2021.03.30 | コラム

医療費の不安を解消!みんなが知っておきたい高額療養費制度をわかりやすく徹底解説

医療費の支払いで押さえておくべき制度

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医療を受けるとお金がかかります。多くの人は公的医療保険によって3割の負担ですみますが、それでも高額になってしまうことがあります。しかしながら、あまりに高額な医療費がかかった場合には、「高額療養費制度」という仕組みを利用すると、最終的な医療費の負担額がかなり少なくて済むようになっています。

1. 高額療養費制度とは?

日本では「国民皆保険」という考えのもとに、国民全員が何らかの公的な医療保険に加入しています。公的医療保険のおかげで、皆さんが負担する費用は、かかった医療費の3割(原則)だけで済みます(残りの7割は社会保険料と税金から支払われています)。例えば検査や治療で実際は1万円かかっていたとしても、皆さんの実質の支払いは3000円で済むのです。

負担額が3割になるだけでも恵まれた制度といえますが、費用が非常に高額になった場合は、3割でも負担が重くなることがあります。例えば、治療費が100万円の場合の3割は30万円ですし、1000万円の場合は300万円です。これだけのまとまった金額を支払うのは簡単ではありません。

そこで、医療費の負担があまりにも高額にならないように設けられたのが「高額療養費制度」です。この制度では医療費の負担額の上限が定められており、申請すると上限を超えた負担額について後日払い戻されます。この負担額の上限を「自己負担限度額」といいます。自己負担限度額は一律ではなく、年齢や所得水準によって異なります。

 

【自己負担限度額の計算方法】

 

厚生労働省保険局「高額療養費制度を利用される皆様へ(平成30年8月診療分から)」を元にして、作成したのが上の表です。
年収は標準月額報酬であったり課税所得をもとに算出されるので、実際の年収と異なるカテゴリーに入ることがあります。自分がどの適用区分になるのかは、自治体や職場を通して加入している保険機関に問い合わせるとより確実です。心配な人は確認してみてください。

これだけでは実際どのくらいの負担が発生するかのイメージがわきにくいと思うので、次に具体例を交えて説明します。

 

具体例:57歳・年収600万円のAさんが大腸がんの手術を受け、治療に1,000,000円を要した場合

「年齢」と「年収」を上の表に当てはめると、次のようになります。

 

  • 57歳→【69歳以下の人】に該当
  • 年収600万円→適用区分「年収約370万円から約770万円」に該当

 

したがって、Aさんの1か月の自己負担限度額は80,100円+(医療費-267,000円)× 1%となります。

大腸がんの手術でかかった医療費1,000,000円の自己負担限度額は次のように計算されます。

 

  • 自己負担額:80,100円 +(1,000,000円 - 267,000円)× 1% = 87,430円

 

窓口で自己負担額3割分の300,000円を一旦支払う必要はありますが、「高額療養費制度」を申請することで差額となる212,570円(300,000円 - 87,430円)が払い戻されます。 なお、この金額の算定には注意点があります。後述する「高額療養費制度の注意点」にも目を通してみてください。

 

治療が長期に及んだ場合はさらなる減免措置がある

手術のように一回で終わる治療もあれば、抗がん剤治療のように長期にわたって続く治療もあります。高額な治療費を支払い続ける、というのは頭の痛い問題ですが、このようなケースに当てはまる人のために、さらに負担を軽減するしくみが用意されています。

それが「多数回該当」というものです。 多数回該当とは、直近の12か月の間に3回以上高額療養費制度の対象になった場合、4回目以降の自己負担額が引き下がるしくみです。 具体的には次の表のように、自己負担限度額が下がります。

 

 

例えば、6か月間にわたり毎月100万円の医療費が必要なケースで考えてみます。

 

◎もし多数回該当が存在しなければ……

  • Aさんの例で計算した87,430円が6か月間必要
  • 自己負担額の合計は524,580円

 

◎多数回該当があると……

  • 最初の3か月が月874,30円、以降の3か月は月44,000円必要
  • 自己負担額の合計は394,200円

 

つまりこのケースでは、ざっくり約13万円の負担が軽減されるわけです。

 

今回は分かりやすくするために、多少極端な例で計算しました。

とはいえ、高額な治療が長期間続く人にとっても、金銭的な負担ができるだけ軽くなるように考えられている優しい仕組みだということはわかってもらえたのではないでしょうか。

 

2. 高額医療費制度の申請方法について:国民健康保険と健康保険での違い

申請方法や申請書類は加入している公的医療保険によって異なります。下記は一般的な内容ですので、申請する際には加入している医療保険先に必ず問い合わせるようにしてください。

 

国民健康保険

国民健康保険は主に自営業やフリーランスの人などが加入している公的医療保険です。 国民健康保険に加入している人の場合は、自己限度額を超えた月から数か月すると自治体から世帯あてに申請書が送付されます。

 

被用者保険

被用者保険は会社員や公務員などが加入している公的医療保険の総称です。健康保険組合や協会けんぽ、共済組合などがこれに当たります。

被用者保険に加入している人は、自己負担限度額を超えた月が発生した場合、健康保険証に記載されている保険の支部に「高額療養費制度支給申請書」を提出する必要があります。高額療養費制度支給申請書は各保険のウェブサイトからも入手できるので、確認してみてください。

 

注意:いずれの申請にも領収書の提出が必要

申請時には医療機関から発行される領収書の提出を求められることががほとんどです。必ず保管しておいてください。

 

3. 高額療養費制度の注意点について

高額療養費制度を利用する際にはいくつか注意点があります。その中から特に知っておいてほしいポイントを3つ説明します。

 

注意点①:対象にならないものがある

医療費の全てが高額療養費制度の対象になるわけではありません。対象外のものがあることを頭に入れておく必要があります。以下が対象外になるものの代表例ですが、その他にもあります。判断に迷うときは事前に医療機関や、加入している公的医療保険で確認してください。

 

【高額療養費制度の対象外の代表例】

  • 入院中の食事代・生活費
  • 差額ベッド代(特別療養緩急室料)
  • 先進医療の技術料
  • 自由診療の費用

 

これだけではよくわかりづらいと思いますので、一つずつ見ていきます。

 

■入院中の食事代・生活費

入院中の食事代や日用品、着替え、テレビカードの費用などは、治療とは関係ない個人的にかかる費用とみなされます。このため、高額療養費の適用外となります。

 

■差額ベッド代(特別療養緩急室料)

入院すると、基本的には複数の患者さんとともに一つの部屋に滞在します。しかし、患者さんは、追加代金を支払うことで、個室や少人数の部屋(2人から4人部屋)に変更することが可能です。この追加代金を一般的に「差額ベッド代」といいます。差額ベッド代については高額療養費制度の対象外なので、全て負担する必要があります。

 

■先進医療の技術料

先進医療とは、厚生労働省から認証をうけた高度な医療技術を用いた療養のことを指します。先進医療を受けた場合、入院料・診察・検査・治療などの保険治療と共通している部分については保険が適用されますが、先進医療の技術料については全額を負担する必要があります。

 

■自由診療の費用

自由診療は、保険診療にも先進医療にも当てはまらないものです。公的医療保険の適用外になるので、全額が自己負担になり、高額療養費の適用を受けることもできません。自由診療にあたるものには、見た目の美しさを目的とした治療(いわゆる美容形成・審美歯科)や、レーシック治療などがあり、意外なところでは人間ドックや正常出産などがあります。

 

注意点②:月をまたいで治療すると負担額が大きくなる場合がある

高額療養費制度の上限額はひと月ごとに定められます。医療費の支払いが月をまたいだとしても合算はできず、それぞれの月ごとでリセットされます。 イメージが湧きにくいかもしれないので、先に説明した大腸がんの治療を受けたAさんの例を使って説明します。

Aさんの治療には100万円の医療費がかかり、3割負担で30万円を支払いましたが、高額療養費制度の使用により、最終的には上限額である87,430円の支払いですみました。これは治療が月をまたがず終了した場合です。

2か月にまたがった場合はどうなるでしょうか。わかりやすくするために、50万円ずつ医療費がかかったとして計算してみます。

 

◎月をまたいで50万円ずつ医療費がかかった場合

  • 1か月の自己負担限度額を求める計算式は80,100円+(総医療費-267,000円)×1%
  • 医療費が500,000円の場合、自己負担限度額は80,100円+(500,000円 - 267,000円)×1% = 82,430円
  • 上記が2か月続くので、総負担額は16,4860円

 

月をまたがなかった場合の2倍近くかかることになります。このように、月をまたぐと負担額が高くなってしまうことがあるので、自己負担限度額より少し多めに費用を見積もっておくとより安心です。

 

注意点③:支払いが数ヶ月後になることがある

高額療養費制度を申請しても、すぐに差額が払い戻されるわけではありません。3か月から4か月後の払い戻しになることも多いようです。支払いまで時間が空くので、金銭的な不安がある人や、事前に建て替えが難しい人は次で説明する「限度額適用認定証」や「高額療養費貸付制度」の利用を検討してみてください。

 

■限度額適用認定証

あらかじめ高額療養費制度が適用されることが想定される場合には、「限度額適用認定証」の交付を申請しておくことをお勧めします。限度額適用認定証を提示すると、自己負担限度額を超えた分の窓口での支払いが必要なくなります。高額療養費制度で支払われる還付金の前払いといった位置づけです。 限度額認定適用証の入手方法については、国民健康保険加入者は住民票のある自治体に、被用者保険加入者は加入している健康保険に、問い合わせてみてください。

 

■高額医療費貸付制度

急な病気で限度額適用認定証の用意が間に合わない場合もあると思います。そうした場合に、「高額医療費貸付制度」が助けになります。高額療養費が支給されるまでの間、医療費を無利子で借りられます。

こちらの窓口も、国民健康保険加入者は住民票のある自治体、被用者保険加入者は加入している健康保険になるので、問い合わせてみてください。

 

今回は重要な医療制度の一つである「高額療養費制度」について掘り下げて説明しました。 どんなに高額な医療でも、決まった上限内の金額負担で受けられるのは非常にありがたいことです。病気になってからこの制度について理解しても遅くはありませんが、病気になる前から知識としてもっておけば、もしものときの心配が少なく済むかもしれません。このコラムがみなさんの医療費不安を取り除く助けになれば幸いです。

 

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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