にゅーもしすちすはいえん
ニューモシスチス肺炎
エイズ、ステロイド長期使用中など免疫が弱っている人に発生する致命的な肺炎
8人の医師がチェック 114回の改訂 最終更新: 2022.05.11

ニューモシスチス肺炎の基礎知識

POINT ニューモシスチス肺炎とは

ニューモシスチス肺炎はニューモシスチス・イロベチイの感染で起こる病気です。多くの人の肺にもこの微生物は存在しますが、発症することはほとんどありません。その一方で、免疫の働きが不十分な人には肺炎を起こします。特にエイズの人に起こりやすいことが分かっています。主な症状は、咳・痰・発熱・呼吸困難などです。CT検査でニューモシスチス肺炎らしい見た目であったり、痰や気管支内視鏡での採取検体からニューモシスチス・イロベチイの存在を確認して診断されます。治療は抗菌薬を数週間に渡って使用します。ニューモシスチス肺炎が心配な人や治療したい人は、呼吸器内科あるいは感染症内科を受診して下さい。もともとのかかりつけがある人は、まずそちらで相談してください。

ニューモシスチス肺炎について

  • 免疫が弱くなっている人に多くみられる、重症の肺炎
    • 治療しなければ死亡に至る危険性が高い
  • ステロイド薬を長期に使用している人、エイズなど免疫不全の人に多い
  • ニューモシスチス・イロベチイ(Pneumocystis jirovecii)と呼ばれる菌が原因で起こる
    • 免疫が正常な人は、ニューモシスチスに感染しても症状が現れず、ニューモシスチスはすぐに排除される
    • ニューモシスチスは世界中の至るところに存在しており、呼吸を通じて感染すると考えられている
    • 多くの人間の肺に存在する菌であり、ニューモシスチス・イロベチイが存在しているから感染しているというわけではない
  • ニューモシスチスは肺においてのみ増殖するため、病変は肺に限定される
  • エイズ患者の約30%に、初期症状としてニューモシスチス肺炎がみられる
  • エイズ患者と非エイズ患者では、症状の進行速度が異なる
    • エイズ患者:比較的ゆっくりと進行する
    • エイズ患者:急速に進行する
  • かつてはニューモシスチス・カリニ(Pneumocystis carinii)が原因と考えられていたため、「カリニ肺炎」と呼ばれた
    • ニューモシスチスはかつて原虫と考えられ「カリニ原虫」といった言葉があったが、のちに真菌(カビ)であることがわかった

ニューモシスチス肺炎の症状

    • 痰が出にくいことが特徴
  • 発熱
  • 呼吸困難
  • 低酸素血症:動脈内の酸素が不足した状態

ニューモシスチス肺炎の検査・診断

  • 画像検査:両側の肺全体に肺炎像がないか調べる
    • 胸部レントゲンX線写真)検査
    • 胸部CT検査:淡い影が両肺の広範囲に広がるのが特徴
  • 血液検査:以下の診断的価値の高い指標を調べる
    • 二酸化炭素の上昇を伴わない低酸素血症の有無
    • LDHの上昇
    • β‐D‐グルカンの上昇
    • KL-6の上昇
  • 顕微鏡検査:痰、気管支肺胞洗浄液、経気管支生検の組織を染色し、ニューモシスチスの存在の有無を調べる(必要に応じて気管支鏡検査が行われる)
  • PCR検査:保険適用外の検査だが、しばしば行われる
    • 症状のある人の痰や気管支から採取された液体にニューモシスチスが存在したらニューモシスチス肺炎と考える
  • ニューモシスチス肺炎を疑った場合は、HIVに感染しているあるいはAIDS発症しているのかの検査も合わせて行われる

ニューモシスチス肺炎の治療法

  • 薬物療法
    • ST合剤(バクタ®):最も有効な抗菌薬だが、副作用の頻度が高い
      • 副作用は発熱、発疹、消化器症状、血球減少など
    • ペンタミジン(ベナンバックス®):ニューモシスチスに特化した抗真菌
    • アトバコン(サムチレール®):ニューモシスチスに特化した抗真菌薬
      • ST合剤に比べて副作用が出にくい
      • 副作用は吐き気・下痢、まれに白血球の数が減るなど
    • ステロイド薬:酸素がうまく身体に取り込めないほどの重症の場合、炎症を抑えるために使うことがある
  • 呼吸の維持
    • 酸素吸入
    • 重症者では、人工呼吸器管理が必要になる場合がある
  • 酸素化の悪い場合(PO2<70mmHgあるいはA-aDO2>35mmHg、SpO2<93% など)
    • 治療開始してから21日間ステロイド(プレドニゾロン)を併用すると、AIDS患者の呼吸不全などの重症化を予防できると考えられている
      • 最初の5日間:プレドニゾロン(プレドニン®)40mgを1日2回
      • 次の5日間:プレドニゾロン(プレドニン®)40mgを1日1回
      • 最後の11日間:プレドニゾロン(プレドニン®)20mgを1日1回
  • ニューモシスチス肺炎を起こしやすいエイズ患者は、適切な薬(ST合剤やアトバコン)を飲むことで予防できる
    • ペンタミジンを定期的に吸入する予防法もある
    • 予防薬が使用されない場合、エイズ患者においては約80%以上がニューモシスチス肺炎を発症する
  • 免疫を弱くする病気や薬のない人は、特別な予防を行う必要はない

ニューモシスチス肺炎に関連する治療薬

ST合剤

  • 細菌などが行う葉酸合成と葉酸の活性化を阻害し増殖を抑えることで抗菌作用をあらわす薬
    • 細菌などの増殖には遺伝情報を含むDNAの複製が必要でDNAの複製には葉酸が必要となる
    • 細菌などは自ら葉酸を作り、活性化させることでDNAの複製に使用する
    • 本剤は葉酸合成阻害作用をもつ薬剤と葉酸の活性化を阻害する薬剤の配合剤
  • 真菌が原因でおこるニューモシスチス肺炎に使用する場合もある
ST合剤についてもっと詳しく

ニューモシスチス肺炎が含まれる病気

ニューモシスチス肺炎のタグ

ニューモシスチス肺炎に関わるからだの部位