はいがん(げんぱつせいはいがん)
肺がん(原発性肺がん)
肺にできたがん。がんの中で、男性の死因の第1位
29人の医師がチェック 297回の改訂 最終更新: 2024.03.05

ステージIV非小細胞肺癌に対する薬物療法、ASCOガイドライン2017年版より

非小細胞肺癌とは、肺がんの中でも小細胞がんと呼ばれる種類のものを除く分類です。肺腺肺扁平上皮癌などが非小細胞肺癌に含まれます。

肺がんのステージIVは、がんが所属リンパ節以外の臓器に転移遠隔転移)している状態です。遠隔転移があると、画像などで見えるがん以外にも見えない小さい転移が散らばっている可能性が高く、手術をしてもすべてのがんを取り去ることはできないと考えられています。

ステージIVの肺がんに対しては薬物療法が大きな役割を持ちます。薬は血液に乗って全身に行き渡るので、転移がある状態の治療としては理にかなっていると考えられます。

全体として次の2点が勧められています。

  • PS0または1で化学療法を使用する患者には、2種類の細胞障害性抗がん剤が推奨される。

  • ステージIVの非小細胞肺癌に根治は期待できないので、早期から同時に緩和ケアを行うことが患者の生存と良好な状態を増進してきたため推奨される。

PS(パフォーマンスステータス)とは、患者の元気さを大きく分類したものです。PS0はまったく問題なく日常生活ができる状態、PS1は激しい活動ができないけれども軽い作業ならできる状態です。

化学療法とは抗がん剤治療のことです。ここではがん治療薬の中でも細胞障害性抗がん剤に分類されるもの(分子標的薬は除く)を使った治療を指します。

このガイドラインでは以下の薬の名前が挙げられています(一部をまとめます)。

  • 細胞傷害性抗がん薬

    • プラチナ製剤(シスプラチン、カルボプラチンなど)

    • 第3世代抗がん剤(パクリタキセル、ペメトレキセドなど)

  • 分子標的薬

    • EGFR-TKI(アファチニブ、エルロチニブ、ゲフィチニブ、オシメルチニブ)

    • ALK-TKI(クリゾチニブなど)

    • 抗VEGF抗体(ベバシズマブなど)

    • 免疫チェックポイント阻害薬(ニボルマブ、ペムブロリズマブなど)

上のほか、2017年8月時点で日本では未承認の薬も挙げられています。

薬ごとに違った特徴があり、適していると考えられる人も違います。

たとえばEGFR-TKIはがん細胞がEGFR感受性変異という遺伝子変異を持っている場合に有効です。そのほかALK再構成、ROS1再構成、PD-L1発現という遺伝子変異も薬の選びかたに関わります。

はじめて使う薬物療法(1次治療)として以下が勧められています。このうち、PD-L1高発現(50%以上)があればペムブロリズマブ単剤、なければ細胞障害性抗がん剤を勧めるという点は今回の更新で加わりました。

  • 扁平上皮癌以外で、がんにEGFR感受性変異またはALK再構成またはROS1再構成がなく、PSが0または1(PS2でも可)

    • PD-L1高発現(陽性細胞の割合50%以上)があり禁忌がなければ、ペムブロリズマブ単剤が推奨される(高い質の証拠、強い推奨)

    • PD-L1低発現(50%未満)ならば、多様な細胞障害性化学療法(カルボプラチンとパクリタキセルを使うならばベバシズマブを加えてもよい)が推奨される(プラチナ製剤を使う方法について高い質の証拠、強い推奨。プラチナ製剤を使わない方法について中等度の質の証拠、弱い推奨)。

    • ペメトレキセドとカルボプラチンに加えるものとしてベバシズマブを推奨するには証拠が足りない。

    • その他の免疫チェックポイント阻害薬、免疫チェックポイント阻害薬の併用、免疫チェックポイント阻害薬と化学療法の併用は推奨されない。

    • PS2ならば、複数併用または単剤治療または緩和ケアのみを採用してもよい(化学療法について中等度の質の証拠、弱い推奨、緩和ケアについて中等度の質の証拠、強い推奨)。

  • 扁平上皮癌で、がんにEGFR感受性変異またはALK再構成またはROS1再構成がなく、PSが0または1(PS2でも可)

    • PD-L1高発現(50%以上)があり禁忌がなければ、ペムブロリズマブ単剤が推奨される(高い質の証拠、強い推奨)

    • PD-L1低発現(50%未満)ならば、多様な細胞障害性化学療法が推奨される(プラチナ製剤を使う方法について高い質の証拠、強い推奨。プラチナ製剤を使わない方法について低い質の証拠、弱い推奨)。

    • その他の免疫チェックポイント阻害薬、免疫チェックポイント阻害薬の併用、免疫チェックポイント阻害薬と化学療法の併用は推奨されない。

    • PS2ならば、複数併用または単剤治療または緩和ケアのみを採用してもよい(化学療法について中等度の質の証拠、弱い推奨、緩和ケアについて中等度の質の証拠、強い推奨)。

    • シスプラチンとゲムシタビンで治療中の扁平上皮癌に対して、委員会は化学療法に加えるものとしてネシツムマブの使用を推奨することも、使用しないよう推奨することもしない。※ネシツムマブは日本では未承認

  • EGFR感受性変異があれば、アファチニブ、エルロチニブ、ゲフィチニブが推奨される(高い質の証拠、それぞれ強い推奨)。

  • ALK再構成があれば、クリゾチニブが推奨される(中等度の質の証拠、中等度の推奨)。

  • ROS1再構成があれば、クリゾチニブが推奨される(例外的合意、低い質の証拠、弱い推奨)

最初に使った薬剤の効果がなくなったなどで2番目に使う薬(2次治療)については、2015年から引き続いて以下が進められています。

  • がんにEGFR感受性変異またはALK再構成またはROS1再構成がなく、PSが0または1(PS2でも可)

    • PD-L1高発現(1%)があり禁忌がなく、1次治療で化学療法を使用して以前に免疫チェックポイント阻害薬を使用していない患者では、単剤のニボルマブ、ペムブロリズマブ、またはアテゾリズマブが推奨される(高い質の証拠、強い推奨)。※アテゾリズマブは日本では未承認

    • がんのPD-L1発現が陰性または不明(1%未満)であり禁忌がなく、1次治療で化学療法またはニボルマブまたはアテゾリズマブを使用した患者では、多様な組み合わせの細胞障害性化学療法が推奨される(高い質の証拠、強い推奨)。

    • その他の免疫チェックポイント阻害薬、免疫チェックポイント阻害薬の併用、免疫チェックポイント阻害薬と化学療法の併用は推奨されない。

    • 1次治療で免疫チェックポイント阻害薬を使用した患者では、多様な組み合わせの細胞障害性化学療法が推奨される(プラチナ製剤を使う方法について高い質の証拠、強い推奨。プラチナ製剤を使わない方法について例外的な合意、低い質の証拠、強い推奨)。

    • 1次治療の化学療法のあとで免疫チェックポイント阻害薬に禁忌がある患者では、ドセタキセルが推奨される(中等度の質の証拠、中等度の推奨)。

    • 扁平上皮癌以外の患者で以前にペメトレキセドを使用していなければ、ペメトレキセドが推奨される(中等度の質の証拠、中等度の推奨)。

  • EGFR感受性変異がある場合

    • EGFR-TKIによる1次治療のあとで疾患進行があり、T790M耐性変異がある患者では、オシメルチニブが推奨される(高い質の証拠、強い推奨)。

    • T790M変異がなければ、プラチナダブレットが推奨される(例外的合意、低い質の証拠、強い推奨)。

    • 1次治療でEGFR-TKIを使用し、開始時に応答があり、以後にゆっくりとしたまたはごく小さい疾患進行が孤立した病変部にあった患者では、EGFR-TKIに加えて孤立した病変部の局所治療が選択肢となる(例外的合意、証拠不十分、弱い推奨)。

  • ROS1再構成がある場合

    • 以前にクリゾチニブを使用していない患者では、クリゾチニブが推奨される(例外的合意、低い質の証拠、中等度の推奨)。

    • 以前にクリゾチニブを使用していない患者では、2次治療としてのプラチナ製剤を基礎とした治療が、ベバシズマブを併用してもしなくても推奨される(例外的合意、証拠不十分、中等度の推奨)。

  • BRAF変異がある場合:

    • 以前に免疫チェックポイント阻害薬を使用したことがなく、PD-L1高発現(1%を超える)がある患者では、アテゾリズマブ、ニボルマブ、またはペムブロリズマブが推奨される(例外的合意、証拠不十分、弱い推奨)。※アテゾリズマブは日本では未承認

    • 以前に免疫チェックポイント阻害薬を使用した患者では、3次治療としてダブラフェニブ単剤またはダブラフェニブとトラメチニブの併用が選択肢となる(例外的合意、証拠不十分、中等度の推奨)。※ダブラフェニブ、トラメチニブの肺がんに対する効能・効果は日本では未承認

3番目の薬について以下が勧められています。

  • 扁平上皮癌以外でがんにEGFR感受性変異、ALK再構成、ROS1再構成がなく、PS0または1の患者(PS2でも可)であり、ベバシズマブおよび免疫チェックポイント阻害薬の併用の有無によらず以前に化学療法を使用していれば、ペメトレキセドまたはドセタキセル単剤が選択肢となる(例外的合意、低い質の証拠、強い推奨)。

  • がんにEGFR感受性変異があり、少なくとも1種類の1次治療としてのEGFR-TKIおよびプラチナ製剤を基礎とした化学療法を以前に使用した患者では、化学療法よりも免疫チェックポイント阻害薬を推奨するだけの十分なデータはない(ペメトレキセドまたはドセタキセルについて例外的合意、証拠不十分、弱い推奨)。

3番目の薬に続く治療として次のように勧められています。

  • 患者と臨床医は実験的治療、臨床試験、および緩和ケアの継続を考慮し相談するべきである。

アメリカ臨床腫瘍学会のガイドラインの更新を紹介しました。

一般に、ガイドラインは医師や患者の判断を助けるために作られますが、どんな場合もガイドラインのとおりにしないといけないわけではありません。また、アメリカ臨床腫瘍学会は影響力の強い学会ですが、同じ状況に関わるガイドラインはほかの団体からも出されています。

そのため、今回の更新を参考にして医師が判断を変える場面はあるかもしれませんが、そうしなければ間違っているとは言えません。特に「例外的合意」とされた点について違う意見を持つ医師もいるでしょう。

ペムブロリズマブ(商品名キイトルーダ®)の肺がんに対する効能・効果は、日本では2016年12月に承認されました。これが今回の変更点にも関わることになりました。

今も新薬が開発され、効果や副作用が続々と報告される中で、集まった証拠がガイドラインに反映されていくことで、わかっている範囲の情報をバランスよく参照し、患者と医師の価値観や状況に合わせた治療を選んでいく助けとすることができます。