心房細動の人が注意して欲しい日常のこと
心房細動が悪化すると脳梗塞や心不全などを引き起こします。これらの病気は命にかかわるため、心房細動を正しく治療してコントロールすることが大切です。
このページでは心房細動の人が日常生活の中で気をつけておくべきことについて説明します。
目次
1. 自覚症状がなければ心房細動を放置して良いのか?
心房細動では脈が乱れたり
結論から言うと、自覚症状がなくても心房細動を放置してはいけません。その理由は次のとおりです。
- 症状がない心房細動(
無症候性 心房細動)は慢性化しやすい - 症状がない心房細動が24時間以上続くと脳血管障害が起こりやすい
- 症状がない心房細動のほうが症状がある心房細動よりも約2倍ほど死亡率が高い
症状がない人のほうが治療がしっかりとなされていないことが多いので、これらの比較データを完全に鵜呑みにしてはいけないかもしれませんが、少なくとも症状がない心房細動を放置してはいけません。症状がないからといって油断している人は気をつけてください。
2. 心房細動の人は何科にかかれば良い?
心房細動は心臓の中の心房という部分が原因となって起こる不整脈です。そのため、心臓を専門に診る循環器内科や心臓血管外科を受診すれば間違いがありません。しかし、地域や病院によっては循環器内科や心臓血管外科がない場合もあります。その際は、一般内科を受診して相談するようにして下さい。
また、心房細動の病状がひどくなると意識を失うことがあります。意識を失っている人や意識を失ってから回復した人は遠慮なく医療機関を受診して下さい。意識状態が悪いのであれば救急科にかかると良いです。
3. どうして定期的な通院が必要なのか?
心房細動は簡単には治らない病気です。心房細動を完治させるには
心房細動に対する薬物治療は完治することは難しく、脈を整えたり脈をゆっくりにしたりして症状を軽くします。完治しなくても薬を飲み続ける必要がありますが、症状の自覚が乏しい人ほど飲み忘れが起こりがちです。しかし、脳梗塞や心不全などの重症の
血液検査について:PT-INR、BNPなど
心房細動で通院している人が定期的に血液検査を受けることはよくあります。よほどのことがない限り毎回の外来で採血されることはありませんが、年に数回ほどの頻度で血液検査が行われることが多いです。
心房細動の人に対して行われる血液検査で特に知っておきたいのが「PT-INR」と「
「PT-INR」はProthrombin Time-International Normalized Ratioの頭文字をとったもので、日本語では「プロトロンビン時間国際標準比」といいます。人体の中で血液は固まりやすくなりすぎないようにちょうどいい塩梅で調節されていますが、PT-INRを見ると血の固まりやすさのバランスがわかります。具体的には、数字が1より大きくなると血がサラサラの状態であり、1よりも小さくなると血が固まりやすい状態になります。
心房細動のある人は
「BNP」はBrain Natriuretic Peptideの頭文字をとったもので、日本語では「脳性ナトリウム利尿ペプチド」といいます。BNPは心臓に負担がかかった状態になったときに、心臓を保護するように作用します。具体的には、血管を広げたり、尿を作りやすくしたりして、心臓の負担を軽減します。したがって、BNPが高い状態は、心臓に負担がかかっている状態を指します。
心房細動が持続すると心臓に負担がかかり心不全になることがあります。そのため、心房細動が続く人は、BNPを測定して心臓の状態を調べられることがあります。
4. 心房細動の人は運動を制限する必要があるのか?
心房細動の人であっても適度な運動は必要です。全く運動をしない生活を送ると、だんだんと心肺機能が低下してしまいます。心肺機能が低下すると動ける範囲が狭くなり、ますます動けなくなってきます。そのため、心不全や
一方で、自分の動ける範囲を超える運動を行うことは逆効果です。疲れが溜まってしまい、長い目で見ると結局動けなくなってしまいます。あまり疲労が残らない範囲で運動するように心がけて下さい。
また、心房細動は運動することで脈が早くなりやすいため、運動によって動悸や胸の違和感を感じやすいです。自分がどの程度の運動をするのが良いのかについては、主治医や
5. 心房細動の人がお酒を飲みたいと思ったらどうしたら良い?
心房細動の人がお酒を飲むと脈が早まるため、心臓の状況が悪化する場合があります。もちろん適度な飲酒を嗜む程度であれば厳しく制限を設ける必要はありませんが、心房細動によって心不全が起こっている人やどうしても深酒をしてしまう人はお酒の量をしっかりと制限するようにして下さい。
心房細動のなりやすさに関しても飲酒量が多い(1日に3合以上)と
6. ワーファリンを飲んでいる人が気をつけるべき食事
心房細動によって心臓内で血栓ができるのを予防するために、ワーファリンを用いて血をサラサラにすることがあります。ワーファリンによって血をサラサラにしておけば血栓による脳梗塞や心筋梗塞の発症率を下げることができるため、PT-INRの値を見ながら効果を発揮する量を毎日飲むことになります。
一方で、ワーファリンには相互作用に気をつけるべき食事があることが分かっています。もう少し詳しく言うと、次に挙げる食材をとっている場合にはワーファリンの効果が薄れてしまいます。
- 納豆
- クロレラ
- モロヘイヤ
これらをうっかり食べてしまった程度であれば大きな問題が起こることは少ないですが、日常的に摂取するとワーファリンが効かなくなってしまいます。どうしてもこれらの食品を食べたい人は主治医に相談して下さい。また、現在はDOAC(プラザキサ®、イグザレルト®、エリキュース®、リクシアナ®)と呼ばれるワーファリンとは別の、血をサラサラにする薬があるので、そちらに切り替えることも一つの方法になります。これらの薬は食事の影響を受けにくいので、食事をあまり気にしなくて良くなります。
7. 心房細動で脈が遅くなる(徐脈になる)ことはある?
心房細動は基本的には脈がはやくなることが多い不整脈です。心房細動では心房から起こる電気的な刺激が1分間に300回以上起こります。心房で起こる全ての電気刺激が心室に伝わるわけではないので、心臓全体が1分間に300回以上動くわけではありませんが、電気刺激の一部が伝わるだけでも脈は早くなりがちです。
しかし、心房細動で脈が遅くなることもあります。心房細動で脈が遅くなる場合には以下のことが起こっていることが多いです。
脈がはやすぎると心臓が疲弊するため、心房細動に対して脈を抑える治療(レートコントロール)を行うことがあるくらいですので、脈のゆっくりな心房細動は悪くない状態に見えます。しかし、あまりに脈が遅くなると意識がなくなってしまうことがあるので注意が必要です。意識がなくなる人はもちろんですが、めまいがしたり意識がボーッとするような人も、必ず主治医に相談するようにして下さい。
8. 心房細動は再発することがあるのか?
心房細動は再発することが度々あります。どうして再発が起こるのかはさまざまですが、心房細動が起こる原因が完全に解消されない限り再発する可能性が残ります。
心房細動は治療しなくても正常の心臓の動きを回復することがあります。
また、薬物治療で心房細動が治まっても再発することが多いです。薬物治療でリズムコントロールやレートコントロールを行っても、心房細動を根治することは難しいです。(薬物治療に関してはこちらで詳しく説明しているので参考にして下さい。)ただ、薬物治療によって発作の程度や頻度が改善しますので、薬物治療は欠かさずに継続する必要があります。
以上のように、心房細動は再発することが多いです。実はカテーテルアブレーションで根治したと思っても再発することがあります。治ったと思っても決して油断せずに定期的な通院や健康診断を受けるようにして下さい。
9. 心房細動によって心臓の中に血栓ができるとどう怖い?
心房細動では不規則に心臓が動くことで、心臓内の血流が乱れて血栓ができることがあります。この血栓は全身の怖い病気を起こすことがあるので注意が必要です。
心臓内にできた血栓が、心臓から全身に送り出される血流に乗って飛んでいくことがあります。血栓は血管を詰まらせること(
血栓ができないようにするためにも心房細動の治療は重要です。不規則な心臓の動きを整えたり、血栓ができないように血をサラサラにする薬(抗凝固薬)を用いたりします。心房細動に対する薬物治療は、薬の飲み忘れがあると不十分になるため、お医者さんの指示に従って毎日欠かさないように気をつけて下さい。
10. 心房細動による脳梗塞を予防するために
心房細動があると脳梗塞が起こりやすくなります。心房細動によってできた心臓内の血栓が脳の動脈まで流れていって、そこで脳血管を詰まらせることが原因です。
脳梗塞を起こりにくくするために心房細動をしっかりとコントロールすることが大切です。特に薬物療法(リズムコントロール、レートコントロール、抗凝固薬など)を毎日欠かさないことが大切です。
11. 身近に設置されているAEDは心房細動の人に必要なのか?
不整脈の中には死亡につながる致死的なものがありますが、その一部は素早く電気
AEDに付属している2枚のシートを胸に貼るだけで、
心房細動は一般的に除細動を行わなくても問題ありません。しかし、まれに心房細動が持続して血圧が下がるような場合には、除細動を行うことがあります。その場合には、専門家が判断して、AEDとは異なる電気的除細動機を用います。
【参考】
・2014 AHA/ACC/HRS Guideline for the Management of Patients With Atrial Fibrillation