しきゅうきんしゅ
子宮筋腫
子宮の壁の筋肉の層にできた良性腫瘍。健診や過多月経の精査などで見つかることが多い
15人の医師がチェック 173回の改訂 最終更新: 2022.04.20

子宮筋腫の手術:子宮全摘除術、子宮筋腫核出術、腹腔鏡手術などの解説

子宮筋腫の治療法の一つに手術があります。手術には筋腫だけを摘出する方法と子宮を全て摘出する方法があります。手術の種類は筋腫の位置、大きさ、将来に妊娠を希望するかなどを考慮して決めます。

1. 子宮筋腫があったら子宮摘出になる?

子宮筋腫の手術の種類は2つあります。子宮を全て取り除く子宮全摘除術と子宮筋腫だけを摘出する筋腫核出術です。子宮筋腫の治療では必ず子宮の摘出をしなければならないわけではありません。

子宮全摘除術と子宮筋腫核出術はそれぞれ、子宮に器具を届かせる経路が3通りあります。お腹を大きく切って手術をする開腹手術、お腹にいくつかの小さな穴を開けて器具を入れる腹腔鏡手術、膣から器具を入れる経膣式手術の3通りです。

その他には子宮鏡という内視鏡をつかう子宮鏡手術があります。

  • 子宮全摘除術
    • 開腹手術 
    • 経膣式手術
    • 腹腔鏡手術
  • 子宮筋腫核出術
    • 開腹手術
    • 腹腔鏡手術
    • 子宮鏡手術

筋腫ができた場所や大きさに応じて最も良い手術の方法を選択します。

子宮全摘除術とは?

子宮全摘除術では子宮を膣と切り離して体外に取り出します。子宮を取り除くので子宮筋腫が再発することはありません。子宮がなくなるので妊娠の希望がない人が対象になります。

摘除の方法にはお腹を切る開腹手術、お腹にいくつかの穴を開けて手術をする腹腔鏡手術、膣から道具を入れて子宮を切り取る経膣式手術の3つの方法の中から選びます。

子宮筋腫核出術とは?

子宮筋腫核出術は子宮を温存する(残す)手術です。筋腫をくり抜いて、穴のようになった部分を縫合します。子宮筋腫核出術は妊娠を希望する人などが対象になる手術です。子宮筋腫核出術は筋腫を摘除した部分を縫ったりする必要があるので子宮全摘除術に比べて難しい手術です。子宮筋腫核出術は開腹手術と腹腔鏡手術どちらでもすることができ、一定の条件を満たせば子宮鏡手術もすることができます。

子宮筋腫は開腹手術が必要?

開腹手術は子宮筋腫の手術方法の一つです。開腹手術ではお腹を大きく切って手術をします。

開腹手術の他にはお腹にいくつか穴をあけて手術をする腹腔鏡手術、膣から手術をする経膣式手術、膣から内視鏡を挿入して腫瘍を切除する子宮鏡手術があります。筋腫の状況と患者さんの考え方などから手術の方法を選択します。例えば筋腫が小さければ経膣式手術や腹腔鏡手術によって治療することが可能です。開腹手術しか選択肢がないわけではありません。

子宮筋腫の開腹手術とは?

開腹手術はお腹を大きく切る手術です。お腹を開けて子宮を取り出したり、筋腫のみをくり抜きます。子宮筋腫や子宮自体が大きくなりお腹を大きく切らなければ取り出せない場合は開腹手術が選ばれます。開腹手術ではお腹を縦または横に切り手術をします。

経膣式手術(膣式単純子宮全摘除術)とは?

経膣式手術は、膣から子宮を取り出す手術の方法です。

膣と子宮を切り離すことで子宮を摘出することができます。経膣式手術の良い点はお腹に傷が残らないことや手術後の痛みが軽いことなどです。

経膣式手術は子宮が大きかったり子宮筋腫が大きい場合には向いていません。それは取り出す子宮や筋腫が大きすぎると膣から取り出すことができないからです。

参考文献:斎藤 豪, 3)膣式単純子宮全摘術, 日産婦誌 2009;61:250-253

子宮筋腫の腹腔鏡手術とは?

腹腔鏡手術(ふくくうきょうしゅじゅつ)は、お腹にいくつかの穴を開け、そこから腹腔鏡と鉗子(かんし)と呼ばれる長い道具を挿入して行う手術です。

お腹に穴をひとつ開け二酸化炭素を注入してお腹の中(腹腔)を膨らませて、手術をする空間を作ります。お腹を膨らませた後に内視鏡を挿入してお腹の中を観察します。お腹の中の様子は画面に映しだされます。その後、お腹にいくつか鉗子(かんし)を挿入するための穴をあけます。穴が全て開いたところで鉗子を挿入し、お腹の中での操作を開始します。鉗子の先はマジックハンドのようになっており子宮やその周りのものを切ったり掴んだりできます。

子宮筋腫の手術は筋腫を部分的に切除する筋腫核出術と子宮を全て摘出する子宮全摘除術があります。腹腔鏡手術はどちらの手術でも可能です。

腹腔鏡手術のメリットとデメリットは?

内視鏡の技術が進歩して腹腔鏡手術が普及し、多くの施設で腹腔鏡手術が受けられるようになりました。ここでは腹腔鏡手術のメリット・デメリットについて解説します。

  • 腹腔鏡手術のメリット
    • 傷が小さいので手術後の回復が早い 
    • 入院期間が短いことが多い
    • 傷が小さく目立たない
    • 出血量が少ない
  • 腹腔鏡手術のデメリット
    • 開腹手術と比べて手術時間が長くなることがある 
    • 手術の内容次第では開腹手術に変更になることがある 
    • 出血などに対応しにくい

腹腔鏡手術は傷が小さい点が最大のメリットになります。手術の後は傷の痛みが行動の妨げになりますが、傷が小さいと痛みが少なく回復も早くなります。回復が早いので入院期間も短い傾向にあります。また、傷が小さいので美容上でも有利に働きます。

腹腔鏡では手術をしているところを拡大して観察することができます。このために肉眼では気づかないような細かな血管も気づくことができます。細かな血管を認識し止血することで出血量を減らすことができます。

腹腔鏡手術のデメリットのひとつは開腹手術と比べて手術時間が長くなることです。手術の途中で腹腔鏡手術で治療が難しいと判断された場合には開腹手術に変更することもあります。また急な出血に対応がしにくいという面もあります。

2. 子宮筋腫の腹腔鏡手術には種類がある?

子宮筋腫の腹腔鏡手術にはいくつか種類があります。腹腔鏡と開腹手術を組み合わせたものもあります。手術の内容としては子宮を全て摘出するものと筋腫のみを摘出するものがあります。

LAM(腹腔鏡補助下筋腫核出術:Laparoscopically assisted myomectomy)

LAMは腹腔鏡手術と開腹手術を組み合わせた手術です。LAMは筋腫のみを摘出する手術です。

腹腔鏡手術と同様にお腹にいくつか穴を開けます。お腹に開けた穴から内視鏡を挿入します。内視鏡で捉えられた画像はモニターに映し出されます。ここまでは腹腔鏡手術と同じです。LAMでは子宮を周りから剥がしたりすることを腹腔鏡で行いますが、筋腫を摘出したり筋腫を摘出した後の子宮を縫合したりするのはお腹を3-5cm小切開して行います。

LAMは腹腔鏡手術という名前がついてはいますがお腹を小切開することからどちらかというと開腹手術に近いです。

手術時間は腹腔鏡手術よりは短いです。傷は腹腔鏡手術より大きいですが、開腹手術よりは小さいです。

参考文献:大須賀 穣, (3)LAM, LM, LAVH(3)内視鏡下手術), 日産婦誌.2004;56:562-565

LM(腹腔鏡下筋腫核出術:Laparoscopic myomectomy)

LMは腹腔鏡手術で子宮筋腫だけを摘出する手術です。

腹腔鏡手術ではお腹に小さな穴を開けます。お腹に開けた小さな穴から内視鏡と腹腔鏡手術用に作られた鉗子(かんし)を挿入して手術をします。鉗子は子宮を掴んだりすることができるものから、先がハサミのようになっているものなどいくつか種類があります。内視鏡がとらえたお腹の中の様子はテレビモニターに映し出されます。手術はテレビモニターをみながら行います。

LMは子宮筋腫の摘出、子宮の縫合を全て腹腔の中でするのでその分手術は難しいとされています。施設によって筋腫の大きさや摘出する筋腫の個数などに基準を設けていることがあります。

参考文献:大須賀 穣, (3)LAM, LM, LAVH(3)内視鏡下手術), 日産婦誌.2004;56:562-565

LAVH(腹腔鏡補助下膣式子宮摘出術:Laparoscopically assisted vaginal hysterectomy )

LAVHは腹腔鏡手術と膣からする手術(膣式子宮全摘)を併用します。

腹腔鏡手術ではお腹に小さな穴を開けます。お腹に開けた小さな穴から内視鏡と腹腔鏡手術用に作られた鉗子(かんし)を挿入して使用します。鉗子は子宮を掴んだりすることができるものから、先がハサミのようになっているものなどいくつか種類があります。内視鏡がとらえたお腹の中の様子はテレビモニターに映し出されます。手術はテレビモニターをみながら行われます。子宮を摘出するには子宮に流れ込む血管などを切断する必要があります。テレビモニターを見ながら子宮を周りの臓器から切り離す操作を行います。腹腔鏡を使って子宮が膣とだけつながった状態までの作業をします。次に、膣からの操作で子宮と膣を切り離し、子宮を膣から取り出します。

傷はお腹に小さなものが数か所残ります。お腹の傷は一番小さいですが、子宮が大きいなどの理由で膣から子宮を取り出せない人にはLAVHをすることはできません。

参考文献:大須賀 穣, (3)LAM, LM, LAVH(3)内視鏡下手術), 日産婦誌.2004;56:562-565

腹腔鏡下子宮全摘術

腹腔鏡下子宮全摘除術は腹腔鏡を使って子宮を全て摘出する手術です。

腹腔鏡手術ではお腹に小さな穴を開けます。お腹に開けた小さな穴から内視鏡と腹腔鏡手術用に作られた鉗子(かんし)を挿入して手術をします。鉗子は子宮を掴んだりすることができるものから、先がハサミのようになっているものなどいくつか種類があります。内視鏡がとらえたお腹の中の様子はテレビモニターに映し出されます。手術はテレビモニターをみながら行います。子宮を摘出するには子宮に流れ込む血管などを切断する必要があり、テレビモニターを見ながら子宮を周りの臓器から切り離す操作を行います。膣と子宮を切り離し子宮を取り出せる状態にします。切り取った膣の一部をお腹の中で縫合し、お腹の傷から子宮を取り出します。

3. 子宮筋腫の子宮鏡手術とは?

子宮筋腫に対する子宮鏡による手術をTCR(Transcervical resection:経頸管的切除術)といいます。内視鏡手術の一つに分類されます。

TCRに向いているのはどんな人?

図:子宮筋腫の場所による分類。TCRは粘膜下筋腫に対して検討されることがある。

子宮筋腫の中でも子宮内側に飛び出したタイプの筋腫(粘膜下筋腫)に対してTCRができる場合があります。TCRが適している人を選ぶ目安として以下のものが挙げられています。

  • 筋腫の大きさが50mm以下
  • 子宮の大きさが鵞卵大以下
  • 子宮内腔への突出率が30%以上
  • 過多月経不正出血がある人
  • 妊娠歴および不妊期間は問わない
  • 悪性所見がない

まず、TCRについて説明します。TCRは内視鏡を使う手術です。半円(ループ)状の電気メスを使い、木を鉋(かんな)で削るようにして子宮筋腫を細かく削って膣から掻き出します

筋腫が大きい場合にはTCRによる治療が難しいと考えられています。大きさの目安としては50mm以下の子宮筋腫の人が適しています。腫瘍が子宮の壁に埋もれている場合には、TCRで腫瘍を全て摘出することができず手術の効果が不十分なることが考えられます。

TCRは子宮筋腫を削り取る手術です。したがって子宮筋腫が子宮内膜に出っ張っている方がTCRでは有利になります。TCRに向いているかの判断は、筋腫の3割が子宮の内側に突出していることを目安にしています。

子宮筋腫は良性の病気なので症状がない場合には特に治療せず様子をみることがあります。TCRは月経での出血が多い人や不正出血がある人に対して選択されます。子宮体がんなどの可能性がある場合にはTCRはできません。

TCRはどうやってやる?

TCRは内視鏡を使った手術です。麻酔は半身麻酔(脊椎麻酔)の場合と全身麻酔の場合があります。

大まかな手順を説明します。

まず膣から子宮の中に太い金属の筒を挿入します。この筒は外筒(がいとう)と呼ばれることが多いです。外筒はレゼクトスコープを入れるための鞘(さや)の役割を果たしています。レゼクトスコープとは内視鏡と電気メスが一体化した器具で、これを外筒の中に挿入し、子宮筋腫を切除していきます。レゼクトスコープの先にはループ状の電気メスがついていて手元で操作できます。切除のイメージとしては、子宮筋腫を鉋(かんな)で削るような感覚です。見た目で筋腫が消失したところで止血を行い手術終了です。

TCRの合併症は?

TCRの合併症で最も多いのは子宮に穴が開くことです。これを穿孔といいます。穿孔の起こる割合は1,000人中14例とした報告があります。穿孔が起きた場合には内視鏡によりその場で修復が可能であれば修復します。内視鏡での修復が難しいときにはお腹を切って開いた穴を塞ぎます。

参考文献:齊藤 寿一郎, 子宮鏡(診療の基本,研修コーナー), 日産婦誌 2006;58:479-486

4. 腹腔鏡手術の技術認定医とは?

腹腔鏡の技術認定医は、腹腔鏡手術を安全に高いレベルで行える医師に対して学会が与えている資格です。技術認定医の資格を取るには産婦人科専門医であること、100件以上の腹腔鏡手術の経験があることなどの条件があります。さらに学会が手術のビデオを見て安全に手術ができると判断した人に資格が与えられます。

技術認定医制度は運転免許などの免許とは異なり、資格がなければ腹腔鏡手術をしてはいけない、できないわけではありません。腹腔鏡手術を受けたいと考えていて手術をする医療機関を探している人には一つの手がかりとして参考になるかもしれません。技術認定医は日本産科婦人科内視鏡学会のウェブサイトで氏名や在籍する医療機関などを検索できます。

参照:日本産科婦人科内視鏡学会 技術認定医一覧

5. 子宮筋腫の大きさで手術方法は変わる?

子宮筋腫の手術の方法は開腹手術、腹腔鏡手術、膣式手術、子宮鏡手術の4つの方法があります。子宮や筋腫の大きさなどによって手術の方法選ばれます。

手術の方法によって手術後の傷の目立ち具合などが変わるので、手術方法の選択は気になるところだと思います。

開腹手術

開腹手術は大きくお腹を切る手術です。子宮や筋腫の大きさに関係なく治療することができます。

腹腔鏡手術

腹腔鏡手術は、お腹に小さな穴をあけてお腹の中で子宮や筋腫を摘出する操作をします。取り出す子宮や筋腫が大きい場合には腹腔鏡で手術ができないこともあります。施設ごとに大きさなどの基準を設けていることもあります。施設間で基準が違うこともあるので治療を考えている施設に相談してみるのがいいと思います。

膣式手術

膣式手術は膣から子宮を取り出す手術です。膣から子宮をとりだすために子宮が大きい場合にはできないことがあります。内診などの検査で膣式手術ができるかを調べます。

子宮鏡手術(経頸管的切除術 TCR:Transcervical resection)

子宮鏡手術(以下TCR)は内視鏡を用いた手術の方法です。電気メスと一体型になった内視鏡を膣から挿入して手術をします。TCRは筋腫を子宮の内側から削りとる手術なので子宮を残すことができます。TCRに向いている人はいくつかの条件があります。詳細は「子宮筋腫の子宮鏡手術とは?」で解説しています。

どの手術法を選ぶべきなのか?

子宮筋腫の手術の方法をいくつか紹介しました。どの手術の方法も一長一短があります。また希望する手術法があったとしても筋腫の状態からは向いていないまたはできないと判断されることもあります。

例えば腹腔鏡手術はお腹の傷が小さく開腹手術に比べて美容面では優れています。しかし大きな子宮筋腫の場合には手術自体が難しくなり、そのため手術時間が長くなったり合併症が起こる可能性も高くなることも考えられます。美容面など自分が大事にしている価値観と安全性などのバランスを考えて手術法を選ぶことが大事です。

6. 子宮筋腫の手術の合併症は?

ここでは子宮筋腫の開腹手術と腹腔鏡手術の合併症について解説します。

手術によって望ましくない問題が引き起こされることがあります。この問題を合併症といいます。合併症は手術が上手くいってもある一定の確率で起きてしまうものです。合併症は想像すると怖いものだと思います。ここで紹介しているものはほとんど起きないものなども含んでいるので過剰に心配するひつよ。ただ手術への準備の一つとして合併症の理解は大事なので参考にしてもらえればと思います。

腸閉塞(ちょうへいそく)

子宮は腸が収まっている腹腔(ふくくう)という場所にあります。腹腔は臓器の隙間にあるスペースのことです。したがって子宮筋腫の手術ではどうしても腸に触れることがあります。腸は繊細な臓器なので少しの刺激などで腸が動かなくなることがあります。何らかの原因で腸に通過障害がおきることを腸閉塞と言います。腸閉塞にはいくつか種類がありますが、手術などの影響で腸の動きが悪くなることが原因の腸閉塞麻痺腸閉塞(まひせいちょうへいそく)といいます。麻痺性腸閉塞になった場合は、食事や水分の摂取を控えて腸を休ませることでよくなり元の状態にもどります。

腸閉塞には他に腸が捻れることが原因の絞扼性腸閉塞(こうやくせいちょうへいそく)もあります。絞扼性腸閉塞は速やかに対応しなければならない状態です。絞扼性腸閉塞と麻痺性腸閉塞は症状や検査である程度区別することができます。

手術のあと医師が念入りにお腹の音を聞いたり触れたりすると思います。その時医師は「腸閉塞が起きていないか、もし腸閉塞が起きていそうならばどんな腸閉塞が起きているのか」などを考えながら診察しているのです。

出血(しゅっけつ)

子宮は血流が多い臓器です。血流が多いので手術中の出血量も多くなることがあります。特に筋腫だけを摘出する筋腫核出術の場合は子宮に切り込んで筋腫を摘出するので出血量が多くなりがちです。また筋腫が大きかったり、数が多かったりする場合は出血量が多くなることが事前に予想されます。

出血量が多い時は輸血が必要になることもあります。

輸血は極力避けるべきことです。他人の身体の一部を入れるということには多くの危険性が伴います。歴史上、輸血が原因となったウイルス性肝炎移植片対宿主病GVHD)により、多くの人が健康を害したり命を落としたりしました。現在はこうした深刻な事態を避けるよう輸血に関する技術が進歩し、致命的な害はほとんど現れなくなっています。しかし想定外の事態が絶対に起こらないとは言い切れません。大量の出血という目の前の危機を乗り越えるためにどうしても輸血が必要な場面はありますが、できる限り輸血以外の方法を取るべきと考えられています。

そこで、出血量が多くなりそうだと事前に予想される場合はあらかじめ自分の血を抜いておくことがあります。抜いておいた自分の血を手術中に身体に戻します。これを自己血輸血と言います。自己血輸血用に血を抜くとしばらく血液が不足した状態になりますが、手術の待ち時間の間(数週間から数ヶ月)にもとに近いくらいまでに戻ります。

自己血輸血は他人の血を使った輸血とは異なり感染症などの副作用が少ないことが良い点だとされています。

縫合不全(ほうごうふぜん)

子宮筋腫核出術では筋腫のみを摘出して、残った部分を縫い合わせます。縫い合わせることを縫合と言います。縫合した部分が上手くくっつかなかったり、くっつくのに時間がかかることがあります。これを縫合不全と言います。

縫合不全が起きても程度が軽ければ様子をみて自然に治るのを待ちます。縫合不全の程度が大きいときには再手術をして縫合をやり直すことがあります。縫合不全が起きやすい人は、糖尿病などの持病を抱えている人や、高齢で子宮の組織がもろくなっている人です。縫合不全が起きる可能性がある人に対して医師は縫合不全が起きないようにより注意をして手術をしています。

尿管損傷(にょうかんそんしょう)

尿は腎臓という背中側にある臓器でつくられ膀胱(ぼうこう)に運ばれます。膀胱は尿を溜める臓器です。尿管は腎臓と膀胱を繋ぐ細い管(くだ)状の臓器です。尿管によって尿が腎臓から膀胱に運ばれます。

子宮と尿管は近くに位置しています。このため子宮の手術をしている最中に尿管に傷がつくことがまれにあります。手術中に尿管の損傷に気づけば、尿管を縫い合わせ、尿管の中にステントとよばれる細い管を通しておき、傷が治るのを待ちます。手術後しばらくして尿管の損傷がわかった場合は、尿の出口である尿道から内視鏡を挿入して、膀胱から尿管にステントを通す処置をします。ステントには尿が腹腔の中に出ていかないようにする目的があります。尿管の穴が閉じたと判断された時点でステントを抜きます。

膀胱損傷(ぼうこうそんしょう)

子宮の前側には膀胱が接しています。膀胱は尿を溜める臓器で、下腹部にあり恥骨の真下に位置します。子宮筋腫の手術では膀胱と子宮を剥がさなければならないことがあり、まれに膀胱に傷がつくことがあります。膀胱損傷と言います。膀胱についた傷が深ければ膀胱を縫い合わせる必要があります。膀胱は正確に縫うことができればその後の機能には問題ありません。

腸管損傷(ちょうかんそんしょう)

子宮の近くには腸があります。腸は食べ物の通り道です。子宮筋腫の手術中に腸を傷つけることがまれにあります。腸が傷つくことを腸管損傷といいます。腸管損傷が疑われる場合には、腸管の通過に異常がないか確認できるまで食事の再開を遅らせることがあります。腸管の通過を確認する方法は排ガス(おなら)や便通があるかないかを目安にすることが多いです。腸管の傷が大きいときには傷がついた腸管を切り取って腸と腸をつなぎなおすことがあります。

肩の痛みや痺れ

手術のあと肩を中心に痛みや痺れが起きることがあります。腹腔鏡手術で使う二酸化炭素や手術のときに身体の位置を固定することが、痺れや痛みの原因と考えられています。痺れや痛みは日を重ねるとともに改善していきます。痛みが強い場合には痛み止めを飲んだり注射してもらうと症状が和らぎます。

皮下気腫(ひかきしゅ)

皮下気腫は腹腔鏡を使った手術に起きる合併症のひとつです。腹腔鏡手術では二酸化炭素をお腹の中に入れて手術をします。皮下気腫は二酸化炭素が皮膚の下に入り込んでしまうことです。手術が終わってから皮膚を触るとシャリシャリとした感じがあったり引きつったような痛みを感じることがあるかもしれません。皮下気腫は広範囲になければ問題はなりません。二酸化炭素が吸収されるのを待ちます。

7. 子宮筋腫の手術後の妊娠・出産で注意が必要なことは?

子宮筋腫の手術の後にも妊娠・出産は可能です。子宮筋腫は不妊症の原因となることもあるので子宮筋腫を治療したことにより妊娠できた人も多くいます。子宮筋腫の手術後の妊娠では注意が必要なこともいくつかあります。少し怖くなるような話もあると思いますが全ての人に起きる話ではないので参考としてください。

妊娠

子宮筋腫の手術後の妊娠ではまれに子宮が破裂することがあります。

子宮筋腫の手術には子宮全摘術と子宮筋腫核出術があります。将来の妊娠を希望している場合は子宮を残す必要があるので子宮筋腫核出術が選ばれます。子宮筋腫核出術は筋腫のみを摘出します。子宮筋腫を摘出した後はを糸で縫い合わせます。しっかりと縫い合わせてありますが、筋腫が大きかったりすると摘出した部分が弱くなります。妊娠をして子宮が大きくなると筋腫を摘出して弱くなった部分に負担がかかり子宮が破裂する原因になることがあります。

子宮が破裂すると聞くとかなり恐ろしい印象があると思いますが、起こる確率は高くはありません。2000年代の報告によると子宮筋腫核出術後の妊娠で子宮破裂が起きた割合は0-1%とされています。今は技術もより進歩しているので子宮破裂が起きる確率はここで示した値より減少していることが推測されます。

参考文献
Hum Reprod 2000;15:869-73.
J Minim Invasive Gynecol 2008;15:420-24

出産

子宮筋腫の手術をした後の分娩方法は帝王切開が選ばれることがあります。

子宮筋腫の手術には子宮全摘術と子宮筋腫核出術があります。将来妊娠を希望している場合は子宮筋腫のみを摘出し子宮を残す子宮筋腫核出術が選ばれます。子宮筋腫核出術では筋腫を摘出して残った部分を糸で縫い合わせます。しかし摘出した筋腫が大きかったり数が多かったりした場合は子宮の壁が薄くなり弱くなります。分娩時に大きな力が子宮に加わると弱くなった子宮の壁が破れることがあります。これを子宮破裂といいます。子宮破裂は避けなければなりません。

特に子宮筋腫の手術でいくつもの筋腫を摘出していたり大きな筋腫を摘出している場合は分娩時に子宮破裂が起きることが心配されます。経膣分娩により子宮破裂が起きる可能性が懸念されるときは経膣分娩は適した出産の方法と判断されないことがあります。経膣分娩が適していない場合には帝王切開により出産を行います。

参考文献:日本産科婦人科学会, 日本産婦人科医会/編, 産婦人科ガイドライン 2014. 80-82

8. 子宮筋腫の退院後の生活はどうなる?

手術後は傷が痛んだり、ベッドで過ごす時間が長かっために体力が落ちているなと感じたりすると思います。頑張って早く回復したい気持ちになると思いますが、退院後は少しずつもとの生活にもどすことが大事です。退院したらやりたかったことをやろうと思っても、少しずつにして、はやる気持ちを抑えながら過ごしてください。

退院後に症状が現れる合併症もあります。例えば腸の通過が悪くなる腸閉塞が退院後に起きることは珍しくはありません。退院前に食事の注意点などの説明があると思います。しっかりと聞いて実践することが何より大事です。はやる気持ちがある一方で不安なこともあると思います。退院すると急に不安な気持ちが増大する人もいます。ちょっとしたことでも入院中に医師や看護師に質問して疑問を解決しておくことが大事です。

9. 子宮筋腫は再発する?

子宮筋腫は再発することがあります。再発とは、一度子宮筋腫の手術をして症状がなくなったものの再び筋腫が子宮にできたり、大きくなったりして症状が出ることです。それぞれの治療での再発率について説明していきたいと思います。

子宮全摘除術

子宮全摘除術は子宮をすべて摘除します。子宮は残らないので子宮筋腫が再発することはありません。

子宮筋腫核出術

子宮筋腫核出術は子宮筋腫のみを取り除き子宮を残す治療です。子宮を残すことで後に妊娠ができる可能性がある点が利点です。しかし、子宮が残っているために再び筋腫ができることもあります。子宮筋腫核出術の再発率は23-30%とされています。

再発した場合には症状や筋腫の状態(大きさ、位置)、妊娠・出産の希望などから最適な治療法を選択します。

参考文献:村上節, 1)腹腔鏡下子宮筋腫核出術, 日産婦誌 2001;53:200-203

子宮動脈塞栓療法(UAE: uterine artery embolization)

子宮動脈塞栓療法(以下UAE)はカテーテルを用いて子宮筋腫を小さくする治療法です。

UAE後の再発率は16%という報告があります。

子宮筋腫は子宮動脈という血管から栄養を得て大きくなります。子宮動脈の流れをとめると子宮筋腫は小さくなります。UAEではカテーテルを用いて子宮動脈の流れをとめます。手術とは異なり子宮筋腫は身体の中に残りますが小さくなるので症状は改善します。

参考文献:BJOG.2006;113:464-8

10. 子宮筋腫の手術の費用は?

子宮筋腫の手術の治療費について示します。

治療 費用(保険適用3割負担)
開腹手術 15−20万円
膣式手術 20万円前後
腹腔鏡手術 20−25万円前後
子宮鏡下手術 約10-15万円

病院や入院期間によって費用は変わります。費用について気になる場合は治療前に治療をする医療機関などに確認しておくことをお勧めします。また高額療養費制度と限度額適用認定証などを使うことで負担額を減らせる可能性があります。

高額療養費制度(こうがくりょうようひせいど)とは?

高額療養費制度とは、家計に応じて医療費の自己負担額に上限を決めている制度です。

医療機関の窓口において医療費の自己負担額を一度支払ったあとに、月ごとの支払いが自己負担限度額を超えた部分について、払い戻しがあります。払い戻しを受け取るまでに数か月かかることがあります。

たとえば70歳未満で標準報酬月額が28万円から50万円の人では、1か月の自己負担限度額が80,100円+(総医療費-267,000円)×1%と定められています。それを超える医療費は払い戻しの対象になります。

この人で医療費が1,000,000円かかったとします。窓口で払う自己負担額は300,000円になります。この場合の自己負担限度額は80,100円+(1,000,000円-267,000円)×1%=87,430円となります。

払い戻される金額は300,000-87,430=212,570円となります。所得によって自己負担最高額は35,400円から252,600円+(総医療費-842,000円)×1%まで幅があります。

高額療養費制度について詳しくは厚生労働省のウェブサイトやこちらの「コラム」による説明を参考にしてください。

参照:厚生労働省 高額療養費制度を利用される皆さまへ

限度額適用認定証(げんどがくてきようにんていしょう)とは?

あらかじめ医療費が高額になることが見込まれる場合は「限度額適用認定証」を申請し、認定証を医療機関の窓口で提示することで、自己負担分の支払い額が一定額まで軽減されます。高額療養費制度で支払われる還付金の前払いといった位置づけになります。保険外の費用(入院中の差額ベッド代や食事代など)は対象外となります。