自律神経失調症への効果が期待できる漢方薬:不眠、ホルモンバランスの乱れ、不安、めまいなど
自律神経失調症には不眠、頭痛、めまいなど数多くの症状があり、同時にいくつかの症状があらわれることもあります。漢方薬はその人の症状と全身の状態に合わせて選ばれる薬で、自律神経失調症のように複数の症状が現れる病気の改善に有用といえます。
目次
2. 自律神経失調症の不眠に効く漢方薬①:抑肝散
3. 自律神経失調症の不眠に効く漢方薬②:黄連解毒湯
4. 自律神経失調症の不眠に効く漢方薬③:帰脾湯
5. 自律神経失調症の不眠に効く漢方薬④:酸棗仁湯
6. 自律神経失調症とホルモンバランスの乱れに効く漢方薬①:加味逍遙散
7. 自律神経失調症とホルモンバランスの乱れに効く漢方薬②:当帰芍薬散
8. 自律神経失調症とホルモンバランスの乱れに効く漢方薬③:桂枝茯苓丸
9. 自律神経失調症による不安症状の漢方薬①:柴胡加竜骨牡蛎湯
10. 自律神経失調症による不安症状の漢方薬②:半夏厚朴湯
11. 自律神経失調症による不安症状の漢方薬③:半夏白朮天麻湯
12. 自律神経失調症による不安症状の漢方薬④:桂枝加芍薬湯
1. 自律神経失調症に漢方薬が効く理由
咳には咳止め、不眠には睡眠導入剤といった西洋医学とは、漢方医学は少し異なる考え方をします。漢方医学では患者個々の症状・体質などを「証(しょう)」という言葉であらわし、一般的にそれぞれの証に合わせた漢方薬が処方されます(詳しくはコラム「漢方薬の選択は十人十色!?」で解説しています)。また、人が本来持っているいわゆる自然
複数の症状があらわれる自律神経失調症では漢方薬が特に有用です。
漢方薬の副作用
一般的に漢方薬は副作用が少ないとされます。少ない副作用の中であえて挙げるとすれば、自然由来の生薬成分自体が体質や症状に合わなかったりすることがあります。例えば、お腹が緩くなりやすい体質の人に大黄(ダイオウ)などの下剤効果があらわる生薬を含む漢方薬は適していないと考えられます。
また生薬成分を適正量を超えて服用した場合には好ましくない症状があらわれることも考えられます。
しかし万一これらの好ましくない症状があらわれたとしても、大半は漢方薬を中止することで解消できます。
漢方薬に市販薬はあるのか
漢方薬は医療用医薬品の他、OTC医薬品(市販薬)としても多くの製剤が販売されていますが、自律神経失調症に対して服用する場合は自身の体質・症状などをしっかりと医師や薬剤師などの専門家に伝え、適切な漢方薬を使うことが大切です。
2. 自律神経失調症の不眠に効く漢方薬①:抑肝散
抑肝散(ヨクカンサン)は自律神経失調症による不眠の他、神経症、小児夜泣きなどにも用いられます。
抑肝散の作用として、脳の神経細胞の興奮を抑える作用などが明らかにされてきています。この作用などから認知症に対しても使われている薬です。
抑肝散加陳皮半夏とは?
抑肝散の種類には、生薬の陳皮(チンピ)と半夏(ハンゲ)を加えた抑肝散加陳皮半夏(ヨクカンサンカチンピハンゲ)もあり、より体力が低下して胃腸が弱いなどの証に適した漢方薬となっています。
抑肝散が向いている人は?
漢方医学では患者個々の症状・体質などを「証(しょう)」と呼びますが、虚弱体質でいらいらし、怒っりぽいような証に適した薬です。名前の「肝」は「怒り」などをあらわし「怒りを抑える薬」という意味が「抑肝散」の名称にあらわれています。
3. 自律神経失調症の不眠に効く漢方薬②:黄連解毒湯
黄連解毒湯(オウレンゲドクトウ)は自律神経失調症による不眠症以外にも、高血圧、めまい、精神不安、胃炎、蕁麻疹などの皮膚症状というように多くの症状・疾患に対して処方されます。
比較的体力があり、のぼせ気味でいらいらや頭痛、不安などがあるような証の人に適した漢方薬です。構成生薬の黄芩(オウゴン)は鎮痛・鎮静などの作用や体温調整作用をもっていて、胃の不快感を改善する効果も期待できます。黄連解毒湯はほかに黄連(オウレン)、黄柏(オウバク)、山梔子(サンシシ)を含んでいます。
昔から「良薬口に苦し」と言いますが、黄連解毒湯はそれを象徴するような「苦味」を感じやすい漢方薬です。
4. 自律神経失調症の不眠に効く漢方薬③:帰脾湯
帰脾湯(キヒトウ)は自律神経失調症による不眠症や貧血などに対して処方されます。虚弱体質で胃腸が弱く、貧血気味であったり不安を伴うような証の人に適した薬です。
帰脾湯の構成生薬の中で人参(ニンジン)と黄耆(オウギ)は合わせてジンギ(参耆)剤とも言い、疲労回復・滋養強壮などに効果があります。また脳の興奮を抑える作用や抗ストレス作用をあらわす酸棗仁(サンソウニン)など、比較的多くの種類の生薬を含む漢方薬です。
加味帰脾湯とは
帰脾湯に生薬の柴胡(サイコ)と山梔子(サンシシ)を加えたのが加味帰脾湯(カミキヒトウ)です。柴胡の抗ストレス作用などによって、帰脾湯が適する証に比べてより精神症状が強いような証に適するとされています。
5. 自律神経失調症の不眠に効く漢方薬④:酸棗仁湯
酸棗仁湯(サンソウニントウ)は自律神経失調症で心身の疲れがあり、不安や神経過敏であるような証の人に適しています。その名前の通り酸棗仁(サンソウニン)という生薬が主薬となっていて、不眠に対しての効果が期待できます。夜中に目が覚めて眠れなくなる、などの中途覚醒にも有効です。
これらの他、半夏瀉心湯(ハンゲシャシントウ)、柴胡加竜骨牡蛎湯(サイコカリュウコツボレイトウ)なども自律神経失調症による不眠の改善に使われています。
6. 自律神経失調症とホルモンバランスの乱れに効く漢方薬①:加味逍遙散
加味逍遙散(カミショウヨウサン)は自律神経失調症、更年期障害の症状の他、冷え症、月経困難症、月経不順などに対して使われている薬です。
体力が中等度からやや虚弱気味(痩せ気味)で、冷えやすいなどの人に適した漢方薬です。不眠や不安、
7. 自律神経失調症とホルモンバランスの乱れに効く漢方薬②:当帰芍薬散
当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)は、自律神経失調症、更年期障害の症状の他、月経困難症、月経不順、不妊症などに対して効果が期待できる漢方薬です。
加味逍遙散よりもさらに虚弱気味(痩せ気味)で、疲れやすく冷えやすいなどの証の人に適した漢方薬です。めまい、脱力感、頭痛、
主な生薬成分の当帰(トウキ)は血の巡りを改善し、貧血や婦人科疾患などに有効性をもっています。もう一つ名前の由来となっている生薬の芍薬(シャクヤク)は鎮痛・鎮静などの作用をもち、筋肉のひきつりや腹痛、頭痛といった症状がある場合に処方されることが多いです。他には茯苓(ブクリョウ)など、計6種類の生薬による当帰芍薬散は女性
8. 自律神経失調症とホルモンバランスの乱れに効く漢方薬③:桂枝茯苓丸
桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)は、女性ホルモンへの作用をもっていて、更年期障害や自律神経失調症に伴う頭痛、めまいなどの症状の他、月経困難症、不妊症などに対して効果を発揮する漢方薬です。
当帰芍薬散とは逆に体質や体格が中等度からやや充実気味(比較的体格ががっしりしているなど)で血色が比較的良く、下腹部の痛みや肩こりなどがある証の人に適しています。
計5種類の生薬により構成されており、芍薬(シャクヤク)、茯苓(ブクリョウ)は先ほどの当帰芍薬散にも含まれている生薬です。桂枝茯苓丸にはほかに桂皮(ケイヒ)、桃仁(トウニン)、牡丹皮(ボタンピ)の3種類が含まれます。桂皮はシナモンとして調味料としても使われている生薬で、健胃作用の他、熱や痛みなどに対しての改善効果があります。
桂枝茯苓丸は女性だけでなく、肩こりなどのある男性に対しても使われることがあります。
これらの他にも、更年期障害への漢方薬としては冷えや手足のほてりなどの改善が期待できる温経湯(ウンケイトウ)なども使われていますが、
9. 自律神経失調症による不安症状の漢方薬①:柴胡加竜骨牡蛎湯
自律神経失調症や不安障害には通常、SSRI(抗うつ薬の一種)などによる治療が有効です。しかし、副作用などの理由で抗うつ薬や抗不安薬が使いづらい場合には漢方薬による治療が有用な選択肢となります。
柴胡加竜骨牡蛎湯(サイコカリュウコツボレイトウ)は自律神経失調症にともなう不眠症、神経症の他、動悸や肩こりの改善作用もあります。
比較的体力があり、動悸、不安やいらいら、耳鳴りなどがあるような証の人に効果が期待できる漢方薬です。抗ストレス作用がある柴胡(サイコ)、不安や不眠、胃痛に効果が期待できる、牡蠣(カキ)の貝殻が原料となった生薬の牡蛎(ボレイ)などが含まれます。
10. 自律神経失調症による不安症状の漢方薬②:半夏厚朴湯
半夏厚朴湯(ハンゲコウボクトウ)は不安障害による喉のつかえが原因の、呼吸困難感や窒息感などを改善する効果が期待できます。
冷え症があり神経質で、喉に異物感があるような証の人に適した漢方薬です。主薬である半夏(ハンゲ)は抗ストレス作用、鎮静・鎮痛・鎮吐・鎮痙作用などが期待できる生薬で、他には茯苓(ブクリョウ)、厚朴(コウボク)、蘇葉(ソヨウ)、生姜(ショウキョウ)というように、計5種類の生薬で構成されている薬です。
不安障害以外にも神経性胃炎、神経性の食道狭窄、不眠症などの自律神経の症状に使われることもあります。
11. 自律神経失調症による不安症状の漢方薬③:半夏白朮天麻湯
半夏白朮天麻湯(ハンゲビャクジュツテンマトウ)は、自律神経失調症ではめまい感や頭の重さ、頭痛などのある場合に適しており、メニエール症候群などにも使われることがあります。半夏白朮天麻湯は冷え症があり胃腸が虚弱気味な証の人に適した漢方薬です。
半夏厚朴湯にも含まれていた生薬の半夏、茯苓(ブクリョウ)、生姜(ショウキョウ)の他、健胃作用などをあらわす陳皮(チンピ)、ジンギ(参耆)剤と呼ばれ疲労回復・滋養強壮などに効果がある人参(ニンジン)と黄耆(オウギ)などを含めた、計12種類の生薬で構成されています。
12. 自律神経失調症による不安症状の漢方薬④:桂枝加芍薬湯
桂枝加芍薬湯(ケイシカシャクヤクトウ)は自律神経失調症で冷えやお腹の張り、腹痛などを伴うような証の人に適した漢方薬です。筋肉のひきつりや鎮痛などの作用をあらわす芍薬(シャクヤク)、香辛料のシナモンとしても知られる桂皮(ケイヒ)などから構成されています。不安障害による腹部の緊張を改善する作用があります。便秘と下痢を繰り返すような症状にも効果的であるため、過敏性腸症候群の治療にも処方されます。
この他にも以下のように多くの漢方薬が自律神経失調症の症状に対して処方されます。