肺高血圧症で知っておきたいこと
肺高血圧症は、心臓から肺に血液を送るための血管である「
目次
1. 肺高血圧症は治るのか
肺高血圧症が治るかどうかを一概に述べることはできません。肺高血圧症は心臓や肺が悪いことに続発して
例えば薬の副作用で肺高血圧になった人は、薬を中止することで肺高血圧症が改善することもあります。また、肺動脈に血栓が詰まった人では、詰まっている血栓を取り除く手術を受けるなどして肺高血圧症を改善できることがあります。
一方で、多くの肺高血圧症は治すことが容易ではありません。しかし、心臓や肺が悪いことに伴って肺高血圧症になっている人では、肺高血圧症そのものによる症状は目立たないことも多いため、必ずしも肺高血圧症を治療すべきとも限りません。
また、特に原因なく肺高血圧症を発症する「
2. 肺高血圧症の予後(寿命)とは
上に書いた通り、肺高血圧症という病気は非常に多くの原因からなり、その原因によって
ここでは特に原因のない、あるいは遺伝性の肺高血圧症の予後、治療成績について説明していきます(特発性/遺伝性肺動脈性肺高血圧症)。これらの肺高血圧症の治療成績は以前はかなり悪く、治療薬がない時代には大人で診断後2,3年、子どもでは1年ほどで亡くなっている状態でした。しかし、近年では治療薬も進歩し、2012年に報告されたデータでは、18歳以下の人で
3. 肺高血圧症の名医はどこにいるのか
肺高血圧症は主に循環器内科のお医者さんが専門としている病気です。その他に呼吸器内科、
ところで一般論として、何をもって名医とするかはとても難しいところです。手術をする外科のお医者さんであれば、手術が上手いか下手かというのはそれなりの指標になるかもしれませんが、肺高血圧症で外科手術を受けることは多くありません。内科のお医者さんの場合には何をもって名医とするかはっきりとした目安はありません。
若手のお医者さんは勉強熱心なことも多く、最新の治療や、肺高血圧症以外の分野の知識も豊富かもしれません。また、普段からよく自分で手を動かしている分、処置がうまいかもしれません。一方で、ベテランのお医者さんは長年の経験があって、医学書には書かれていないような面での勘が鋭いかもしれません。患者さんへの接し方にも余裕があるかもしれません。
ただ、上に挙げたような差も、結局はお医者さん個人の特徴であり、若手かベテランか、有名かどうかで判断できるようなものではありません。無名でも立派な診療をしているお医者さんは山ほどいますし、有名でも例えば研究に没頭して、あるいは管理者としての業務が忙しくて患者さんを熱心に診る余裕のないお医者さんもいます。
日常的に肺高血圧症の診療をしているお医者さんであって、患者さんや家族が信頼して話せるのであれば、それは患者さん・家族にとっての名医と言えると思います。
4. 肺高血圧症の人が気を付けること
肺高血圧症の人はお医者さんに説明された薬をきっちりと使用することが大事です。ここではそれ以外に自身で気をつけられることについて説明します。
ワクチン接種
肺高血圧症の人は、風邪やインフルエンザ、肺炎などに伴って急激に体調が悪化することがあります。風邪をひかない、というのは現実的に難しいですが、インフルエンザワクチンや
運動について
重症度によりますが肺高血圧症の人は、激しい運動で病状が悪化したり
飛行機の利用について
ある程度以上に重症の人は、飛行機に乗るときに酸素がやや薄くなることで病状が悪化する可能性も指摘されています。そのような人は酸素ボンベを持参して飛行機に乗ることが考慮されるので、飛行機に乗る予定がある場合にはその旨を事前に担当のお医者さんに相談するようにしてください。
5. 肺高血圧症で妊娠・出産は可能なのか
肺高血圧症には様々なタイプがあり、妊娠・出産が可能な年齢の女性がかかりうるものもあります。肺高血圧症の種類や重症度が分からないと一概には言えませんが、一般的に肺高血圧症の人にとって妊娠・出産はとても大きなリスクを伴います。胎児にも危険が及ぶ可能性が高いと考えられます。したがって、通常は担当医から避妊を徹底するよう指導されることが多いです。もし思春期の女児が肺高血圧症になってしまったならば、保護者は避妊についてのタイムリーなカウンセリングをしてあげることが重要です。
6. 肺高血圧症は難病なのか
厚生労働省では難病の人に向けた医療費助成制度を設けています。これは「難病の患者に対する医療等に関する法律」という法律に基づく制度です。まだ治療法が確立していない難病の人のデータ収集を効率的に行って治療研究を推進すること、効果的な治療法が確立されるまでの間の経済的な負担が大きい人を支援すること、を目的とした制度です。したがって、既にある程度のデータが集まっていて治療法がそれなりに確立されているような病気では、たとえ難治性の病気であってもこの制度の対象とならないものが多いです。2020年7月現在、333疾患が難病指定されています。
肺高血圧症は多くの原因からなる病気の集まりです。厚生労働省の指定難病としては以下の3種類の肺高血圧症が指定を受けています。
【指定難病に含まれる肺高血圧症】
- 肺動脈性肺高血圧症 (告示番号86)
- 肺静脈閉塞症/肺
毛細血管 腫症 (告示番号87) - 慢性血栓塞栓性肺高血圧症 (告示番号88)
これらの診断を受けている人は、医療費の助成が受けられる可能性があります。ただし、ある程度以上重症の場合に認定されることになっているため、診断を受けたら直ちに助成が受けられる、とは限らないことに注意が必要です。
実際に難病指定を申請する場合、つまり特定医療費受給者証の交付を申請する場合の手順を説明します。
①「臨床調査個人票」の入手:担当のお医者さんに確認した上で、都道府県のホームページまたは保健所か自治体にて入手します
②「臨床調査個人票」の記入:「難病指定医」に臨床調査個人票を記入してもらいます
③「臨床調査個人票」の提出:住んでいる市区町村の窓口へ提出します(申請完了)
ここでの注意点としては、難病指定医の資格を持ったお医者さんはどの病院にでも居るわけではありません。かかりつけの病院に難病指定医のお医者さんが居るかどうかを確認しておきましょう。仮にいない際、臨床調査個人票を書いてもらう場合には、難病指定医が居る病院へと紹介してもらう必要があります。また他の注意点として、申請しても必ずしも審査が通るとは限らないこと、認定の結果が出るまで数ヶ月かかることもあるということが挙げられます。
7. 肺高血圧症治療にガイドラインはあるのか
肺高血圧症については、日本循環器学会が中心になって作成された「肺高血圧症治療ガイドライン」があります。多くの医療関係者がこのガイドラインを参考にして肺高血圧症の診断や治療、予防に携わっています。