げっけいぜんしょうこうぐん(げっけいぜんきんちょうしょう、ぴーえむえす)
月経前症候群(月経前緊張症、PMS)
生理の前の数日間、精神・身体的症状が見られ、生理が始まるとともに症状が軽くなったり、消えたりする周期的な症候群
6人の医師がチェック 169回の改訂 最終更新: 2024.03.04

月経前症候群(Premenstrual Syndrome:PMS)の治療

生理前には多くの人が身体や心の不調を感じています。しかし、生理は病気ではないのだからと、しんどさを我慢してしまう人が少なくありません。月経前の不調は、生活改善や薬物治療で和らげることができます。ここでは、月経前症候群の受診の目安や治療について説明します。

1. 月経前症候群(PMS)ではどんな時に医療機関を受診したらいいか

月経前に不調があっても、当たり前だと思いがちで、わざわざ医療機関に行ってみようと思わないかもしれません。しかし、適切な治療を受けることで、日々をもう少し快適に過ごすことができます。月経前に症状がある人は、気軽に相談するつもりで、医療機関に受診してみてください。

なお、医療機関では、経口避妊薬(ピル)などのホルモン製剤を使った治療も行っており、特に月経に関連した症状が多く、すぐに妊娠を望まない人にとっては有用な治療法のひとつです。月経前の症状に限らず、月経中の腹痛がひどい、といった月経にまつわる他の症状がある人は、受診の際に一緒に相談してみてはいかがでしょうか。

受診は何科にしたら良いのか?

月経前症候群かもしれないと思った人は、まずは婦人科に受診することをお勧めします。婦人科は産婦人科と標榜している医療機関でも構いません。はじめて受診するときは大きな病院でなくて、通いやすい近くの医院に受診してみてください。必要に応じて、大きな医療機関を紹介されることもあります。女性医師を希望される人はあらかじめインターネットなどで担当医師や女性医師が診療をしている曜日を調べておくと安心です。

2. 月経前症候群ではどんな治療が受けられるか

月経前症候群の治療には、生活改善といった薬によらない方法と、薬物治療があります。どの方法を行うかは症状の重症度や種類によって異なります。

生活改善には認知行動療法、運動療法、食事療法、リラクゼーション法などがあります。身体症状に対しては症状の種類に応じて鎮痛薬や利尿薬、経口避妊薬(ピル)などが使い分けられます。精神症状に対しては重症度に応じて精神安定剤や抗うつ薬が用いられます。以上の治療でも改善しない人は、より強いホルモン療法が行われることがあります。それぞれの治療方法について次項から説明します。

3. 生活改善、セルフケアによる緩和方法

生活改善は月経前症候群の症状を和らげるのに有効です。

まずはじめに、どの時期にどのような症状が出るのかを記録します。記録をすることで客観的に症状を把握することができるので、対処がしやすくなります。

症状日記:症状のサイクルを把握する

まずは症状を把握するために、症状日記をつけてみてください。数サイクル記録を続けると、不快な症状が月経周期にあわせて起きていることが確認でき、ホルモンの正常な働きの影響だと自覚しやすくなります。

症状の正確な把握のためには、その日のうちに記録することが望ましいと言われています。手帳やカレンダー、月経を記録しているスマートフォンのアプリなど、使いやすいものに身体や心に起きたことを書いておいてください。また、記録の際には、月経の期間や不正出血についても忘れずにメモしておきます。医療機関に受診する際には、この記録を持参してください。診断や治療の参考にされます。

生活改善

自分のサイクルが把握できたら、症状の起こりやすい時期に仕事や予定を詰め込みすぎないように、可能な範囲で調整します。運動や趣味など自分にあったリラックス法も見つけておくと良いです。人によっては掃除などの単純作業が有効なこともあります。自分が心地よいと思う方法をいくつか見つけておいて、月経前の時期に行ってみてください。

PMSでは仕事や学業の効率が低下するほか、イライラして当たってしまうことなどで周りの人との関係も悪化しがちです。近しい人にはPMSの時期や症状について伝えておき、時期がすぎればいつも通りに戻ることを予め伝えておくと良いかもしれません。相手の方との関係の悪化を防ぐことができると思います。

その他、規則正しい睡眠や生活、禁煙も心がけてください。

運動療法

有酸素運動にはリラックス効果があるとされています。PMSに関しては、定期的な有酸素運動が症状を和らげる可能性があると報告されています。有酸素運動にはジョギング、水泳、サイクリング、エアロビクスなどがありますが、何をどのくらい行うとPMSに対して有効であるかについては、現時点でははっきりしていません。大事なのは自身がリラックスできることですので、無理のない範囲で、適度な運動を心がけてみてください。

参考文献:Daley A. Exercise and premenstrual symptomatology: a comprehensive review. J Womens Health (Larchmt). 2009 Jun;18(6):895-9.

食事療法

症状を改善するとはっきりわかっている食材は現在のところないものの、食事療法では、脂質、砂糖、食塩、カフェインとアルコールの過剰な摂取を控えて、食物繊維を含む炭水化物、野菜、や果物のを摂取することが勧められています。

研究で症状を和らげる効果が示唆されている栄養素にカルシウムがあります。日本人ではカルシウムの摂取量が不足しがちであることから、PMSの有無に依らず、カルシウムの多い食品を意識して摂るのが望ましいです。また、カルシウムの吸収をよくするためにマグネシウムやビタミンDを含む食品の摂取を心がけると良いかもしれません。

その他にも、ビタミンB6や西洋ハーブのチェストベリーも有効ではないかという報告がありますが、効果がはっきりわかっているわけではありません。

なお、サプリメントについては「症状を改善させるサプリメントはあるのか?」に詳しく書いてありますので、読んでみてください。

参考文献
Nick Panay, NAPS Guidelines on Guidelines on Premenstrual Syndrome
厚生労働省:国民健康・栄養調査

認知行動療法

認知行動療法は、考え方の癖や思い込みを見直して、辛い気持ちや不安を和らげる方法です。認知行動療法はPMSに有効とも言われますが、効果が出るには時間がかかるため補助的な治療方法として用いられます。通常は医師や臨床心理士などの心の専門家とともに行います。希望される人は担当してもらっている医師に相談してみてください。

簡単に説明すると、不安やつらい気持ちを引き起こす事柄を書き出し、その一つひとつが客観的な事実なのか、個人的な解釈(思い込み)なのかを判断します。個人的な解釈だとしたら、それはメリットのある解釈なのかどうかを、いくつかの視点で見直します。この作業を繰り返すことで、当初とは違った考えに気づけるようになり、バランスの良い考え方へと変えていくことができます。

4. 薬物治療の方針

薬物治療はそれぞれの症状に対して行う治療と、排卵そのものを抑える治療法があります。軽症の人は症状に応じた薬で対処します。例えば、腹痛や頭痛などの痛みに対しては鎮痛薬、むくみ浮腫)に対しては利尿薬、情緒不安定な場合には抗不安薬といった具合です。また、一般的に中等症以上の人には、抑うつなどの症状に応じて抗うつ薬などが用いられるほか、排卵そのものを抑える薬による治療が検討されることもあります。そのほか、漢方薬などもよく用いられています。

  • 症状に対する治療薬
  • 排卵を抑える治療薬
  • 漢方薬

次はそれぞれの薬剤について説明します。

5. 鎮痛薬:腹痛、頭痛などを和らげる処方薬・市販薬

その名の通りいわゆる「痛み止め(解熱鎮痛薬)」で、PMSなどの月経関連の痛み(腹痛や頭痛など)を和らげる効果が期待できます。ひとえに痛み止めといっても色々な薬がありますが、特にNSAIDsやアセトアミノフェンといった鎮痛成分を含む薬剤が広く使われています。

【月経に伴う痛みに使われる主な薬剤】

  成分 主な処方薬 主な市販薬
NSAIDs イブプロフェン
ブルフェン®️錠200mg
ブルフェン®顆粒20%
 など
イブ®️
ナロンメディカル
リングル®️アイビー など
ロキソプロフェンナトリウム(ロキソプロフェンナトリウム水和物)  ロキソニン®錠60mg
ロキソニン®細粒10%
など
 ロキソニン®️S
バファリンEX
ロキソプロフェン錠 など
アセトアミノフェン製剤 アセトアミノフェン カロナール®️錠200mg
カロナール®細粒20% など
タイレノール®️A
バファリンルナJ など

そのほか、鎮痛成分や鎮痛補助成分などを複数配合した薬もあります。例えば、処方薬ではアセトアミノフェンなど4種の鎮痛及び鎮痛補助成分を配合したSG配合顆粒、市販薬ではNSAIDsのイブプロフェンにブチルスコポラミン(腹痛などを和らげる成分)を加えた月経痛専用薬(商品名:エルペインコーワ)、などがあります。

NSAIDsとアセトアミノフェンについて、以下に詳しく説明をします。

NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)

NSAIDs(エヌセイズ)とは、Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drugs(非ステロイド性抗炎症薬)の略称で、ロキソプロフェンナトリウム(主な商品名:ロキソニン®)やイブプロフェン(主な商品名:ブルフェン®)などのいわゆる「痛み止め(解熱鎮痛薬)」と呼ばれる鎮痛成分の多くはこの種類の薬に分類されます。

PMSなどの月経に関連してあらわれる腹痛や頭痛には、体内物質のプロスタグランジン(PG)が深く関わっています。NSAIDsはこのPGの産生を抑える作用をあらわすため、PMSなどの月経に関連した痛みに対して鎮痛効果が期待できます。

ロキソプロフェンナトリウムやイブプロフェンなど、NSAIDsの鎮痛成分のいくつかは市販薬(OTC医薬品)の成分としても使われているため、症状が比較的軽度で原因がはっきりしているなどのいくつかの条件を満たしている場合には、薬局やドラッグストアなどで購入できるという点もメリットです(なお、NSAIDsなどの鎮痛成分の中には処方薬に限定して使われているものもあります)。

・NSAIDsの注意点

NSAIDsに分類される薬剤成分は体内で発熱・疼痛・炎症などの発生に深く関わるプロスタグランジン(PG)の産生を抑えることで、解熱・鎮痛・抗炎症作用をあらわし、PMSなどの月経関連の痛みだけでなく、一般的な発熱や炎症(腫れ)などに対しても有用です。ただし、PGは体内でほかにも色々な役割を果たしている物質でもあり、その生体維持に必要な働きをNSAIDsが妨げてしまうことで、体に対して不利益を与える(副作用があらわれる)懸念もあります。

例えば、プロスタグランジンには胃粘液などの分泌に関わる働きがあり、この働きをNSAIDsが阻害してしまうことで、胃腸障害を引き起こす懸念があります。実際に胃腸障害や消化性潰瘍胃潰瘍など)を引き起こす原因としてピロリ菌ヘリコバクター・ピロリ)などとともにNSAIDsが挙げられています。そのほか、頻度は稀とされながらもNSAIDsによって気管支喘息腎機能障害などが引き起こされることも考えられます(詳しくは、コラム「副作用は胃痛、胸やけだけじゃない!? ロキソプロフェンナトリウム(ロキソニン® など)について」で解説しています)。

なお、これらの多くは主に内服薬などの全身作用を期待して用いるNSAIDs含有製剤における副作用ですが、貼り薬(湿布薬)などの局所にほぼ限定して作用をあらわす薬剤でも引き起こされる可能性はかなり少ないながらもあります。例えば、処方薬・市販薬問わず発売されているロキソプロフェンナトリウムの外用薬(パップ剤やテープ剤など)の包装には喘息への注意喚起が表記されているように、体質によっては使用に際し事前相談が必要となることも考えられます。

アセトアミノフェン

アセトアミノフェンはNSAIDsに類似した作用により解熱・鎮痛作用をあらわしますが、主に中枢(脳など)に対して働きかけるため、末梢における副作用への懸念が非常に少ないという特徴があります。そのため、胃腸障害や腎障害、喘息発作誘発などといったNSAIDsで注意すべき副作用への懸念がかなり少なく、また、小児(子ども)から高齢者まで幅広い年齢で使えるのもメリットです(NSAIDsとアセトアミノフェンの特徴についてはメドレーコラム「「ロキソニン」と「カロナール」は何が違うの?解熱鎮痛剤の特徴について解説」でも紹介しています)。

アセトアミノフェン製剤には錠剤以外に散剤、液剤、坐剤など剤形が比較的多いだけでなく、ほかの鎮痛成分などと組み合わせた配合製剤もあります。SG配合顆粒はアセトアミノフェンに加えて鎮痛成分(イソプロピルアンチピリン)や鎮痛補助成分(アリルイソプロピルアセチル尿素、無水カフェイン)を配合した製剤(顆粒剤)で、月経痛や頭痛などの痛みに対しても有用です。

なお、アセトアミノフェンもいくつかのNSAIDsと同様に市販薬の成分としても使われていて、アセトアミノフェンの単独製剤(商品例:タイレノール®A)だけでなく、「ACE処方」といってA(アセトアミノフェン)・C(カフェイン/無水カフェイン)・E(エテンザミド)の3成分を組み合わせた配合製剤も発売されています。

・アセトアミノフェン製剤の注意点

一般的に安全性が高いとされるアセトアミノフェンにおいても副作用がゼロというわけではなく、頻度は非常に稀とされますが肝機能障害などに対しての注意は必要です。また、SG配合顆粒などのようにアセトアミノフェン以外にも有効成分を含む配合製剤では、それら成分による副作用に対しても注意が必要です。

なお、アセトアミノフェンは末梢における抗炎症作用はほとんど期待できないという特徴もあり、痛み以外に腫れ(炎症)を伴うような症状に対しては効果不十分となる可能性がある、という点に関しても注意が必要です。

6. 利尿薬(スピロノラクトンなど):むくみなどを改善する薬

PMSではからだのむくみ(浮腫)を伴うことがあり、からだの余分な水分を体外へ排泄しやすくする利尿薬が治療に使われることがあります。ひとえに利尿薬といってもいくつかの種類がありますが、PMSによるむくみに対してはスピロノラクトン(主な商品名:アルダクトン®A)などが有用とされています。

◎スピロノラクトン

スピロノラクトンは、副腎皮質ホルモンアルドステロンの働きを抑えることにより、利尿作用などをあらわす薬です。腎臓の遠位尿細管という場所では尿中のナトリウムや水分を血液中へ戻す再吸収という体の働きが行われていますが、ここでの再吸収に関わっている主な物質がアルドステロンです。このアルドステロンの働きを抑えるスピロノラクトンには、PMSによるむくみやむくみによる一時的な体重増加などの改善が期待できるとされています。

・スピロノラクトンの注意点

スピロノラクトンにはナトリウム排出を促進し、カリウム排泄を緩やかに抑える作用があるるため、注意すべき副作用として低ナトリウム血症高カリウム血症といった電解質異常があらわれる可能性があります。PMSの治療で使用する用量でのリスクは一般的に少ないとされますが、例えば、元々、カリウム排泄が滞る持病(副甲状腺機能低下症など)があったり、なんらかの治療で血液中のカリウムが過剰になりやすい薬(タクロリムス、エプレレノン、ARB、ACE阻害薬など)を使用している場合は特に注意が必要です。そのほか、スピロノラクトンには男性ホルモンテストステロンの働きを抑える作用が少ないながらもあり、これにより乳房腫脹(乳房が張るなど)や月経不順などがあらわれることも考えられるため注意が必要です。

7. 抗不安薬(ベンゾジアゼピン系抗不安薬など):情緒不安定や不安などを改善する薬

いわゆる「安定剤」とも呼ばれる薬で、情緒不安定や不安などの改善が期待できる薬です。一般的に抗不安薬として使われている薬の多くはベンゾジアゼピン(BZD)系と呼ばれる種類に分類されます。BZD系の抗不安薬は主に脳内で興奮などを抑える抑制性の伝達物質であるGABA(γ-アミノ酪酸)の働きを増強することで、不安や緊張などを和らげる作用をあらわします。アルプラゾラム(主な商品名:コンスタン®ソラナックス®)、エチゾラム(主な商品名:デパス®)、クロチアゼパム(主な商品名:リーゼ®)などはPMSだけでなく色々な病態で広く使われているBZD系抗不安薬です。

BZD系以外の抗不安薬では神経伝達物質セロトニンの働きを調節することで不安や緊張などを和らげるタンドスピロン(主な商品名:セディール®)などがあり、病態などによっては選択肢となることも考えられます。

・抗不安薬の注意点

薬の成分ごとに特徴は異なりますが、抗不安薬と呼ばれる薬の多くは眠気などを含めた過鎮静、筋弛緩作用による運動失調や転倒、認知機能の低下(一過性の健忘)などへの懸念を伴うため注意が必要とされています。そのため、例えば、日常的に車の運転などの危険を伴う作業の習慣がある場合などは特に注意が必要となります。また、BZD系の抗不安薬では連用後の中断によって反跳性不安(服用を止めた場合に以前よりも不安状態になること)への懸念も考えられ、特に長期に渡って抗不安薬を継続するといった場合には注意が必要となります。抗不安薬の中でも主に脳内のセロトニン神経系に作用するタンドスピロンは筋弛緩作用などによる副作用への懸念が一般的に少ないとされています。ただし、副作用がゼロというわけではなく、セロトニン症候群(かえって不安が助長されたり、興奮・混乱などの症状があらわれる)や肝機能障害などに対しての注意は必要とされています。

8. 抗うつ薬(SSRIなど):うつ(抑うつ)や情緒不安定などを改善する薬

PMSではうつ(抑うつ)や情緒不安定などの精神症状があらわれることがあり、特に精神症状が主体で症状の度合いがある程度強い場合(月経前不快気分障害などと呼ばれることがあります)には、SSRIなどの抗うつ薬が使われることもあります。

◎SSRI

PMSによるうつ(抑うつ)などの精神症状には神経伝達物質のセロトニンが深く関わるとされていることもあり、セロトニンの脳内での働きを改善するSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)と呼ばれる抗うつ薬が有用とされています。

主なSSRIには、フルボキサミン(主な商品名:デプロメール®ルボックス®)、パロキセチン(主な商品名:パキシル®)、セルトラリン(主な商品名:ジェイゾロフト®)、エスシタロプラム(商品名:レクサプロ®)などがあります。これらSSRIはその作用の仕組みから、抗うつ薬の中でもセロトニンへの関与に特化した薬ともいえます。また、セロトニン自体は、うつ(抑うつ)だけでなく、パニック障害強迫性障害PTSD心的外傷後ストレス障害)などの病態にも深く関わる神経伝達物質とされていて、SSRIの中にはこれらの治療に対しても有用なものもあります。

・SSRIの注意点

主にセロトニンの働きを改善することで抗うつ作用をあらわすため、注意すべき副作用もセロトニンが関連するものが比較的多いといえます。

セロトニンは精神神経系以外にも消化管の運動などにも関わる物質のため、吐き気・嘔吐、下痢、食欲不振などの消化器症状がSSRIによる主な副作用のひとつです。通常、服用開始初期(服用開始から2-3週ほどの間)であらわれやすく、多くの場合(慣れてくるにつれて)次第に軽減しますが、注意は必要です(からだが慣れるまで、「吐き気止め」などの薬を併用することも考えられます)。

また、頻度はかなり稀とされていますが、セロトニン症候群と呼ばれる不安、発熱、震えなどの症状が引き起こされる可能性もあります。そのほか、SSRIで注意すべき副作用には、頭痛やめまいなどの精神神経系症状、動悸などの循環器症状、発疹などの皮膚症状、などがあります。精神神経系に作用する薬のため、眠気(傾眠)があらわれることがある一方で、逆に不眠(睡眠障害)の副作用も報告されているため、うつ(抑うつ)の症状だけでなく睡眠状況の変化なども処方医に相談しつつ、適切に治療を行っていくことが大切です。

9. 排卵を抑えるホルモン療法(ピルなどによる治療)

女性ホルモン含有製剤(OC製剤、LEP製剤)

PMSがあらわれる期間、すなわち排卵から月経までの黄体期と呼ばれる期間では女性ホルモン(卵胞ホルモンや黄体ホルモン)の大幅な変動があり、これが様々な症状を引き起こす主な要因と考えられています。そのため、排卵自体を止めることでPMSによる諸症状の改善が期待できます。排卵を止める(排卵誘発を抑える)薬としては、一般的にOC(Oral contraceptive:経口避妊薬)やLEP(Low dose estrogen-progestin:低用量エストロゲン−プロゲスチン)といった女性ホルモン含有製剤が使われていて、主に身体症状の改善が期待できるとされています(薬剤によっては精神症状に対しての有用性も示唆されています)。

なお、排卵を止めるといってもあくまでも一時的なもので、個人差はありますが、服用を中止することで多くの場合、数ヶ月程で排卵が回復します。

◼︎OCとLEPについて

OCやLEPはエストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲスチン(黄体ホルモンであるプロゲステロンの類似物質)の2成分を配合した製剤で「ピル」と呼ばれることもあります(なお、ピルや経口避妊薬と呼ばれる薬には、黄体ホルモン成分のみを含む製剤もあります)。OCやLEPは排卵後のホルモン状態と似た状態をつくり出すことで、避妊や女性ホルモンのバランスを整える効果が期待できます。

「ピル」と聞くと避妊目的で使用する薬というイメージがあるかもしれませんが、OCには女性ホルモンのバランスを整える効果が期待できるため、避妊だけでなく月経困難症や月経不順などの治療に対しても有用です。

OCは一般的に含有するエストロゲン(エチニルエストラジオール:EE)の量によって、高用量、中用量、低用量に分けられます。下記の「OCやLEPでの注意点」の欄でも紹介していますが、エストロゲンを含む製剤では血栓症などへの懸念がかなり少ないながらもあるとされ、エストロゲンの含有量をより少なくすることでこれらへのリスクを低減した低用量製剤(EEの含有量が50μg未満)が開発されてきた経緯があります。

低用量OCに準じた量のホルモンを含む製剤で主な目的が避妊ではなく月経困難症子宮内膜症などの疾患の治療に用いる製剤がLEPになります。避妊目的で用いるOCは基本的に自由診療(自費薬)となりますが、LEPは月経困難症などの治療を目的として使われる場合に健康保険が適用される製剤になります(なお、2021年1月現在、日本で発売されているLEP製剤は月経困難症子宮内膜症に対する治療薬となっていて、PMSに対しては未承認となっています)。

LEPの製剤としては2008年にEE(35μg含有)とノルエチステロンの配合製剤(主な商品名:ルナベル®配合錠LD)が登場しました。また、それ以後、EEの含有量をさらに減らした製剤(ルナベル®配合錠ULDヤーズ®ヤーズ®フレックス®配合錠ジェミーナ®配合錠:いずれもEEを20μg含有)が登場し、これらは「超低用量製剤」などと呼ばれることもあります。

・OCやLEPでの注意点

OCやLEPによる主な副作用としては、消化器症状(吐き気、下痢、腹痛、便秘など)、乳房痛、頭痛、不正性器出血、月経過多、にきび、うつ(抑うつ)などがあり、これら多くは女性ホルモンが体内に及ぼす影響によって引き起こされると考えられます。

また、先ほども少しふれましたが、頻度は非常に稀ながらも血栓症などの重篤な副作用があらわれる可能性もあります。これは卵胞ホルモンや黄体ホルモンが血液凝固や血管障害などへ関与するためと考えられています。低用量製剤は、この血栓症などの重篤な副作用への懸念をさらに低減するために卵胞ホルモン(EE)の量を減らしたものですので、血栓症が引き起こされる可能性は極めて少なく、一般的に高い安全性が担保されていると言えます。

ただし、高血圧症、心臓病、糖尿病などの持病があったり、家族(両親など)に血栓症を発症した人がいる場合は注意が必要です。ほかにも、血管障害の原因となる喫煙をする人、肝機能障害の人、女性ホルモンに関わる病気(乳がん子宮頸がんなど)の持病があったり過去に患ったことがある人、なども注意が必要とされています。

EEの量を低用量よりもさらに減らした超低用量製剤は、血栓症などへの懸念をさらに減らした薬剤と言えますが、一部の薬剤では超低用量製剤の方が不正性器出血の発現率が通常の低用量製剤に比べ、わずかながら高かったという報告もあるため、使用に際しては事前に自身の体質などを伝えた上で、医師や薬剤師からしっかりと説明を聞いておくことが大切です。

GnRHアゴニスト(LH-RHアゴニスト)

卵巣の機能自体を抑えて排卵を止めることで、PMSによる症状全般の改善が期待できる薬です。PMSの治療においては、主にほかの薬剤で改善が不十分となるような病態への選択肢となっています。このGnRHアゴニストがどのような仕組みで卵巣機能を抑制するかを考えるには、女性ホルモンがどのように分泌されているかを考えるとわかりやすいかもしれません。

※アゴニストとは?

「アゴニスト」とは、「受容体と結合し、生体内物質と同様の細胞内情報伝達系を作動させる薬」という意味です。GnRHアゴニストはGnRH(性腺刺激ホルモン放出ホルモン)と同様にGnRH受容体と結合することでその作用をあらわします。

◼︎女性ホルモンの分泌とGnRHアゴニストの作用の仕組み

女性ホルモンである卵胞ホルモンと黄体ホルモンは卵巣から分泌されます。この卵巣からの女性ホルモンの分泌を促しているのは、脳下垂体から分泌される性腺刺激ホルモン(FSH、LH)で、さらにこの性腺刺激ホルモンの分泌は、視床下部から分泌される性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)によって促されます。

GnRHアゴニストは、GnRHと同様に脳下垂体からの性腺刺激ホルモン分泌を促す作用をあらわす薬です。一見すると、GnRHアゴニストは卵巣からの女性ホルモン分泌を亢進させるようにもみえ、実際、一時的に女性ホルモン分泌が亢進することも考えられますが、投与を継続していくとその後は女性ホルモン分泌が抑えられます。やや専門的な話になりますが、持続的にGnRHアゴニストを投与していくと、GnRH受容体に対してダウンレギュレーションという受容体の脱感作(反応性の低下)や受容体数の減少といった現象を引き起こします。その結果、性腺刺激ホルモンの分泌抑制を経て卵巣からの女性ホルモン分泌が抑制され、PMSの改善効果が期待できるというわけです。なお、GnRHアゴニスト製剤自体は元々、PMSに対してではなく、女性ホルモンによって進行・悪化する子宮内膜症乳がんなどの治療薬として開発され、基本的にこれらの病態へ保険承認されている薬になります。

・GnRHアゴニストの注意点

GnRHアゴニストの製剤は、適切に使用した場合においては、比較的高い安全性をもつ薬剤とされていますが、ほてりや不正性器出血などの内分泌症状であったり、頻度は稀とされながらも間質性肺炎アナフィラキシー、肝機能障害、血栓症、骨量低下などの副作用に対して注意が必要とされています。また、卵胞ホルモンの分泌低下作用によるうつ症状に対しても注意が必要で、元々、うつ病などの精神疾患をもっている場合は特に注意が必要となります。

GnRHアゴニストの製剤には主に注射剤と点鼻薬があり、例えば、注射剤であれば疼痛(痛み)、硬結(皮膚が硬くなる)、発赤(赤み)などの注射部位反応、点鼻薬であれば鼻炎や鼻出血などといった局所(使用部位)への副作用に対しても注意が必要となります。また、副作用などの注意事項だけでなく使用方法(用法・用量など)に対しての十分な理解も必要となるため、事前に医師や薬剤師からしっかりと説明を聞いておくことがとても大切です。

10. PMSによる症状の改善が期待できる漢方薬

PMSの治療ではほかに、漢方薬(漢方処方製剤:漢方方剤)が使われることもあります。

PMSの症状は多様で、精神神経症状や自律神経症状であれば、情緒不安定、イライラ・怒りっぽい、抑うつ、不安、眠気・不眠、食欲不振・過食、めまい、倦怠感など、また身体的症状としては腹痛、頭痛、腰痛、むくみ、肌荒れ・にきび、お腹の張り、乳房の張りなどが挙げられ、複数の症状があらわれることもしばしばです。

漢方医学では基本的に、単一の症状や部位だけではなく全身の状態から診断し適する薬(漢方薬)を選択するため、PMSなどの複数の症状が出現する病態に対しては有用であることが多いのが特徴のひとつです。また、副作用などのなんらかの理由によって女性ホルモン含有製剤や抗うつ薬などが不適となる場合にも漢方薬は有用となります。

漢方医学では個々の症状や体質などを「証(しょう)」という言葉であらわし、一般的にその「証」に適した薬が選択され、特に「気・血・水(き・けつ・すい)」という言葉を使って生命活動や体内の状態を表現することがあります(「証」や「気・血・水」に関してはメドレーコラム「漢方薬の選択は十人十色!?」でも詳しく解説しています)。PMSなどの月経に関わる諸問題・症状では「瘀血(おけつ」といって血の滞りが主な要因とされ、これを改善するための「駆瘀血剤(くおけつざい)」と呼ばれる漢方薬が使われます。月経に関わる諸症状を改善が期待できる漢方薬の中でも加味逍遙散(カミショウヨウサン)、当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)、桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)を婦人科三大漢方薬と呼ぶことがありますが、この3方剤には瘀血を改善する効果が期待できます。ここではこの3方剤を中心に、PMSなどの月経関連症状の改善が期待できる漢方薬をいくつか挙げてみていきます。

◼︎加味逍遙散(カミショウヨウサン)(処方薬一覧はこちら市販薬一覧はこちら

体力が中等度からやや虚弱気味で、肩こり、のぼせ、疲れやすい、また、不安などの精神症状を訴えるような証に適する漢方薬です。不眠や不安、いらいら、のぼせ、抑うつ傾向などの改善が期待でき、副作用などの理由で抗うつ薬や抗不安薬を使いにくいといった自律神経失調症などに対しても使用されているため、SSRIなどが不適となるPMSの精神神経症状への有用性が考えられます。

構成生薬として、血の巡りなどを改善する当帰(トウキ)、抗ストレス作用などをあらわす柴胡(サイコ)など、計10種の生薬を含み、PMSだけでなく、更年期障害自律神経失調症、冷え症、月経困難症、月経不順などに対しても使われています。

◼︎当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)(処方薬一覧はこちら市販薬一覧はこちら

一般的に先ほどの加味逍遙散が適する証よりもさらに体力が虚弱気味で、疲れやすい、冷えやすい、貧血傾向などがみられる証に適した漢方薬です。主な構成生薬(主薬)のひとつの当帰(トウキ)は血の巡りを改善し、貧血や冷えなどに有用です。もう一つの主薬の芍薬(シャクヤク)は鎮痛・鎮静などの作用をあらわし、筋肉のひきつりや腹痛、頭痛といった症状を改善する効果が期待できます。本剤はこの2つに加え、駆瘀血や鎮痛・鎮静などの作用をあらわす川芎(センキュウ)、「水(水毒:すいどく)」の改善が期待できる朮(ジュツ:蒼朮(ソウジュツ)または白朮(ジャクジュツ))、茯苓(ブクリョウ)、沢瀉(タクシャ)といった計6種の生薬から構成されていて、軽度な浮腫、腹痛、頭重、めまい、肩こり、四肢の冷え、倦怠感、動悸などの改善が期待できます。PMSだけでなく、更年期障害自律神経失調症月経困難症、月経不順、不妊症、耳鳴りなどに対しても使われています。

◼︎桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)(処方薬一覧はこちら市販薬一覧はこちら

当帰芍薬散とは逆に体力が中等度からやや充実気味(体格がしっかりしているなど)で血色が比較的良く、ほてり、頭痛、下腹部の痛み、肩こりなどがみられる証に適した漢方薬です。構成生薬のうち、芍薬(シャクヤク)と茯苓(ブクリョウ)は先ほどの当帰芍薬散にも含まれている生薬で、この2つに加え、桂皮(ケイヒ)、桃仁(トウニン)、牡丹皮(ボタンピ)といった計5種の生薬から構成されています。調味料のシナモンとしても知られる桂皮は熱や痛みなどに対して改善効果が期待でき、また、桃仁や牡丹皮には駆瘀血作用などが期待できます。本剤は、ほてりやのぼせ(主に上半身)、発汗、足などの下半身の冷え、肩こり、頭痛、めまいなどの症状に対して有用で、PMS、更年期障害自律神経失調症月経困難症不妊症などに対して使われています。

◼︎その他の漢方薬

ここでは婦人科三大漢方薬(加味逍遙散、当帰芍薬散、桂枝茯苓丸)以外のPMSや月経関連症状に対して有用とされる漢方薬をみていきます。

桃核承気湯(トウカクジョウキトウ)(処方薬一覧はこちら市販薬一覧はこちら

桂枝茯苓丸などと同じ駆瘀血剤のひとつで、体力中等度以上で、便秘、イライラ、ほてりなどが顕著な証に対して適する漢方薬です。腸の機能を活発にし排便を促すことから便秘の改善も期待でき、便秘傾向があり不眠、のぼせ、興奮などの精神神経症状を伴うPMS、月経不順、月経困難症などに対して使われています。

五苓散(ゴレイサン)(処方薬一覧はこちら市販薬一覧はこちら

水毒(水滞)など体内の「水」の改善が期待できる漢方薬です。猪苓(チョレイ)、沢瀉(タクシャ)、朮(ジュツ:蒼朮(ソウジュツ)または白朮(ジャクジュツ))、茯苓(ブクリョウ)といった水分代謝の改善が期待できる生薬に加え、熱や痛みなどの改善が期待できる桂皮(ケイヒ)を合わせた生薬構成になっています。胃腸炎(吐き気、下痢など)、頭痛、むくみ(浮腫)など「水」が関わる様々な症状の改善が期待でき、特に月経前のむくみや頭痛は「水毒」が深く関わるとされるため、これらの症状を伴うPMSへの有用性が考えられます。速効性が期待できる漢方薬のひとつであり、また、あまり証(体力)によらずに使用できることもメリットです。

抑肝散(ヨクカンサン)/抑肝散加半夏陳皮(ヨクカンサンカハンゲチンピ)(処方薬一覧はこちら市販薬一覧はこちら

抑肝散の元々の効能・効果は神経症、不眠症、小児夜なき、小児疳症で、体力中等度からやや虚弱で、神経過敏、興奮しやすい、怒りやすい、イライラ、不眠などの精神神経症状を訴えるような証に対して適するとされています。抑肝散加半夏陳皮はその名前の通り、抑肝散に生薬の半夏(ハンゲ)と陳皮(チンピ)を加えた漢方薬で、抑肝散が適する証よりも体力が低下していて慢性化したような証に適するとされています。

PMSの病態にはストレスも大きく関わるとされ、漢方医学的にストレスを伴うような諸症状には「気(気/気滞)」を改善する薬が適することが考えられ、抑肝散もそのひとつです。

なお、抑肝散(ヨクカンサン)は近年、そのエビデンス(科学的根拠)が解明されつつある漢方薬のひとつでもあり、興奮抑制に関わる神経伝達物質セロトニンなどへの作用が確認されてきています。

女神散(ニョシンサン)(処方薬一覧はこちら市販薬一覧はこちら

体力が中等度からやや充実していて、月経周期などに関連してのぼせ、めまい、頭痛、神経症などを伴う証に対して適する漢方薬です。元々は「安栄湯(あんえいとう)」という名前で呼ばれていましたが、女性の「血」が関係する症状に効果がある、つまり「女性に神効がある・・・」ということから現在の名前がつけられました。ちなみに、産前産後の神経症や月経不順などといった女性特有の症状だけでなく、めまいや不安などの精神神経症状を訴える男性にもその効果が期待できる薬です。

上記のほか、「気」に対しての効果が期待できる半夏厚朴湯(ハンゲコウボクトウ)や香蘇散(コウソサン)、のぼせや冷え、出血傾向などがあり精神神経症状や皮膚症状を伴う場合に適する温清飲(ウンセイイン)、桂枝茯苓丸に生薬の薏苡仁(ヨクイニン)を加えることで肌あれなどの皮膚症状に対しても有用となる桂枝茯苓丸加薏苡仁(ケイシブリョウガンカヨクイニン)などもPMSや月経関連に対する症状改善の選択肢となることがあります。

◎漢方薬にも副作用はある?

一般的に安全性が高いとされる漢方薬も「薬」の一つですので、副作用がおこる可能性はあります。例えば、生薬の甘草(カンゾウ)は多くの方剤に使われていますが、過剰摂取などによって偽アルドステロン症(偽性アルドステロン症)と呼ばれる副作用があらわれる場合があります。また、黄芩(オウゴン)を含む漢方薬では間質性肺炎や肝障害などが引き起こされる可能性があります。近年では、腸間膜静脈硬化症と呼ばれる腸間膜の静脈に石灰化が生じることで腸管の慢性虚血性変化をきたす病態(主に下痢、腹痛、便秘などの消化器症状が繰り返しあらわれる)が漢方薬によって引き起こされることが示唆されていて、特に山梔子(サンシシ)という生薬を含む漢方薬の長期服用が原因のひとつと考えられています。

そのほか、例えば、胃腸虚弱の体質の人に大黄(ダイオウ)や芒硝(ボウショウ)などの瀉下作用(下剤の作用)をあらわす生薬を含む漢方薬を用いた際には下痢や腹痛などが引き起こされやすくなる、といったように証に合わない漢方薬を使った場合には副作用が助長されることが考えられます。

ただし、一般的には漢方薬によって副作用(特に重篤な副作用)がおこる可能性は稀とされていて、万が一あらわれたとしても多くの場合、その漢方薬を中止することで解消されます。漢方薬は通常、個々の体質や症状などを十分考慮した上で使われ、それでも体質に合わない場合には変更・中止するなどの適切な対応がとられます。注意したいのは、漢方薬による治療中に、仮に何らかの気になる症状があらわれた場合でも、自己判断で薬を中止するとかえって治療の妨げになる可能性もあるということです。もちろん非常に重篤な症状となれば話はまた別ですが、漢方薬を使用することによってもしも気になる症状があらわれた場合には自己判断で薬を中止せず、医師や薬剤師に相談することがとても大切です。

11. その他の市販薬

月経前症候群に用いられる薬のうち、鎮痛薬であるNSAIDsやアセトアミノフェン製剤、漢方薬などの多くは薬局で買い求めることができます。その他に西洋ハーブのチェストベリーの抽出物(プレフェミン®)がPMSに適用を持つ薬として市販されています。

チェストベリー:プレフェミン®

チェストベリーは地中海沿岸などに自生するチェストツリーの実です。チェストベリーの抽出物を含むプレフェミン®はスイスやオーストリアなどで医薬品として販売され、日本においては2014年より薬局で販売されています。

チェストベリーは脳にある下垂体から分泌されるプロラクチンというホルモンの分泌を抑えることで、PMSの症状緩和に関わっているのではないかと考えられています。プロラクチンは月経前の時期において、乳房の張りといった症状に関連しています。プレフェミン®の内服によって、乳房の張りだけでなく、イライラ感、ふさぎ込む気分、怒り、頭痛、腹部膨満などのPMS症状の軽減が認められています。

プレフェミン®は医師の処方は必要ありませんが、薬剤師の対面販売を要する要指導医薬品です。薬局では販売前に症状について確認され、症状がひどい人では医療機関の受診を勧められることもあります。また、内服開始後、1か月服用しても症状に変化がみられない人や、3か月以上の内服を必要とする人は医療機関への受診が勧められることがあります。

参考文献

・Wuttke W, et al. Chaste tree (Vitex agnus-castus)--pharmacology and clinical indications. Phytomedicine. 2003 May;10(4):348-57.
・Schellenberg R. Treatment for the premenstrual syndrome with agnus castus fruit extract: prospective, randomised, placebo controlled study. BMJ. 2001 Jan 20;322(7279):134-7.