じりつしんけいしっちょうしょう
自律神経失調症
自律神経のバランスが崩れた際に起こる症状の総称。めまいや耳鳴り、頭痛など様々な症状が出現する
18人の医師がチェック 245回の改訂 最終更新: 2022.12.26

自律神経失調症の薬物治療について:病院で処方される自律神経調整薬、抗不安薬、睡眠薬、抗うつ薬、ホルモン剤など

自律神経失調症は、全身の内臓の働きを調整している自律神経のバランスが乱れる病気です。人によって症状が違うため、症状に合わせた治療が必要になります。例えば眠れない症状の人には睡眠薬、不安が強い人には抗不安薬といったようにです。また、その人の体質や症状に合わせた漢方薬もよく使われます(自律神経失調症に使われる漢方についてはこちらのページに詳しく書いてあります)。

1. 自律神経調整薬(グランダキシン®、ハイゼット®など)

自律神経調整薬は自律神経のバランスを整える薬です。バランスを正常に近づけることで、いくつかの症状が和らぎます。

トフィソパム(商品名:グランダキシン®など)

脳の視床下部という部位などにはたらきかけて、自律神経系のバランスを改善する薬です。頭痛、だるさ、動悸、発汗といった症状に対して処方されます。更年期障害に使われることもあります。抗不安薬や睡眠薬であらわれやすい、眠気や脱力感のような副作用が少ないという特徴があります。

ガンマオリザノール(商品名:ハイゼット®など)

ガンマオリザノール(γ-オリザノール)は米胚芽や米ぬかに多く含まれるポリフェノールの一種です。脳内物質であるノルアドレナリンのはたらきを高めることで、不安や抑うつなどの症状に効果を示します。更年期障害過敏性腸症候群のような、自律神経失調症に関連した病気にも使われますし、コレステロール値を改善させる作用があるので高脂血症脂質異常症)の治療に用いられることもあります。

2. 抗不安薬(デパス®、リーゼ®、セルシン®、ワイパックス®、メイラックス®など)

ストレスにより、精神面では不安や過度な心配、身体面では頭痛や発汗、動悸などがあらわれる場合に用いられます。不安や緊張を和らげるのが主な目的で、その多くはベンゾジアゼピン(BZD)系抗不安薬という種類のものです。その他にタンドスピロン(商品名:セディール®など)という薬があり、それぞれの症状や生活習慣などに合わせて処方されます。

ベンゾジアゼピン(BZD)系抗不安薬

BZD系抗不安薬は、脳の興奮を抑えてリラックスさせる体内物質GABA(ギャバ:γ-アミノ酪酸)のはたらきを助ける薬です。不安を落ち着かせる効果があります。筋肉の緊張を和らげる作用もあるため、めまいや緊張型頭痛腰痛症などの治療に使われることもあります。また脳の興奮を抑えることから、寝る前に使うことで睡眠改善効果も期待できます。一方で、日中の眠気やふらつきといった副作用には注意が必要です。ここでは代表的な薬について解説していきます。

エチゾラム(商品名:デパス®など) BZD系の薬の中でも、飲んでから比較的速やかに効果があらわれて、体内での代謝が早い(体内に薬が残りにくい)薬です。不安や不眠などの症状以外にも、緊張型頭痛腰痛症のような、筋肉の緊張が原因の病気にも効果があります。

クロチアゼパム(商品名:リーゼ®) エチゾラムと似た化学構造をもつ薬です。不安、緊張、抑うつ、不眠といった症状の他、自律神経失調症によるめまいや肩こり、食欲不振などにも使われます。

ジアゼパム(商品名:セルシン®、ホリゾン®など) 自律神経失調症による不安、緊張、抑うつなどに処方されます。筋肉のけいれんを和らげる効果もあり、同じ成分でできた座薬(ダイアップ®坐剤)は、子どもの熱性けいれんに用いられる薬にもなっています。

アルプラゾラム(商品名:コンスタン®、ソラナックス®など) 自律神経失調症や心身症で生じる不安、緊張、抑うつ、不眠、めまいなどの改善に処方されます。BZD系抗不安薬の中でも比較的速やかに効果があらわれる薬の一つです。

ブロマゼパム(商品名:レキソタン®など) BZD系抗不安薬の中でも比較的高い抗不安作用などを持つ薬とされています。不安、緊張、抑うつ、不眠のような症状の他、強迫症状や恐怖症状に対しても改善効果が期待できます。

ロラゼパム(商品名:ワイパックス®など) 自律神経失調症における、不安や緊張症状、あるいは動悸などの症状に使われる薬です。他の薬との飲み合わせに関して問題が少なく、肝臓に負担がかかりづらいことから高齢者でも服用しやすいとされています。認知症周辺症状などの改善に処方される場合もあります。

ロフラゼプ(商品名:メイラックス®など) 薬の作用の持続時間が比較的長めのBZD系抗不安薬です。不安、緊張、抑うつ、不眠などに対して使われる他、めまいや耳鳴りの改善目的で処方される場合もあります。

ベンゾジアゼピン系以外の抗不安薬:タンドスピロン(商品名:セディール®など)

BZD系抗不安薬とは異なる仕組みで効果を発揮する薬です。不安や恐怖といった感情に対して調節する働きをあらわすセロトニンという物質がありますが、これを調整して症状を改善します。主に抑うつ、不安、焦り、恐怖、不眠に対して処方されます。セロトニンは消化管の運動にも関わる物質で、頻度は非常にまれですが吐き気や食欲不振などの影響があらわれる場合もあります。

3. 自律神経失調症で使う睡眠薬(睡眠導入剤)

夜寝付けない、いくら寝ても寝足りない、といったような睡眠に関する症状も、自律神経失調症に多い症状です。「不眠」を大きく分けると、次のように、入眠障害、中途覚醒、早朝覚醒、熟眠障害の4種類に分けることができます。

  • 入眠障害:寝つきが悪く、なかなか眠れない
  • 中途覚醒:夜中に何度も目が覚める
  • 早朝覚醒:朝早く目が覚めてしまい、再び寝つけない
  • 熟眠障害:十分な時間眠れているのに眠りが浅く、熟睡感が得られない

睡眠障害といってもそのタイプはさまざまです。そして、それぞれで適した薬が異なります。お医者さんには上のリストを参考にして、睡眠にどのような問題があるのか詳しく伝えてください。

自律神経失調症の睡眠薬の選び方

自律神経失調症に使われる睡眠薬は、作用(効果)の持続時間によって、次の4種類に分かれます。

  • 超短時間作用型
  • 短時間作用型
  • 中間作用型
  • 長時間作用型

通常は、不眠のタイプに合わせてちょうど良い時間だけ作用する薬が選ばれます。例えば入眠障害に対しては寝つきを良くする超短時間型や短時間が適していますし、朝まで眠りが続かないような中途覚醒・早朝覚醒には、長い時間作用が続く、中間型や長時間型が良いとされています。

長く効くほうがいいと思われるかもしれませんが、作用が長い睡眠薬ほど翌日まで眠気やふらつきが残ってしまう心配があったり、筋肉に力が入りにくいといった副作用があり、特に高齢者では転びやすくなってしまう危険があります。したがって必ずしも長時間タイプが良いとも言えません。

次からはそれぞれの治療薬の特徴と、どのようなタイプの不眠に向いているかの説明をしていきます。

超短時間作用型睡眠薬

超短時間作用型の睡眠薬は、即効性があって、朝の起床後までは残りにくい性質があります。自律神経失調症の症状のうちでは入眠障害に適した薬です。主な薬としてゾルピデム(商品名:マイスリー®)、トリアゾラム(ハルシオン®)、ゾピクロン(アモバン®)などがあります。

エスゾピクロン(ルネスタ®)は、ゾピクロンを元に造られた薬です。超短時間作用型の中でも比較的持続性があって、中途覚醒に対しても処方されることがあります。睡眠薬は全般的にアルコールとの飲み合わせに注意が必要(アルコールによって睡眠薬の作用が強まってしまう可能性のため)ですが、特にトリアゾラムはアルコールによる影響を受けやすい薬の一つで、服用する場合は飲酒は厳禁です。

短時間作用型睡眠薬

短時間作用型の睡眠薬は、超短時間型よりは長く、そして中間型よりは短めに作用することから、自律神経失調症の症状に対しては入眠障害だけでなく中途覚醒に使われることもあります。

ブロチゾラム(商品名:レンドルミン®など)、リルマザホン(リスミー®など)などが該当します。ロルメタゼパム(エバミール®、ロラメット®など)は肝機能の低下した人も使用しやすい(肝臓が悪くても薬の効果に影響が出にくい)薬です。

中間作用型睡眠薬

中間作用型睡眠薬は、短時間作用型より長く作用が持続するため、途中で目が覚めてしまう中途覚醒や早朝覚醒に向いた薬です。ニトラゼパム(商品名:ネルボン®、ベンザリン®など)、フルニトラゼパム(サイレース®、ロヒプノール®など)、エスタゾラム(ユーロジン®)などが該当します。

自律神経失調症に対しては、夜中に何回も起きてしまうような中途覚醒タイプの不眠に向いていますが、翌日日中の眠気やふらつきには注意が必要です。

また、米国のようにフルニトラゼパムが持ち込み禁止となっている海外の国もあり、渡航する際には特に注意が必要な薬です。

長時間作用型睡眠薬

長時間作用型睡眠薬は、睡眠薬の中でも最も作用が長く続くタイプになります。中途覚醒に向いた薬で、クアゼパム(商品名:ドラール®など)やハロキサゾラム(ソメリン®など)などの薬があります。効果が続く時間が長いことと関連して、翌日の眠気やふらつきにはより注意が必要です。

クアゼパムは熟眠感が得られやすく、起きた時の気分も良好とされる一方で、食後すぐに服用すると効果が強く出てしまう可能性があり、飲むタイミングに注意が必要です。

自律神経失調症の不眠に効くその他の薬

自律神経失調症による不眠に対しては他にも、肩こりが強い場合には抗不安薬(エチゾラムなど)、うつを伴うような不眠には抗うつ薬が処方されることがあります。これらの薬はそれぞれ睡眠を改善する効果もあるためです。

また、これまでの睡眠薬とは異なる作用の仕組みをもったスボレキサント(商品名:ベルソムラ®)、睡眠のリズムを整えるラメルテオン(ロゼレム®)や漢方薬(詳しくは「自律神経失調症と不眠に効く漢方薬」をご覧ください)なども睡眠改善に使われています。

睡眠薬が効かないときは多めに飲んでもいいのか

「眠れない時に薬を増やしてもいいのだろうか?」という疑問をもつ人は少なくないかもしれません。しかし、眠れないからといって自己判断で指示された量以上の睡眠薬を飲むことは避けて下さい。翌日の眠気やふらつきが強くあらわれて事故に繋がりかねませんし、場合によっては薬に対する依存が強くなったり呼吸が乱れたりすることもあるためです。

睡眠薬があまり効かないと感じた場合には、日常生活における改善も含めて医師や薬剤師によく相談してください。

4. 自律神経失調症で使う抗うつ薬

抗うつ薬は主にうつ病に使われる薬ですが、自律神経失調症のうつ(抑うつ)状態に対しても使われます。抗うつ薬は、気分や意欲に関わる脳内物質である、セロトニンやノルアドレナリンなどに作用して効果をあらわす薬です。抗うつ薬と一言で言っても作用の仕組みによっていくつかに分類され、それぞれ別の特徴を持っています。近年では副作用(のどの渇きや便秘など)が少ない、SSRIやSNRI、NaSSAなどの種類の抗うつ薬が主流になってきています。

SSRI(パキシル®など)

SSRIは脳内物質のセロトニンなどのはたらきを改善し、自律神経失調症による憂うつな気分を和らげて意欲などを改善する薬です。

主な薬として、フルボキサミン(商品名:デプロメール®、ルボックス®など)、パロキセチン(商品名:パキシル®など)、セルトラリン(商品名:ジェイゾロフト®など)、エスシタロプラム(商品名:レクサプロ®)があります。うつ(抑うつ)以外にも用途は広く、パニック障害PTSDの治療などに使われる薬もあります。(詳しくはコラム「SSRIはうつ病だけの薬じゃない!?」でも解説しています。)

SSRIの飲み始めの時期に吐き気や便秘、下痢などの症状があらわれることがありますが、多くの場合は継続していくにつれて徐々に和らいできます。

SNRI(サインバルタ®など)

SNRIは、セロトニンやノルアドレナリンといった脳内物質のはたらきを改善し、自律神経失調症による憂うつな気分を和らげて意欲を改善する薬です。

主な薬にミルナシプラン(商品名:トレドミン®など)、デュロキセチン(商品名:サインバルタ®)、ベンラファキシン(商品名:イフェクサー®SR)があります。うつ(抑うつ)以外にも、神経性の痛みを和らげる目的で使われる場合があります。

吐き気などの症状があらわれることもありますが、多くの場合、服用を続けていくうちに和らいできます。また頻度はあまり高くありませんが、脈の乱れ(頻脈)や排尿障害といった副作用に注意が必要です。

NaSSA(リフレックス®など)

NaSSAは、SNRIとは異なる作用によって、セロトニンやノルアドレナリンの働きを改善し、自律神経失調症によるうつ(抑うつ)、不安や不眠などを改善する薬です。主な薬にミルタザピン(商品名:リフレックス®、レメロン®)があります。特に不眠を伴うようなうつ(抑うつ)に対して効果が期待できます。服用中の体重増加(太る)などに注意が必要です。

その他の抗うつ薬

この他、不眠などの睡眠障害がある場合には、トラゾドン(商品名:デジレル®、レスリン®など)やミアンセリン(商品名:テトラミド®)などの薬が使われることもあります。抗うつ薬にも同じく他にいくつかの種類がありますが、有効性や副作用などを考慮したうえで症状に合わせて使い分けられています。

5. 自律神経失調症のホルモン療法の目的と注意点

自律神経失調症の原因として女性ホルモンのバランスの乱れが考えられる場合には、ホルモン剤による治療(ホルモン補充療法)が行われます。エストロゲンとプロゲステロンという2種類の女性ホルモンのバランスを整えることによって、症状の改善を目指します。

ホルモン療法は有効なのですが、いくつか注意が必要です。

【ホルモン療法を始めるにあたって注意したいこと】

  • 治療の初期に乳房や下腹部の張り、不正性器出血がおきることがある
    • 多くは時間がたつにつれて改善する
  • 頻度は非常にまれだが、血液が固まって血管に詰まる血栓症などへの注意が必要

これらの副作用を考慮したうえで体調に合わせた治療が行われます。「どのような治療を行っていくのか?」、「注意すべきことは何か?」など、詳しくは処方したお医者さんとよく話してください。

ここからは具体的に3つあるホルモン製剤について説明しています。

エストロゲン製剤

エストロゲンが主成分となっている薬です。エストロゲンにはエストロン、エストラジオール、エストリオールの3種があり、それぞれ作用の強さに違いがあります。最も強い作用をあらわすのはエストラジオールという成分です。

エストロゲン製剤は飲み薬以外にも、皮膚から薬剤を吸収させることで作用する経皮剤(貼り薬や塗り薬など)などがあり、用途や症状などに合わせて処方されます。

エストロゲンは骨の形成にも関係しているため、骨粗しょう症に使われる薬もあります。

この薬は単独で処方される場合や、次で説明する黄体ホルモン製剤と併用して処方される場合があります。また、薬を連続して使用する「持続法」や、使用しない期間をはさむ「間欠法」といったように、症状などに合わせた使用法もあります。

黄体ホルモン製剤

黄体ホルモンとも呼ばれるプロゲストーゲンが主成分の薬です。飲み薬のプロベラ®ヒスロン®デュファストン®といった薬があります。無月経、月経周期異常の治療や切迫流産切迫早産などにも処方される薬です。

エストロゲン・黄体ホルモン配合剤

エストロゲンとプロゲストーゲンを合わせた製剤です。ホルモン補充療法では持続的にエストロゲンとプロゲストーゲンを併用して使用することがあり、この治療法に適した薬になっています。製剤例としてパッチ剤(貼り薬)と飲み薬があります。

飲み薬のウェールナラ®配合錠は骨粗しょう症治療として使われています。エストロゲン製剤のところでエストロゲンが骨形成に関わることを紹介しましたが、エストロゲン・黄体ホルモン配合剤はエストロゲン製剤を単独で使うことによる子宮内膜肥厚・増殖といった副作用を、子宮内膜保護作用をもった黄体ホルモンで和らげる形になっている薬です。

ところで、いわゆる「ピル」の多くもエストロゲン・黄体ホルモンを合わせた製剤です。ピルは避妊だけではなく、生理痛(月経困難症)の治療にも使われています。「月経困難症の詳細情報」とあわせてご覧ください。