めまいの薬物治療:漢方薬について
めまいの治療では漢方薬が使われることがあります。漢方では個人ごとに、症状や体質などを考慮して薬が選ばれます。めまいが出ているときに使われる漢方薬の例を紹介します。
1. めまいに使う漢方薬の例と考え方
めまいが出ている状態には漢方薬が有用となる場合があります。特に、「フラフラ」「グラグラ」するタイプの浮動性めまいや立ちくらみの症状があるときに適することが多いとされています。
漢方医学では症状や体質などを「証(しょう)」という言葉であらわします。証は個人ごとに違うのですが、病名ではなく証に合った薬を使うと考えます。詳しくはコラム「漢方薬の選択は十人十色!?」で解説しています。
証を考える上で「気・血・水(き・けつ・すい)」という重要な要素があります。簡潔に言うと、気は気力(生命エネルギー)、血は血液とその機能、水はリンパ液や汗などの血液以外の体液をあらわします。
漢方医学的にめまいを考えると、めまいを起こすメニエール病では
苓桂朮甘湯(リョウケイジュツカントウ)
体力が中等度からやや不足気味で息切れなどがあるような証に適するとされます。立ちくらみのようにグラっとするめまいなどに対して効果が期待できる漢方薬です。
尿を出やすくする茯苓(ブクリョウ)、水分の流れを改善する蒼朮(ソウジュツ)などの生薬を成分として含み、めまいの他、神経症(ノイローゼ)、
真武湯(シンブトウ)
冷えがあり、身体の新陳
茯苓(ブクリョウ)、蒼朮(ソウジュツ)に加えて、鎮静作用などをあらわす芍薬(シャクヤク)、ショウガが原料で熱を下げる・痛みを和らげるなどの作用をあらわす生姜(ショウキョウ)、冷えや水分の流れなどを改善する附子(ブシ)の計5種類の生薬から構成されています。めまいのほかにも用途は多岐に渡ります。
半夏厚朴湯(ハンゲコウボクトウ)
冷え症があり神経質で、のどに異物感があるような証に適するとされます。フワフワするめまいに対して効果が期待できる漢方薬です。計5種類の生薬で構成されています。
- 半夏(ハンゲ)
- 茯苓(ブクリョウ)
- 厚朴(コウボク)
- 蘇葉(ソヨウ)
- 生姜(ショウキョウ)
主薬である半夏はストレスの影響を抑える作用などが期待できる生薬です。
半夏厚朴湯はほかにも以下のような病気に対して使われる場合もあります。
- 自律神経失調症
- 不安障害
- 神経性胃炎
- 神経性の食道狭窄
- 不眠症
半夏白朮天麻湯(ハンゲビャクジュツテンマトウ)
下半身に冷えがあり胃腸が虚弱気味な証に適するとされます。めまいや立ちくらみ、耳鳴りに対して効果が期待できます。頭痛などにも使われる場合があります。計12種類の生薬で構成されている薬です。
- 半夏(ハンゲ)
- ストレスの影響を抑える作用などが期待できる生薬です。
- 茯苓(ブクリョウ)
- 生姜(ショウキョウ)
- 陳皮(チンピ)
- 食欲不振などを改善します。
- 人参(ニンジン)と黄耆(オウギ)
- 疲労回復・滋養強壮などに効果があります。人参と黄耆の組み合わせは参耆(ジンギ)剤とも呼ばれます。
- ほか
当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)
やや虚弱気味(痩せ気味)で疲れやすく冷えやすいなどの証に適するとされます。フワフワするめまいに効果が期待できる漢方薬です。計6種類の生薬によって構成されています。
- 当帰(トウキ)
- 当帰芍薬散の主薬である当帰は血の巡りを改善するなどの効果があります。
- 茯苓(ブクリョウ)、沢瀉(タクシャ)、蒼朮(ソウジュツ)
- 「水」に関わる生薬です。
- 芍薬(シャクヤク)、川芎(センキュウ)
- 鎮痛・鎮静作用などをあらわします。
めまいや頭痛などの他、更年期障害、月経困難症などの婦人科領域でもよく使われています。
五苓散(ゴレイサン)
「水」に関わる様々な症状に対して効果が期待できる漢方薬です。口の渇きや尿量の減少などを伴うような証に適するとされますが、あまり証にとらわれずに多岐に渡って使えます。小児から高齢者まで幅広く使用されます。回転性のめまいや耳鳴りに対しても効果が期待できます。
五苓散は構成生薬として「水」に関わる生薬を含みます。
- 猪苓(チョレイ)
- 沢瀉(タクシャ)
- 蒼朮(ソウジュツ)
作用も水に関係するものです。
- 体に水がたまっている状態を改善する作用
- 唾液分泌が減った状態の口の渇きに対する作用
- 下痢を抑える止瀉(ししゃ)作用
五苓散の用途はめまい以外にも様々です。
- 頭痛
浮腫 (むくみ )- ネフローゼ
- 下痢
- 吐き気、嘔吐
- めまい
- 暑気あたり(夏ばて)
他にも二日酔い、慢性硬膜下血腫などの改善効果も期待できるとされています。コラム「二日酔い、頭痛などに対する漢方薬の五苓散の作用」で詳しく解説しています。
めまいに効くその他の漢方薬
ほかにもめまいに使われる漢方薬はあります。
- 黄連解毒湯(オウレンゲドクトウ)
- 高血圧を伴うような症状に効果が期待できます。
- 加味逍遙散(カミショウヨウサン)、桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)
- 更年期障害を伴うような症状に効果が期待できます。
- 柴苓湯(サイレイトウ)
- 五苓散に類似した効果に加え
免疫 調整作用などをあらわします。
- 五苓散に類似した効果に加え
2. 漢方薬を飲むときの注意点
漢方薬は、体質や症状に合わせて使うことが大切です。まれな副作用や飲み合わせにも注意が必要です。
漢方薬の副作用について
一般的に漢方薬は副作用が少なく、体質や症状に合う薬を使えば有益な効果が期待できます。
ただし、副作用が全くないわけではなく、自然由来の生薬成分自体が体質や症状に合わなかったりすることもあります。例えば、お腹が緩くなりやすい体質がある人には大黄(ダイオウ)などの下剤効果がある生薬は適していないと考えられます。
また、生薬成分を適正量を超えて服用した場合などでは好ましくない症状があらわれることも考えられます。
特に甘草(カンゾウ)は漢方薬の約7割に含まれる生薬成分ですが、他の病気で既に漢方薬を服用している場合や甘草の成分のグリチルリチン酸を含む製剤(グリチロン®配合錠など)を服用している場合などでは、偽
漢方薬を買うときは専門家とよく相談して
漢方薬は医療用医薬品の他、OTC医薬品(市販薬)としても多くの製剤が販売されています。処方箋がなくても手に入る薬ですが、よく考えて使う必要はあります。自身の体質・症状などをしっかりと医師や薬剤師などの専門家に伝え、適切な漢方薬を選んで使うことが大切です。