肺がんの治療はどのように決まるか:手術、抗がん剤、放射線療法
肺がんの治療は、手術・
目次
1. 肺がんの治療方法はどうやって選ぶか

肺がんの治療法はいろいろあります。その中から一人ひとりの状態に合った治療法を選択するためには、肺がんの
肺がんの治療方法はステージで決まる
肺がんの治療方法はステージと呼ばれる
また、肺小細胞がんは非常に進行の早いがんですので、小細胞以外の肺がん(腺がん、扁平上皮がんなど)と治療方法が異なります。
小細胞がんの治療方法
肺小細胞がんは肺腺がんや肺扁平上皮がんに比べて化学療法や放射線療法が効きやすいです。しかし、それでもがんを完治させるには手術のほうが優れています。
そのため肺小細胞がんの治療では、手術が可能であれば手術を行い、手術が難しければ薬物療法(抗がん剤など)や放射線療法を行います。
■肺小細胞がんの手術
肺小細胞がんの中でも初期のもの(ステージ1、 2A)のみ手術を行うことができます。肺小細胞がんに対する手術をしたときは、どんなに初期であっても手術後に化学療法を行うことが多いです。
肺小細胞がんは進行が速く、目に見えないがん細胞が体内のどこかにひそんでいることが多いです。そのため、目に見えるがんを手術で切除しても完全には取り切れていないことがあるので、手術後に薬物療法を行うことになります。
しかし、そもそも肺小細胞がんは初期の段階では症状がないことがほとんどですので、見つかったときには手術ができない状態ということは少なくありません。手術ができなかった場合の治療について説明していきましょう。
■肺小細胞がんの薬物療法
手術ができない場合に有力な治療となるのは薬物療法です。小細胞がんの治療に使える抗がん剤は肺腺がんの治療薬よりもだいぶ少ないため、選択肢は狭くなります。
以下が主に使用される抗がん剤です。
- シスプラチン/カルボプラチン+エトポシド+アテゾリズマブ(CDDP/CBDCA+VP-16+Atezolizumab)
- シスプラチン/カルボプラチン+エトポシド+デュルバルマブ(CDDP/CBDCA+VP-16+Durvalumab)
- シスプラチン+イリノテカン(CDDP+CPT-11)
- アムルビシン(AMR)
- ノギテカン(NGT)
- イリノテカン(CPT-11)
最初の治療では、(従来の)抗がん剤に加え、アテゾリズマブやデュルバルマブという
■肺小細胞がんの放射線療法
肺小細胞がんに対して放射線療法は有効です。特に手術のできない人に対しては、全身状態が良ければ薬物療法に重ねて放射線療法を行うことが多いです。
また、肺小細胞がんでは予防的全脳照射という治療が行われることがあります。
以上で簡単に肺小細胞がんの特徴と治療法について説明しました。「肺小細胞がんの治療」というページでより詳しい説明をしていますので参考にして下さい。
非小細胞がんの治療方法
肺小細胞がん以外の肺がんのことを非小細胞がんと言います。非小細胞がんの治療は小細胞がんのそれと多少異なります。非小細胞がんではステージ3Aまで手術を行うことがあります。治療法が違う理由のひとつは、非小細胞がんには抗がん剤や放射線療法があまり有効でないことです。もうひとつの理由は、非小細胞がんの進行が小細胞がんほど早くないことから、ある程度進行した非小細胞がんでも手術で取り切れる可能性があることです。
肺がんのステージごとに治療方法が変わってきます。ステージの詳細に関しては、「肺がんのステージとは」のページを参考にしてください。
■ステージ1の非小細胞性肺がんの治療
ステージ1の肺がんは手術でがんを取りきることが基本です。とは言え、手術は身体への負担が大きいです。そこで身体の負担を軽くする目的に、肺を切る大きさを小さくする縮小手術(区域切除術、部分切除術)が行われることがあります。特にステージ1の中でもより初期のステージ1Aでは肺葉切除術や部分切除術を行うことがあります。
非小細胞がんの場合はステージ1Bの場合(ステージ1Aの一部も)は手術の後にUFTという抗がん薬を2年間飲み続けるケースが多いです。体力がないなどの事情があって手術ができない場合は、ステージ1Bであれば放射線療法で根治を目指すことが多くなります。
■ステージ2の非小細胞性肺がんの治療
ステージ2の肺がんは手術が可能です。術前の薬物治療、術前後の薬物治療、術後の薬物治療を行う選択肢があり、患者さん、呼吸器内科医、呼吸器外科医で話し合って決定することになります。
① 術前の薬物治療(化学療法+免疫チェックポイント阻害薬)
術前:シスプラチン/カルボプラチンを中心とした点滴の抗がん剤+ニボルマブ(オプジーボ®) 3週ごとに3回行う
② 術前の薬物治療(化学療法+免疫チェックポイント阻害薬)+術後の薬物治療(免疫チェックポイント阻害薬)
術前:シスプラチンを中心とした点滴の抗がん剤+ペンブロリズマブ(キイトルーダ®) 3週ごとに4回行う
+術後:ペンブロリズマブ(キイトルーダ®) 3週ごとに13回行う
術前:シスプラチン/カルボプラチンを中心とした点滴の抗がん剤+デュルバルマブ(イミフィンジ®) 3週ごとに4回行う
+術後:デュルバルマブ(イミフィンジ®) 4週ごとに12回行う
③ 術後の薬物治療(化学療法±免疫チェックポイント阻害薬や分子標的薬)
シスプラチンを中心とした点滴の抗がん剤 3週ごとに4回行う
PD-L1が発現していれば、追加でアテゾリズマブ(テセントリク®)を3週ごとに16回行うこともあります。
EGFR変異があれば化学療法に追加してオシメルチニブ(タグリッソ®)の内服、ALK融合遺伝子があれば化学療法の代わりにアレクチニブ(アレセンサ®)の内服を行うことがあります。
■ステージ3の非小細胞肺がんの治療
ステージ3でも最も治療成績が良いのは手術になります。ステージ3の中でも進行している3B、3Cは手術を行うことはできません。しかし、全身状態の良い3A期では手術を行うことになります。手術を行う場合の治療はステージ2と同様になります。
また、がんの広がりによっては手術を行うことができないこともあり、その場合には化学放射線療法を行うことになります。シスプラチンやカルボプラチンを中心とした点滴の抗がん剤を用いることが多いです。
治療後もデュルバルマブ(イミフィンジ®)という免疫チェックポイント阻害薬の治療を4週間ごとに最大1年続けることになります。EGFR変異がある場合には、オシメルチニブ(タグリッソ®)を最大3年間内服することも選択肢になります。
これらの治療はすべて根治を目指した治療になります。
■ステージ4の非小細胞肺がんの治療
ステージ4の肺がんに対して手術を行うことはできません。また、症状を取る目的でなくがんを根絶する目的で放射線療法を行うこともできません。いずれも、治療することでかえって寿命を縮めてしまうことがわかっています。
ステージ4の治療では抗がん剤を用います。肺がんのタイプによってさまざまなお薬の選択肢があります。
この治療は根治を目指すのではなく、なるべく健康に生きられる時間を長くすることが目的です。体力が落ちて
ここでは非常に簡単に説明してきました、がんの種類によって詳しく治療方法などを説明しているページ(小細胞がん、扁平上皮がん、腺がん)がありますので参考にしてください。
高齢者が肺がんになった時の治療方針
高齢者の肺がんを考えるうえで1つ確認しておかなければならないことがあります。何歳以上が高齢者なのでしょうか。
これに厳密な結論はありません。想像してみてください。85歳でもプールやゴルフをするような元気な人もいれば60歳でも足腰が弱って歩くのがままならない人もいます。特に平均年齢の高い現代日本において、年齢で区切ること自体の意味が薄れつつあります。
以前の肺がんの治療方針では、年齢が高い人には手術もしなければ、ともすれば抗がん剤も使用しないことも多くありました。しかし、最近の肺がんの治療では、年齢ではなくて身体の元気さで判断しようという風潮になりつつあります。
とは言え、高齢者の肺がんに対して治療を行う場合に、肺癌
身体の元気さを評価するうえで重要なのは以下のものです。
- 心機能
心臓エコー検査 心電図検査
- 肺機能
呼吸機能検査
腎機能 - 蓄尿検査+血液検査(クレアチニンクリアランス)
これらを行って、どれもが正常であった場合は高齢者であろうと、通常の治療を検討することになります。
実際に身体の元気な高齢者に対して肺がんの手術を行った時のデータを新潟県立がんセンター新潟病院がまとめたものがあります。その結果によれば、高齢者の肺がんに対する手術の治療成績は一般的には肺がんの手術成績と変わらないとなっています。おそらくこうしたデータの蓄積がされればされるほど、年齢よりも身体の状態のほうを重要視しようという風潮は高まると思われます。
肺がんの診療ガイドライン
肺がん治療の指針となる
世界的にはNCCN(National Comprehensive Cancer Network、国際包括的
もう1つが、日本肺癌学会が出している「肺癌診療ガイドライン」です。これは国内の抗がん剤の承認状況や治療成績を踏まえて、日本人に適した治療法を追求したものになっています。
参考文献:日本肺癌学会「肺癌診療ガイドライン―悪性胸膜中皮腫・胸腺腫瘍含む2023年版」
ガイドラインは当然尊重されるべきもので、最もうまくいく確率の高いものが書かれていると考えて良いです。しかし、実際の臨床の現場ではさらに患者さん個人個人の状態を加味して治療方法がアレンジされるのも事実です。さらに、新薬の登場や新しい治験の結果によって治療方針はどんどんと変化するものです。もし自分の治療法がどういった位置づけのものなのかが気になる人は、一度主治医に話を聞いてみると良いでしょう。
どうしても自分の治療法が正しいのかが気になる場合は、遠慮なくセカンドオピニオンを希望してください。患者の最善を考えて治療している医者であれば、セカンドオピニオンを嫌がることはありません。
2. 肺がんの治療で使う抗がん剤以外の薬
抗がん剤による化学療法では、副作用を予防または軽減するために、抗がん剤以外の薬を併用し、抗がん剤による身体への負担をできる限り減らす方法がとられています。
例として、肺がんの治療で使うペメトレキセド(PEM)(商品名:アリムタ®)という薬には通常、葉酸や
また、インフュージョンリアクションと総称される副作用を起こしやすいとされる抗がん薬を使うときは、解熱鎮痛薬や抗
吐き気に使う薬
抗がん剤治療の間には、がん自体の症状や抗がん剤の副作用として吐き気・嘔吐があらわれる場合があります。吐き気に対しては吐き気を抑える薬が使われ、多くの場合で対策ができるようになっています。
アプレピタント(イメンド®)及びホスアプレピタントメグルミン(プロイメンド®)などの薬が治療に使われています。また、ステロイドや5-HT3受容体拮抗薬を用いることもあります。
日常の生活においても配慮が必要です。例えば吐き気があるときの対処として、室内の換気を行う、氷など冷たいものを口に含んでみる、などが有効の場合もあります。逆に芳香の強い花や香水などは吐き気を助長する可能性があります。
がん化学療法に使う漢方薬
抗がん剤にはさまざまな副作用があります。副作用の予防法・対処法として、漢方薬は重要な手段のひとつになります。
口内炎や下痢に対する半夏瀉心湯(ハンゲシャシントウ)、食欲不振への六君子湯(リックンシトウ)、しびれ(末梢神経障害)への牛車腎気丸(ゴシャジンキガン)などが使われています。
3. 肺がんは手術・抗がん剤・放射線療法以外で治療できるか
がんの治療において手術(外科的治療)・薬物療法(抗がん剤など)・放射線療法が3大療法と呼ばれています。これらの3つが最も治療の成績が良いからそう呼ばれています。今後新たに有効な治療法が出てくれば4大治療法と呼ばれるようになるかもしれませんが、現段階ではこの3つと同等の効果のある治療法は存在しません。
この3つの治療法以外に、温熱療法、免疫療法(免疫チェックポイント阻害薬を除く)、サプリメント(アガリスクなど)、大量ビタミンC
ただし、3大治療法以外にも重要な治療法があります。それは緩和治療です。
緩和治療は痛みや身体のしんどさを和らげる治療ですが、がんを根治する治療ではありません。そのため、一部にあまり重要視されていない風潮もありますが、非常に有力な治療です。
がんは初期段階ではあまり症状が出ません。進行するとともに症状が強くなってきます。がんの症状は痛みや
日本では、「もう手の施しようがないから緩和治療を行うんだ」とか「緩和治療を行うともうすぐ死ぬんだ」といった偏見が一部にありますが、むしろ緩和治療は化学療法をサポートしたり、快適な生活を送れるようにサポートしたりする前向きな治療法と言えます。
緩和治療のことを詳しく知りたい人は「緩和医療」のページをご覧になってください。
4. 再発した肺がんの治療法
肺がんは再発することがあります。再発しても治療法がないとは限りません。治療することでがんを根治あるいは制御できる場合があります。
手術した後に再発したがんが小さく
手術ができない場合には、再発に対する治療法に放射線療法や化学療法が選択されます。
前回治療で抗がん剤を使っている場合は、もう一度同じ抗がん剤を用いても効果が低いため違うものを選んで使用します。しかし、肺小細胞がんの場合は少し違ってきます。肺小細胞がんの再発では、治療が終了してから90日以上経ってから再発した場合は、前回使用した抗がん剤を使って良いことになっています。
これには主に2つの理由があります。
- 肺小細胞がんに使用できる抗がん剤は少ない
- 肺小細胞がんに対して抗がん剤が非常によく効く
実際に再発した肺小細胞がんに同じ抗がん剤を使用してみても、肺がんが縮小することはたびたび目にします。
5. 肺がんの治療にはどんな病院がいいか
肺がんに限らず、治療を受けるときには良い病院で受けたいと思うのが普通です。しかし、良い病院といっても漠然としていて、何を基準にすればいいかははっきりとしていません。
一体どんな病院が良い病院になるのでしょうか。
良い病院の条件
良い病院に絶対的な条件はありません。どんなに最先端の治療をやっていても自分の身体に合わなければ良い治療とは言えません。また、どんなに有名な病院でも、必ずしも最適な治療をしているとは限りません。
医療の中でも特にがん治療の領域は治療成功率も低く、治療をやってみないと結果が分からないという不確かな世界であることが、良い病院の判断を難しくさせています。つまり、これをすれば治るだろうというものがあれば、それをしっかりと行う病院がいい病院になります。しかし、Aという治療法でもBという治療法でもあまり治療成績が変わらないのであれば、判断が難しいということです。もちろん、明らかに良くない治療をする病院は選択肢にも挙がりませんが、通常の治療をしている限りはなかなか優劣がつけ難いのは事実です。
実際に肺がんの治療を受けることを想像してみてください。治療するうえで、どういったことがあると嬉しいでしょうか。
- いろいろな治療ができる
- 治療をするうえでストレスが少ない
- 通院がしやすい
- 信頼できる医者がいる
上のようなことが浮かんでくるかもしれません。これらの条件についてもう少し考えていきましょう。
いろいろな治療ができる
肺がんの状況は時間とともに変化します。手術から緩和治療までいろいろな治療が必要になる場面が出てきます。そのいずれにも対応できる病院は安心できます。もちろんすべてを行える病院は限られていますが、できない治療はどこか他の病院に頼んでくれるような病院にかからないと、治療法を考える前から選択肢が減ってしまいます。
治療をするうえでストレスが少ない
治療するうえでストレスを感じるような状況では、何のために治療しているのかわからなくなってきます。病院がきれいであるとか、病院が有名であるとかでストレスが少なくなる人もいると思いますが、どれだけ人間味のある医療者がいるのかといったことが最も大きい要素ではないでしょうか。「挨拶ができる」とか「気を遣って声をかけてくれる」とか、そういった当たり前のことができる病院は本当の意味で良い病院となるでしょう。
通院がしやすい
病院が近所にあることは非常に大切です。がんの治療は身体への負担が大きく治療が進むに連れて段々と身体がしんどくなってきます。通院しやすい病院は身体の負担を最低限にしてくれますので、大事にするべきです。また、急に体調が悪くなった場合にも、かかりつけの病院が近いとすぐに運んでもらえて便利です。
信頼できる医者がいる
医者を信頼するためには、医者が上手に人間関係を構築する能力を持っていることも大切ですが、人間同士の相性の問題もあります。担当医の人柄が自分に合わないと思ったら、我慢せずに担当医を変えるか病院を変える方法もあります。一期一会という言葉は大切ですが、肺がんの治療においては自分にとって最善の医者を探すために、以下の「セカンドオピニオンを希望する場合」で説明する方法を使って病院を変えることは問題ないです。ただ、医者を探すためにあまりに長い時間を費やしてしまうと、肝心な治療に入るタイミングが遅れてしまうので注意してください。
ここまで4つのポイントを整理してきましたが、これらを全て満たすような病院はまず存在しません。そこで、患者さん自身が何を優先したいのかを考えると良いでしょう。自宅の近くの病院の利便性を最優先にする人もいれば、医者との関係性を重要視する人もいるでしょう。自分にとって何がもっとも大事なのかを考えてみてください。
6. セカンドオピニオンを希望する場合
近年、セカンドオピニオンという言葉をよく聞きます。セカンドオピニオンとは主治医以外に治療について意見を聞くシステムのことです。これはより正しい治療を選択するうえで有用な手段です。
肺がんの治療において判断が難しい場面に直面することがあります。三人寄れば文殊の知恵というように、多くの人で考えることは重要です。
セカンドオピニオンを希望すると、今診てもらっている主治医に対して気まずいという意見をよく耳にします。しかし、そんなことはありません。セカンドオピニオンは患者さんのまっとうな権利ですし、最適な治療を探して悩んでいる主治医にとってもありがたい話であったりします。他の医者の話も聞いてみたいと思われたら遠慮なくセカンドオピニオンを求めるべきです。セカンドオピニオンを聞くには
紹介状が欲しい場合
セカンドオピニオンを受けに行ったり、他の病院に移ったりする際に紹介状を書いてもらうことになります。紹介状のことを正しくは「
診療情報提供書の中には、今までの経過や肺がんの状況に加えて、血液データや画像データが盛り込まれています。作成には病院の規定する料金(3000-5000円くらいのことが多い)がかかりますが、特にセカンドオピニオンでは必要な書類になります。
紹介状なしでいろいろな病院にかかっても、経過や検査結果の大切な情報がなければ正しい判断はできません。最初に行った病院に不満を感じたりして「病院を変えたい」と思ったときこそ、きちんと紹介状を書いてもらうことが大切になります。
7. 肺がんの治療中に生活で気を付けることは?
肺がんの治療を行うと、治療の影響やがんの影響からいつものように日常生活を送ることが難しくなってしまう場合があります。
ここでは肺がん治療中における生活の注意点について説明していきます。
症状が悪化した場合
肺がんは最初はほとんど症状が出ませんが、進行すると症状が強くなってきます。吐き気やふらつき、息切れなどが強くなると、日々の生活に支障をきたします。
■吐き気が強くなった場合
吐き気が強い場合は食事をとれなくなります。食事をとれなくなるとますます体調が悪化しますので、なんとか対策を練る必要があります。「肺がんで食べられない時の食事の工夫」のページで詳しく触れていますので、そちらを参考にしてください。
■ふらつきが強くなった場合
ふらつきが強くなった場合は、転倒に気をつける必要があります。屋内をバリアフリーにしたり、階段周囲や風呂場の周囲にマットを敷いたりして、骨折しないように配慮する必要があります。また、筋力が低下しないように、肺がんの治療にあたる前から身体を動かす習慣をつけておくことも重要です。
■息切れが強くなった場合
息切れが強くなると、生活で動ける範囲が狭まってきます。すると心肺機能が落ちてしまい、さらに生活の範囲が狭くなるといった悪循環にはまりこんでしまいます。この場合も、肺がんの治療にあたる前から身体を動かして心肺機能を高めておくことが重要です。とは言え、息苦しさが強くて動けないほどの場合は、
感染症
肺がん患者は
- がんがあると免疫機能が低下する
- がんの治療(特に化学療法)をすると免疫が抑えられてしまう
- 肺がんが肺の構造を変形させるので、異物が入ってきても体外にうまく出せない
以上のことから感染症になりやすいことが分かっています。特に肺炎になると長引いてしまうことが分かっていますので、咳や痰と言った症状には注意してください。突然咳や痰が強くなったり、ずっと続くようなことがあれば、一度医療機関にかかって調べてもらったほうが良いです。
感染症にならないように、日頃から手洗いとうがいを習慣にしておくことが重要です。また、
8. 肺がんの治療にかかる費用
肺がんの治療にかかる費用は、治療法によって大きく違いますが、自己負担額3割で30万円から60万円ほどが目安になります(2024年9月現在)。
実際には、必要に応じて検査も行われますのでその分に費用がかかります。また、食事代や差額ベッド代は別にかかりますし、病院によってさまざまな要素が考慮され、一見同じような検査や治療に対しても負担額が変わります。
治療にかかった費用が戻ってくる「高額療養費制度」
肺がんの治療のように高額の医療費に対し、負担を軽くする制度があります。高額療養費制度が代表的です。
高額療養費制度は、医療費の自己負担額が所得に応じてある基準を超えたとき、基準を上回る分があとで払い戻される制度です。払い戻しを受け取るまでに数か月かかります。
たとえば70歳未満で標準報酬月額が28万円から50万円の人では、1か月の自己負担限度額が80,100円+(総医療費-267,000円)×1%と決められています(2024年10月時点)。
総医療費の3割が自己負担額なので、自己負担額が80,100円を超えると(すなわち、総医療費が267,000円を超えると)払い戻しの対象になります。
自己負担限度額は所得によって35,400円から252,600円+(総医療費-842,000円)×1%まで幅があります。
ほかにも自治体などが助成制度を設けている場合があります。 高額療養費制度について詳しくは厚生労働省のウェブサイトやこちらの「コラム」による説明を参考にしてください。
9. 末期肺がんで「治療できない」と言われた場合
末期がんで治療できないと言われることがあります。これには、治療による身体への負担が強すぎるということと、治療しても改善の見込みが乏しいということの2つが背景にあります。とは言え、正確には治療できないという表現は正しくなく、がんを積極的に治すような治療はできないという意味になります。
末期肺がんとは
肺がんの末期とはどういった状態でしょうか?
末期肺がんに明確な定義はありません。決してステージ4の肺がんが末期というわけではありません。末期かどうかは身体の状態と肺がんの進行度の両方が関係して決まると考えて良いです。
肺がんの末期になると、がんの影響で体力は落ちていますし、治療を行ってもがんの進行をコントロールできません。そのため、抗がん剤で治療してもかえって状況が悪くなってしまいます。
末期肺がんの治療では何をするのか
末期がんは抗がん剤などで治療しても良くならないですが、全く治療しないということはありません。このときに有力なのが緩和治療です。
がんが進行して末期に至ると、だるさや息苦しさや食欲の低下といった症状が強くなり、日常生活が苛まれます。いつもどおりの生活を送れないストレスは心身に悪影響を及ぼすので、症状を和らげる治療を行います。これを緩和治療と言います。
日本では緩和治療を「何も治療できないときに行うもの」として考えがちですが、決してそういったことはありません。初期の肺がんであろうと症状があれば、症状を和らげるために行うべき治療です。
緩和治療の目標は「がんを患いながらも自分らしく生活すること」です。痛みやだるさなどを和らげながら、いつもどおりの生活を送れるようにしていきます。治療方法について詳しく知りたい人は、「緩和医療」のページを参考にしてください。
10. 肺がんの新薬・最新治療はどこで受けられるか
肺がんの治療薬は日進月歩です。特に分子標的薬と呼ばれる治療薬はどんどん新しいものが出てきています。
新薬を使うにはどうしたら良いか
厚生労働省が認可した薬であれば、新しい薬であってもどの病院でも使うことができます。大学病院やがんセンターのように、がんの治療を多くやっている病院でなくては使えないということはありません。しかし、薬にはどういった人に使えるのかという基準(適応)がありますので、その基準を満たしている必要はあります。かなり専門的な判断が必要になりますので、病院にかかって、担当医と相談するのが良いでしょう。
治験とは何か
治験という言葉は耳にはするけれどもあまり詳しく知らない人がほとんどかもしれません。実際にはどんなことを行うものなのでしょう。
特に治療の難しい病気に対しては、より良い治療法を見つけるために臨床試験が行われています。その中でも、薬や医療機器を使用するために、厚生労働省が認可するかどうかを決める試験が治験になります。これは言わば人体への効果と影響を見る試験ですので、非常に厳密な決めごとがあります。特に、倫理的な側面への配慮は綿密になされています。
治験を受けるにあたって、必ず治験の概要の説明がなされます。以下が説明される内容の中でも主なものになります。
- 治験の目的
- 検査や治療のスケジュール
- 治験に関わる期間
- 期待されている利益
- 起こりうる不利益
- 費用
- プライバシー保護に関して
- 治験データの活用に関して
これらに納得した場合のみ治験に参加することになります。治験の途中でも自分の意志で治験から離脱することが可能です。
治験は誰でも参加できるわけではありません。身体の状態やがんの状況などに関して、参加基準が厳密に定められています。参加基準を満たさない人は、どんなに希望しても治験に参加することはできません。
また、治験の中でも種類が分かれています。第1相(フェーズ1)試験から第4相(フェーズ4)試験までの4種類があります。第4相試験は薬剤が承認された後に行われるものです。投与量の適正性や薬剤の安全性を確認するために行われます。「市販後調査」というのもおおむね同じです。
第1相試験から第3相試験までは表のような違いがあります。
【薬が承認されるまでの治験の種類】
| 各々の特徴 | |
| 第1相試験 | 薬の安全性と吸収され排泄されていく流れを調べる |
| 第2相試験 | 薬の安全性、投与間隔、投与期間、投与量などを調べる |
| 第3相試験 | 実際に治療に用いる投与方法における効果と安全性を見る |
治験のメリットとデメリット
治験にかかる費用に関しては、たいていの場合は薬を認可してもらいたい製薬会社が大半あるいは全額を負担しますので、経済的なメリットがあります。しかし、人体へのデータがほとんどない薬を使いますので、何が起こるかわからないというデメリットもあります。
以下にメリット・デメリットをまとめます。
- メリット
- 通常ならまだ使うことのできない新しい薬を使うことができる
- 費用は格安である
- 副作用が出た場合も治療費は製薬会社に負担してもらえることが多い
- デメリット
- どんな副作用が出るかわからない
- 治療効果が全く出ないこともある
- 決められたスケジュールをこなさなければならない
- 他に持病のある場合は、その治療薬を中止しなければならないことがある
これらをしっかりと把握したうえで治験に望む必要があります。治験は夢の万能薬を使う治療ではありません。飛び抜けて成績の良い新薬はめったに現れません。たいていの新薬では、治療成績は良くても予想がつく程度の範囲に収まります。新薬の期待だけではなく、未知の副作用が出る危険性や、新薬が従来の薬より効かない可能性も考えに入れてください。それらを鑑みたうえで判断することが望ましいです。
治験に参加するにはどこに行けばよいか
治験はどの病院でもやっているというわけではありません。治験をやっている病院に行かなくては参加することはできません。
ただ、どこでどんな治験をやっているのかに関しては、普通の生活をしている限り情報すら入ってきません。そこで治験に参加したい人が登録しておくデータベースがあります。そこに登録するか、主治医に「治験があれば参加したい」という旨を伝えておくと良いでしょう。
厚生労働省:治験等の情報について
いずれにしても、治験には厳格な参加基準があるため参加できるタイミングは多くはありません。また、すごく良い効果を期待するのは難しく、ともすれば重大な副作用を被る可能性もあるということは承知してください。