すこともできません。そのため細菌による感染と考えられる場合にのみ抗菌薬は有効です。細菌感染に対して適切な抗菌薬を用いると非常に大きな力を発揮するのです。

一方で、抗菌薬を使用することにはデメリットもあります。副作用の問題はすでに述べていますが、他に問題となるのは身体に無数に存在する常在菌を殺してしまうことです。常在菌は体内に侵入した微生物を攻撃してくれる存在でもあるので、常在菌を殺してしまうと体外から微生物が侵入しやすい状態になります。これは治療している感染症以外に新たな問題を起こす原因となるため、決して軽視できないことなのです。

 

最も有効性(治療成功率)の高い抗菌薬を選択する

最も有効性の高い抗菌薬とはどんな抗菌薬のことでしょうか。ここでいう有効性の高い抗菌薬は、ただ単にどんな細菌にでも効くというものを指してはいません。どんな細菌にでも効くということは、体内にいる常在菌も殺してしまうことになります。上で述べているように、常在菌にできるだけ影響を与えずに起炎菌のみを殺すような抗菌薬が有効性の高いものになります。

有効性の高い抗菌薬を選ぶためには起炎菌を推定することが必要です。そのためには細菌学的検査の中でも塗抹検査(痰や尿など、感染が疑われる部位の分泌物を顕微鏡で調べる検査)が非常に重要になります。起炎菌の推定ができれば、この抗菌薬は使えそう・この抗菌薬は使わないといった取捨選択ができるようになります。

また、血流や薬物の代謝などの問題から、体内には血液中の抗菌薬が届きにくい臓器と届きやすい臓器が存在します。そのため、感染している部位がどこなのかということは非常に重要です。つまり、感染部位に届きにくい抗菌薬をどれだけ使ってもあまり有効ではないため、届きやすい抗菌薬を使うようにするべきなのです。

重症で全身状態が疲弊しているときは抗菌薬の選択を慎重に考えなくてはなりません。つまり、重症の状況ではあとがないため抗菌薬は多くの細菌に対して効くであろうものを選ばなければなりません。

勝率の高い治療を目指すには、これらを鑑みながら最も有効性の高いと思われる抗菌薬が選択されるのです。

 

決められた量を決められた期間だけ使用する

どんなに適切な抗菌薬を用いても、投与量と投与期間が守られなければ治療がうまくいきません。先に述べた通り、投与量が足りないと細菌の増殖を抑えることができなくなり、感染がなかなか治りません。また、正しい投与量を用いても投与期間が短ければ、感染が治まりきらないため再発する可能性が高くなります。

そのため、抗菌薬は決められた量を決められた期間で用いることが重要になります。

 

敵(起炎菌)が分かったら抗菌薬を最適化する

抗菌薬を用いた治療では、最初に行った治療が無効であることや、有効であっても最善ではないということがありえます。そのため、抗菌薬治療を開始してから数日したタイミングや細菌培養検査の結果が分かったタイミングで、今使っている抗菌薬が適切なのかどうかを吟味する必要があります。細菌培養検査の結果から薬剤感受性が判明した場合は、抗菌薬を最適化する大きなヒントになります。

 

身体に細菌がいたら治療しないといけないのか?

「身体に細菌がいれば抗菌薬治療を行う」という考えは、半分正解ですが半分間違っています。というのは、細菌が身体にいても悪さをしていなければ治療する必要がないからです。これの有名な例が常在菌です。また、細菌感染が起こっていても、自分の免疫で自然に治ると思われる場合に抗菌薬を用いないこともあります。

感染症が疑われると、細菌学的検査(培養検査や塗抹検査など)を行って、感染の原因となっている細菌(起炎菌)を検索します。培養検査で検出された細菌が必ずしも感染の原因ではないことに注意しながら、慎重に起炎菌を探していくことになります。

細菌検査で次のような特徴が見られれば、見つかった細菌が起炎菌だと疑う根拠になります。

 

  • 細菌の数が多い

  • 本来そこには存在しない細菌がいる

  • 感染を起こしやすい細菌がいる

  • 細菌の周りに白血球が集まっている

 

細菌検査の結果と全身症状などから総合的に判断して起炎菌を判断します。培養結果と全身症状がマッチしない時は、常在菌が検出されているだけで感染の起炎菌ではないと判断されることもあります。常在菌に抗菌薬治療を行ってもメリットがないどころか有害な可能性があります。

 

抗菌薬を用いないという選択肢はなぜ出てくる?

常在菌に対して抗菌薬治療を行っても得がないことは先に述べましたが、これ以外にも抗菌薬を用いない場合があります。例えば体内で細菌感染が起こっていても抗菌薬を使わずに勝手に治ることがあります。その際は抗菌薬を用いることを控えた方が結局は得をすることが多いです。

それではどういった場合に抗菌薬治療を行うべきなのでしょうか?

 

抗菌薬のメリット

抗菌薬を用いる時にはメリットがあります。メリットがあるからこそ使われるのですが、それらを整理してみましょう。

 

■抗菌薬がないと治らない感染症を治す

最も大きなメリットは抗菌薬がないと治らない病気を治すことです。例えば細菌性髄膜炎では抗菌薬治療を行わないで治る可能性は低いため、抗菌薬を使わないという選択肢は考えにくいです。

 

■感染症の治りを早くする

もともと抗菌薬を使わなくても治る感染症であるが、抗菌薬を使うと治りが早くなるといった場合は抗菌薬を用います。例えばマイコプラズマ肺炎では抗菌薬を使うと治りが早くなることが多いため抗菌薬を用いて治療します。

 

■感染症の症状を和らげる

抗菌薬を用いると症状が和らぐ場合にも抗菌薬が用いられます。例えばびまん性汎細気管支炎DPB)では慢性的炎症によって咳や痰が出ますが、エリスロマイシンを用いると症状が和らぐことが分かっています。

 

■感染症を予防する

抗菌薬を用いて感染症を予防する場合があります。例えば細胞性免疫不全のある人はニューモシスチス肺炎の予防のためにST合剤を飲むことがありますし、リウマチ熱の人はペニシリン系抗菌薬を飲むことがあります。

 

以上のように抗菌薬には多くのメリットがあり、特に命にかかわるような重大な危険を取り除く場合にはそのメリットは非常に大きくなります。

 

抗菌薬のデメリット

他方、抗菌薬にはデメリットもあります。どんなデメリットがあるでしょうか。大きなデメリットだけでも以下のものがあります。

 

■副作用が出現する

抗菌薬に限らず全ての薬には副作用が起こる可能性があります。どんな副作用が起こりやすいのかは薬の種類ごとにわかっています。副作用を把握しないで薬を用いることは非常に危険です。例えば肝機能がもともと悪い人に肝機能障害が出やすい抗菌薬を用いる時には細心の注意が必要ですし、てんかん持ちの人にけいれんを起こしやすい抗菌薬を用いることは簡単ではないです。

 

■身体にいる常在菌も殺してしまう

抗菌薬は感染の原因となっている起炎菌のみを選んで殺すことはできません。どうしても感染とは関係のない細菌も殺してしまいます。体内に無数にいる常在菌は体外から微生物が侵入するのを防いでくれていますが、常在菌を抗菌薬で殺してしまうことで侵入予防機能が低下してしまいます。当然のことながら耐性菌も侵入してきやすくなるのです。

 

■薬の相互作用の関係で他の薬が使いにくくなる

すべての薬には相互作用(飲み合わせの相性)があります。そのため、抗菌薬を使うということは他の薬を使いにくくしていることにもなります。例えばクラリスロマイシンという薬は多くの薬に対して相互作用を持っていることが有名です。

 

■本来は有効であるはずの抗菌薬が効かない細菌ができてしまう

近年非常に問題となっているのは本来は効くはずである抗菌薬が効かなくなってしまった耐性菌です。細菌の耐性化の原因には多くのものがあることが分かっていますが、共通して言えることは抗菌薬を使えば使うほど耐性菌が増えるリスクになるということです。詳しくは関連記事「抗生物質(抗菌薬)を使えば使うほど薬が効かなくなる?」で説明しますが、耐性化の問題は抗菌薬のデメリットの一つとして非常に大きなものになります。

 

これらのほかにもデメリットが起こる可能性があり、特にメリットもない状態で安易に抗菌薬を使うことは非常に危ないことです。

 

メリットとデメリットのバランスで考える

結局のところ抗菌薬を使うべきかどうかはメリットとデメリットのバランスで考えることになります。その上で最も避けるべきは、細菌感染でもないのに抗菌薬を使うことです。特に風邪急性上気道炎)や下痢症ではウイルス感染が原因であることが多く、細菌が関与していたとしても自然と治ることがほとんどですので、抗菌薬を用いることの価値は低いと考えられます。

 

抗菌薬を処方する場合には、「この薬は本当に必要なのだろうか」と考えてみると良いかもしれません。医師の根底には患者に良くなってほしいという思いがあるものです。だからこそ、何かしてあげたいという気持ちから抗菌薬を処方してしまいがちです。しかし、抗菌薬を処方する前にメリットのない抗菌薬は有害であることを思い出したいものです。

執筆者

園田 唯

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。