フロモックス錠100mg(セフカペンピボキシル塩酸塩)が効かないのはなぜ?
この記事のポイント
飲み薬の抗生物質の代表としてフロモックス(セフカペンピボキシル塩酸塩)があります。 実はフロモックスが治療に適切でないことは多いです。どういったときに有効でないのでしょうか?
1. フロモックスが効かない理由
フロモックスは医者にはとても人気があってよく出される薬なのですが、次の病気にはフロモックスが効きにくいです。
肺炎球菌 による肺炎(せき、たん、息苦しさ)- 溶連菌による咽頭炎(のどの痛み)
- 溶連菌による丹毒(皮膚が赤くなる、顔面に多い)
黄色ブドウ球菌 による蜂窩織炎(皮膚が赤くなって腫れる、ときに痛みを伴う)ウイルス によるかぜ、インフルエンザ
病気に合っていなければ、薬は効きません。
◎ウイルスに抗生物質は効かない
ウイルスによる病気にはフロモックスだけでなく、どの
インフルエンザは
フロモックスは子供でも飲めるのがいいところのひとつですが、子供に多い病気の中でも手足口病、ヘルパンギーナ、突発性発疹、水ぼうそう、麻疹(はしか)、風疹、ヘルペス性口内炎はウイルスが原因なので、フロモックスは効きません。ほかの抗生物質も効きません。
◎抗生物質と細菌には相性がある
細菌なら抗生物質が効くかというと、抗生物質の中でも細菌によって効く薬と効かない薬があります。
7000種類ほどの細菌が地球上に存在しています。すべての細菌に効く抗生物質はなく、細菌と相性のいい抗生物質を使うことで効果的に治療することができます。
フロモックスは第3世代セフェム系と言われるグループに属する抗生物質です。他にはメイアクトやセフゾンなどが第3世代セフェム系です。
フロモックスほか第3世代セフェム系の抗生物質は、グラム陰性桿菌(グラムいんせいかんきん、GNR)と呼ばれるグループの細菌に効果を発揮しやすいことがわかっています。
◎フロモックスは細菌の中でも大腸菌などに強い
フロモックスはどんな細菌に対して効力を発揮するのでしょうか。
フロモックスが得意なグラム陰性桿菌は腸の中に多く住んでいます。グラム陰性桿菌の代表例は以下のものになります。
肺炎球菌や溶血性連鎖球菌(溶連菌)、黄色ブドウ球菌などのグラム陽性球菌(グラムようせいきゅうきん、GPC)にはフロモックスはあまり有効でないことがわかっています。
フロモックスが効かない病気として最初に挙げた例は、グラム陽性球菌がよく起こす病気です。
フロモックスやメイアクトなど第3世代セフェム系抗菌薬の特徴として、グラム陰性桿菌に強い効果を発揮する一方で、グラム陽性球菌に対する効果は弱いというものがあります。
そのため、グラム陽性球菌が関与しやすい
2. フロモックスの適応症
では、フロモックスはどんな病気になら効くのでしょうか。
抗生物質には適応症があらかじめ決められています。適応症とは、その薬が力を発揮しやすい病気のことです。
フロモックスを出されたときの診断名が、以下のフロモックスの適応症の中にあるか探してみてください。
- 表在性皮膚感染症、深在性皮膚感染症、リンパ管・
リンパ節 炎、慢性膿 皮症 - 外傷・熱傷及び手術創等の二次感染、乳腺炎、肛門周囲膿瘍
- 咽頭・喉頭炎、扁桃炎(扁桃周囲炎、扁桃周囲膿瘍を含む)、急性気管支炎、肺炎、慢性呼吸器
病変 の二次感染 - 膀胱炎、腎盂腎炎、尿道炎、子宮頸管炎
- 胆嚢炎、
胆管 炎 - バルトリン腺炎、子宮内感染、子宮付属器炎
- 涙嚢炎、麦粒腫、
瞼 板腺炎 - 外耳炎、中耳炎、副鼻腔炎
- 歯周組織炎、歯冠周囲炎、顎炎
難しい言葉が並びますが、膀胱の感染から皮膚の感染までかなり幅の広い感染症に対してフロモックスの効果があることになります。
しかし、適応症にあるからといってフロモックスで治せるとは限りません。薬が効きやすい病気が適応症ですが、抗生物質は効くだけではだめなのです。次に説明します。
◎抗生物質は効くだけではだめ
抗生物質を使うときは、感染症の原因となっている細菌に有効であるだけでなく、「常在菌をできるだけ殺さない」というもうひとつの条件があります。
常在菌は人間の健康を保つために必要です。次に説明します。
◎体内の細菌のパワーバランスが大事!
人間の体内には数百兆個の細菌が住み着いています。
病気でなく健康な体の中でも存在する細菌を常在菌と言います。常在菌は基本的に病気の原因にはなりません。
常在菌は重さにすると1-2kgになります。ほとんどが腸の中にいます。「腸内フローラ」という言葉を知っている人がいるかもしれません。腸内フローラというのは腸の中にいる乳酸菌や大腸菌などの常在菌のことです。常在菌は、実は
- 腸の中には多くの常在菌がいる
- 腸に食べ物が流れてくると、常在菌が一部を食べてエネルギーを得る
- 腸の中にはときどき感染の原因となる細菌が入ってくる
- 侵入した細菌は常在菌にとってよそ者であるので、常在菌は自分のエサを取られまいと侵入者を攻撃してくれる
実際にこうしたことが起こって、免疫力に貢献しています。
抗生物質を使って常在菌を殺してしまうとどうなるでしょうか。
常在菌が侵入者を攻撃してくれなくなってしまうので、免疫力が下がってしまいます。
そのため、感染症を抗生物質で治療するときは、原因となっている細菌を狙って倒し、常在菌をできるだけ殺さないことが望ましいのです。
ところが、フロモックスは常在菌を殺してしまうマイナス面がかなり強い薬なのです。次に説明します。
3. フロモックスの弱点、吸収されない
フロモックスが苦手な点として、あまりグラム陽性球菌(GPC)に効かないことを説明しました。
フロモックスにはもうひとつ、吸収率がかなり悪いという弱点があります。つまり、フロモックスを飲んでも血液に吸収されて効果を発揮するのは一部だけで、かなりの割合が吸収されないで腸の中を素通りしてしまうのです。
フロモックスに限らず、第3世代セフェム系といわれる抗生物質の中で飲み薬タイプのものは、軒並み吸収率が悪いです。吸収率が70-80%あればひとまず合格ですが、第3世代セフェム系の吸収率は散々なものになります。
【第3世代セフェム系抗菌薬の吸収率】
薬 |
吸収率 |
---|---|
フロモックス® (セフカペンピボキシル) |
30% |
メイアクト® (セフジトレンピボキシル) |
17% |
セフゾン® (セフジニル) |
25% |
(Mandell 7th editionを参照)
感染を治すために飲んだ抗生物質のほとんどが腸の中に残ってしまっていることになります。血液の中に十分な量のフロモックスを届けるためには、相当量のフロモックスを飲まないといけないことになります。
さらに、腸の中には多くの常在菌がいますので、常在菌を殺してしまうことで自分の免疫力が下がってしまうという、マイナス効果までが存在します。
4. フロモックスのいいところは?
それではフロモックスはどういった感染症に対して使うべき抗生物質なのでしょうか?
フロモックスの良い点を考えてみましょう。
- グラム陰性桿菌(GNR)に強い
- 飲み薬である
- 重症の副作用が比較的少ない
吸収されないんじゃどんなに良い点があっても意味ないでしょというツッコミを入れる方もいると思います。そのツッコミはまさしく正論です。
しかし、ほかの抗生物質が
フロモックスの良い点をもう少し深く考えていきましょう。
◎フロモックスはグラム陰性桿菌(GNR)に強い
グラム陰性桿菌には、大腸菌、クラブシエラ・ニューモニエ、インフルエンザ桿菌などがあります。フロモックスはこれらに対する有効性は高いです。
◎フロモックスは飲み薬である
実はフロモックスが飲み薬であるということは非常に重要です。感染症の治療をするときに点滴の薬しかないと100%入院が必要になってしまいます。
入院すると安心するという方もいるとは思いますが、入院をすると体力は想像以上に落ちてしまいます。これは、入院することで今まで動いていたことですら動かなくなることが原因と考えられています。
そのため、長い目で見れば入院は極力しないようにするほうが得策です。
フロモックスは飲み薬なので、点滴をしない、入院しない治療ができるかもしれません。
◎フロモックスは重症の副作用が比較的少ない
どんな薬にも必ず副作用があります。重症の副作用もあれば軽症の副作用もあります。重症の副作用は極力出ないほうがいいので、フロモックスに重症の副作用が比較的少ないということも大きな価値があります。
とはいえフロモックスにも副作用はないわけではないので気をつけなくてはなりません。詳しくは「フロモックス錠100mg(セフカペンピボキシル塩酸塩)の副作用、飲み合わせ」のコラムを参考にして下さい。
5. フロモックスの効く病気は?
まとめると、フロモックスの効く病気は何でしょうか?
グラム陰性桿菌が関与しやすい病気がフロモックスの得意分野になります。
おそらく、膀胱炎はフロモックスの得意分野になるのはないでしょうか。ただ、重症の膀胱炎あるいは腎盂腎炎では、より勝率の高い抗菌薬を選んだほうがいいかもしれません。バクタ®やクラビット®やシプロキサン®は、重症の膀胱炎や腎盂腎炎の治療の得意な薬です。
6. フロモックスばかり出す医者は要注意
日本では多くの医者がフロモックスを処方してます。ただ、世界を見渡すと日本ほどフロモックスを処方している国はありません。
日本においても、
近いうちに患者/医者が意見交換しながら薬を選ぶ未来がくる気がします。病気は人生を変えうるわけですから、患者も医者も病気のことをきちんと学んで、ベストの答えを見つけましょう。
執筆者
※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。