急性胃腸炎の検査:問診、身体診察、血液検査など
急性胃腸炎で最も大切な検査は
1. 問診:状況の確認
急性胃腸炎の診断の際に問診は極めて重要です。問診とはお医者さんが患者さんに身体の状況などを聞くことです。具体的には次のようなことを聞かれます。
症状 が出るまでにどんな食事をしたか- 症状が出るまでにどんな薬を飲んでいたか
- 初めての症状か
- 周囲に似たような症状の人はいるか
- どんな症状が出ているか
- 症状は一定か、よくなったり悪くなったりするか
- 食事や内服などで症状が変化するか
- 他に持病はあるか
- 喫煙をどの程度するか
- 飲酒をどの程度するか
- 妊娠しているか
- 最近の性活動について
これらは胃腸炎の原因を探るうえで大切な判断材料です。胃腸炎には感染や薬剤などのさまざまな原因が考えられるため、状況の把握がとても大切になります。また、問診は治療方針を決めるためにも役立ちます。持病のある人や妊娠している人は使用してはならない薬がありますので必ず医療者に伝えるようにして下さい。
2. 身体診察:症状の客観的評価
どんな症状が出ているかについては問診である程度確認することができますが、症状や全身状態を客観的に評価するには身体診察が必要です。
急性胃腸炎を疑った場合には次の診察を行います。
バイタルサイン のチェック聴診 - 打診
- 触診
- 肛門診察・直腸診察
これらの診察は非常に重要です。実際にどうしたことをやるのかもう少し具体的に考えてみましょう。
バイタルサインのチェック
バイタルサインとは身体の元気さを見るうえで非常に重要なサインのことです。身体の状態が悪いときはバイタルサインが乱れるため、これをチェックすることで身体のバランスがわかります。
- 意識の状態
- 血圧
- 脈拍
- 呼吸数
- 体内の酸素の値
医療者はこれらを調べるために、話しかけたり、ペンライトを使って眼を見たり、血圧計を使ったり、サチュレーションモニターを指につけたりします。
急性胃腸炎では、嘔吐下痢によって脱水になることがあります。すると意識の状態が悪くなったり、血圧が下がったり、脈が早くなったりします。バイタルサインのチェックはものの数分でできますので、急性胃腸炎によって脱水があるのかどうかを素早く判断することができます。
聴診
聴診とは聴診器を用いて音を聞く診察です。急性胃腸炎では聴診器を用いてお腹の音を聞きます。
急性胃腸炎になると、お腹はいつもよりも活発に動いたり、逆に全く動かなくなったりします。聴診器を使って腸の音を聞くことで、腸の動きが活発になっているのか低下しているのかが分かります。
打診
打診とは身体を指で軽く叩くことで生じる音や抵抗を見る診察方法です。お腹にガスが溜まっていたり、お腹に水が溜まっている場合には、打診で判断がつきます。
特に叩くと太鼓のような音がする場合は要注意です。この状態はお腹にガスが溜まっていることを意味します。便秘が続いてもガスが溜まりますが、最も注意しなくてはいけないのは腸に穴が開いている時です。打診でガスの溜まりを感じた場合は、触診も必ず行う必要があります。また、場合によってはもっと詳しく調べるために画像検査や
触診
触診とは体を触ったり押したりすることで診察する方法です。感染が起こっている部位や感染以外の病気によって
お腹のいろいろなところを押してみて痛みが出るかどうかを確認します。また、押した状態から離したタイミングに痛みが生じた場合には要注意です。これを腹膜刺激症状といって、お腹全体に炎症が広まっている(腹膜炎になっている)可能性があります。この状態は歩くとお腹に痛みが走ることもあるので参考にして下さい。万が一、生活の中で腹膜刺激症状を感じてそれが持続する場合は医療機関を受診するようにして下さい。
肛門診察・直腸診察
肛門診察は肛門を見て観察する診察です。恥ずかしいと感じる人も多いと思いますが、肛門の様子で分かる病気もあるため必要な場合には行います。
直腸診は肛門から指を入れて直腸の様子をみる検査です。この検査も恥ずかしいと感じる人も多いと思いますが、直腸や直腸周囲の様子がわかるため重要な検査になります。
3. 血液検査
血液検査では全身の状態や臓器の機能の障害の程度を調べることができます。特に重症の急性胃腸炎と判断された場合には血液検査を行うことが多いです。
血液検査では多くのことがわかります。
- 全身炎症の程度
- 腎臓の機能
- 肝臓の機能
- 心臓の機能
- 貧血の有無
- 脱水の程度
血液検査にはさまざまな項目があり非常に多くのことを調べることができますが、急性胃腸炎で調べる主な項目は上記になります。これらで異常値があった場合は身体のバランスが乱れていますので、補液や薬剤を用いて治療を行うことになります。
4. 画像検査
急性胃腸炎で画像検査を行うことがあります。特に
レントゲン検査(X線写真)
レントゲン検査はお腹を影絵で見ているようなものなので、解像レベルは高くありません。しかし、お腹にガスが溜まっていたり水が溜まっていたりするとレントゲンに異常としてみてとることができます。また、腸に穴が空いてしまったことによって腸の外に空気が見える場合(フリーエアーといいます)は、腸管外に漏れた空気が多ければ腹部レントゲンでも判断することがあります。
レントゲン検査はほとんどの医療機関で受けることができます。また、X線を用いる検査の中で最も被曝量が少ないことは利点です。レントゲン検査の特徴について以下に表でまとめます。
【レントゲン検査の特徴】
良い点 | 弱い点 |
|
|
まとめますと、レントゲン検査は解像レベルが低い一方で簡便に調べることができます。急性胃腸炎のときに行われる画像検査にはCT検査もあります。CT検査の特徴に関して次の段落で説明します。
CT検査
CT検査は放射線を使って全身を輪切りのような写真にして調べる検査です。検査中に台の上で数分間寝ているだけで撮影することができます、
- 皮膚がかゆくなる(蕁麻疹)
- 皮膚が赤くなる(
紅斑 ) - 喉の奥がムズムズする
- 息苦しくなる
- お腹が痛くなる
CT検査ではレントゲン検査よりも詳細に身体について調べることができます。また、数分で検査できるため非常に有用です。しかし、CT検査には被曝量が多いという弱点があります。次にCT検査の特徴について表にまとめます。
【CT検査の特徴】
良い点 | 弱い点 |
|
|
CT検査のメリット・デメリットとレントゲン検査のメリット・デメリットを踏まえながら、自分にあった検査を行うことになります。
5. 内視鏡検査
画像検査は身体の様子を直接観察することはできませんが、内視鏡検査は直接目視できるのが非常に大きな利点です。例えば、CT検査で腸管がむくんでいるかどうかはわかりますが、内視鏡検査を用いれば壁の色調の変化や出血の有無などがはっきりとわかります。また、検査しながら止血や切除などの治療も行うことができるのも特徴です。この章では、胃の様子を調べる内視鏡検査と腸の様子を調べる内視鏡検査に分けて説明します。
上部消化管内視鏡検査
急性胃腸炎が疑われた場合に、胃の症状が強い人には
上部消化管内視鏡検査は鼻や口から細い管を入れる検査です。鼻から入れるタイプのものが6mm程度で、口から入れるタイプのものが10mm程度の太さです。管の先端にカメラがついており、そのカメラを通して観察します。
口から喉の奥(咽頭〜喉頭蓋)、食道・胃・十二指腸について観察することができます。そのため急性胃腸炎の中でも胃炎や十二指腸炎の検査に有効ですし、食道炎・食道がん・胃潰瘍・胃がん・胃ポリープ・十二指腸潰瘍などについても調べることができます。
また、上部消化管内視鏡検査では、胃や十二指腸に
- 出血があった場合の止血
- アニサキスや魚の骨などの異物の除去
- 病変があった場合の組織の採取(顕微鏡で診断するための組織)
- 切り取れる
腫瘍 の切除
観察して状況から必要と判断された場合には、これらの治療もあわせて行います。
下部消化管内視鏡検査
急性胃腸炎の中でも腸炎が疑われた場合には
下部消化管内視鏡検査では肛門から細い管を入れます。管の太さは10-13mmのものが多く、胃カメラより少し太いくらいです。管の先端にはカメラがついていて観察することができます。
肛門から直腸、S字結腸、大腸へと進みながら観察しますが、便があるとうまく観察できません。そのため、便がある場合には下剤を用いたりしながら検査の前に腸の中身を空にする必要があります。下痢がひどかったり嘔吐がひどかったりすると、検査前の処置が難しくなります。便が多く残っているときは行えない検査ですので、検査前の状況判断が重要です。
下部消化管内視鏡検査は胃カメラと同じく、必要の際に処置も行うことができます。行うことのできる主な処置は以下になります。
- 出血があった場合の止血
- アニサキスや魚の骨などの異物の除去
- 腸管にこびりついている異物の採取
- 病変があった場合の組織の採取(顕微鏡で診断するための組織)
- 切り取れる腫瘍の切除
下部消化管内視鏡検査は胃カメラよりもしんどい検査ですので、症状の重さや体調を鑑みて、行うべきと判断された場合にのみ行う検査になります。
6. 便検査
急性胃腸炎の際に便を検査することは非常に重要です。便を調べることで胃腸炎の原因が何かわかることも多いです。便を調べることでわかるものは主に次の3つです。
- 便中の
白血球 - 便中の
赤血球 - 便中に存在する異物(
細菌 、寄生虫など)
これらの数や割合を調べることで原因が少しずつ分かってきます。
通常は便中に白血球が多く存在することはありません。便中に白血球が存在した場合には、感染などの腸管に炎症が起こっている状態が示唆されます。また、便中に赤血球が存在する場合も腸管の炎症が示唆されます。
便中に存在する異物に関しては次の章で詳しく説明します。
7. 細菌学的検査
感染によって急性胃腸炎が起こったときに細菌学的検査が行われることがあります。細菌学的検査は主に塗抹検査と
塗抹検査
塗抹検査とは得られた
便の中にはたくさんの常在菌がいます。そのため、便の中に細菌が見つかっても異常とはいえません。本来は存在しない細菌が見つかった場合には異常と判断できますが、常在菌と見た目が似ている細菌は簡単には判断できません。便塗抹検査は見た目が特殊な細菌や寄生虫(虫卵)を見つけるのに有効です。
- カンピロバクター
- 回虫
- 蟯虫
- 鞭虫
- 糞線虫
- 肺吸虫
- 肝吸虫
- 赤痢アメーバ
- ランブル鞭毛虫
これらの微生物が便中に見えた場合は診断の大きな手がかりとなります。また、塗抹検査は時間がかからないことも大きなメリットです。
培養検査
培養検査は得られた検体を
また、入院した人の下痢では培養検査はほとんど役に立たないと考えられています。原因には次のことが考えられます。
- 培養検査の結果の解釈が難しい
- 入院患者の下痢の原因となる細菌は、ほとんどがクロストリジウム・ディフィシルである(特に入院してから72時間以上経っている場合)
入院患者の下痢に関しては、培養検査よりもCDトキシン検査やGDH検査を行う場合がほとんどです。
遺伝子検査
便を用いて遺伝子検査を行う場合があります。PCR法が最も有名ですが、微生物の本来持つであろう遺伝子が便の中に存在するかを調べます。ノロ
遺伝子検査は微生物の特定に威力を発揮する一方で、すでに死んでしまっているような微生物でも存在を見つけてしまうことに注意が必要です。つまり、「感染を起こしているわけではないが存在している微生物」や「もうすでに死んでいる微生物」も検査で陽性となるため、本当に感染を起こしているのはどれなのかを考える必要があります。
細菌検査の解釈の仕方
便を用いた細菌検査は解釈が非常に難しいことがあります。どんな場面でも最も大切なのは問診と身体診察です。つまり、流行状況や持病といった背景を踏まえながら、どんな症状がいつから出ているのかをしっかりと把握することが大切です。医療機関を受診した際には、自分の状況をしっかりと伝えるようにして下さい。