ひんけつ
貧血(総論)
血液中で酸素を運ぶヘモグロビンが不足すること。酸欠によりふらつき、疲れやすさ、動悸を起こす。原因は出血、鉄やビタミンの不足、白血病、自己免疫疾患など
16人の医師がチェック 181回の改訂 最終更新: 2022.07.27

貧血の原因について:鉄分不足、ビタミンなどの栄養の不足、その他の病気など

貧血は血液の成分である「赤血球ヘモグロビン)」が少なくなり全身に十分な酸素を運べなくなった状態です。最も多い原因はヘモグロビンの材料である鉄分の不足です。それ以外にも貧血には多くの原因があります。

1. 貧血の原因にはどんなものがあるか

貧血の中で最も多くみられるのは鉄分不足が原因の鉄欠乏性貧血です。その他にもさまざまな原因が考えられます。

【貧血の主な原因】

  • 鉄分不足:鉄欠乏性貧血
  • ビタミンなどの栄養の不足:巨赤芽球性貧血
  • 骨髄(血液が作られる場所)の病気
  • 炎症を引き起こす病気
  • 赤血球が壊されてしまう病気・要因
  • ホルモンの不足
  • 他の病気に対する治療の副作用など

これらの原因について一つひとつ詳しく説明します。

2. 鉄分不足:鉄欠乏性貧血

ヘモグロビンの原材料である鉄分が不足すると貧血になります。鉄分が不足する原因は大きく2つに分けられます。

  • 出血により鉄分が失われる
  • 食事から摂取する鉄分が不足している

これらについて説明します。

出血により鉄分が失われる

女性は生理により日常的に出血があるため、男性よりも鉄欠乏性貧血になりやすいです。通常の生理も鉄欠乏性貧血の原因となりますが、生理の出血量が多い「過多月経」が原因で貧血がさらに進行することがあります。過多月経には子宮筋腫子宮内膜症などの病気が隠れていることがあるので、出血量が多いかもしれないと感じた人は、ためらわずに婦人科のお医者さんに相談してみてください。

そのほかにも、消化管(食べ物の通り道)からの出血が原因になることもあります。消化管からの出血は胃潰瘍、憩室出血、がんなどで起こります。男性や閉経後の女性が鉄欠乏性貧血を起こしている場合は、消化管出血が原因であることが多いです。

食事から摂取する鉄分が不足している

バランスの良い食事を摂っている人が鉄分不足になることは少ないです。しかし、極端なダイエットや偏った食事をしている人は身体に必要な鉄分が不足することがあります。

また、食事中の鉄分は胃で消化され腸で吸収されます。そのため、胃や腸の手術をしたことがある人は鉄分の吸収が悪くなって鉄不足になりやすいので、食事内容に特に注意が必要です。

そのほかにも、妊娠中は身体が必要としている鉄分の量が増えます。そのため、バランスの良い食事を心がけていても鉄分不足になってしまうことがあるので、積極的に鉄分の多い食材を取り入れるようにすると良いです。

3. ビタミンなどの栄養素不足:巨赤芽球性貧血

赤血球(ヘモグロビン)が作られる時にはビタミンB12や葉酸という栄養素が必要になります。そのため、これらの栄養素が不足すると赤血球が作られなくなって貧血になります(巨赤芽球性貧血)。

ビタミンB12は肉、魚、卵などに多く、葉酸はほうれん草などの野菜や果物に多く含まれていて、どちらも胃や腸の働きで体内に吸収されます。これらの食材が不足していたり、胃腸での吸収が不十分になったりすると巨赤芽球性貧血を起こしやすくなります。

【ビタミンB12が不足する主な原因】

  • 悪性貧血(ビタミンB12の吸収を妨げる抗体ができてしまうことによる)
  • 胃腸の病気(胃炎やクローン病など)
  • 胃腸の手術後(胃全摘後など)
  • 菜食主義

また、葉酸が不足する原因としては、過度の飲酒(葉酸の吸収を妨げることによる)や偏った食事(野菜不足)などがあります。

4. 骨髄(血液が作られる場所)の病気

血液の成分である赤血球(ヘモグロビン)は骨髄という場所で作られます。そのため、骨髄の病気で赤血球が作られなくなると貧血になります。貧血の原因となる骨髄の病気には、赤芽球癆(せきがきゅうろう)や再生不良性貧血、骨髄腫、骨髄異形成症候群MDS)、白血病などがあります。

5. 炎症を引き起こす病気

体内で強い炎症が起きると骨髄での赤血球(ヘモグロビン)の産生が妨げられます。これは炎症により鉄分が赤血球産生のために使えない状態になってしまうことで起こります(鉄の利用障害)。また、炎症で赤血球を増やすホルモンであるエリスロポエチンの量が減ったり、効果が弱くなることも要因の一つです。

このような機序で貧血を起こしうる病気には感染症自己免疫疾患関節リウマチ全身性エリテマトーデス血管炎など)、悪性腫瘍などがあります。

6. 赤血球が壊れてしまう病気・要因

骨髄で赤血球が正常に作られていても、その後壊されてしまい貧血になることがあります。赤血球が壊れてしまうことを「溶血」といいます。

溶血を起こす要因として以下のものが知られています。

【溶血を起こす要因】

過度の運動、特に長距離マラソンなどでも、足の裏の血管で赤血球が壊れることがあります。プロのスポーツ選手がなることが多いですが、一般の人でもマラソン後に一時的に溶血が起こることがあります。

7. ホルモンの不足

ホルモンの不足で貧血が起こることがあります。原因となる代表的なホルモンの一つ、エリスロポエチンは主に腎臓で作られ、骨髄での赤血球産生を促進します。慢性腎不全が進行すると、腎臓でのエリスロポエチン産生量が低下し、貧血が起こります。その他に、甲状腺ホルモンや副腎ホルモンの不足も原因となります。

8. 他の病気に対する治療の副作用など

がんの治療のために行った化学療法放射線治療が原因で貧血が起こることがあります。がんの治療はがん細胞の増殖を妨げることで効果を発揮しますが、同時に骨髄での正常細胞の増殖も妨げてしまいます。

また、非常にまれですが、がんの治療薬以外にも、抗生物質や胃薬などが原因で貧血が起こることがあります。気になることがある時はかかりつけの先生に聞いてみてください。

参考文献

・日本血液学会, 「血液専門医テキスト」, 南江堂, 2015