しんぼうさいどう
心房細動
本来一定のリズムで拍動する心房が、ぶるぶると不規則に震えることで生じる不整脈。血流が滞り心臓内に血栓を作ることで脳梗塞などの原因となる
18人の医師がチェック 150回の改訂 最終更新: 2024.07.24

心房細動に対する治療はどんなことが行われる?薬物治療、カテーテルアブレーションなど

心房細動は誰にでも起こりうる病気です。一般的に心房細動に対しては薬物治療が行われます。しかし、なかなか治らない場合や身体の状態が悪い場合には電気的除細動カテーテルアブレーション(心筋焼灼術、高周波焼灼術)などが行われます。

1. 心房細動の治療は大きく2つに分けられる:薬物治療と非薬物治療

心房細動は日本国内ではおよそ71万人ほどの罹患者がいると推定した報告がある通り、誰にでも起こりうる病気です。その症状動悸や胸部の違和感が多いですが、進行するとめまいや息切れ、意識消失などが起こります。また、心房細動は脳梗塞心不全などの重い病気を引き起こすことも分かっており、決してあなどれない病気です。

心房細動は基本的に治療が必要な病気です。治療にはまず薬が用いられますが、薬物治療の効果が乏しい場合には、電気的除細動やカテーテルアブレーション(心筋焼灼術)などの非薬物治療が行われます。

2. 心房細動の治療に用いられる薬:抗不整脈薬(レートコントロール)

心房細動は右心房において異常な電気刺激が発生することによって、心臓の鼓動が不規則に乱れます。また、心房細動があると脈がはやくなることが多いです。脈がはやくなりすぎると、心臓から全身にうまく血液が送れなくなるため、脈を落ち着かせる必要が出てきます。この脈を落ち着かせることをレートコントロールといいます。

レートコントロールは薬を用いて行います。ジギタリス製剤やβ遮断薬など多くの種類の治療薬が使用されます。

この章ではレートコントロールに用いられる治療薬の特徴について、作用機序などの難しい内容まで踏み込んで詳しく説明していきます。

ジギタリス製剤(主な商品名:ジゴシン®、ラニラピッド®など)

植物のジギタリスは古来より民間薬として使われていた歴史があり、18世紀後半にWilliam Witheringという医師によってその強心作用などが報告され、現在に至っています。(この経緯はメドレーコラム「魔女の秘薬が心臓を治す」でも紹介しています)

現在、日本ではジゴキシン(主な商品名:ジゴシン®)やメチルジゴキシン(主な商品名:ラニラピッド®)といった薬剤が使われています。

ジゴキシンなどのジギタリス製剤は、主に心筋細胞膜への作用により心筋の収縮力を増大させて強心作用をあらわすことで一般的には心不全の治療薬として使われます。

また迷走神経刺激作用、抗交感神経作用などによる徐脈をもたらしたり、刺激伝導速度の抑制などによる抗不整脈作用なども期待できるとされ、心拍数の調節などの目的で心房細動の治療の選択肢になる場合もあります。心臓の状態などにもよりますが、β遮断薬などの薬剤と併用される場合も考えられます。

ジゴキシンの製剤には錠剤以外に散剤、水剤(エリキシル)、注射剤があり用途などに合わせた選択が可能です。メチルジゴキシンは経口投与で比較した場合、ジゴキシンに比べ速やかに作用が発現する特徴があり、個人差などによっても異なりますが一般的に経口投与後約5-20分程で効果が発現すると考えられています。

ジギタリス製剤ではジギタリス中毒と呼ばれる副作用症状に注意が必要です。

主な症状として吐き気などの消化器症状、視覚症状、めまいなどの精神神経系症状などがあらわれる場合があります。一般的には血液中の薬物濃度が適正量で維持されているかをモニタリングし、必要に応じて投与量を調整するなど中毒症状へのリスクを考慮しつつ投与されます。ただし、β遮断薬やアミオダロンなどと併用することでジゴキシンの血中濃度が変動する可能性があるなど、他の治療薬との相互作用(飲み合わせ)に関しても注意が必要となります。ジギタリス製剤による治療中に吐き気や食欲不振、光がないのにチラチラ見えたり物が二重に見える、めまいや頭痛などの症状があらわれた場合は医師や薬剤師に相談するなど適切に対処することが大切です。

β遮断薬(主な商品名:アーチスト®、メインテート®、セロケン®、ロプレソール®など)

主に交感神経のβ受容体を遮断する作用をあらわす薬で、不整脈心不全慢性心不全)の他、高血圧症狭心症などの循環器系の疾患でも使われることがあります。

不整脈のひとつである心房細動においてβ遮断薬は、主に心拍数を調節(レートコントロール)する目的で使われ、心臓の負荷を軽減することで心臓を保護する効果なども期待できます。また交感神経の緊張が関わるような発作性の心房細動などに対してはリズムコントロール(洞調律維持)への有用性も考えられます。

心房細動の治療で使われるβ遮断薬はカルベジロール(主な商品名:アーチスト®)、ビソプロロール(主な商品名:メインテート®)、メトプロロール(主な商品名:セロケン®、ロプレソール®)、プロプラノロール(主な商品名:インデラル®)、ランジオロール(主な商品名:オノアクト®)などがあり、なかでもカルベジロールやビソプロロールなどは近年よく使われるβ遮断薬になっています。

カルベジロールは交感神経のβ受容体の他、α受容体などへの作用もあらわすため、αβ遮断薬と呼ばれることもあります。

ビソプロロールはβ遮断薬のなかでもレート抑制効果が高い薬とされ、β1、β2、β3といったタイプがあるβ受容体のなかでも心臓機能に深く関わるβ1受容体に対する選択性に特化した薬と考えられています。カルベジロールやビソプロロールは心房細動以外にも、慢性心不全など循環器系の多くの病態に使われる薬になっています。

カルベジロールやビソプロロールなどのβ遮断薬の注意すべき副作用としては、血圧低下によるふらつきや立ちくらみなどがあらわれることがあります。また糖や脂質代謝などに影響を及ぼす場合もあり、糖尿病や耐糖能異常などがある場合にはより注意が必要となります。β受容体のなかでβ2受容体は気管支の拡張などに関わるタイプで、β遮断作用により気管支が収縮し、咳などの呼吸器症状があらわれる場合があります。ビソプロロールをはじめとし、心房細動で使われる多くのβ遮断薬は主にβ1受容体に作用し、β2受容体への影響は比較的少ないとされていますが、気管支喘息などの持病を持っている場合には特に注意が必要です。

カルシウム拮抗薬(ワソラン®、ヘルベッサー®、ベプリコール®など)

細胞内へのカルシウムイオンの流入を阻害する作用(カルシウム拮抗作用)により、心拍数を減少させる作用や血管拡張作用などをあらわす薬です。

カルシウムイオン(Ca2+)は体内で骨の形成に使われる他、心筋や血管平滑筋の収縮に関わるシグナルとしての役割ももっています。心筋や血管平滑筋が収縮するにはカルシウムイオン(Ca2+)の細胞内への流入が必要で、カルシウムチャネルという通り道からCa2+は細胞内へと流入します。カルシウム拮抗薬はこのカルシウムチャネルへ作用し、細胞内へのCa2+の流入を抑える薬になります。

カルシウム拮抗薬にはジヒドロピリジン系(アムロジピン、ニフェジピンなど)といって血管への選択性が高く高血圧治療薬として使われることが多い薬もありますが、心房細動の治療で主に使われるのは、ベラパミル(主な商品名:ワソラン®)やジルチアゼム(主な商品名:ヘルベッサー®)などの一般的にジヒドロピリジン系に分類されるカルシウム拮抗薬です。

ベラパミルやジルチアゼムは心臓へ選択的に作用し、心拍数を調節(レートコントロール)することで心房細動などの頻脈不整脈狭心症などの治療に使われています。また、心拍数を減少させることで心筋の虚血状態や高血圧状態などにおける心臓の負担を軽減する効果も期待できます。

一方、心抑制作用をあらわすことから、心不全や高度な徐脈などを伴う場合では病態を悪化させる可能性があるため一般的に使用を控える必要があります。またジヒドロピリジン系の薬剤に比べると血管への選択性は少ない傾向にありますが、末梢血管拡張作用などによる血圧低下やふらつきには注意が必要です。その他、頭痛、消化器症状、浮腫、歯肉肥厚などにも注意が必要です。

カルシウム拮抗薬による治療中にグレープフルーツを摂取すると、薬の代謝が阻害されることで薬剤成分が血液中に残りやすくなり、過度に薬の効果があらわれる可能性などが考えられます。この相互作用の強弱は薬剤によっても異なり、例えばベラパミルでは過度でないにしろ薬剤成分の血中濃度が上昇した報告があります。同じ柑橘系でもみかん(温州みかん)に関しては問題ないとされているなど柑橘類の種類によっても薬剤への影響は異なることがあります。そのため、日頃から柑橘系の食物を摂取する機会が多い場合は、医師や薬剤師から事前に相互作用(飲み合わせ)の有無や注意事項などをよく聞いておくことも大切です。

◎ベプリジルに関して

心房細動の治療ではベプリジル(商品名:ベプリコール®)という不整脈治療薬(抗不整脈薬)が使われる場合もあります。

ベプリジルはもともと海外で1969年にカルシウム拮抗薬として開発された経緯をもち、当初は主に狭心症の治療薬として使われていましたが、その作用はカルシウムチャネルを抑えるだけでなく、心筋の収縮に関わるカリウムイオン(K+)やナトリウムイオン(Na+)といった他のイオンチャネルに対しての抑制作用も確認されています。このような作用の仕組みをもつためベプリジルは、心拍数の調節や冠動脈などの血管拡張作用による心筋の酸素需給のバランスを改善するだけでなく、心房筋や心室筋などへの作用や心房の不応期を延長させるなどの作用によって頻脈性の不整脈を治療する薬としても有用とされています。

日本におけるベプリジルは発売当初、頻脈性不整脈狭心症の薬として保険承認されましたが、2008年に、一週間以上続くような持続性心房細動の治療薬としても追加承認されています。

ATP製剤

ATP(Adenosine triphosphate:アデノシン三リン酸)という物質を主成分とする製剤です。ATP自体は体内に広く存在し、体内に必要なエネルギーを供給する物質として重要な役割を担っています。また、ATPには血管拡張作用があり、臓器の血流を増やしたり組織の代謝を活性化させ、臓器や組織の機能改善効果などが期待できます。

ATP製剤の用途は、めまいや耳鳴り・難聴眼精疲労による眼症状や頭痛など、頭部外傷後の後遺症による頭痛などといったように幅広く、心不全などの循環器領域の治療で使われる場合もあります。不整脈の治療という面でも、ATPは多くの不整脈の治療や診断で使われ、例えば発作性の上室性頻拍では、この頻拍の停止薬としてATPの注射剤が有用です。その他、上室性頻拍鑑別診断上室性頻拍や心房細動などに対するカテーテルアブレーションの評価などに対してもATPは有用とされています。

ATP製剤における注意すべき副作用には、吐き気などの消化器症状、頭痛などの精神神経系症状などがあります。また一時的な心悸亢進作用(冠血管の拡張や心拍出量増加など)があらわれたり、気管支の痙攣が引き起こされたという報告もあり、特に頻拍などの治療で用いられる急速な静注投与の際にはより注意とされています。

3. 心房細動の治療に用いられる薬:抗不整脈薬(リズムコントロール)

上記のレートコントロールと異なる方法で心房細動を治療する方法があります。心房細動で乱れた脈を整えることで、正しいリズムに戻す治療です。これをリズムコントロールと言います。

リズムコントロールにはさまざまなタイプの治療薬が用いられます。各々にはメリットとデメリットがあるため、それらを踏まえながら自分に適した治療薬が選ばれます。

この章ではリズムコントロールに用いられる治療薬の特徴を、専門的な内容まで含めて詳しく説明していきます。

◎抗不整脈について

心筋の細胞は陽イオンの電荷の移動がシグナルとなって収縮します。主にナトリウムイオン(Na+)、カルシウムイオン(Ca2+)、カリウムイオン(K+)といった陽イオンがそれぞれの通り道であるイオンチャネルを通って移動(出入り)することで活動電位という一連の反応が起こり心筋が収縮し、心臓の拍動が起こります。心臓の振動が末梢血管に伝わったものを脈(脈拍)と呼びますが、心房細動などの不整脈ではなんらかの理由によってこの脈のリズムが乱れています。

一般的に抗不整脈薬と呼ばれる薬の多くは、心筋細胞の収縮においてシグナルとなっているイオンの通り道であるイオンチャネルに作用し、活動電位を調節することで抗不整脈作用をあらわします(その他、交感神経に関わるβ遮断薬なども抗不整脈薬として使われます)。また、例えばNaチャネルを遮断する薬であっても、薬剤によっては他のイオンチャネルに対しても遮断作用を有するなど、個々の薬剤によって特徴が少しずつ異なる場合があります。

ピルシカイニド(主な商品名:サンリズム®)

ピルシカイニドは、心臓の活動電位に関わるナトリウムイオン(Na+)の通り道であるナトリウムチャネルを遮断(ブロック)する薬で、心筋細胞へのNaイオンの流入を抑えることで興奮性を抑える効果などが期待できます。

不整脈薬は、心筋細胞の電気活動を抑える仕組みなどによって一般的にI〜IVの4群に分類(Vaughan Williams(ボーン=ウィリアムス)分類)されます。詳しくは割愛しますが、ピルシカイニドはこの分類でI群(Naチャネル遮断薬)に含まれ、そのなかでもIc群という活動電位の持続時間は変えないなどの特徴をもつ薬剤になります。

Naチャネル遮断薬のなかには他のイオンチャネルなどへの作用をもつ薬もありますが、ピルシカイニドは純粋にNaチャネルを遮断する薬と考えられていて、心臓の肥大や心不全などの基礎心疾患がない病態における心房細動の除細動や再発予防などの選択肢になっています。急性期には主に注射剤が使われ、日頃のリズムコントロールには主に内服薬(飲み薬)が使われますが、日常で起こる発作性の心房細動などに対して内服薬を頓服(頓用)で使う場合も考えられます。

注意すべき副作用としては、めまいや頭痛などの精神神経系症状、吐き気や胃痛などの消化器症状、発疹などの皮膚症状などがあります。

ピルシカイニドに限ったわけではないですが、一般的に抗不整脈薬には催不整脈作用といって不整脈をかえって引き起こす可能性もあります。抗不整脈薬による治療では通常、個々の薬剤による薬理作用をしっかりとふまえた上でそれぞれの病態に合わせた薬が使われるため、催不整脈作用があらわれることは非常に稀と考えられますが注意は必要です。また、抗不整脈薬以外にも催不整脈作用をあらわす薬や抗不整脈薬との相互作用(飲み合わせ)に注意が必要な薬などがあり、これらの薬を併用する場合にはより注意が必要です。併用薬の注意なども含めて医師や薬剤師から説明をよく聞いておくことが大切です。

フレカイニド(主な商品名:タンボコール®)

フレカイニドは、心臓の活動電位に関わるナトリウムイオン(Na+)の通り道であるナトリウムチャネルを遮断(ブロック)する薬で、心筋細胞へのNaイオンの流入を抑え興奮性を抑える効果などが期待できます。

不整脈薬は、心筋細胞の電気活動を抑える仕組みなどによって一般的にI〜IVの4群に分類(Vaughan Williams(ボーン=ウィリアムス)分類)されます。詳しくは割愛しますが、フレカイニドはこの分類でI群(Naチャネル遮断薬)に含まれ、そのなかでもさらにIc群(活動電位の持続時間を変えない)という種類に分けられますが、Naチャネル以外にも若干Kチャネルへも作用する(弱いKチャネル遮断作用を有する)薬とされています。

心房細動の治療では他の同類のNaチャネル遮断薬と同じように除細動や再発予防などの選択肢になっています。剤形として注射剤と内服薬(飲み薬)の剤形があり、内服薬は主に日常のリズムコントロールに使われますが、発作時に頓服(頓用)で使われることも考えられます。またフレカイニドは2009年に子どもの不整脈治療に対しても保険承認されたこともあり、内服薬には錠剤の他に散剤(細粒剤)もあり、子どもへの投与において用量調整を行う場合や嚥下(飲み込み)機能が低下している場合などの選択肢としても有用です。

注意すべき副作用としては、めまいや頭痛などの精神神経系症状、吐き気や腹痛などの消化器症状、肝機能障害などです。

フレカイニドに限ったわけではないですが、一般的に抗不整脈薬には催不整脈作用といって不整脈をかえって引き起こす可能性もあります。抗不整脈薬による治療では通常、個々の薬剤による薬理作用をしっかりとふまえた上でそれぞれの病態に合わせた薬が使われるため、催不整脈作用があらわれることは非常に稀と考えられますが注意は必要です。また、抗不整脈薬以外にも催不整脈作用をあらわす薬や抗不整脈薬との相互作用(飲み合わせ)に注意が必要な薬などがあり、これらの薬を併用する場合にはより注意が必要です。フレカイニドでは一部の抗ウイルス薬や、過活動膀胱などの治療で近年よく使われるミラベグロン(商品名:ベタニス®)などの薬との相互作用に特に注意が必要です。併用薬の注意なども含めて医師や薬剤師から説明をよく聞いておくことが大切です。

ジソピラミド(主な商品名:リスモダン®)

ジソピラミドは、心臓の活動電位に関わるナトリウムイオン(Na+)の通り道であるナトリウムチャネルを遮断(ブロック)する薬で、心筋細胞へのNaイオンの流入を抑え興奮性を抑える効果などが期待できます。

不整脈薬は、心筋細胞の電気活動を抑える仕組みなどによって一般的にI〜IVの4群に分類(Vaughan Williams(ボーン=ウィリアムス)分類)されます。詳しくは割愛しますが、フレカイニドはこの分類でI群(Naチャネル遮断薬)に含まれ、そのなかでもさらにIa群という種類に分けられます。ジソピラミドをはじめとし、このIa群に含まれる薬の多くはKチャネルへの遮断作用も合わせ持ち、活動電位の持続時間を延長させるなどの特徴をもつ薬剤になります(その他、ジゾピラミドには心房筋のCaチャネルへの抑制作用なども考えられています)。このようにジソピラミドはいくつかの作用の仕組みをもっていることもあり、迷走神経の関わりがあるような発作性心房細動などへも有用とされています。また、ジソピラミドは抗コリン作用(神経伝達物質アセチルコリンの働きを抑える作用)をあらわし、夜間などの副交感神経が比較的優位な状態で起こるような心房細動に対しての有用性も考えられます。一方で抗コリン作用によって口渇、便秘排尿障害、眼圧上昇などの症状があらわれることがあり、前立腺肥大や緑内障などの持病がある場合は特に注意が必要です。その他、ジソピラミドで注意すべき副作用には、頭痛やめまい、しびれ感などの精神神経系症状、肝機能障害、血圧低下、低血糖などがあります。

ジソピラミドに限ったわけではないですが、一般的に抗不整脈薬には催不整脈作用といって不整脈をかえって引き起こす可能性もあります。抗不整脈薬による治療では通常、個々の薬剤による薬理作用をしっかりとふまえた上でそれぞれの病態に合わせた薬が使われるため、催不整脈作用があらわれることは非常に稀と考えられますが注意は必要です。また、抗不整脈薬以外にも催不整脈作用をあらわす薬や抗不整脈薬との相互作用(飲み合わせ)に注意が必要な薬などがあり、これらの薬を併用する場合にはより注要です。

ジソピラミドでは一部の抗菌薬などとの相互作用に注意が必要で、この中にはアミオダロンやβ遮断薬といった不整脈治療で使われる薬も含まれます。併用薬の注意なども含めて医師や薬剤師から説明をよく聞いておくことが大切です。

他の抗不整脈薬と同様にジソピラミドの剤形には注射剤と内服薬(飲み薬)があり、内服薬にはカプセル剤(通常、1日3回服用)の他に徐放性製剤(通常、1日2回服用)(主な商品名:リスモダン®R錠)の剤形(剤型)もあり、病態などに合わせて選択されています。

アプリンジン(主な商品名:アスペノン®)

アプリンジンは、心臓の活動電位に関わるナトリウムイオン(Na+)の通り道であるナトリウムチャネルを遮断(ブロック)する薬で、心筋細胞へのNaイオンの流入を抑え興奮性を抑える効果などが期待できます。

不整脈薬は、心筋細胞の電気活動を抑える仕組みなどによって一般的にI〜IVの4群に分類(Vaughan Williams(ボーン=ウィリアムス)分類)されます。詳しくは割愛しますが、アプリンジンはこの分類でI群(Naチャネル遮断薬)に含まれ、その中でもさらにIb群という種類に分けられます。Ib群の抗不整脈薬は一般的に活動電位の持続時間を短くするなどの特徴をもつ薬になりますが、アプリンジンは中程度のNaチャネル遮断作用をもつことなどから一般的なIb群の薬とは少し異なる特徴ももっています。リドカインやメキシレチンなどのIb群の薬が主に心室性不整脈に使われるのに対し、アプリンジンは上室性と心室性の両方の不整脈に対して適応をもち、心機能抑制効果も比較的軽度という特徴があります。またアプリンジンはNaチャネルの遮断作用だけでなく、Caチャネルなどの他のイオンチャネルに対する作用もあるとされ、これらの作用により心房筋と心室筋の各活動電位相に影響をもたらすことで抗不整脈作用をあらわすと考えられています。心房細動の治療においては7日以上続くような持続性の心房細動などへの有用性が考えられています。

アプリンジンで注意すべき副作用としては、吐き気や下痢などの消化器症状、めまいやしびれ感などの精神神経系症状、貧血などの血液症状、肝機能障害などです。

アプリンジンに限ったわけではないですが、一般的に抗不整脈薬には催不整脈作用といって不整脈をかえって引き起こす可能性もあります。抗不整脈薬による治療では通常、個々の薬剤による薬理作用をしっかりとふまえた上でそれぞれの病態に合わせた薬が使われるため、催不整脈作用があらわれることは非常に稀と考えられますが注意は必要です。また、抗不整脈薬以外にも催不整脈作用をあらわす薬や抗不整脈薬との相互作用(飲み合わせ)に注意が必要な薬などがあり、これらの薬を併用する場合にはより注要です。

アプリンジンは抗不整脈薬と呼ばれる薬のなかでも比較的、相互作用への懸念が少ない薬ではありますが、併用注意とされている薬のなかにはジルチアゼムやベラパミルなどの不整脈だけでなく他の循環器疾患で使われる薬も含まれます。併用薬の注意なども含めて医師や薬剤師から説明をよく聞いておくことが大切です。

シベンゾリン(主な商品名:シベノール®)

シベンゾリンは、心臓の活動電位に関わるナトリウムイオン(Na+)の通り道であるナトリウムチャネルを遮断(ブロック)する薬で、心筋細胞へのNaイオンの流入を抑え興奮性を抑える効果などが期待できます。

不整脈薬は、心筋細胞の電気活動を抑える仕組みなどによって一般的にI〜IVの4群に分類(Vaughan Williams(ボーン=ウィリアムス)分類)されます。詳しくは割愛しますが、シベンゾリンはこの分類でI群(Naチャネル遮断薬)に含まれ、そのなかでもさらにIa群という種類に分けられます。Ia群に含まれる薬の多くはNaチャネル以外にもKチャネルへの遮断作用ももっていますが、シベンゾリンはその他にCaチャネルなどへの遮断作用もあらわすとされています。心臓の肥大や心不全などの基礎心疾患がない病態における発作性の心房細動における選択肢となったり、日常の中で起こる発作に対する頓服薬としての有用性なども考えられています。またシベンゾリンは、交感神経が優位な状態で日中に起こる発作と副交感神経優位な状態で夜間に起こる発作の両方に対して有用とされ、これはシベンゾリンのもつKチャネル遮断作用やムスカリン受容体遮断作用などが関係していると考えられています。

一方でムスカリン受容体を遮断することで副交感神経の神経伝達物質であるアセチルコリンの働きを抑える抗コリン作用をあらわすため、口渇、便秘、排尿障害、眼圧上昇などの症状があらわれることがあり、前立腺肥大や緑内障などの持病がある場合は特に注意が必要です。その他、シベンゾリンで注意すべき副作用には、めまいや頭痛などの精神神経系症状、肝機能障害、低血糖などがあります。

シベンゾリンに限ったわけではないですが、一般的に抗不整脈薬には催不整脈作用といって不整脈をかえって引き起こす可能性もあります。抗不整脈薬による治療では通常、個々の薬剤による薬理作用をしっかりとふまえた上でそれぞれの病態に合わせた薬が使われるため、催不整脈作用があらわれることは非常に稀と考えられますが注意は必要です。また、抗不整脈薬以外にも催不整脈作用をあらわす薬や抗不整脈薬との相互作用(飲み合わせ)に注意が必要な薬などがあり、これらの薬を併用する場合にはより注要です。

シベンゾリンの他の薬との相互作用は抗不整脈薬のなかでは比較的少ない方ですが、例えば抗菌薬であるモキシフロキサシン(商品名:アベロックス®)などとの相互作用には特に注意が必要となっています。併用薬の注意なども含めて医師や薬剤師から説明をよく聞いておくことが大切です。

アミオダロン(主な商品名:アンカロン®)

アミオダロンは、主に心筋の収縮に関わるカリウムイオン(K+)の通り道であるカリウムチャネルを遮断(ブロック)することで不整脈を改善する作用をあらわします(Kチャネル遮断薬)。また、心筋の収縮に関わる他のイオンチャネル(ナトリウムチャネル、カルシウムチャネル)や交感神経のα受容体およびβ受容体への作用もあらわし、これら多様な作用をもつこともあり、他の抗不整脈で効果が不十分な場合などの選択肢としても有用です。アミオダロンには急性作用と慢性作用の両面での効果が期待でき、他の多くの抗不整脈薬と同様に剤形としても注射剤と内服薬(飲み薬)があります。

アミオダロンは日本では、心室細動、心室性頻拍、肥大型心筋症に伴う心房細動の治療といて承認された後、2010年に心不全(低心機能)に伴う心房細動に対しても追加承認され、持続性の心房細動などへの有用性も考えられています。

アミオダロンで注意すべき副作用には、甲状腺機能障害、間質性肺炎、角膜色素沈着、肝障害、徐脈などがあります。間質性肺炎や肺線維症などの肺関連の副作用は特に注意が必要とされ通常、胸部レントゲン胸部CT検査などを必要に応じて実施します。また肺機能の検査以外にも甲状腺機能の検査や眼科受診などを適宜行い経過観察していくことも大切です。

アミオダロンに限ったわけではないですが、一般的に抗不整脈薬には催不整脈作用といって不整脈をかえって引き起こす可能性もあります。抗不整脈薬による治療では通常、個々の薬剤による薬理作用をしっかりとふまえた上でそれぞれの病態に合わせた薬が使われるため、催不整脈作用があらわれることは非常に稀と考えられますが注意は必要です。また、抗不整脈薬以外にも催不整脈作用をあらわす薬や抗不整脈薬との相互作用(飲み合わせ)に注意が必要な薬などがあり、これらの薬を併用する場合にはより注要です。

アミオダロンは抗不整脈薬のなかでも相互作用に特に注意が必要となる薬のひとつで、例えば抗ウイルス薬や抗菌薬などのなかには原則として併用できない薬もあります。またアミオダロンは、ワルファリンカリウムなどの抗凝固薬やジギタリス製剤などの心房細動治療でも使われる薬の効果を変動させることもあり注意が必要です。併用薬の注意なども含めて医師や薬剤師から説明をよく聞いておくことが大切です。

その他の抗不整脈薬(主な商品名:プロノン®、ピメノール®、ソタコール®など)

その他、心房細動の治療に使われることが考えられる抗不整脈薬としてはプロパフェノン(主な商品名:プロノン®)、ピルメノール(商品名:ピメノール®)、ソタロール(商品名:ソタコール®)、プロカインアミド(商品名:アミサリン®)などがあります。

プロパフェノンは、ピルシカイニド(主な商品名:サンリズム®)などと同じIc群のNaチャネル遮断薬に分類される薬ですが、Naチャネル遮断作用の他に交感神経β受容体への遮断作用もあらわします。そのため交感神経の関わりがあるような発作性心房細動などへの有用性が考えられます。

ピルメノールは、ジソピラミド(主な商品名:リスモダン®)などと同じIb群のNaチャネル遮断薬に分類され心室性不整脈に保険承認されている薬です。ピルメノールは、NaチャネルやKチャネル遮断作用の他、ムスカリン受容体(神経伝達物質アセチルコリンの受容体)に対しても遮断作用をあらわします。ムスカリン受容体への作用自体は比較的弱いとされていますがこの作用の仕組みなどにより、迷走神経の関わりがあるような発作性心房細動などへの有用性も考えられています。

ソタロールはKチャネルの遮断作用と交感神経β受容体遮断作用を併せもち心室性不整脈心室頻拍心室細動)に保険承認されている抗不整脈薬ですが、虚血性心疾患に伴う心房細動の再発予防などに対する有用性なども考えられています。

ここで挙げた以外にもいつくかの抗不整脈薬が病態などに合わせて選択されています。レートコントロール(心拍数調節)の章で解説したβ遮断薬は抗不整脈薬としての一面もあり、例えば交感神経緊張型(日中)型の発作性心房細動ではリズムコントロール(洞調律維持)に対しての有用性も考えられます。

心房細動などの不整脈治療では、それぞれの病態に合わせて適切な薬剤が選択されていますが、個々の薬によっても注意すべき副作用や他の薬との相互作用(飲み合わせ)などが異なってきます。持病や体質などによっても注意事項が異なる場合もあるため、これらも含めて事前によく相談し、医師や薬剤師からしっかりと説明を聞いておくことがとても大切です。

4. 心房細動の治療に用いられる薬:抗凝固薬

抗凝固薬という名前にあるように、血液が固まる働き(血液凝固)を抑えることで血栓(けっせん)をできにくくする薬です。医療現場ではヘパリンなどの注射薬(注射剤)の他、内服薬(飲み薬)の剤形も使われています。

心房細動では規則正しい心房の収縮ができなくなり、心房内の血流によどみが起こることで血の固まりである血栓ができやすくなります。この血栓が心臓から動脈に沿って流れ、脳の血管を塞ぐことによって引き起こされるのが心原性脳塞栓症と呼ばれる脳梗塞であり、心房細動がある場合は、この脳梗塞を起こさせないために血栓をできにくくする抗凝固薬による予防が非常に重要です。

血栓予防に使われる経口(飲み薬)の抗凝固薬としては長年、ワルファリンカリウム(主な商品名:ワーファリン)が治療薬の中心を担ってきましたが、近年新しく開発された経口の抗凝固薬(Direct Oral Anticoagulantsを略してDOACと呼称する場合もあります)が登場し、治療の選択肢が広がってきています。

ワルファリン(主な商品名:ワーファリン)

経口(飲み薬)の抗凝固薬の一つで現在でも多くの人に使われている薬です。

ワルファリン(ワルファリンカリウム)は血液凝固因子(血液を固める要因となる体内物質)に関わるビタミンKの働きを抑えることで抗凝固作用をあらわす薬です。

ビタミンKは骨の形成などにも関わるビタミンですが、血液に対してはいくつかの凝固因子の生成を手助けする働きをもちます。ビタミンKが関わる血液凝固因子はプロトロンビン(第II因子)、第VII因子、第IX因子、第X因子で、これらの生成を抑えることで抗凝固作用や抗血栓作用をあらわします。

ワルファリンを飲むにあたって最初に必ず説明される注意事項の一つに「ビタミンKを多く含む食品の摂取についての注意」があります。

先ほど説明したようにワルファリンは「ビタミンKに関わる凝固因子の生成を抑えることで抗凝固作用をあらわす薬」ですので、食事などからビタミンKを多く含む食品を過剰に摂ってしまうとせっかくのワルファリンの効果が減弱してしまいます。

もちろん食品によってもビタミンKが含まれている量はかなり違いますし、ビタミンKを含む食品を絶対に食べていけないかというと、そうではありません。

ビタミンKは、ほうれん草や小松菜などの緑色の野菜に比較的多く含まれているビタミンです。しかし通常の食事で食べるくらいの量であれば多くの場合で問題ないとされています。大事なのは、偏った食事や暴飲・暴食を避けてバランスのとれた食事を摂ることです。

ただし、食材や健康食品の中には少量の中にも、かなり多くのビタミンKを含むものもあります。納豆やクロレラ、青汁などはその代表例で、これらの食品はワルファリンを服用している場合では原則として摂取を控えることになっています。

納豆自体は古来より日本人の食文化を支え健康食品としても注目されている食材なのですが、腸の中でビタミンKをかなり産生することもあり、ことワルファリンによる抗凝固療法においては薬の効果を下げるというマイナス要素が大きい食材になってしまいます。

ところで少し話は変わりますがよく「ビタミンK」と「カリウム(K)」について「同じであるか?」などの質問を受けることがあります。お互いに「K」という文字をもつため紛らわしいのですが「ビタミンKはビタミン」「カリウム(K)はミネラル」であって全く異なるものです。仮にカリウム(K)を摂ったとしても直接的にワルファリンの効果を邪魔することはありません。(ただし、カリウムは薬の排泄にも関わる腎機能に影響を与える可能性があるため、腎臓の病気で治療を受けている人などは摂取にあたって注意が必要になることがあります。)

ビタミンKはフィトナジオンやメナテトレノンといったように違う名前で呼ばれることがあります。特にメナテトレノン製剤(主な商品名:グラケー®)は骨粗しょう症の治療薬として使われているため注意が必要です。ワルファリン服用中の食事内容などに関しては事前に医師や薬剤師などとよく相談しておくことが大切です。

ビタミンKの摂取など注意すべきことはありますが、現在でもワルファリンは血栓塞栓症の治療薬として有用な薬として多くの人に使われていて、治療にかかる薬のコストが比較的安価という面もメリットの一つです。

現在(2018年8月時点)、ワルファリン以降に開発された経口の抗凝固薬(DOAC)の1錠(1カプセル)の薬価は100円をゆうに超え、1日の治療コストとして薬価計算で500円を超える場合もあります。一方でワルファリンは1錠の薬価が10円ほどです。仮にワルファリンとして1日7mgや8mgなど比較的高用量使ったとしても薬価として100円にも満たない金額です。この差は健康保険の一部負担金の支払い額としても、国の医療費を考慮したとしてもメリットと考えられます。もちろん薬剤は治療に対しての有効性が最も重要視されるところではありますが、医療現場で長期に渡って使われてきた実績なども含め総合的に考えてみてもワルファリンは「高い治療効果が期待できコスト面でのメリットも高い薬」と言えます。

ダビガトラン(商品名:プラザキサ®)

ダビガトラン(ダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩)は、ワルファリンに次ぐ経口の抗凝固薬として登場し、日本では「プラザキサ®」の名前で2011年3月から使われるようになった薬です。

ダビガトランは、血液凝固因子のひとつ、トロンビン(第IIa因子)を直接阻害することで抗凝固作用をあらわします。

この薬は通常「1日2回服用」する薬で、腎機能や併用する薬などに問題がなければ1回150mg(75mgのカプセルを2カプセル分)、1日で300mgの用量を服用します。

ダビガトランには1カプセルに110mgの薬剤が入った規格もあります。こちらは腎機能の低下がみられる場合や併用する他の薬がダビガトランの作用を過度に高めてしまう可能性がある場合などに使用が考慮され、1回110mgを1日2回、つまり1日220mgの低用量で服用するための調節用の規格になっています。

一般的に薬剤の規格が複数ある場合は、薬剤成分の含有量が高い規格がそのまま高用量を使うための規格になることが多いのですが、ダビガトランは含有量が低い規格を複数(75mgを1回に2カプセル)使うことで高用量の使用を実施するという薬剤になっています。

ダビガトランには抗凝固薬の服用により懸念される頭蓋内出血の発症が少なかったという臨床試験の結果などもあり、有用性が高い薬とされています。ただし高度な腎機能障害をもつ場合などにおいて特に出血のリスクが懸念され、注意すべき事項のひとつになっています。

服薬に関してのマイナス面をあえて挙げると「カプセル剤が大きい」という点でしょうか。プラザキサ®カプセルでは、小さい方の75mgカプセルでも「長さが約18mm・直径が約6mmほど」あります。DOAC製剤のなかでも薬剤の大きさが小さいリバーロキサバン製剤のイグザレルト®錠が「直径6mm・厚さ2.8mgほど」で、実際に手に取って見てみると大きさの違いはかなり感じます。もちろん小さければ必ずしも良い・・・というわけではないですが、錠剤やカプセルの大きさが大きいと特に嚥下(飲み込み)機能が低下した人にとっては飲みにくいことが予想されます。

また、プラザキサ®カプセルは吸湿性が高いため原則として「1包化調剤」に不向きな製剤になっています。「1包化調剤」とは、「朝」「夕」など服用時点ごとに複数の薬を一緒に1回ごとにパック(分包)する調剤方法です。同じタイミングで複数の薬を飲まなくてはいけない場合には適切な服薬や飲み間違い防止などの観点から非常に有用な手段となります。

もちろんダビガトランは治療に対しての有益性が高い薬ではありますが「カプセルが比較的大きい」「1包化調剤に不向き」という点は嚥下機能が低下している人や認知症を患っている人などにとってはデメリットと考えられる面があり、今後の日本の高齢化などを考えるとデメリット面を改善した製剤の開発が待たれるところでもあります。

リバーロキサバン(商品名:イグザレルト®)

日本では2012年4月から使われるようになったDOACです。

リバーロキサバンは血液凝固因子の第Xa因子の活性を阻害することによって抗凝固作用をあらわします。

臨床試験の結果からワルファリンに劣らない有用性が確認され、安全性においては特に頭蓋内出血の危険性が少ないというメリットなどが考えられています。

また本剤は通常「1日1回の服用」で治療が可能な製剤で、飲み忘れ防止などの観点においても有用と言えます。またワルファリンや他のDOACに比べても錠剤の大きさが小型で、比較的喉に引っ掛かりにくいこともメリットと考えられます。

リバーロキサバン製剤のイグザレルト®には、錠剤をそのまま服用することが困難な場合などを考慮した剤形として2015年に細粒剤(イグザレルト®細粒分包)が、2020年には口腔内崩壊錠(イグザレルト®OD錠)が追加承認されています。

アピキサバン(商品名:エリキュース®)

日本では2013年2月から使われるようになったDOACです。

アピキサバンは血液凝固因子の第Xa因子を阻害することによって抗凝固作用をあらわします。弁膜症を伴わない心房細動(NVAF)に対する臨床試験においてワルファリンよりも有用性が高かったという結果や、出血性合併症が少なく特に頭蓋内出血が少ないとされる点などもメリットと考えられています。

本剤は通常「1日2回」の服用を必要とするため、こと服薬という面では「1日1回」で治療が可能な抗凝固薬に対してやや劣勢ではありますが、その効果や出血のリスクなどを考えると有用な薬の一つと言えます。

エドキサバン(商品名:リクシアナ®)

日本では2011年4月に登場したDOACです。

エドキサバン(エドキサバントシル酸塩水和物)は、血液凝固因子の第Xa因子を阻害することによって抗凝固作用をあらわします。

発売当初は、主に膝関節や股関節の全置換術など下肢の整形外科手術を行った患者における静脈血栓塞栓症の発症を抑える目的で使われていた薬でした。

その後、臨床試験における結果から非弁膜症性の心房細動における脳卒中(虚血性脳卒中)および全身性塞栓症の発症抑制、静脈血栓梗塞症(深部静脈血栓症及び肺血栓塞栓症)の治療および再発抑制に対して有効性と安全性が確認され、2014年9月にこれらに対しても保険承認されています。

弁膜症を伴わない心房細動(NVAF)に対する臨床試験において大出血や頭蓋内出血が少ないとされていることや、通常「1日1回の服用」で治療が可能な製剤となっていることもメリットと考えられます。またなんらかの理由によって嚥下(飲み込み)に問題があり通常の錠剤が飲みにくい状況などを考慮した剤形(剤型)として、口腔内崩壊錠(リクシアナ®OD錠)が2017年11月から発売されています。

抗凝固薬で注意することとは?

抗凝固薬は「血液を固まりにくくする薬」ですので、すべての抗凝固薬に共通して出血に対しては注意が必要になります。

例えばワルファリンでは、PT-INRという数値を検査で確認することで薬の効果がどのくらいあらわれているかを判断します。DOACについても一般的にそれぞれの薬に適した検査や腎機能の状態に合わせた調節などによって、薬の効果が安全に適切にあわわれるように治療が行われます。

それでも日常生活における出血への配慮は必要で、例えば以下のようなことが挙げられます。

  • けがをする可能性のある作業や運動には気をつける
  • 打撲や打ち身などをしやすい運動には気をつける
  • 歯をみがく際の歯ブラシは歯茎からの出血を考慮してなるべく柔らかいタイプを使う
  • ヒゲを剃る時はなるべく出血の危険性が少ない電気カミソリを使う
  • バイクなどの転倒する危険性がある乗り物の乗車時には気をつける

このように生活の中で注意しつつ、もし出血してしまったらあわてずにタオルなどでしっかりと患部を押さえるなどの対応が必要です。その際、通常(抗凝固薬を使用していない場合)よりも血液が止まるまで時間がかかることを念頭におく必要があります。

もちろんひどい怪我などによる出血やタオルなどで止血しても血が止まらない場合、血尿血便が起こった場合などは医療機関への受診も考慮しつつ主治医へ連絡するなど適切に対処することが大切です。

5. 心房細動に対して行われる非薬物的治療

心房細動に対する薬物治療があまり効かない人や心房細動によって意識障害心不全が起こるような人に対しては、薬物治療以外の治療が検討されます。心房細動以外に対して行われる非薬物治療は次のものになります。

  • 電気的除細動
  • カテーテルアブレーション
  • ペースメーカー
  • 手術

これらのどの治療が行われるかは状況によって少し異なってきます。各々の治療について、もう少し詳しく説明します。

電気的除細動

洞結節(右心房と上大静脈のつなぎ目のあたり)から発せられた電気信号が、房室結節からヒス束を介して左右の心筋に伝わることで、心臓は定期的に動きます。

【心臓の電気伝導系の略図】

この電気刺激の伝わる回路のどこかに異常があると不整脈が生じます。不整脈は治療薬を用いることでコントロールできる場合が多いですが、病状が進行すると命に関わる状態になることがあります。命に関わるような重症な不整脈に対して電気的除細動という治療が行われることがあります。

心臓に大きな電流を加えると心筋は脱分極という状態になると考えられています。この状態は不応期といって、他に電気刺激を受けても心筋は反応しません。いわば動きがリセットされたまま動かない状態ですので、一定時間を経て不応期が終わったタイミングで最初に受けた電気刺激に反応します。

この原理を用いたものが電気的除細動です。心臓に大きな電気を流して心臓の電気刺激を一旦リセットします。心房細動では心臓に対してバラバラに電気刺激が起こっている状態ですが、これをリセットすることで正常な電気刺激(洞結節から伝わる本来あるべき電気刺激)による心臓の運動への回復が期待できます。

電気的除細動は致死的な不整脈に対して非常に有効です。しかし、全ての不整脈に対して有効ではありません。電気的除細動は心室細動(VF)と無脈性心室頻拍(pulseless VT)の治療に対して特に有効です。また、心房細動では、血行動態が不安定な状態(血圧が下がる、意識が悪くなるなど)を伴うタイプに対して電気的除細動が行われることがあります。

心房細動に対して電気的除細動を行う場合は、患者に意識があることが多いため、鎮静剤を用いた方が良いかあるいはできるだけ早く除細動したほうが良いかなど、状況に応じて患者の負担を軽減する配慮が必要になります。

カテーテルアブレーション(心筋焼灼術)

上の図にあるような心臓を動かすための電気回路の不調が原因で不整脈が起こっている場合に、その問題となっている部分を焼くことで治療する方法があります。このカテーテルアブレーションという治療では、「異常な電気信号を出す部位やその周辺」や「別の電気回路のある箇所」を焼いて細胞を壊死させることで不整脈が出ないようになります。

カテーテルアブレーションを行う前には心臓電気生理学的検査(EPS)という検査を行う必要があります。EPSは心臓の中の電気伝導系を事細かく調べる検査です。足の付け根や首にある血管にカテーテルと呼ばれる細い管を挿入し、心臓まで到達させることで検査が行われます。(EPSの詳細は心房細動の検査のページで説明しているので参考にして下さい。)

EPSで問題となる部分が特定されたのちにカテーテルアブレーションが行われます。カテーテルアブレーションは原因となる部位を焼く治療ですが、正常の部位を焼いてしまうとかえって状況が悪化してしまうことがあります。そのため、一般的にEPSでくまなく状況を把握する前にカテーテルアブレーションが行われることはありません。

心房細動に対する薬物治療の効果が不十分な人に対して、カテーテルアブレーションが検討されることがあります。特に心房細動を根治したほうが良い人はカテーテルアブレーションを選択するほうが良いです。自分の希望する生活スタイルについてお医者さんに伝えるようにして下さい。自分の心臓の状況を考慮した治療方法を提案してもらえます。

ペースメーカー

不整脈のある心臓を規則的な電気刺激でサポートする治療をペースメーカーといいます。胸の皮膚の下などに機械が埋め込まれます。心臓がうまく動いていないときに、ペースメーカーから心臓に必要な電気信号を心臓に送ることができます。

皮下に埋め込んである本体から鎖骨下静脈を介して電気信号を伝えるリード(導線)を心臓に到達させます。このリードは2つの役割を担っています。

  • 心臓が作る電気信号を感知する(センシング)
  • 心臓が動くために必要な電気信号を送る(ペーシング)

センシングとペーシングを素早く行うことで、心臓は規則正しく鼓動を打つようになります。また、不整脈にはペースメーカーで治療できるものと治療できないものがあります。ペースメーカーが有効な不整脈は主に以下になります。

洞不全症候群とは洞房結節の機能が低下する病気です。洞房結節は心臓が正しく動くための電気刺激が最初に起こる部位です。ここがうまく機能しないと心房細動になることがあります。

また、ペースメーカーには気をつけなければならない注意点があります。

  • 電池寿命がある
  • MRI検査を受けられない(最近は受けられるような非磁性のペースメーカがある)

これらのことはペースメーカーを埋め込む人は絶対に押さえておく必要があります。

電池寿命に関しては、定期的な専門外来で残りの電池量を確認して電池切れが起こらないように気をつける必要があります。最近動悸や脈の乱れを感じることが多くなったというような自覚症状がある場合には、必ず主治医に相談するようにして下さい。

MRI検査の強い磁気を浴びるとペースメーカーが停止してしまうことがあるため注意が必要です。しかし、最近のペースメーカーではMRI検査を受けても停止しないものが出てきているため、自分の使用しているペースメーカーはMRI検査に対応できるものなのかどうか一度確認すると良いでしょう。

手術:MAZE法(メイズ法)

心房細動を治療するのに手術を行うことがあります。心房で起こった異常な電気信号が心室に伝わらないように、手術で異常な電気回路を遮断します。この手術をメイズ法といいますが、どんな人にも行うことのできる手術ではありません。メイズ法が適していると考えられるのは次のような人です。

  • 僧帽弁弁膜症合併した心房細動がある人に弁形成術あるいは弁置換術を行う場合
  • 弁膜症や心房中隔欠損、冠動脈疾患などの心臓病に伴う心房細動に対して手術を行う場合
  • 適切な治療(抗凝固療法、血栓溶解療法)を行っているにもかかわらず左房内に血栓が存在する場合やその左房内血栓が塞栓症を起こしたことがある場合
  • カテーテルアブレーションがうまくいかない場合や一旦治っても再発してしまう場合

心房細動の状況やそれによる心不全の状況を鑑みてベイズ法を行うべきかどうかが決まります。心房細動には手術以外にも多くの治療法が存在しますので、心房細動に悩んでいる人は主治医とよく相談して納得した治療法を選ぶようにして下さい。

【参考】

Prevalence of atrial fibrillation in the general population of Japan: an analysis based on periodic health examination. Int J Cardiol. 2009;137(2):102-7