しきゅうきんしゅ
子宮筋腫
子宮の壁の筋肉の層にできた良性腫瘍。健診や過多月経の精査などで見つかることが多い
15人の医師がチェック 173回の改訂 最終更新: 2022.04.20

子宮筋腫の症状:痛み・出血・貧血は関係ある?

子宮筋腫の症状には生理時の強い痛みや出血、出血にともなう貧血などがあります。子宮筋腫が大きくなると便秘頻尿などの症状があらわれることもあります。ここでは子宮筋腫が原因となる症状について解説します。

1. 痛みがあると子宮筋腫?

子宮筋腫はいくつかの痛みの原因になります。

  • 月経痛
  • 性交痛
  • 腹痛

子宮筋腫によって強い痛みが現れるのは、月経(生理)のときや性交時などです。また子宮筋腫は、子宮の外側に向かって大きくなり根元が捻るれることがあります。これを子宮筋腫の茎捻転といい激しい痛みが現れます。茎捻転は痛みの原因として注意が必要ですが、子宮筋腫が大きくなり周りを圧迫することでも痛みが現れることがあります。

2. 重い生理は子宮筋腫が原因?

生活に障害を及ぼすほど生理(月経)の症状が重いものを月経困難症といいます。

子宮筋腫は月経困難症の原因の一つです。子宮筋腫によって月経困難症が起きる詳しい働きについてはまだ不明な部分もありますが、月経困難症を自覚している人には子宮筋腫の有無について検査をします。

月経困難症の原因が子宮筋腫の場合は、手術や薬物療法で症状を緩和することが期待できます。

参考文献:安達 知子, 月経困難症(2.思春期の女性医学,クリニカルカンファレンス(生殖内分泌領域), 日産婦誌 2007;59:454-460

月経困難症の症状は?

月経困難症の症状は下腹痛や腰痛などが多くの人に現れます。他には頭痛、吐き気、下痢などの症状が出る人や眠れなくなる人もいます。日本産婦人科学会によると月経困難症の定義は「月経困難症とは月経時に、あるいはその直前から強い下腹痛や腰痛が始まり、月経期間中に日常生活を営むことが困難な状態」です。

月経困難症の原因となる他の病気は?

子宮筋腫以外にも月経困難症の原因になる病気はいくつか知られています。

  • 子宮内膜症
  • 骨盤内炎症
  • 子宮腺筋症
  • 避妊具の挿入
  • 子宮内の癒着(ゆちゃく)による牽引痛(けんいんつう)
  • 骨盤内うっ血

原因がはっきりとしている場合には治療によって症状が改善することもあります。月経困難症の症状がある人は一度医療機関を受診して原因について調べてみることが大事です。

3. 腰痛の原因は子宮筋腫?

腰痛は月経困難症の症状のうちの一つです。子宮筋腫は月経困難症の原因になるので腰痛は子宮筋腫の存在を示唆する症状と考えられています。

月経とは関係ない腰痛も子宮筋腫が原因であることがあります。

子宮筋腫は子宮の外側に向かって大きくなることがあります。背中側に向かって大きくなると背骨を圧迫することがあります。背骨の中には神経が通っています。背骨への圧迫が強くなると神経に影響を及ぼし、腰痛の症状が自覚されるようになります。

4. 腰痛を起こす子宮筋腫以外の病気には何がある?

子宮筋腫が大きくなると、背中の神経を圧迫して腰痛などの症状が出る原因になります。腰痛の原因となる病気は子宮筋腫以外にも多くありますので、下記にいくつか紹介します。

子宮筋腫は腰痛の原因の一つですが、腰が痛いのは子宮筋腫があるからだ、と考えるのは早計かもしれません。腰痛の原因となる病気は数多くあります。つまり子宮筋腫と診断されていても、腰痛を引き起こす他の病気が隠れている可能性があるということです。したがって「子宮筋腫だから仕方ない」と考えて腰の痛みを我慢することはありません。

 腰の痛み方や場所が変わったり急に腰痛が起きた場合には、速やかに医療機関を受診して痛みの原因や痛みの変化の原因について調べることが大事です。

5. 過多月経は子宮筋腫の症状?

過多月経は子宮筋腫の症状の一つです。過多月経は月経時の出血量が多くなることです。

参考文献:三國 雅人, 他 , 1. 内分泌疾患(D. 婦人科疾患の診断・治療・管理)(研修医のための必修知識), 日本産婦誌 2002;54:552-571

過多月経とは?

月経(生理)のときの出血量が多いことを過多月経といいます。正常な月経での出血量は20-140gです。1回の月経でこれ以上出血をする場合を過多月経といいます。

月経の量を測定して過多月経と診断されるほか、月経の状況から過多月経と診断されることもあります。例えば月経のときにレバーのような血の塊が出る人などは出血量が多いことがうかがえ、このような場合には過多月経と診断を受けることがあります。

そもそも月経ではなぜ出血が起きるのか?

月経はいわゆる「生理」です。月経の定義は「通常、約1ヵ月の間隔で起こり、限られた日数で自然に止まる子宮内膜からの周期的出血」です。

子宮の内側には子宮内膜という柔らかい組織の層があります。子宮内膜は妊娠の成立と維持のために重要な組織です。

子宮内膜は約1ヵ月の周期で妊娠に備えて厚くなっていきます。妊娠が起きないと用をなさなくなった子宮内膜は剥がれ落ちます。これが月経の出血です。剥がれ落ちた子宮内膜はまた増殖をはじめます。

なぜ子宮筋腫で過多月経が起きるのか?

子宮筋腫で過多月経がおきる理由についてはまだはっきりとはわかっていません。月経が起きると子宮は縮んで小さくなり出血をとめるように働きます。しかし子宮筋腫が子宮の内側に飛び出していると子宮が縮むことの邪魔になることが過多月経の原因の一つではないかとも考えられています。また子宮筋腫が影響して過度に子宮内膜が厚くなることなども理由の一つとして推測されています。

過多月経を起こす他の原因は?

過多月経の原因となる他の子宮の病気には子宮腺筋症、子宮内膜ポリープなどがあります。他には血液が固まりにくくなる病気血液を固まりにくくする薬過多月経の原因になります。過多月経の原因は調べてもはっきりとしないこともありますが、月経時の出血が多いなと気になっている人は医療機関を受診して医師に相談することで、治療できる原因が見つかって楽になる場合もあります。

6. 頻発月経とは?

子宮筋腫の症状の一つに頻発月経(ひんぱつげっけい)があります。

月経と月経の間隔が短くなることを頻発月経といいます。正確には「月経周期が短縮し、24日以内で発来した月経」を頻発月経といいます。頻発月経は女性ホルモンのバランスの乱れが原因であることもあれば、原因がはっきりしないこともあります。

頻発月経は妊娠成立の妨げになることがあります。不妊の原因が子宮筋腫による頻発月経のときは適切な治療法について医師に相談することが大事です。

7. 不正出血とは?子宮筋腫は不正出血の原因?

ふだんの月経周期から外れて性器から出血することを不正出血といいます。不正出血は子宮筋腫が原因となる症状の一つです。不正出血の原因はさまざまです。

子宮筋腫以外にも不正出血を症状とする病気は多くあります。なかには子宮頸がん子宮体がんのように命に危険を及ぼす病気が原因のこともあります。不正出血の症状が出たときにはすみやかに医療機関を受診して原因について調べることが大事です。

8. 子宮筋腫で頻尿は起こる?

頻尿(ひんにょう)は尿の回数が多くなることです。医学的には1日8回以上の排尿をすることを頻尿といいます。

尿は膀胱(ぼうこう)という臓器に溜められます。子宮は、この膀胱の背中側に接するように位置しています。そのため膀胱に近い場所にできた子宮筋腫が大きくなると、本来伸び縮みができる膀胱の壁が圧迫されて広がることができなくなります。広がれなくなった膀胱は尿を溜めにくくなり、その結果、排尿の回数が増えることになります。

子宮筋腫は頻尿の原因の一つですが、頻尿の原因は他にいくつもあります。頻尿は膀胱の容量が小さくなることや尿量が増えることで起きます。主な原因の例を挙げます。

頻尿は子宮筋腫を原因とすることもありますが、膀胱の病気などが人数としては多いです。頻尿が気になるときには泌尿器科を受診して原因について調べることが大事です。

9. 子宮筋腫で便秘は起こる?

図:女性の骨盤臓器の位置関係。子宮の後ろに直腸がある。

子宮の背中側に腸の一部である直腸があり、互いに接しています。子宮筋腫が直腸の近くにできると直腸を圧迫することがあります。直腸が圧迫されると便通が悪くなり便秘の症状が現れるようになります。直腸の圧迫がひどくなると便秘に加えて腹痛や吐き気が現れることもあります。

10. 子宮筋腫が原因で貧血になる?

子宮筋腫は貧血の原因になることがあります。貧血をきっかけにして子宮筋腫が指摘されることもあります。医学用語の「貧血」と患者さんがイメージする「貧血」には違いがあります。まず貧血という言葉について説明します。

ふらっとするのは「貧血」ではない?

貧血」と聞くと立っていて気分が悪くなったり(立ちくらみ)、意識が遠のいてふらっとする(ふらつき)状態を思い浮かべるのではないでしょうか。しかし、医学的な貧血はそういった「貧血」とは意味が異なります。医学的な意味での貧血血液中のヘモグロビン濃度の低下を指します。女性ではヘモグロビン濃度が12g/dl未満(男性では13g/dl未満)の人を貧血と診断します。

貧血という言葉には注意が必要

病院で「血液検査で貧血が認められるので、子宮筋腫などの原因がないかどうか調べましょう」と言われたと想像してみてください。「今までふらつきなんか経験ないのに変だな」と感じる人がなかにはいると思います。この場面ではお医者さんは血液検査の異常値を指す医学的な意味での貧血について説明しようとしています。一方ここで患者さんが想像しているのは意識が遠のいたりする「貧血」であり、これは不整脈や神経が問題となっていることがあります。こちらの「貧血」は子宮筋腫が原因ではないことも十分にありえます。

貧血という言葉には医師と患者さんで指している意味が異なることが多々あります。医師から貧血があるといわれた場合には少し注意して説明を聞くことが大事です。

貧血の数値の意味は?

貧血は血液中のヘモグロビン濃度が減少している状態と定義されます。貧血と診断されるヘモグロビンの値は成人女性で12g/dl未満です。

ヘモグロビンは赤血球の中にあるタンパク質です。ヘモグロビンは酸素と結合する性質があり、全身に酸素を届ける働きをしています。ヘモグロビンが低下すると酸素を身体のすみずみまで届けるために脈拍が多くなり動悸の症状が出たり、息苦しくなったりします。

お医者さんはヘモグロビンの値に注目して貧血の有無、その程度を推定しています。貧血には種類があり血液検査からある程度原因を推測することが可能です。

子宮筋腫で貧血になるのはなぜ?

子宮筋腫の症状に過多月経不正出血があります。過多月経は月経時の出血が多いこと、不正出血は月経と関係なく性器から出血することです。身体でつくられる血の量よりも出血量が多くなると、ヘモグロビンは減っていきます。ヘモグロビンがある程度失われることで貧血になります。

子宮筋腫が原因の貧血に対する治療は?

子宮筋腫は、過多月経不正出血を起こして貧血の原因になることがあります。

貧血はヘモグロビンが減少した状態です。したがってヘモグロビンを増やすことが治療になります。ヘモグロビンの材料である鉄剤を飲むことで貧血の改善が期待できます。持続的に出血をしている場合は止血効果のある飲み薬なども合わせて飲みます。

貧血の状態が重い場合、鉄剤や止血剤の内服は根本的な解決にはなりません。子宮筋腫を手術で取り除いたり、子宮筋腫を薬物療法やカテーテル治療で小さくすることで貧血の改善が期待できます。貧血の状態や他の症状をみて子宮筋腫の治療をするかどうかを判断します。

貧血があったら子宮筋腫の治療するべき?

子宮筋腫による症状がある人は治療をした方が有益なことが多いと考えられています。以下が子宮筋腫の治療法になります。

  • 薬物療法
    • ピル(経口避妊薬
    • GnRH アゴニスト
  • 手術
    • 子宮筋腫核出術
      • 開腹手術
      • 腹腔鏡手術
    • 子宮全摘除術
      • 開腹手術 
      • 経膣式手術
      • 腹腔鏡手術
    • 子宮鏡下筋腫摘出術
  • 子宮動脈塞栓術 
  • MRガイド下集束超音波治療

子宮筋腫の治療には多くの選択肢があります。治療によって得られるものが治療により起きうる副作用などを上回る場合は、治療が有効と考えられます。どの治療を選ぶかは、医師から各治療の長所、短所についての説明を受けてしっかりと相談しながら決めることが大事です。

11. 子宮筋腫の変性とは?

子宮筋腫が大きくなるとその中身が変化することがあります。これを子宮筋腫の変性といいます。

子宮筋腫が変性するとどうなるのか?

子宮筋腫の変性には種類があります。出血、壊死(えし)、硝子化(しょうしか)、石灰化などがあります。壊死は細胞が死んで機能を失った状態、硝子化はタンパク質に変化が起きて硬くガラスのようになることです。

子宮筋腫の変性で最も多いのは硝子化です。硝子化が起きると子宮筋腫の内部が硬くなります。硝子化は大きくなった筋腫の内側に血流が届かなくて中身が壊死することが原因だと考えられています。

子宮筋腫の変性で問題になるのは?

子宮筋腫の変性で問題になるのは、悪性腫瘍と見た目の区別がつきにくくなることです。悪性腫瘍とは子宮平滑筋肉腫などのいわゆる「がん」です。つまり、子宮筋腫が変性すると、がんと紛らわしい見た目になる場合があります。子宮筋腫ががんに変化するという意味ではありません。

変性していない典型的な子宮筋腫は画像検査で特徴的な様子を観察できます。子宮筋腫は良性腫瘍であり、周りの臓器に広がっていったり離れた場所に転移したりすることはありません。大出血を起こす場合などを除けば、がんのように命を脅かすこともありません。そこで、症状がなければそのまま経過観察をすることも可能です。しかし変性が起きた子宮筋腫は画像検査では悪性腫瘍と区別がしづらくなります。このため、子宮筋腫がはじめて見つかった時点ですでに変性していた場合、本当に子宮筋腫なのか、それともがんなのかの判断に迷うことがあります。悪性腫瘍が否定できないときには手術を検討することがあります。