めまい・耳鳴り
最終更新: 2018.03.19

耳鳴りの治療:漢方薬

このページでは耳鳴りに効果があるとされる漢方薬を紹介します。漢方では「証」という言葉を使って、個人ごとに違う症状や体質などに合わせた薬が選ばれます。

1. 耳鳴りに使う漢方薬とその考え方について

耳鳴りの原因はストレスや難聴など様々です。めまいの原因と共通する部分もあり、耳鳴りに効果が期待できる漢方薬の中にはめまいに使うものもあります。ただし、漢方薬の特徴として「この病気にはこの薬」という対応が一通りではありません。つまり、症状とその人の体質の組み合わせによって薬が変わるのです。

漢方医学では体の症状や体質などを「証(しょう)」という言葉であらわします。証は個人ごとに違います。病名ではなく証に合った薬を使うと考えます。詳しくはコラム「漢方薬の選択は十人十色!?」で説明しているので参考にしてください。

証を考える上で「気・血・水(き・けつ・すい)」という重要な要素があります。簡潔に言うと、気は気力(生命エネルギー)、血は血液とその機能、水はリンパ液や汗などの血液以外の体液をあらわします。

メニエール病の症状がある場合には五苓散(ゴレイサン)など、気力の低下を伴うような場合には半夏白朮天麻湯(ハンゲビャクジュツテンマトウ)などが適するとされています。

ここでは耳鳴りに効果が期待できる漢方薬について、どのような症状に適しているかをみていきます。

五苓散(ゴレイサン)

メニエール病の耳鳴りやグルグル回転するように感じるめまいなどに対して効果が期待できる漢方薬です。口の渇きや尿量の減少などを伴うような証に適するとされますが、あまり証にとらわれずに使える薬です。小児から高齢者まで幅広く使用されます。

成分として猪苓(チョレイ)、沢瀉(タクシャ)、蒼朮(ソウジュツ)など「水」に関わる生薬を含み、体に水が溜まっている状態で水の流れをよくする作用、唾液分泌が減った状態の口の渇きに対する作用、下痢を抑える止瀉(ししゃ)作用などをあらわします。五苓散は耳鳴りとめまい以外にも、頭痛、むくみ、下痢、吐き気、嘔吐といった症状を現す、ネフローゼや暑気あたり(夏ばて)などの病態に対して使われます。

他にも二日酔いや慢性硬膜下血腫(まんせいこうまくかけっしゅ)などへの効果を期待する意見もあります。コラム「二日酔い、頭痛などに対する漢方薬の五苓散(ゴレイサン)の作用」で詳しく解説しています。

半夏白朮天麻湯(ハンゲビャクジュツテンマトウ)

下半身に冷えがあり胃腸が虚弱気味な証に適するとされます。気力低下を伴うような耳鳴りやふらつきなどに対して効果が期待でき、血圧変動(主に低血圧)があるような症状に適するとされます。生薬の半夏(ハンゲ)、茯苓(ブクリョウ)、生姜(ショウキョウ)の他、健胃作用などをあらわす陳皮(チンピ)、疲労回復・滋養強壮などに効果がある参耆剤(ジンギざい、人参(ニンジン)と黄耆(オウギ))などを含めて、計12種類の生薬で構成されている薬です。耳鳴りやめまいの他、頭痛などにも使われる場合があります。

柴胡加竜骨牡蛎湯(サイコカリュウコツボレイトウ)

比較的体力があり、動悸(どうき)、不眠、不安やいらいらがあるような証に適するとされます。うつ(抑うつ)を伴う場合などで耳鳴りにも効果が期待できます。

名前にあるとおり、成分となる生薬には抗ストレス作用などがある柴胡(サイコ)、牡蠣(カキ)の貝殻が原料で不安や不眠、胃痛などに効果が期待できる牡蛎(ボレイ)などが含まれます。耳鳴りの他、不眠症、神経症、高血圧症、動悸や肩こりなどにも効果が期待できます。

加味帰脾湯(カミキヒトウ)

顔色が悪く、貧血気味であったり不安を伴うような証に適するとされます。心因性で不眠を伴うような耳鳴りに効果が期待できます。

抗ストレス作用などをあらわす柴胡(サイコ)などを含みます。ほかに含まれている人参(ニンジン)と黄耆(オウギ)は合わせて参耆剤(ジンギざい)とも言い、疲労回復・滋養強壮などに効果があります。また脳の興奮を抑える作用や抗ストレス作用をあらわす酸棗仁(サンソウニン)など比較的多くの生薬成分を含み、不眠症や貧血の治療に使われる場合もあります。

抑肝散(ヨクカンサン)

虚弱体質でイライラし怒っりぽいような証に適するとされます。不眠や神経の高ぶりを伴うような耳鳴りに効果が期待できます。

名前の「肝」とは「怒り」などをあらわし「怒りを抑える薬=抑肝散」という由来があります。抑肝散の作用として、脳の神経細胞の興奮を抑える作用などが明らかにされてきています。耳鳴りの他、不眠症、神経症、子供の夜泣きなどに対して効果が期待できます。

抑肝散に生薬の陳皮(チンピ)と半夏(ハンゲ)を加えた抑肝散加陳皮半夏(ヨクカンサンカチンピハンゲ)という薬もあり、より体力が低下して胃腸が弱いなどの証に適するとされています。

また抑肝散及び抑肝散加陳皮半夏は神経の興奮を抑える作用などから認知症に対しても使われている薬です。

釣藤散(チョウトウサン)

高血圧気味でめまいや肩こり、慢性頭痛を伴うような証に適するとされ、これらの症状を伴う耳鳴りに効果が期待できます。

血圧降下作用、脳血流の減少を抑える作用をあらわし、耳鳴りの他、頭痛(主に緊張型頭痛)、アルツハイマー型認知症脳血管性認知症などに対しても改善効果が期待できるとされています。

その他の漢方薬

その他、気力の低下を伴うような耳鳴りに効果が期待できる六君子湯(リックンシトウ)、高齢者の耳鳴りなどに使われる牛車腎気丸(ゴシャジンキガン)などの漢方薬があります。

2. 漢方薬を飲むときの注意点について

一般的に漢方薬は副作用が少なくて済むことが多く、体質や症状に合う薬を使えば有益な効果が期待できます。

ただし、副作用が全くないわけではなく、自然由来の生薬成分自体が体質や症状に合わなかったりすることもあります。例えば、お腹が緩くなりやすい体質がある人には大黄(ダイオウ)などの下剤効果がある生薬は適していないと考えられます。

また生薬成分を適正量を超えて服用した場合などでは好ましくない症状があらわれることも考えられます。特に甘草(カンゾウ)は漢方薬の約7割に含まれる生薬成分ですが、他の病気で既に漢方薬を服用している場合や甘草の成分(グリチルリチン酸)を含む製剤(グリチロン®配合錠など)を服用している場合などでは、偽アルドステロン症(偽性アルドステロン症)による高血圧や筋力低下といった副作用にも注意が必要です。

漢方薬は医療用医薬品の他、OTC医薬品(市販薬)としても多くの製剤が販売されていますが、服用する場合は自身の体質・症状などをしっかりと医師や薬剤師などの専門家に伝え、適切な漢方薬を選んで使うことが大切です。



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