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心的外傷後ストレス障害(PTSD)
とても怖い思いをした記憶が心の傷となり、 そのことが何度も思い出されて、恐怖を感じ続ける病気
7人の医師がチェック 110回の改訂 最終更新: 2022.12.16

心的外傷後ストレス障害(PTSD)の基礎知識

POINT 心的外傷後ストレス障害(PTSD)とは

とても怖い思いをした記憶が心の傷になって、そのことが何度も思い出されて、恐怖を感じ続ける病気のことです。思い返すことが頻繁になると、日常生活にも支障をきたします。自然災害や火事、事故、暴力などあらゆるものが原因になりえます。心的外傷後ストレス障害(PTSD)になると、つらい記憶が突然よみがえったり、常に神経が張り詰めた状態が続いたり、感情・感覚が鈍い状態が続きます。問診を中心に診断が行われ、「PTSDによる症状が1ヶ月以上続くこと」が診断の際の参考になります。PTSDの治療の目的は「心の傷を回復すること」と「苦しい症状を和らげること」の2つです。また、うつ病や不安障害を伴っていることがあるので、抗うつ薬などが治療に使われることがあります。PTSDが心配な人は精神科を受診してださい。

心的外傷後ストレス障害(PTSD)について

  • とても怖い思いをした記憶が心の傷となり、 そのことが何度も思い出されて、恐怖を感じ続ける病気
    • 頻繁に思い出されるため日常生活に支障をきたす場合がある
  • 引き起こす原因となる出来事
    • 震災などの自然災害
    • 火事、事故、暴力や犯罪被害など生命が脅かされる出来事
    • 生命に関わるような大けが  など
  • 少なくとも8%の人が、人生の中で経験すると言われている
  • 原因と考えられる体験と、実際に悩まされている症状とを結びつけることができないこともある

心的外傷後ストレス障害(PTSD)の症状

  • つらい記憶が突然よみがえる(悪夢やフラッシュバック) 
  • 常に神経が張りつめている(交感神経の亢進状態)
    • それに伴う不眠やイライラ感、集中困難
  • つらい記憶を呼び起こすような状況や場面を避ける(無意識に避けている場合もある)
  • 感情の麻痺(喜びを感じられなくなったり、社会的な活動に興味を失う)
  • トラウマとなっている出来事を思い出せない
  • 怒りや恐怖、罪悪感といった不快な気分が続く
  • 以上の症状が、数か月経っても続いたり、良くなったり悪くなったりする

心的外傷後ストレス障害(PTSD)の検査・診断

  • 上記の症状が1か月以上持続していることの確認
  • PTSDのような症状の持続期間が1か月以内のものは急性ストレス障害と呼ばれ、PTSDとは区別される。自然に回復することも多い
  • 自覚的な苦悩、あるいは社会的機能低下が明らかな場合にPTSDと診断される

心的外傷後ストレス障害(PTSD)の治療法

  • PTSD治療の基本目標は次の2つとなる
    • 心の傷の回復を助けること
    • 苦しい症状を軽減すること
  • 心の傷を回復するための治療
    • 持続エクスポージャー療法(持続曝露療法)
      • 記憶を呼び起こすきっかけを与える治療法
      • 思い出しても危険はないことを、肌身を通して感じ取る
      • 1回の面接を90分から120分間で行い、週に1回から2回かけて合計10回の面接が行われる
    • EMDR(眼球運動による脱感作と再処理法)
      • トラウマとなった出来事を思い出し、目の前で左右に振られる指を目で追いかける
    • 専門の治療者の介入をふまえて行わないと逆効果になる場合がある
  • その他の療法
    • 認知療法
    • グループ療法 など
  • うつ病や不安障害が同時に起こっていることもあり、必要に応じてそれぞれの病気を治療する
    • SSRI(抗うつ薬)や抗不安薬を使うことがある
  • 治療をしなくても、時とともに症状が軽減することがよくある
    • その一方、疾患による重度の障害が持続する人もいる

心的外傷後ストレス障害(PTSD)に関連する治療薬

SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)

  • 脳内の神経伝達を改善し、意欲を高めたり、憂鬱な気分などを改善する薬
    • うつ病では脳内のセロトニンなどの神経伝達物質の働きが不調となり、意欲の低下、不安などの症状があらわれる
    • シナプス前終末から遊離(放出)された神経伝達物質は、自身の受容体へ作用(結合)することで情報が伝達されるが、遊離された神経伝達物質の一部はシナプス前終末へ回収(再取り込み)される
    • 本剤は脳内でセロトニンの再取り込みを阻害しセロトニンの働きを増強することで抗うつ作用などをあらわす
  • 本剤はセロトニンの働きが深く関わるとされる強迫性障害やパニック障害などに使用する場合もある
SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)についてもっと詳しく

心的外傷後ストレス障害(PTSD)の経過と病院探しのポイント

心的外傷後ストレス障害(PTSD)が心配な方

PTSDでは事故や災害など、生命に関わるような大きな衝撃体験の後、不安、不眠といった過覚醒、フラッシュバック、同様の場面を避けるなどといった特徴的な症状が現れます。体験の直後に出現する症状は急性ストレス障害といい、誰にでも見られるもので、PTSDとは区別されています。PTSDは自然に症状が消える場合もありますが、治療を受けずにいた場合、悪化して治癒するまでの時間が長くなることなどもあるため、治療をどのように進めるかも含めて専門家の意見を仰ぐことが大切です。

自身がPTSDではないかと心配になった時に、最初に受診するのは精神科、心療内科、メンタルヘルス科のクリニックが適しています。関係する医師の資格として精神科専門医と精神保健があります。さらに医師や臨床心理士の中にPTSDを含むトラウマ治療を専門にしている専門家がいます。そういった医師、臨床心理士のいる医療機関を受診することが望ましいです。しかし自力で見つけることが難しい場合も多いですので、まず近くの精神科クリニックを受診してそういった専門家を紹介してもらうことも一つの方法です。

PTSDの診断は問診と診察で行います。血液検査や頭部MRIといった検査は身体的な病気が原因ではないことの確認のために行われることがありますが、PTSDを診断するためには必ずしも必要ではありません。血液検査はほとんどのクリニックで行うことができますが、頭部MRIは総合病院でないと設置していない場合が多いため、検査を受けに行く必要がある場合もあります。

DVや虐待、ストーカーの被害によるPTSDでは、身の安全が守られているかが問題になり、身の安全が確保できていない場合では、警察や相談機関、支援団体への相談が優先されます。犯罪被害者の方では刑事手続き上の問題を抱えていることもあります。基本は患者さん自身に対処していただくことですが、医療機関では「優先順位の整理」「判断できるように一緒に考える」「必要な機関を紹介する」などの支援をすることが出来ます。

このような問題解決は、患者さんのみ、あるいは医療者のみでは対処できないことが多いです。警察や配偶者暴力相談支援センター、児童相談所など問題毎に専門的な支援機関がそれぞれあるので、相談に行き、支援を受けることが大切です。

心的外傷後ストレス障害(PTSD)に関連する診療科の病院・クリニックを探す

心的外傷後ストレス障害(PTSD)でお困りの方

PTSDの治療は心理療法と薬物療法です。発症の原因となるできごとがあってから1ヶ月程度は症状が自然に軽くなっていくことも多いですが、それ以上症状が続いている場合はPTSDの可能性が高くなり、専門家による治療をうけることが勧められます。

薬物療法で根治できることは比較的少なく、抗うつ薬を用いた治療が有効であるという意見もありますが、全員に有効という治療ではないため国が承認したPTSD治療薬というものはありません。不眠や不安感に対して、対症療法として睡眠導入剤や抗不安薬を用いる場合があります。そうすることで症状を軽減し、十分に休養が取れて落ち着いて生活できるようにすることを期待できます。

一方、心理療法は、様々な治療法が試されており、それぞれに一定の結果が出ています。よく用いられる手法としては支持的カウンセリング、認知行動療法(CBT)、EMDR(眼球運動による脱感作と再処理法)などがあります。
EMDRは最近日本でも治療を行う医療機関やカウンセリング機関が増えてきています。それぞれの治療法を行うのに適した状況や時期が異なりますので、通院しながら症状の評価をうけて、治療方針と使用する治療法を選択していく必要があるでしょう。

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