めまい・耳鳴り
最終更新: 2018.03.19

メニエール病の原因、症状、治療

メニエール病は激しいめまいの発作を繰り返す病気です。難聴や耳鳴りを伴うこともあります。治療は長引くことがあります。メニエール病の原因や症状、治療について説明します。

1. メニエール病の原因

メニエール病の原因は内リンパ水腫(ないリンパすいしゅ)という状態です。内リンパ水腫とは、内耳にあるリンパ液が増えすぎることです。

内耳には前庭三半規管・蝸牛という部分が含まれます。これらの内部にはリンパ液が満たされていて、正常な機能のために役立っています。しかし、リンパ液が増えすぎることでメニエール病の症状が現れます。

内耳のリンパ液は内耳の機能に関わっています。内耳にはふたつの役割があります。

  • 頭の傾きや平衡を感じる(前庭の機能)
  • 音を感じる(蝸牛の機能)

内耳の中にはリンパ液が満たされています。リンパ液が流れたり音で振動したりすることによって、内耳の細胞が刺激されます。リンパ液の流れによって内耳の細胞は傾きや音を感じます。

ところが内リンパ水腫ではリンパ液が正常に流れなくなります。すると、内耳の細胞は傾きや音を間違って認識してしまいます。このようにして、以下のようなメニエール病の症状が現れると考えられます。

  • グルグル回転するようなめまい(回転性めまい)
    • 内耳が体の傾きを間違って認識することで起こります。
  • 耳鳴り
    • 鳴っていないはずの音を内耳が間違って認識することで耳鳴りが聞こえます。
  • 難聴
    • 内耳が音を認識できなくなることで難聴になります。

内リンパ水腫はなぜ起きる?

内リンパ水腫が起きる原因は不明です。ストレス、疲労、睡眠不足といった環境の要因との関係も言われています。内リンパ水腫が起きる仕組みとして以下の説があります。

  • 血流不足
  • ウイルスの感染
  • 免疫の異常

しかし、どの説もまだ確実とは言えません。

メニエール病になりやすい人は?

メニエール病は男女とも、若い人にも高齢者にも起こります。女性のほうがやや多いとする統計があります。別の統計では、30代で発症する場合が最も多いとされています。

参考:Am J Otolaryngol. 2015 May-Jun.Otolaryngol Clin North Am. 2002 Jun.

2. メニエール病の症状

メニエール病の主な症状を挙げます。

  • 激しいめまい
  • 難聴
  • 耳鳴り
  • 耳が詰まった感じ(耳閉感)

メニエール病で起こるめまいは、以下の特徴があることが典型的とされます。

  • 突然始まる
  • 10分から数時間で治まる
  • 目の前がぐるぐると回るような感じ(回転性めまい)

めまいが起こると、立つときや歩くときにふらつくこともあります。メニエール病による難聴では低音が聴こえにくくなることが多く、耳鳴りもザー、ゴーといった低音のものが多いです。耳が詰まった感じは、耳に水が入ったように感じられることもあります。耳閉感(じへいかん)と呼ばれています。

メニエール病の特徴は、以上の症状を何回も繰り返すことです。

耳の症状は、通常は左右片側の耳に起こります。耳の症状はめまいの発作に伴ってあらわれます。多くの場合はめまいと一緒に耳鳴りなども治まっていきます。しかし、難聴や耳鳴りは、めまいの発作が収まった後も数ヶ月や数年にわたって残ることがあります。

ほかの症状としては、めまいと同時にあらわれる吐き気や嘔吐もあります。吐き気はめまいの症状とともに治まっていきます。

ただし、症状はいつも典型的なものとは限りません。たとえば、メニエール病の典型的な症状のうち、一部だけが現れる場合があります。前庭症状(めまい)がない場合を蝸牛型メニエール病とも呼びます。蝸牛症状(難聴)がない場合を前庭型メニエール病と呼ぶこともあります。

以上のような症状の特徴が知られていますが、いくつかに当てはまったとしても、ほかの病気ではないかを見分ける必要があります。似た症状を表す病気の例として以下のものが考えられます。

  • 突発性難聴
    • 症状はメニエール病と似ています。通常は繰り返す発作はありません。治療にはステロイド薬などが使われます。
  • 良性発作性頭位めまい症BPPV
    • 三半規管の中に入っている耳石(じせき)というものが原因で起こるめまいです。頭を特定の向きにしたときや、頭を動かそうとしたときにグルグル回転する感じがします。通常、音の聞こえに異常は現れません。自然に治ることが多く、頭を動かす治療法が使われることもあります。
  • 自律神経失調症
    • 全身に多様な症状があります。肩こり、頭痛、動悸、生理不順、だるさなどを伴うこともあります。
  • ラムゼイ・ハント症候群耳性帯状疱疹
    • 顔から耳の痛み・水ぶくれが特徴です。顔の左右片側をうまく動かせなくなる症状(顔面神経麻痺)が出ることもあります。後遺症を残しやすく、早期治療が大切です。
  • 脳腫瘍
    • 症状はゆっくり進行することが多いです。治療法に手術などがあります。
  • 脳梗塞
    • 身体を動かしにくい、感覚がおかしいなどの症状をともなうことがあります。緊急で治療が必要です。脳の血管に詰まった血栓を除くなどの治療ができる場合があります。

病院ではこのような病気の可能性を考えながら、検査などを使ってメニエール病を見分けます。メニエール病であることがわかれば、対応する治療を選ぶことができます。

3. メニエール病の治療

イソソルビド製剤

イソソルビド製剤は、内耳にたまりすぎている水分を移動させて尿にする作用があります。めまい・耳鳴りの改善が期待できます。

イソバイド®は代表的なイソソルビド製剤です。液体の飲み薬(シロップ剤)となっています。

イソソルビド製剤はまずいと言われます。確かにお世辞にも美味しいとは言えません。甘味と酸味の後に苦味があらわれます。飲みやすくするには、冷たい水で2倍くらいに薄めて飲むと多少は味が紛れるかもしれません。薄めすぎないようにしてください。薄めすぎると薬の吸収が低下する可能性もあります。薄めても味が気になるときは、柑橘系の果汁などを少し加えるとよいでしょう。たとえばレモン汁はお勧めできます。ただし、何でも混ぜるのはやめてください。牛乳などの乳製品とイソソルビド製剤を一緒に飲むと吸収が低下する可能性もあります。

また、イソソルビド製剤の中にも種類があります。たとえばメニレット®ゼリーは、ゼリー状になったイソソルビド製剤です。イソバイド®などシロップの薬を飲みにくいと感じた人は、ゼリーに変えられるか医師や薬剤師に相談してみるのもいいでしょう。

ベタヒスチンメシル酸塩

ベタヒスチンメシル酸塩はめまいに効果のある薬です。抗めまい薬とも呼ばれます。主な商品名はメリスロン®などです。内耳や脳の血流を改善することで効果をあらわします。

ベタヒスチンメシル酸塩の副作用として、吐き気などの消化器症状がありえます。胃潰瘍などを持病で持っている人は特に、ベタヒスチンメシル酸塩を使っていて吐き気が出たら医師や薬剤師に相談してください。

ただし、ベタヒスチンメシル酸塩の副作用が出ることは非常にまれです。

ジフェニドール塩酸塩

ジフェニドール塩酸塩は、めまいや耳鳴りに効果がある薬です。抗めまい薬とも呼ばれます。主な商品名はセファドール®などです。2種類の作用により効果を現します。

  • 前庭神経の血流を改善する作用
  • 脳や神経の異常な信号を抑える作用

ジフェニドール塩酸塩の副作用として以下がありえます。

  • 口が渇く
  • 食欲不振
  • 排尿障害(非常にまれ)
  • 眼圧の変化(非常にまれ)

緑内障前立腺肥大などの持病がある人は、ジフェニドール塩酸塩の副作用により悪化する恐れがあるので注意が必要です。

ATP製剤

アデノシン三リン酸二ナトリウム(ATP)製剤は、めまい・耳鳴り・難聴を改善する薬です。耳鳴りやめまいの再発予防薬として長期的に飲む人も多い薬です。

ATP製剤は、血管拡張により血流を改善します。脳や内耳の代謝を促進したり、神経伝達の効率を改善したりすることで効果を現します。

商品名としてアデホス、トリノシン®などが使われています。アデホス-Lコーワ注などの注射剤は耳鳴りと難聴に対して保険適用があります。実際に多くの人が使っているのはアデホスコーワ顆粒などの顆粒剤です。

ATP製剤は全体に飲み合わせや安全性の問題がかなりわずかです。

ステロイド薬

ステロイド薬は炎症を和らげる作用などがあります。メニエール病に対しては主に内耳や神経の炎症を抑える目的で使われます。

ステロイド薬は、メニエール病のほかにもアレルギー性疾患や自己免疫疾患などに使われています。

ステロイド薬は健康な体の中で副腎(ふくじん)という臓器から自然に分泌されている、コルチゾールというホルモンを元に造られたものです。メニエール病に対する内服薬としてプレドニン®プレドニゾロンなどが使われています。

一般的には最初の使用量から1~2週間程度かけて徐々に薬の量を減らします。この使い方を漸減(ぜんげん)またはテーパリングと言います。漸減しながら使っているときは用量を守ることがとても大切になります。

ステロイド薬は高い有効性をもつ一方で、高血糖などの副作用にも注意しなくてはいけません。メニエール病ステロイドの内服薬を長期間飲み続けると、太る皮膚が薄くなるなどの副作用が出ることも考えられます。ステロイド内服薬の代表的な副作用を挙げます。

  • 易感染性(感染症にかかりやすくなる)
  • 高血糖(血糖値が上がる、糖尿病が悪化する)
  • 皮膚が薄くなる
  • 筋力低下
  • 白内障の進行
  • 脂質異常症
  • 動脈硬化の進行
  • 中心性肥満(手足は変わらず主に胴体が太る)
  • 満月様顔貌(ムーンフェイス、まん丸い顔)
  • 骨粗鬆症
  • 骨折
  • 消化性潰瘍胃潰瘍など)
  • 高血圧
  • 緑内障

また、ステロイド内服薬を飲むときは授乳ができません

副作用が心配でも、自己判断で中止したり量を変えて飲んだりすることは絶対にしないでください。非常に危険です。これはメニエール病の治療に限ったことではなく、他の病気でも同様です。かえって病気が悪化したり、症状がぶり返したり、治りが遅くなる場合もあります。

使用期間や使用中の注意点、副作用が出たときの対処など、処方医や薬剤師からよく話を聞いておき、適切に使って治療していくことが大切です。

ストミンA®配合錠

ストミンA®配合錠にはメニエール病にも効果が期待できる2種類の有効成分が配合されています。

  • ニコチン酸アミド
    • 内耳の細胞の機能を改善します。
  • パパベリン塩酸塩
    • 内耳の血流を改善します。

ニコチン酸アミドとパパベリン塩酸塩が副作用を起こすことはまれとされますが、眠気や頭痛などの精神神経系症状や、便秘、口の渇きなどの消化器症状には注意が必要です。

吐き気を抑える薬

メニエール病では、めまいに伴って吐き気・嘔吐の症状が出ることが多く、吐き気を抑える薬も使われます。

ドンペリドン(商品名:ナウゼリン®など)やメトクロプラミド(商品名:プリンペラン®など)は吐き気止めとしてよく使われている薬です。飲み薬がよく使われていますが、注射剤もあります。

ほかにトラベルミン®やドラマミン®などの鎮暈薬(ちんうんやく)も使われます。

注意する点として、ナウゼリンは妊娠中には使うことができません。また、プリンペラン、トラベルミンを使うときは授乳ができません。

妊娠したとわかっているときはもちろん、近い将来妊娠する計画があるときにメニエール病の治療をすることになったら、医師に伝えて妊娠中にも適した薬を選んでもらってください。

抗不安薬

抗不安薬によって不安や緊張を和らげることで、メニエール病による耳鳴りやめまいなどの改善効果が期待できます。抗不安薬には作用の持続時間などが違う多くの種類があり、個々人の状態などに応じて使い分けられます。いくつかの例を挙げます。

ロフラゼプ酸エチルは、作用の持続時間が比較的長めの抗不安薬です。商品名にメイラックス®などがあります。

アルプラゾラムは、ロフラゼプ酸エチルに比べると作用の持続時間が短いタイプの抗不安薬です。商品名にコンスタン®ソラナックス®などがあります。比較的速やかに効果があらわれる特徴もあり、耳鳴りやめまいの症状が出たときに飲む頓服薬(とんぷくやく)としても使われています。

クロチアゼパムは、抗不安薬の中でも比較的速やかに効果があらわれ、体内で分解されるのも速く、あとに残りにくい特徴があります。商品名としてリーゼ®があります。

その他、肩こりや筋肉の緊張を伴う場合にはエチゾラム(商品名:デパス®など)などの抗不安薬が治療に使われることもあります。

抗不安薬の使用中に気をつけるべき副作用として、抗不安薬の多くが眠気を現すことがあります。眠気による転倒や車の運転などの危険を伴う作業に対して、特に高齢者などは注意が必要です。

また、上に挙げた抗不安薬を使うときは授乳ができません

漢方薬

メニエール病の治療で漢方薬が処方されることもあります。

  • 五苓散(ゴレイサン)
    • 口の渇きや尿量の減少などを伴うような体質・症状に適するとされます。
  • 柴苓湯(サイレイトウ)
    • 五苓散に類似した効果に加えステロイドのような作用をあらわすため、めまいに対しても使われています。
  • 半夏白朮天麻湯(ハンゲビャクジュツテンマトウ)
    • めまいだけでなく耳鳴りにも効果が期待できる漢方薬です。

一般的に漢方薬は副作用が少ないのですが、体質や症状に合わないものを使ってしまった場合や、適正量を超えて飲んだ場合などでは副作用も考えられます。たとえば漢方薬の約7割に含まれる甘草(カンゾウ)は、偽アルドステロン症(偽性アルドステロン症)による高血圧、筋力低下といった副作用に注意が必要です。

漢方薬を使うときは自分の体質・症状などをしっかりと医師や薬剤師に伝えてください。

その他の薬

メニエール病に対して、末梢の血管拡張薬であるカリジノゲナーゼ(商品名:カルナクリン®など)、めまいを伴う症状には抗めまい薬のイソプレナリン塩酸塩(商品名:イソメニール®)などの薬が使われる場合もあります。

ゲンタマイシン鼓室内注入療法

鼓室内注入療法は、鼓膜の奥にある、鼓室(こしつ)という空間に薬を注入する治療法です。

メニエール病に対しては、ゲンタマイシンという抗菌薬抗生物質)を注入する方法があります。ゲンタマイシンは内耳の中でリンパ液を作る細胞を障害します。リンパ液がたまりすぎた状態を改善する効果を狙った治療法です。

鼓室内注入療法の注意として、内耳の細胞が障害されることにより、難聴などの症状が現れる可能性があります。

内リンパ嚢開放術

内リンパ嚢開放術(ないリンパのうかいほうじゅつ)は、内耳のリンパ液を蓄えている部分を切り開いて、たまりすぎたリンパ液を逃がす手術です。全身麻酔で行います。

4. メニエール病と生活上の注意

生活の中でのストレスや睡眠不足はメニエール病に関係する可能性があります。ストレスを避けることも治療の一環になります。

メニエール病と食事との関係ははっきりわかっていません。減塩が良いという意見もありますが、違う意見もあります。

飲酒やコーヒーを控える、体重の減量などでメニエール病が改善したという明らかな報告はありません。

生活習慣として、規則正しい生活は効果的です。夜遅い食事は熟眠を妨げることがあります。規則正しい食事生活を送ることは、めまい発作がある人にとっても良いことと考えられます。

メニエール病は発作を繰り返す病気で、発作の間(間欠期)には症状が改善するため、症状がなくなってもまた発作があるどうかを見極めにくい病気です。治療期間が何年も続く人もいます。

しかし、治療で発作の頻度を減らしたり、症状を軽くしたりすることができます。前向きに考えて治療を続けてください。治療が効かないと感じたときは、ほかの治療法を試せないか相談してみるのもひとつの考えです。メニエール病の治療には薬をはじめ多くの方法があります。遠慮しないで最初の薬を処方したお医者さんに相談してください。「効いた、効かない」という情報が本人から返ってくることで、より一人ひとりに合った治療を選ぶ手掛かりになります。



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