じりつしんけいしっちょうしょう
自律神経失調症
自律神経のバランスが崩れた際に起こる症状の総称。めまいや耳鳴り、頭痛など様々な症状が出現する
18人の医師がチェック 245回の改訂 最終更新: 2022.12.26

自律神経失調症で知っておきたいこと:仕事、受診の目安、病院の探し方、診療科など

自律神経失調症によって仕事に支障をきたすことは少なくありません。このページでは仕事をしながらの病気とのつきあい方や、上司・同僚など職場への病気の伝え方、休職・退職・診断書といったことについて説明していきます。

1. 自律神経失調症の人が仕事で抱えがちな悩みについて

自律神経失調症による症状は人それぞれです。人によっては症状が重く、次のように仕事に支障をきたすこともあります。

  • 症状のせいで仕事を期限通りにできないことがある
  • 症状が強い日には仕事に行けず休んでいる
  • 働いている時に立ちくらみで倒れてしまう

すでに病院で自律神経失調症という診断を受けていて上記のような状況であれば、職場の上司、あるいは誰か同僚の人にそのことを伝えるのがベストです。

ある程度の期間を乗り切れば、確実に治るような病気であれば隠し通すことも可能かもしれません。しかし、自律神経失調症の見通しは不透明なことが多く、そもそもしっかりと休みを取らないと治りにくい人もいます。

治療と仕事を両立させるうえでは、職場の理解とサポートは不可欠です。自律神経失調症だということを職場の人に伝え、両立の仕方を相談するのが理想といえます。相談のうえ、休みをとりやすいポジションに異動させてもらったり、負担の少ない業務に切り替えてもらったりする人もいます。

一方で、職場の雰囲気によっては相談しにくい場合もあると思います。自律神経失調症の症状は個人差も大きく主観的で、人に伝えるのが難しいと感じたり、相談していいのか迷うこともあります。

悩むところですが、誰か相談できる人を見つけることで状況が変わります。たとえば、産業医は職場に関係する悩みを聞くための医師です。秘密を守る義務もありますので、産業医のいる職場であればまず相談してみることをお勧めします。

とても悩ましいとは思うのですが、以前よりは自律神経失調症のような病気の理解が広まってきていて、社会全体で悩んでいる人をサポートしていく方向に進んできています。

職場や上司に自律神経失調症をもっと理解してもらうために、このサイトもぜひ利用してください。

2. 自律神経失調症による休職や退職について

ストレスは自律神経失調症の原因の一つです。

仕事でのストレスが自律神経失調症の原因である場合、薬物療法や心理療法だけでは十分な治療効果が得られないかもしれません。自律神経失調症の症状を抱えながら、いつ治るのかもよくわからないという状況で何か月も仕事を続けるよりは、一旦休んで、職場から離れて治療に専念したほうがいい場合もあります。

自律神経失調症になる人は熱心で真面目な人が多いと言われています。仕事に打ち込んでいる人ほど休みを取るのは抵抗があるかもしれません。休職や退職となるとハードルがさらに高く感じてしまうでしょう。しかし、休むのも治療の一環です。医師と相談して休職や退職が必要そうだとなったら、思い切って身体を休めてみてください。

3. 自律神経失調症の診断書の入手法について

休職・退職のいずれに対しても、会社から診断書を求められることが多いです。診断書は治療を受けている医療機関で書いてもらえます。

なお、診断書の発行にも費用がかかります。保険が使えず医療機関によって値段が異なります。3000円から5000円ほどであることが多いです。事前に知っておきたい人は医療機関に問い合わせてください。

4. 自律神経失調症の名医はどこにいるのか

自律神経失調症に関連した専門医として日本心療内科学会が定める心療内科専門医という資格があります。日本心療内科学会 専門医一覧で心療内科専門医の氏名と勤務施設が探せます。

自律神経失調症を診てもらうには次のような医師が向いていると考えられます。

  • 患者の話をしっかり聞いて、症状を理解してくれる
  • 患者に合わせた治療法を提案してくれる
  • 身体面と心理面の両方に目を配ってくれる

中でも自分に合わせた治療法が大切です。

たとえば、自律神経失調症では生活習慣の乱れが原因のひとつになりますが、仕事で夜勤が外せない人は「昼夜逆転の生活をやめてください」と言われても実行できません。一人ひとりの生活スタイルや仕事、家庭の事情を理解したうえで、その人にあった治し方を考えてくれる医師が主治医として望ましいです。

信頼関係が一番大切

誰かにとっての名医があなたにとっての名医とは限りません。条件をあげれば切りがないのですが、治療を上手く行うために一番大切なことは、お医者さんと患者さんの間の信頼関係です。

「このお医者さんが言っていることは本当なのかな」と感じてしまうと、頭では分かっていても生活習慣の改善をアドバイスどおりにはなかなかできません。心理面や社会面を含めて患者自身が積極的に治療に関わるためには、確かな信頼関係が築けるお医者さんかどうかが鍵になってくるのです。

また自律神経失調症の治療には時間がかかります。中には何年も治療を続ける人もいます。治療の過程で、一時的な症状の浮き沈みを経験する人もいるかもしれません。そうした状況下では不安が積み重なっていくことは珍しいことではありません。だからこそ、自分が信頼できそうな医師のところに通いながら治療をしていって、時間をかけて信頼関係を築くことが大切だと言えます。

「この医者は自分に合わない」と早々に判断して病院を変更すると、治療は振り出しに戻ってしまいます。これまでのやりとり振り返って、自分と本当に合わないかよく考えてみるようにしてください。治療を始めたら根気よく続けることが、治療効果につながります。

さらに、自律神経失調症は、心理面や社会面、生活に密接した病気なので、乗り越えるうえでは、患者自身も積極的に治療に関わっていく必要があるということはぜひ覚えておいてください。お医者さんにすべてをゆだねるのではなく、主体的に治療に関わるようにしてください。

5. 自律神経失調症は何科にいけばよいのか

診断の段階では、自律神経失調症に似たほかの病気が隠れていないかきちんとチェックする必要があります。そのため最初は、症状に応じた診療科にいくのが望ましいです。身体のどこかしら特定の部位に症状がある場合には、まずはその部位にあった診療科に行ってみてください。

具体的には、頭痛だったら脳神経外科や脳神経内科、肩や背中・腰の痛みなら整形外科、めまいや耳鳴りなら耳鼻科、生理不順なら産婦人科やレディースクリニックになります。「なんとなくなく身体の疲れがとれない」、「頭痛がして微熱もあって、手足もしびれてきた」といった場合のように、全身の症状の場合は一般内科や総合診療科が適しています。「気分の落ち込みがかなり強い」など心の症状が強く出ている場合は、精神科や心療内科が良いことが多いです。

身体を詳しく調べた結果、特に異常が見当たらず自律神経失調症と診断されたら、心療内科で治療をするのがおすすめです。特に臨床心理士がいて心理療法ができる施設がよいです。

心療内科は自律神経失調症に特有の難しさに対処するのに向いています。

【自律神経失調症の診断や治療の難しさ】

  • 検査で異常がみつからない
    • めまいや頭痛、しびれ、息苦しさなどの症状があっても、血液検査・画像検査などの検査で異常がみつかりません。他の病気である可能性を除外するのに時間がかかることがあります
  • 症状や治療経過の個人差がとても大きい
    • 症状も治療に対する効果にも個人差が大きいので、医療機関には柔軟な対応が要求されます
  • 原因にも症状にも、身体と心の両方が密接に関係している
    • 内科や脳神経外科など、ほとんどの診療科は身体を治すのが得意です。一方で、精神科は精神面に特化しています。しかし、身体と心の両方を同時に扱うのが得意な診療科は多くありません

心療内科は、身体的ストレスと精神的ストレスの両方に対処します。自律神経失調症の診断と治療に適していると言えます。

心療内科と精神科の違いについて

心療内科と聞いてもどのような診療科なのか、あまりイメージがわかない人も多いと思います。

心療内科では、精神的ストレスも含めた心の問題が原因となる身体の病気心身症と呼びます)を中心に診療します。心の問題が原因で心に異常が起きる場合は、精神科が専門家です。逆に身体の問題が原因で身体の異常が起きる場合は、内科を受診します。これと同じように、心の問題が原因となって身体の異常が起きることがあり、その治療を専門で行うのが、心療内科なのです。

例えばストレスが原因の胃潰瘍の場合、内科に行けば薬で治療することは出来ますが、原因のストレスに対するケアは行われません。それが心療内科の場合には、身体面の治療が行われるだけでなく、心理面についても心理療法やカウンセリングなどが行われます。心理療法やカウンセリングは、医師だけでなく臨床心理士も関わって行われます。

6. 自律神経失調症の治療に公的医療保険は適用されるのか

自律神経失調症は、他の病気と同じように公的医療保険を使うことができます。つまり、一般的には医療機関で発生した医療費の3割が自己負担分となります。医療機関で出された薬は、漢方薬も含めて公的医療保険でカバーされます。また薬物療法以外にも、カウセリングや心理療法、マッサージなどの理学療法が医師の指示に基づいて行われる場合、そちらにも公的医療保険が適用されることがあります。

7. 自律神経失調症の人は生命保険に入れるのか

保険会社によって異なるのですが、生命保険についてはプランによって入れることもあるでしょう。

自律神経失調症の人の保険加入が難しい理由として以下が考えられます。

  • 自律神経失調症という病気の概念が分かりづらい
  • 治療期間がどれくらいなのかわかりづらい
  • 重症化するリスクがどれくらいなのかがわかりづらい
  • 重症化したらどういう状態になるのかが予測しにくい

保険会社はこうした予測しづらさを避ける傾向にあると考えられています。また保険会社が、自律神経失調症の人には繰り返し入院する可能性が高いうつ病といった病気が隠れているのではないか、と考えて加入が認められない場合も考えられます。

では自律神経失調症と診断され治療していることを保険会社に言わなければいい、と思う方もいらっしゃると思うのですが、保険の加入には「告知義務」が関わってきます。

告知義務は、それまでの病気や薬の服用歴、入院歴、手術歴、健康状態について課せられます。例えば以下のような質問がなされます。

  • 過去3か月以内に、医師の診察・検査・治療・投薬を受けたことがありますか
  • 過去2年以内に病気やけがで、初診日から最終受診日まで7日以上の期間にわたり、医師の診察・検査を受けたことはありますか
  • 過去5年以内に病気やけがで手術を受けたことがありますか
  • 今までにがんにかかったことはありますか
  • 過去2年以内に健康診断書・人間ドッグ・がん診断で異常を指摘されたことがありますか
  • 現在妊娠していますか

自律神経失調症として医療機関で診断、治療を受けた場合にそれを申告しないでいると、告知義務違反となります。告知しなかった場合はいざという時に保険金が下りない可能性があるので、正しく自分の健康状態を告知しなければいけません。

告知の時のポイントは、保険会社は「疑わしいこと」「よくわからないこと」を避けるということです。保険会社に正しく査定してもらうためには次のことなどを押さえておいてください。

  • 自律神経失調症と診断された時期
  • その時の症状
  • 通院期間と頻度
  • 過去の入院の有無
  • 過去、現在服用した薬剤名
  • 通院した医療機関名

保険会社の考えはそれぞれで異なるので、上記を正確に告知したからといって、必ず保険加入ができるわけではありませんが、少なくとも告知義務を果たし、保険加入の可能性を高めることにつながると考えられます。