はいこうけつあつしょう
肺高血圧症
肺動脈圧が高くなっている状態の総称。さまざまな原因によって起こる
13人の医師がチェック 197回の改訂 最終更新: 2020.08.31

肺高血圧症とは:原因、症状、検査、治療など

肺高血圧症は、心臓から肺に血液を送るための血管である「肺動脈」の血圧が高くなる病気です。ここではその症状や原因、行われる検査や治療について解説します。

1. 肺高血圧症とはどんな病気か

肺高血圧症という病気を深く理解するためには、まず身体の中で血液がどのように巡っているかを知る必要があります。

体内の血液循環

最初に体内での血液の循環について説明します。人間の血管には、心臓から送り出される血液が流れる「動脈」と、心臓に戻る血液が流れる「静脈」があります。

ここで、心臓から肺に血液を送り出す血管である「肺動脈」を起点として、血液が体内を一周することを考えてみます。肺動脈を通って肺に流れついた血液は、毛細血管で肺の空気とガス交換を行います。つまり、不要な二酸化炭素(CO2)を排出して酸素を血液中に取り込みます。

次に、酸素(O2)を多く含んだ血液は「肺静脈」を通って心臓(左心房)へと戻っていきます。そして左心房から左心室に流れた血液は、左心室から大動脈に送り出され、「動脈」を通りながら全身の臓器へと酸素を届けて、不要な二酸化炭素を回収します。最後に「静脈」を通って心臓(右心房)へと戻ってきて、再び右心室から肺動脈へと押し出されて一周となります。

全身の血液の循環、肺動脈と肺静脈

肺高血圧症の定義

血液の循環について確認したところで、肺高血圧症の説明に戻ります。肺高血圧症とは「肺動脈の血圧が上昇した状態」を指します。英語で「Pulmonary Hypertension」というため、「PH」と略して呼ばれることもあります。健康な人では、安静にしている時の平均肺動脈圧は14 ± 3 mmHgほどです。これが「安静時の肺動脈圧の平均値が25 mmHg以上」となっている人は肺高血圧症と診断されます。

2018年に開かれた世界的な会議では、20 mmHg以上で肺高血圧症と診断するよう提言されており、今後は日本の基準も25 mmHgから20 mmHgに変わっていくかもしれません。なお、肺動脈圧を測定するためには心臓カテーテル検査というやや大掛かりな検査が必要であるため、健康診断などで測定する「血圧」のように気軽に直接測定することはできません。

肺高血圧症と一般的な高血圧症との違い

単に「高血圧」という場合には一般的に、肺以外の動脈での血圧が高いことを指します。「健診で血圧が120/70 mmHgだった」という場合には腕などで動脈の血圧を測定しています。一方で「肺高血圧症」は、肺動脈における血圧が高いことを意味します。肺動脈の血圧は上記の通り健康な人では14 ± 3 mmHgほどであり、腕などではかる血圧に比べるとかなり低くなっています。そして、肺高血圧症と一般的な高血圧症の間にはあまり強い関係性はありません。したがって、例えば「健診でいつも血圧が高いから、肺高血圧症にもなっているかもしれない」というような心配は基本的に不要です。

2. 肺高血圧症の症状について

肺高血圧症では心臓や肺での血液循環がうまくいかなくなり、それに伴う症状が出てきます。また、心臓の右心室と呼ばれる部分は、圧の高い肺動脈に向かって血液を送り出し続けるため負荷がかかります。右心室に負荷がかかった状態が長引くと、心臓がうまく収縮できなくなって全身の血液循環に障害がでてきます。このような状態は「右心不全と呼ばれ、進行した肺高血圧症では、この右心不全の症状も出現します。以下に肺高血圧症で見られる症状を列挙します。

【肺高血圧症の主な症状】

  • 運動時に以前より息切れしやすい
  • 疲れやすい
  • 胸が痛む
  • 動悸がする
  • 失神する
  • 声がかすれる
  • 咳が止まらない
  • 脚や顔面がむくむ
  • お腹に水がたまる(腹水
  • 皮膚や粘膜が青みを帯びる(チアノーゼ) など

肺高血圧症では上記のような症状が出現します。運動時の息切れは病気が進行する前から出てきやすく、多くの人が感じる症状です。そのため、早めに肺高血圧症に気づくきっかけとなることがあります。また、脚や顔面のむくみ、腹水、チアノーゼなどは右心不全まで進行している人に出てくることが多い症状です。

上で説明したのは一般的な肺高血圧症の症状です。一方で、肺高血圧症はもともと心臓や肺などの病気がある人に、二次的に発症することも多い病気です。そうした人では、肺高血圧症の原因となっている元の病気による症状もそれぞれ出現します。肺高血圧症の原因となる状態や病気については以下で説明していきます。

3. 肺高血圧症の原因と分類について

肺高血圧症は肺動脈の血圧が上がる病気であり、肺動脈の血圧が上がる原因は多く知られています。そして、原因によって肺高血圧症の治療方針は大きく異なります。そこで、肺高血圧症は原因によって以下のような5つのグループに分けられています(ニース分類)。

【肺高血圧症の分類(ニース分類)】

  • 第1群 肺動脈性肺高血圧症(PAH)
     第1’群 肺静脈閉塞性疾患(PVOD)および / または肺毛細血管腫症(PCH)
     第1’’群 新生児遷延性肺高血圧症(PPHN)
  • 第2群 左心性心疾患に伴う肺高血圧症
  • 第3群 肺疾患および / または低酸素血症に伴う肺高血圧症
  • 第4群 慢性血栓塞栓性肺高血圧症CTEPH)
  • 第5群 詳細不明な多因子のメカニズムに伴う肺高血圧症

これら5グループについて以下では個別に説明します。基本的にはこのグループ分けを最初に行って、それに基づいた治療を考えます。ただし、「第3群だが第1群の要素も疑われる」といった複数の分類に当てはまるような人もいます。

第1群:肺動脈性肺高血圧症(PAH)

第1群は肺動脈そのものの異常が原因となって、肺動脈での血圧が上がる肺高血圧症です。英語で「Pulmonary Arterial Hypertension」というため、「PAH」と略して表記されることもあります。まず肺動脈に異常が生じるため、肺高血圧症としての典型的な症状や検査結果が出やすいのが特徴です。また、肺動脈圧も他群と比較して高度に上昇していることが多いです。PAHの人の数は多くないものの、早期発見が難しく、若い人に発症し、治療されなければ命の危険がある病気で、厚生労働省の指定難病に指定されています。近年、多くの治療薬が出てきて治療成績が大きく進歩している病気でもあります。第1群はさらに以下のように分類されます。

【第1群肺高血圧症の分類】

  • 特発性PAH
  • 遺伝性PAH
  • 薬物・毒物誘発性PAH
  • 各種疾患に伴うPAH

「特発性PAH」は他の原因がはっきりとしないPAHです。若い女性に発症しやすい病気ですが、100万人に1-2人ほどの発症頻度であり、それほどよくある病気ではありません。

「遺伝性PAH」は両親からの遺伝によるものです。原因となる遺伝子としてBMPR2、ALK1、ENG、SMAD9、CAV1、KCNK3などと呼ばれる遺伝子の関与が知られていますが、まだ分かっていない遺伝子もあると考えられています。

「薬物・毒物誘発性PAH」は食欲抑制剤、アミノレックス、フェンフルラミンなどの薬剤が原因で発症するPAHです。日本ではあまり多くないと推定されています。

「各種疾患に伴うPAH」の「各種疾患」としては全身性強皮症混合性結合組織病全身性エリテマトーデスSLE)、HIV感染症門脈圧亢進症先天性心疾患、寄生虫感染などが知られています。日本では全身性強皮症混合性結合組織病SLEなどの膠原病と呼ばれる病気が原因となったPAHの人が比較的多いと考えられています。

第1’群、第1’’群には肺静脈閉塞性疾患(PVOD)および / または肺毛細血管腫症(PCH)、新生児遷延性肺高血圧症(PPHN)という病気があります。第1群のPAHに似た特徴が多いものの異なる点もあり、このように第1群の亜型に分類されています。

第2群:左心性心疾患に伴う肺高血圧症

第2群の肺高血圧症は、もともと心臓が悪いことに伴って肺動脈での血圧があがる肺高血圧症です。

そのメカニズムについて詳しく説明すると、まず心臓の右心室から送り出された血液は、肺動脈を通って(下図中①)肺の毛細血管へと流れます(②)。次に肺静脈通って(③)左心房、左心室へと流れます(④)。そして左心室から大動脈を通って(⑤)全身の動脈へと送り出されます(⑥)。もともと虚血性心疾患不整脈心臓弁膜症、高血圧といった病気が原因で左心系(左心房・左心室)の機能が低下している人では、心臓から全身に向かう血液がうまく流れていかないので、心臓や肺の血管では先が詰まった状態になり血圧があがってしまいます。

心臓の構造と血液循環

第2群の肺高血圧症患者さんは第1-5群の中で最も多いと考えられています。日本には100万人を超える心不全の人がいますが、そのうち20-40%以上は肺高血圧症であるという報告もあります。もともとの心臓病に肺高血圧症を合併すると、その後の治療経過に悪影響を与えることも知られています。しかし一方で、肺高血圧症そのものに対する治療を受けても有効ではなく、もともとの心臓病の治療に専念するのがよいという報告が多くあります。そのため第2群の肺高血圧症の人は多いものの、第2群は第1群ほど問題になることが少ないのが現状です。

第3群:肺疾患および / または低酸素血症による肺高血圧症

第3群の肺高血圧症は、もともと肺が悪いことなどが原因で肺動脈の血圧があがる病気です。肺が悪い人でなぜ肺動脈の血圧が上がるかというのは難しい話ではありますが、肺の血管がダメージを受けること、酸素不足になると肺の血管が縮むこと、などが関係していると推定されています。第3群の肺高血圧症は慢性閉塞性肺疾患COPD)、特発性肺線維症(IPF)の人で多く発症します。他にも肺結核の後遺症がある人、睡眠時無呼吸症候群の人などでも発症します。

ある程度以上重症の肺の病気がある人では、肺動脈圧は多少高めのことが多いと言われています。しかし多少高い程度であれば、肺高血圧症としての治療は行わず、もともとの肺の病気の治療に専念するのがよいだろうと考えられます。一方で、平均肺動脈圧が35 mmHgを超えるくらい高度の肺高血圧症がある人では、第1群の肺高血圧症を合併している可能性があることが分かっています。このような人には第1群の肺高血圧症の治療方針に準じて、肺高血圧症そのものに対する治療が考慮されることがあります。

第4群:慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)

第4群の肺高血圧症は、肺血栓塞栓症(肺塞栓症)という肺動脈に血の塊(血栓)が詰まる病気に引き続いて起こると考えられる肺高血圧症です。肺塞栓症で肺動脈に詰まった血栓は治療によって、あるいは自然に溶かされますが、うまく溶けきらないで長期間残ると肺動脈内側の壁にへばりついて固まったり、肺動脈を塞いだままになってしまうことがあります。そうすると、肺動脈が狭くなり血圧が高まって肺高血圧症を発症します。これを慢性血栓塞栓性肺高血圧症と呼びます。英語で「Chronic ThromboEmbolic Pulmonary Hypertension」と書くので、略してCTEPH(シーテフ)と呼ばれることもあります。第1群の肺動脈性肺高血圧症(PAH)と同様に、CTEPHは厚生労働省の指定難病に指定されています。

CTEPHでは「古くなった血栓が詰まっている」という比較的分かりやすい原因があるので、他のグループの肺高血圧症と比べると治療戦略が大きく異なります。まず、血栓を溶かすために血液をサラサラにする薬(抗凝固薬)の飲み薬を使用します。しかし、古くなった血栓はこれだけでは溶けきらないため、可能であれば手術を受けて古くなった血栓を除去します。手術が成功すれば、肺高血圧症に伴う症状の大きな改善が期待できるのが他の肺高血圧症と異なる点です。手術ができない人や効果が不十分な人では、カテーテルを用いて肺動脈を物理的に広げる治療や、薬物治療、肺移植なども検討されます。

第5群:詳細不明な多因子のメカニズムによる肺高血圧症

第5群の肺高血圧症では、複合的な原因で肺動脈での血圧が上昇すると考えられています。肺動脈圧が上昇するメカニズムが十分に明らかになっていない病気の集まりとも言えます。第5群の肺高血圧症の原因となる病気としては、以下のようなものがあります。

【第5群肺高血圧症の分類】

これらの中には、今後原因がはっきりして第1群などの肺高血圧症に分類される病気も含まれている可能性があります。しかし、第5群の肺高血圧症に対して第1群と同様の治療をして有効であったというようなデータは今のところありません。

4. 肺高血圧症の検査・診断について

お医者さんの診察で肺高血圧症の可能性があると考えられた人では、心臓超音波エコー)検査を中心とした検査が行われます。心臓超音波検査では肺動脈圧を直接測定することはできないものの、血液の流速から肺動脈圧を推算することができます。そのため、肺高血圧症の検査の中で大事な役割を果たしています。ただし、心臓超音波検査で推算される肺動脈圧は不正確なことも多く、実際の肺動脈圧と大きく異なることもあります。

肺高血圧症が疑われる人には、肺高血圧症の原因となる心臓や肺などの病気がないか調べるために以下のような検査も行われます。

【肺高血圧症が疑われる人にまず考慮される検査(心臓超音波検査以外)

  • 血液検査
  • 動脈血ガス分析
  • 心電図検査
  • 胸部X線レントゲン)検査
  • 呼吸機能検査
  • 胸部CT検査
  • 換気-血流シンチグラム

これらの検査は心臓超音波検査で肺高血圧症が疑われてから行われる場合と、心臓超音波とまとめて行われる場合があります。そして、上記の検査からやはり肺高血圧症が疑われる人には、心臓カテーテル検査が検討されます。心臓カテーテル検査は肺動脈圧を直接測定できる唯一の方法であり、肺高血圧症の診断を確定するための大事な検査です。

一方で心臓カテーテル検査は多少の痛みなど身体の負担を伴う検査であり、入院が必要になることも多い検査です。したがって、検査に耐えられる体力が十分でない人、軽度の第2、3、5群肺高血圧症のように診断が確定しても治療方針が変わらない人などでは、肺高血圧症が疑われても心臓カテーテル検査が行われないこともよくあります。

各々の検査の詳細についてはこちらのページで説明しています。

5. 肺高血圧症の治療について

肺高血圧症の治療方針を決める際には、肺高血圧症になっている原因・分類を明確にすることがまず重要となります。重度の第3群肺高血圧症では第1群肺高血圧症で使われる薬が使われることもありますが、基本的に第2、3、5群肺高血圧症では肺高血圧症そのものの治療は行われず元々の病気の治療に専念することになります。そこで以下では第1群(PAH)と第4群(CTEPH)の肺高血圧症について治療方針を説明します。

第1群:肺動脈性肺高血圧症(PAH)の治療方針

第1群は肺動脈そのものの異常が原因となって、肺動脈圧が上がる肺高血圧症です。肺動脈に異常が生じる元々の病気によってPAHの治療方針は多少異なり、また元々の病気に対する治療も行われます。しかし基本路線としては特に原因のないPAH、すなわち特発性PAHに準じた治療が行われることが多いです。したがって以下では特発性PAHの治療について説明します。

特発性PAHの治療としては、肺動脈を広げる薬を使用する特異的薬物治療」、直接は肺動脈に作用しないが良い作用があると考えられる「支持療法」、他の人の肺や心臓を移植する「肺移植・心肺移植」があります。これらについてもう少し詳しく説明します。まずは主な特異的薬物治療についてです。

【主な特異的薬物治療】

  • カルシウム(Ca)拮抗薬
  • プロスタサイクリン系薬
  • エンドセリン受容体拮抗薬
  • ホスホジエステラーゼ5阻害薬
  • グアニル酸シクラーゼ刺激剤

特異的薬物治療としては上記のような薬剤が使われます。Ca拮抗薬は有効な人は多くありませんが、心臓カテーテル検査時に行われることのある「急性肺血管反応性試験」という検査で陽性の人にはよく効くことがあります。また、他の薬については症状の強さや肺動脈圧の高さに応じて使い分けられ、必要に応じて併用されます。厳密な使い分けについて完全に一致した意見はお医者さんの間でもありませんが、軽症の人には経口薬や吸入薬など使いやすいものを、重症の人には注射薬を中心に選択されます。

次に主な支持療法を列挙します。

【主な支持療法】

  • 利尿薬
  • 抗凝固薬
  • 在宅酸素療法
  • 鉄剤

利尿薬は尿の量を増やす薬です。心不全の症状で脚がむくむ、お腹に水がたまるなどの症状があるときに、身体から水分を減らす目的で使用されます。抗凝固薬は血液をサラサラにする作用があり、特発性PAHに良い影響を与えたという報告がある薬です。在宅酸素療法は、家でも使えるような酸素ボンベを使い続けることで、心臓や肺の負担を減らす治療法です。鉄剤は鉄分を補充する薬です。特発性PAHの患者さんでは鉄分が不足して貧血になっていることがよくあると言われており、その補充目的で使用されます。

最後に肺移植・心肺移植についてです。近年、特発性PAHに対する治療は進歩してきましたが、それでも若くして亡くなってしまう人は少なくありません。そこで薬物治療で効果が十分ではない若い人には肺移植、あるいは心臓と肺の同時移植が行われることがあります。これらの移植治療は基本的に55歳以下の人で考慮されます。日本では2020年現在までに100人近くの特発性PAHの人が移植を受けてきました。ドナーが現れるかどうかの問題もあり、また移植後も拒絶反応への対応などが必要で、決して移植すれば完全に元通りという夢のような治療ではありません。しかし、日本では移植後5年間の生存率が80%以上を記録するなど、良好な治療成績が示されています。

第4群:慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)の治療方針

CTEPHでは古くなった血栓が肺動脈の壁にへばりついて固まったり、肺動脈を塞いだままになってしまうことで、肺動脈が狭くなり肺高血圧症を発症します。他の肺高血圧症と異なり、古くなった血栓を物理的に除去することで改善が期待できます。ここではCTEPHに対する手術「外科的肺動脈内膜摘除術(PEA)」カテーテル治療「バルーン肺動脈形成術(BPA)」、薬物治療と酸素療法について説明します。

【外科的肺動脈内膜摘除術(PEA)】

外科的肺動脈内膜摘除術は、人工心肺を使って心臓や肺の血液の流れを一時的に止め、肺動脈内の古い血栓を血管の内膜ごとを切り取ってくる大掛かりな手術です。英語で「Pulmonary EndArterectomy」というので、「PEA」と略されることがあります。危険を伴う手術であり、入院中の死亡率が10%前後とも報告されていますが、CTEPHの根治を期待できる唯一の治療法です。日本では毎年50人前後がこの手術を受けています。

【バルーン肺動脈形成術(BPA)】

バルーン肺動脈形成術は、カテーテルを用いて肺動脈に風船状に膨らむ管を通し、肺動脈内で膨らませることで、狭くなったり詰まった肺動脈を物理的に拡張する治療法です。英語で「Balloon Pulmonary Angioplasty」というので、「BPA」と略されることがあります。PEAのように根治を目指せる治療ではありませんが、問題のある血管が手術では届かないところにある人、PEAに耐えられる体力のない人、PEA術後に症状が残っている人、などに行われます。PEAが可能ならばPEAが優先されますが、日本の経験豊富な施設ではBPAでもPEAに近いほどの治療成績が報告されており、効果が期待できる治療法と言えます。

【薬物治療と酸素療法】

CTEPHの根本的な原因は血栓であるため、血液をサラサラにする薬「抗凝固薬」の内服が必要となります。PEAやBPAなどの治療を行った人でも、ワルファリンという抗凝固薬を無期限に使用し続けるのが原則です。また、肺動脈を広げる薬「グアニル酸シクラーゼ」の一種であるアデムパス®(一般名:リオシグアト)という飲み薬も使われることがあります。PAHと同様に、心臓や肺の負担を軽減するために在宅酸素療法が検討されることもあります。

6. 肺高血圧症は治るのか

肺高血圧症にはさまざまなタイプがあるため、治るかどうかを一概に述べることはできません。

例えば、原因が取り除けるタイプの肺高血圧症では改善が見込めるといえます。薬の副作用で肺高血圧症になった人では薬の中止で改善することがありますし、肺動脈に詰まった血栓が肺高血圧症の原因である人では、その血栓を取り除く手術で改善できることがあります。

一方、心臓や肺の病気に付随して起こるタイプでは、肺高血圧症による自覚症状が乏しく、肺高血圧症の治療を追加せずにもともとの病気の治療に専念することがあります。

また、なかには「特発性肺動脈性肺高血圧症」のように、肺高血圧症そのものが深刻な症状をもたらすこともあります。現在の医療ではこのタイプの肺高血圧症を完治させることは困難ですが、薬物治療によって症状を抑えられるようになってきています。

なお、肺高血圧症の人が知っておくと良い生活上の注意などについて、こちらのページで説明しています。あわせて参考にしてみてください。

参考文献

肺高血圧症治療ガイドライン(2017年改訂版)(2020.8.20閲覧)