はいがん(げんぱつせいはいがん)
肺がん(原発性肺がん)
肺にできたがん。がんの中で、男性の死因の第1位
29人の医師がチェック 357回の改訂 最終更新: 2024.10.08

肺腺がんの治療:手術、薬物療法、放射線治療

肺がんにはいろいろな種類があります。肺腺がんは肺がんの中で最も多いがんで、日本の肺がんの半数前後を占めます。
肺がんの治療には、3大治療法として手術療法(外科的治療)・薬物療法(抗がん剤など)・放射線療法があります。肺腺がんに対しては、その中でも抗がん剤と放射線療法は効きにくいことが分かっています。
肺がんの病期(進行度)にあわせて、この3つの治療法から最も適切な治療法を選択することになりますが、なかでも手術療法が最も治療成功率が高いため、手術が可能な状態であれば手術が行われることが多いです。

1. 肺腺がんに対する手術療法

肺腺がんの特徴

肺腺がんに対して最も治療成績が良いのが手術療法です。ただし、当然身体への負担の大きい治療ですので、誰でも行えるわけではありません。また、病気の進行度によっても、手術をすることでかえって良くない状態になる場合もあります。手術を行えるかどうかは慎重に判断する必要があるのです。どのような人が手術を受けられるかや、手術方法の詳細については「肺がんの手術」のページを参考にしてください。

2. 手術ができない場合の治療法:薬物療法、放射線療法

手術を行えない場合は、薬物療法や放射線療法を行って治療していくことになります。また、薬物療法や放射線療法も身体への負担が大きすぎて行えない場合は、肺がんによる症状を和らげる緩和療法のみを行うことになります。

肺腺がんに対する化学療法

肺腺がんに対する薬物療法は大きくわけて「細胞傷害性抗がん薬」「分子標的薬」「免疫チェックポイント阻害薬」の3種類があります。

これらの多くの薬は状況を見ながら使い分けていくことになります。

特に以下のことは必ず考えなければなりません。

  • 全身の状態
  • がんの進行状況
  • 薬を使うことで予想される副作用の忍容性(どのくらい身体が副作用に耐えられるのか)
  • がんの持っている遺伝子の状況

肺腺がんに対する放射線療法

肺腺がんは放射線療法が比較的効きにくいことがわかっていますが、全身の状態などから考えて十分メリットがあると判断された場合には放射線療法が行われます。

放射線療法には、放射線の当たった細胞を死滅させる力がありますが、狙った細胞だけ死滅させることが難しいという欠点があります。つまり、放射線は直進する性質があるので、放射線の通り道にあたる前後の細胞にもどうしても放射線が当たってしまうのです。

その欠点を解消するために、サイバーナイフ治療などの高い精度で集中して放射線を当てる方法(いわゆるピンポイント照射)が出現しました。サイバーナイフ治療は360度のいろいろな角度から放射線を当てることで、狙った部位以外の細胞に当たる放射線を分散させることができます。

しかし、サイバーナイフ治療は動くものを狙うことが苦手です。肺は呼吸によって動くため、以前はサイバーナイフ治療の対象外となっていました。近年は工夫が凝らされて、肺の呼吸による動きに同期してサイバーナイフ治療ができるようになってきています。

3. ステージごとの肺腺がんに対する治療法

肺がんの進行度はステージを用いて分類します。ステージとは、がんがどれぐらいの範囲まで広がってきているのかを画一的に評価するものです。病気の進行度を評価するのには画一的な基準があることは重要で、ステージを基準としてがんの治療法が決定されます。

ステージはステージ1からステージ4までに分かれます。肺がんではさらに細かく1A、1Bのように分けます。国際的にはローマ数字(Ⅲなど)で書き表すのが普通ですが、このサイトではアラビア数字(3など)で記載します。

ステージの分け方について詳しくは「肺がんのステージ」のページで説明しています。

肺腺がんに対する治療の大前提にあるのは、手術が可能であれば手術をすることです。これは、肺腺がんに対して比較的化学療法や放射線療法は効果を発揮しにくいからです。

肺腺がんの場合、ステージ3Aまでは手術が検討できます。ステージ3B以上に進行していると手術はできません。

それでは肺腺がんのステージごとの治療について見ていきます。肺がんの治療に関する記載も非常に細かい内容になっていますので、自分に当てはまらない部分は読み飛ばしてください。

4. 肺腺がんのステージ1-2の手術療法(外科的治療)

手術が最も成績の良い治療になりますので、手術可能であれば手術を行うことになります。

とはいえ、肺を手術で切り取ると手術後の呼吸機能への影響は大きいです。そこで、正常な肺をなるべく残せるよう、縮小手術といって小さく切り取る方法があります。がんの大きさが2cm以下のときや、2-3cmでもリンパ節転移がない場合は、縮小手術も可能です。また、ステージが1期の肺がんに対しては、胸腔鏡下の手術(内視鏡手術)も検討できます。

手術をしたあとどれぐらい生きられるかは統計から平均値が出ています。ステージ1・2期全体の5年生存割合は7割です。

ステージが進行すればするほど、どうしても治癒率が下がってしまいます。そのため、手術後に薬物療法を行う場合があります。

ステージ1の術後化学療法

肺がんが2cm以下の場合には手術後は経過観察になります。2cmより大きい場合には、手術後からテガフール・ウラシル配合剤(UFT)を基本的には飲むことになります。飲む期間に関しては1年間か2年間になるのですが、2年間のほうが治療効果が高いという報告があり、副作用に問題がなければ手術後から2年間飲むのが良いと思われます。ただし超高齢者やEGFR遺伝子変異が陽性の人などは服薬を避けることもあり、ステージ1期でも特に初期のことでは飲まないこともあるなど、実際の判断はケースバイケースになります。

ステージ2の術後化学療法

ステージ2の肺がんを手術した後に化学療法を行うほうが成績が良いとされています。手術後の化学療法にはシスプラチンという抗がん剤を含めた2種類の抗がん剤を点滴します。特にシスプラチン+ビノレルビン(CDDP+VNR)は治療成績が良く、多くの人に使われます。シスプラチンを含めた化学療法は3-4週ごとに4回を原則として行います。

肺腺がんの場合、EGFR変異やALK変異という遺伝子変異がみつかることがあります。その場合には、それぞれオシメルチニブ(EGFR-TKI製剤)、アレクチニブ(ALK-TKI製剤)という分子標的薬が有効であるという報告がでてきており、用いられはじめています。

肺腺がんのステージ1-2で手術ができない場合の治療

体力の問題や呼吸機能の問題などで手術ができない人には放射線療法を行います。放射線療法により肺がんを根絶させることを目指します。

5. 肺腺がんのステージ3の手術療法(外科的治療)

手術を行えるのであれば手術で治療を検討することになります。ステージ3A期と呼ばれる状態は手術が検討できますが、もう少し進行した3B期と3C期では手術を行うことはできません。

手術を行う場合も、手術前に化学療法(抗がん剤)か化学放射線療法(抗がん剤+放射線療法)を行うことで、腫瘍をできるだけ小さくして切除することがあります。

手術を行う前に化学療法か化学放射線療法を行ったほうが治療成績が良いという報告があります。この報告では手術前に化学療法や化学放射線療法を行う方が生存率が良いとされていますが、術前治療は身体への負担を増すことも確かです。そのため体調とがんの勢いを見ながら治療法を決定します。

ステージ3の術後化学療法

手術後に化学療法を行う場合にはシスプラチンという抗がん剤を含めた2種類の抗がん剤を点滴します。特にシスプラチン+ビノレルビン(CDDP+VNR)は治療成績が良く、多くの人に使われます。シスプラチンを含めた化学療法は3-4週ごとに4回ほど行います。

肺腺がんの場合、EGFR変異やALK変異という遺伝子変異がみつかることがあります。その場合には、それぞれオシメルチニブ(EGFR-TKI製剤)、アレクチニブ(ALK-TKI製剤)という分子標的薬が有効であるという報告がでてきており、用いられはじめています。

肺腺がんのステージ3で手術ができない場合の治療

腫瘍の進展の問題や呼吸機能の問題などで手術ができない人には、化学療法と放射線療法を行います。化学療法は色々なものを使いますが、多く使われるのは次のものです。

  • カルボプラチン(CBDCA)単独
  • シスプラチン+ビノレルビン(CDDP+VNR)
  • カルボプラチン+パクリタキセル(CBDCA+PTX)
  • シスプラチン+ドセタキセル(CDDP+DTX)
  • シスプラチン+S-1 (CDDP+S-1)

また、体調や全身状態から化学療法が使えない場合は放射線療法を単独で行います。この場合の放射線療法は週に5回の治療を6週間続ける、程度のことが多いです。放射線治療と化学療法を同時に行った場合には、その後の再発予防にデュルバルマブ(イミフィンジ®)という免疫チェックポイント阻害薬の点滴を4週間ごとに最長1年行います。

6. 肺腺がんのステージ4の初回治療(一次療法)を選ぶ基準

ステージ4では、肺がんのある側の肺以外に転移がある状態です。ステージ4になると手術をすることは基本的にできません。しかし、化学療法を行うと生存率が改善することがわかっており、薬物療法を行うことは多いです。

ステージ4の治療の選び方は非常に複雑です。最初に治療選択の基準とされるポイントを説明しますので、自分に当てはまるものを見つけて読んでください。

治療を選ぶ基準1:PSー全身の状態を表す指標

薬を選ぶためにPS(Performance Status、パフォーマンスステータス)が基準とされます。PSは全身の状態を数字で表す指標です。0-4の5段階で評価され、0が最も良く4が最も衰弱した状態になります。

  • PS 0:全く問題なく日常生活ができる
  • PS 1:軽度の症状があり激しい活動は難しいが、歩行可能で、軽作業や座って行う作業はできる
  • PS 2:歩行でき身のまわりのことは全て行えて日中の50%以上はベッド外で過ごすが、時に多少の介助を要する
  • PS 3:自分の身のまわりのことは限られた範囲しか行えず、日中の50%以上をベッドか椅子で過ごす
  • PS 4:自分の身のまわりのことは全くできず、完全にベッドか椅子で過ごす

治療を選ぶ基準2:遺伝子検査ー遺伝子変異と分子標的薬

ステージ4の治療は薬物療法が中心になります。

がんには特定の遺伝子変異(EGFR遺伝子変異やALK遺伝子変異など)がみられることがあります。条件が合えば、その遺伝子変異をターゲットにした分子標的薬を使用することができます。分子標的薬の多くは飲み薬で、従来の抗がん剤とは異なった働く仕組みと、副作用があります。

  • EGFR遺伝子の変異があるときに使える薬(EGFR-TKI
    • ゲフィチニブ(イレッサ®)
    • エルロチニブ(タルセバ®)
    • アファチニブ(ジオトリフ®)
    • オシメルチニブ(タグリッソ®)
    • ダコミチニブ(ビジンプロ®)
  • ALK融合遺伝子があるときに使える薬(ALK-TKI
    • クリゾチニブ(ザーコリ®)
    • アレクチニブ(アレセンサ®)
    • セリチニブ(ジカディア®)
    • ロルラチニブ(ローブレナ®)
    • ブリグチニブ(アルンブリグ®️)
  • ROS1融合遺伝子のある場合に使う薬
    • クリゾチニブ(ザーコリ®)
    • エヌトレクチニブ(ロズリートレク®)
  • BRAF V600E遺伝子に変異のある場合に使う薬
    • ダブラフェニブ(タフィンラー®)
    • トラメチニブ(メキニスト®)
  • MET遺伝子変異のある場合に使う薬
    • テポチニブ(テプミトコ®)
    • カプマチニブ(タブレクタ®)
  • RET遺伝子変異のある場合に使う薬
    • セルペルカチニブ(レットヴィモ®)

以上の遺伝子変異がある肺がんであれば、最初の治療薬として分子標的薬が考慮されます。一方で、以下の遺伝子変異がある場合には、ほかの治療を行ってもがんが進行してしまっている場合に、2つ目の治療として考慮されます。

  • KRAS G12C遺伝子変異のある場合に使う薬
    • ソトラシブ(ルマケラス®)
  • NTRK遺伝子変異のある場合に使う薬
    • エヌトレクチニブ(ロズリートレク®)
    • ラロトレクチニブ(ヴァイトラックビ®)
  • HER2遺伝子変異のある場合に使う薬
    • トラスツズマブ デルクステカン(エンハーツ®)

近年は肺がんの遺伝子異常とそれらに対する薬剤(分子標的薬)の開発が肺腺がんの領域では非常にホットな話題となっています。

治療を選ぶ基準3:PD-L1の発現率 ーPD-L1発現率と免疫チェックポイント阻害薬

 本来体内には、がん細胞などを異物として攻撃するリンパ球T細胞という免疫機能があります。しかし、がん細胞は自らPD-1リガンド(PD-L1)という物質を作り出し、リンパ球T細胞の表面にあるPD-1という受容体に結合させることで、リンパ球の活性化を抑えてしまいます。これにより、がん細胞は免疫反応から回避でき、がん細胞の増殖が行われてしまいます。

PD-1やPD-L1に対するモノクロナール抗体を用いた免疫チェックポイント阻害薬は、PD-1とPD-1リガンドとの結合を阻害し、がん細胞により不応答となっていた抗原特異的T細胞を回復・活性化することで抗腫瘍効果をあらわす薬です。

どのくらいの割合のがん細胞にPD-L1が出ているか(PD-L1発現率)で、PD-1やPD-L1に対するモノクロナール抗体を用いた免疫チェックポイント阻害薬の効きやすさが変わってきます。PD-L1発現率は治療薬の選択の参考になります。

7. 肺腺がんのステージ4(遺伝子変異陽性)の初回治療(一次療法)

EGFR遺伝子変異のあるPS 0-1の人

EGFR遺伝子変異の中にもさまざまな変異の種類がありますが、ここでは頻度の高いエクソン19欠失、L858Rという変異がある場合の治療について示します。

  • オシメルチニブ(EGFR-TKI製剤)単剤
  • エルロチニブ(EGFR-TKI製剤)+ベバシズマブ/ラムシルマブ(血管新生阻害薬)
  • オシメルチニブ(EGFR-TKI製剤)+カルボプラチン+ペメトレキセド(抗がん剤)
  • ゲフィチニブ(EGFR-TKI製剤)+カルボプラチン+ペメトレキセド(抗がん剤)
  • ダコミチニブ(EGFR-TKI製剤)
  • ゲフィチニブ(EGFR-TKI製剤)単剤
  • エルロチニブ(EGFR-TKI製剤)単剤
  • アファチニブ(EGFR-TKI製剤)単剤

近年ではオシメルチニブを選択することが一般的ですが、さまざまな治療選択肢があります。エクソン19欠失、L858R以外のEGFR変異がある場合にもEGFR-TKI製剤が有効とされており、アファチニブが効果を示すことがわかっています。

EGFR遺伝子変異のあるPS 2の人

状態がやや悪い人(歩行可能で日中の半分以上はベッド以外で生活しているが、時に介助を要する状態の人)の中でもEGFR遺伝子変異のある場合についてです。やや状態が悪いため、副作用に注意して慎重に治療薬を選択することになります。

EGFR-TKI製剤が有効とされており、中でもゲフィチニブやエルロチニブの有効性が報告されています。

EGFR遺伝子変異のあるPS 3-4の人

非常に全身状態の悪い人で、EGFR遺伝子変異がある場合です。PSが3か4の人にとっては化学療法が重い負担になりやすいのですが、EGFR遺伝子変異がある場合は、ゲフィチニブを使用しても良いことになっています。

しかし、ゲフィチニブによる副作用(特に間質性肺炎)が出やすいため慎重に様子を見ていく必要があります。

ALK遺伝子転座のあるPS 0-1の人

PS 0-2のEML4-ALK融合遺伝子(ALK遺伝子転座)のある人の初回治療についてです。この場合にはALK-TKIという薬が選択肢に挙がります。

  • ALK-TKI製剤
    • アレクチニブ
    • ブリグチニブ
    • ロルラチニブ
    • セリチニブ

ALK遺伝子転座のあるPS 3-4の人

全身状態の悪い人に対しては、ALK-TKI製剤の中でもアレクチニブが有効性、安全性を示しているとされています。

8. 肺腺がんのステージ4(遺伝子変異陰性)の初回治療(一次療法)

PD-L1の発現率が50%以上かつPS 0-1の人

多くのがん細胞にPD-L1が出ている(PD-L1発現率が高い)ため、比較的PD-1やPD-L1に対するモノクロナール抗体を用いた免疫チェックポイント阻害薬の効果が期待できます。

PD-1やPD-L1に対するモノクロナール抗体の単剤療法のほか、抗がん剤を組み合わせた治療も選択肢にあがります。

  • 免疫チェックポイント阻害薬単剤
    • ペムブロリズマブ
    • アテゾリズマブ
  • プラチナ製剤併用の抗がん剤+免疫チェックポイント阻害薬
    • シスプラチン/カルボプラチン+ペメトレキセド+ペムブロリズマブ
    • カルボプラチン+パクリタキセル+ベバシズマブ+ペムブロリズマブ
    • カルボプラチン+ナブパクリタキセル+アテゾリズマブ

PD-L1の発現率が50%未満かつPS 0-1の人

抗PD-1抗体や抗PD-L1抗体を用いた免疫チェックポイント阻害薬と抗がん剤を組み合わせた治療がよく用いられます。また、抗CTLA-4抗体を用いた免疫チェックポイント阻害薬を用いる治療も選択肢にあがります。

  • プラチナ製剤併用の抗がん剤+抗PD-1抗体や抗PD-L1抗体を用いた免疫チェックポイント阻害薬
    • シスプラチン/カルボプラチン+ペメトレキセド+ペムブロリズマブ
    • カルボプラチン+パクリタキセル+ベバシズマブ+ペムブロリズマブ
    • カルボプラチン+ナブパクリタキセル+アテゾリズマブ
  • プラチナ製剤併用の抗がん剤+抗PD-1抗体を用いた免疫チェックポイント阻害薬+抗CTLA-4抗体を用いた免疫チェックポイント阻害薬
    • シスプラチン/カルボプラチン+ペメトレキセド+デュルバルマブ+トレメリムマブ
  • 抗PD-1抗体や抗PD-L1抗体を用いた免疫チェックポイント阻害薬+抗CTLA-4抗体を用いた免疫チェックポイント阻害薬
    • ニボルマブ+イピリムマブ

PD-L1の発現率が1-49%の場合は、プラチナ製剤併用の抗がん剤に+抗PD-1抗体や抗PD-L1抗体を用いた免疫チェックポイント阻害薬を上乗せした治療(シスプラチン/カルボプラチン+ペメトレキセド+ペムブロリズマブ)が選択されることが多いです。

一方で、その治療の効果は、PD-L1の発現率が1%未満の場合では期待度が下がってしまいます。そのため、抗CTLA-4抗体を用いた免疫チェックポイント阻害薬を用いた治療(シスプラチン/カルボプラチン+ペメトレキセド+デュルバルマブ+トレメリムマブ、ニボルマブ+イピリムマブ)もより考慮されます。

ただし、使用する薬剤が増えれば増えるほど副作用のリスクも高まります。抗がん剤、免疫チェックポイント阻害薬にはそれぞれに特徴的な副作用があり、PD-L1の発現率や、患者さんの体力、持病などを考慮したうえで、治療を選択することになります。

PD-L1の発現率によらずPS 2の人

全身状態が悪いながらほぼ自立した生活を送れている人の治療についてです。どうしても抗がん剤の合併症が出てしまうことがあるので、治療中は特に慎重に体調管理する必要があります。軽度の介助を要する程度には全身の状態が悪いことを考慮し、単剤での治療を行うことが多くなってきます。

  • 抗がん剤単剤
    • ドセタキセル
    • パクリタキセル
    • ビノレルビン
    • ゲムシタビン

PD-L1の発現率が50%以上の場合については、抗PD-1抗体を用いた免疫チェックポイント阻害薬も選択肢になります。

  • 免疫チェックポイント阻害薬単剤
    • ペムブロリズマブ

PD-L1の発現率によらずPS 3-4の人

全身状態が悪い中さらに状態を悪化させる可能性が高いので、薬物療法は行わないほうが良いです。

9. 一度治療した後に行う肺がん治療(二次治療以降)

初回治療後、ある程度時間が経つと基本的に腫瘍は再び大きくなってくるものです。そもそも初回治療で腫瘍が全く小さくならないこともあります。そのときには二次治療へと進んでいきます(二次治療に進めるだけの体力が残っていなければ緩和ケアに専念することになります)。二次治療以降になると、一次治療で使った抗がん剤の蓄積疲労を考えなくてはなりません。そのため、基本的にはプラチナ製剤を使った強い抗がん薬治療は行えません。しかし、一次治療で分子標的薬を使用した場合はプラチナ製剤を用いることができます。

二次治療以降の三次治療、四次治療・・・は非常に煩雑になりますのでここでは全てを述べることはできませんが、簡単にポイントを記します。

  • EGFR遺伝子変異があり、一次治療でオシメルチニブ以外のEGFR-TKI製剤を用いた場合
    • がん細胞そのもの、あるいは血液から腫瘍細胞を検出して、T790M変異という新たな変異が検出された場合にはオシメルチニブが推奨される
  • EGFR遺伝子変異があり、二次治療でオシメルチニブが使えない場合
    • プラチナ製剤併用の抗がん剤+抗PD-1抗体や抗PD-L1抗体を用いた免疫チェックポイント阻害薬の併用療法が有効とされている
      • カルボプラチン+パクリタキセル+ベバシズマブ+ペムブロリズマブ
      • カルボプラチン+ナブパクリタキセル+アテゾリズマブ
  • ALK遺伝子変異があり、一次治療でALK-TKI製剤を用いた場合
    • ほかのALK-TKI製剤の使用
    • プラチナ製剤併用の抗がん剤+抗PD-1抗体や抗PD-L1抗体を用いた免疫チェックポイント阻害薬の併用療法も選択肢である
      • カルボプラチン+パクリタキセル+ベバシズマブ+ペムブロリズマブ
      • カルボプラチン+ナブパクリタキセル+アテゾリズマブ
  • 上記以外の場合
    • 全身状態に応じてその他の抗がん剤が検討される
      • ドセタキセル±ラムシルマブ
      • S-1
      • ペメトレキセド
      • ナブパクリタキセル
    • 一次治療で免疫チェックポイント阻害薬を使用していなければ、免疫チェック阻害薬の使用も検討される
      • ペムブロリズマブ
      • ニボルマブ
      • アテゾリズマブ

ほかにも選択肢はあり、それまでに行ってきていない治療で、効果が期待できそうな治療法を選択することになります。

10. 転移の治療

肺がんは肺内の他部位や脳、骨、肝臓、副腎を中心に転移を起こします。なかでも脳転移は症状が特徴的であること、骨転移は骨折の危険があり痛みも強いことから要注意です。転移が起こった際の治療について簡単に説明します。

脳転移の治療

脳転移があると、手足の麻痺、話しにくさ、けいれんなどの症状をきたすことがあります。脳転移に対して、症状を和らげる目的で放射線治療を行うことがあります。

  • 脳内に転移が多数ある場合の治療
    • 脳内に多数の転移がある場合はひとつひとつを狙って放射線療法することは難しいです。そのため、全脳照射と言って、脳全体に放射線を当てることを行うことがあります。
    • 全脳照射はどうしても正常な脳細胞にも影響が出てしまうので、極力避ける方向にありますが、転移によってしびれなどの症状が出ている場合や転移によって症状が出てきそうな場合は脳全体に放射線療法を行います。
  • 4個以下ですべて3cm以下の転移が脳内にある場合の治療
    • 定位照射と呼ばれる、がんのある部位のみを狙った放射線療法を行います
    • 最近ではガンマナイフ治療やサイバーナイフ治療と言った、全方位から放射線を少しずつ照射することで正常脳細胞に極力影響が出ないように配慮した治療も行われています。

骨転移の治療

痛みが出ていたりしびれが出ていたりする場合や骨破壊が進んで骨折しそうな場合は、積極的に放射線療法を行います。また、骨を丈夫にする目的で、ゾレドロン酸(ゾメタ®)やデノスマブ(ランマーク®)という薬を注射します。

副腎転移の治療

副腎に転移した場合は、手術や放射線療法の効果がはっきりわかっていません。実際には手術が行われている場合もあります。

11. 肺腺がんでステージ4と言われたら

がんの病期分類でステージ4というと末期状態と思われる人も多いと思います。しかし、ステージ4はがんが転移しているということを指してはいますが、決して末期ということではありません。治療も行うことができます。

ステージ4の肺腺がんの余命

ステージ4は最も進行したステージです。

余命は個人差があるのでその人その人の余命を正確には当てられませんが、平均でいうとステージ4の肺がんに化学療法を行って1年生存する確率は50-60%と言われています。

ステージ4の肺腺がんに何ができるか

ステージ4の肺腺がんは手術することはできませんが、化学療法を行うことができます。また、痛みや呼吸困難感などの苦痛は緩和医療を用いて和らげることができます。

緩和医療はステージ4に限った話ではありませんが、上手に治療することで生活のしやすさが格段に変わってきます。

詳しくは「緩和医療」で説明しています。