正常妊娠
多くの人が妊娠に気づくのが妊娠2ヶ月(妊娠4週0日から妊娠7週6日まで)です。妊娠したかもと気づくと、今までしてきた生活や体の症状、これから何をしたらよいかなど気になることも多いとおもいます。また、妊娠前にしておくことが勧められることもあります。そのような疑問に回答します。
最終更新: 2017.10.04

妊娠中の通院では何をする?

妊娠中の通院・健診では、妊娠週数に応じた診察や検査を行います。検査の内容や時期、頻度には個人差があります。妊娠中のリスクを判定し、母児の異常を早期発見するため、妊娠中は確実に通院をする必要があります。

1. 妊娠の「初期」「中期」「後期」はいつからいつまで?

妊娠初期、妊娠中期、妊娠後期の定義はいくつかあります。一例として次の分け方があります。

  • 妊娠初期:妊娠15週6日まで
  • 妊娠中期:妊娠16週0日から27週6日まで
  • 妊娠後期:妊娠28週0日以降

多くの人では、妊娠40週前後で出産(分娩)となります。妊娠37週0日から41週6日までの出産を正期産と言います。

2. 妊娠中の妊婦健診はどのくらいの頻度で行われるの?

妊婦健診は、妊娠中のリスクが高くない人で以下の様な頻度で行われます。

  • 妊娠11週末まで:3回程度
  • 妊娠12週から妊娠23週末まで:4週間に1回
  • 妊娠24週から妊娠35週末まで:2週間に1回
  • 妊娠36週から分娩まで:1週間に1回

上記はあくまで目安であり、妊娠中のリスクや経過、胎児の状態によっては健診をこまめに行う必要性がある場合もあります。妊婦健診は、妊娠や胎児の異常の早期発見につながる大切なものです。かかりつけの病院に指定された頻度で確実に受診しましょう。

3. 妊娠初期の検査は何がある?

妊娠初期には、妊娠成立の確認や妊娠出産に及ぼすリスクの判定、胎児の異常の有無を調べます。

問診

問診では、最終月経日や既往歴(以前にどんな病気やけががあったか)、妊娠出産歴、家族歴(血のつながった家族にどんな病気があったか)、生活習慣、アレルギーの有無など妊娠出産に影響を及ぼすリスクがないかの確認を行います。

超音波検査

超音波検査の目的は、妊娠経過の異常の有無や胎児の形態異常の有無の確認です。妊娠初期の超音波検査(エコー検査)では、子宮内で妊娠が成立しているかどうかや胎児の大きさ、胎児異常、子宮や卵巣の異常などを確認します。超音波検査には、内診台の上に上がって膣の中に機械をあてる経膣超音波検査と、お腹の上から機械をあてる経腹超音波検査の2種類があります。妊娠初期に検査される項目としては主に以下のようなものがあります。

●胎嚢の確認:胎嚢(たいのう)が子宮内にあるかどうかを確認します。胎嚢というのは赤ちゃんが入っている袋状のものです。妊娠4週では確認が困難な場合があり、妊娠5〜6週までの間に胎嚢が確認されるのが正常です。妊娠に気付くのは血液や尿のhCG検査によることが多いですが、hCG検査で妊娠が確認されても超音波検査で胎嚢が見えないことがあります。子宮内に胎嚢が確認されない場合には子宮外妊娠を疑います。最初の検査で胎嚢が確認されなくても、以後に胎嚢が確認されて正常妊娠とわかる場合もあります。

●胎児心拍の確認:遅くても6週ごろまでには胎児心拍が確認できます。

●分娩予定日の決定:胎児の頭からお尻までの長さ(CRL)を測定することで分娩予定日を修正することがあります。妊娠が判明した時点では妊娠週数を最終月経などから推定しますが、CRLによる推定によって修正する場合もあります。

●胎児の数の確認と膜性の診断:胎児の数の判定も行われ、双胎(ふたご)であった場合にはその膜性(胎嚢の数と羊膜の数)も診断されれます。

●子宮や卵巣などの異常の有無:妊娠に合併した腫瘤(子宮筋腫や卵巣腫瘤)、子宮の形態異常などの診断を行います。

●胎児異常の有無の確認:胎児の頭・頸(くび)・胸・腹に異常な液体貯留やむくみがないか、四肢は4本みえるかなどを確認します。妊娠11週ごろから妊娠13週ごろに測定されるNT(胎児の首の後ろにみられる皮下のむくみ)は、その程度が大きいほど胎児染色体異常(13、18、21トリソミー)の確率が高くなるといわれています。しかし、NTが存在しても、染色体の異常のない赤ちゃんも存在するため、NTの異常だけで染色体異常を確定することはできません。そのため、染色体異常の確定には羊水検査や絨毛検査といった確定的検査が必要になります。

血液検査

妊娠初期の血液検査では、血液型や感染症血糖、血算などを調べます。

感染症検査では、B型肝炎C型肝炎梅毒風疹HIV、HTLV-1に関しての検査を行います。細菌ウイルスがお母さんから赤ちゃんに感染することを母子感染と言います。母子感染には、胎児がお腹の中で感染する胎内感染、分娩が始まって産道を通る時に感染する産道感染、母乳感染の3つがあります。そのような母子感染を予防したり、母子感染による影響に早期に対処するため感染症の検査は行われます。

血算とは、血液に含まれる赤血球白血球血小板の数などのことです。

赤血球が少ない(正確にはヘモグロビンが少ない)状態を貧血と言います。妊娠中は体が貧血になりやすい状態にあります。ふらふらする症状がなくても検査をすると赤血球が少なくなっていることがあります。

血小板は出血を止めるために必要です。妊娠中に血小板が少ない状態(HELLP症候群など)に陥ると、出血しやすい(出血傾向)などの症状を現すことがあります。

白血球は感染から体を守る細胞です。異物が体に入ったときなどに数が多くなります。

尿検査

尿検査は毎回の健診で行われます。尿中の蛋白や糖、ケトン体の量を調べます。妊娠高血圧症候群妊娠糖尿病、重症妊娠悪阻の診断につながります。

血圧、体重の検査

毎回の健診で血圧の上昇や体重の過度な増減などを確認します。妊娠高血圧症候群や重症妊娠悪阻などを見分ける目的があります。

腹囲や子宮底の測定

妊婦さんがベッドの上で横になった状態で腹囲と子宮底(恥骨の上縁から子宮の1番高い位置までの長さ)を測定します。腹囲はその変化を主にみるため臍上の一定した場所で測定をします。腹囲や子宮底は計測者によって若干の誤差がある場合があります。腹囲や子宮底は羊水の量や胎児の大きさの目安になりますが、実際には経腹超音波検査などと合わせて判断をしていきます。測定の始まる時期は施設により異なります。

腹囲や子宮底の計測した値は母子手帳に記載されます。腹囲は元々の体格によっても差があるため、妊娠週数ごとの変化をみていきます。子宮底に関しては妊娠20週以降の基準値は(妊娠月数✕3+3)が簡易的な計算方法といわれています。子宮底は基準値よりも3cm以上短い場合には、胎児発育不全が疑われる場合がありますが、経腹超音波などをみて総合的に判断されます。また、子宮底は出産の時期が近づくと赤ちゃんが出産の準備のため骨盤内に下がるため短くなります。

子宮頸がん検査

子宮頸がん(しきゅうけいがん)がないかを調べる検査として、子宮頸部細胞診という検査があります。妊娠中の検査では過去1年間に子宮頸部細胞診を受けていなかった場合に実施します。ブラシやヘラなどで子宮頚部を軽くこすり、細胞を採取して検査を行います。

子宮頸がん検査がある理由は、子宮頸がんが20代前後の女性にも無視できない確率で発生するためです。妊娠中に子宮頸がんが発見された場合は治療による妊娠への影響を考える必要があります。

細菌性膣症の検査

細菌性腟症は、膣内の正常な菌のバランスが崩れてしまった状態をさします。20%弱の妊婦が細菌性膣症であると言われますが、そのうちの1/3は妊娠中に自然治癒すると言われます。おりものの臭いなどで自覚症状がある場合もありますが、無症状であることも多いです。細菌性腟症は流産早産のリスクが上昇するとされていますが、全ての妊婦に検査をし治療することが早産予防に役立つかどうかは現時点でははっきりわかっていないため、妊婦健診の際に細菌性膣症の検査は必須ではありません。しかし、早産のリスクが高い妊婦に関しては、細菌性腟症の検査が考慮されるべきであるとはされています。施設によって検査の実施の基準は異なりますが、細菌性腟症と診断され、自覚症状がある場合には、膣錠による治療が勧められています。

クラミジアの検査とは?

クラミジア・トラコマティスという細菌が原因で起こる病気をクラミジア性感染症といいます。クラミジアは、産道を介して新生児に細菌が移行する可能性があります。そのため、産道を介した母子感染予防を行うことを目的に、妊娠全例を対象に子宮頸管のクラミジア検査を妊娠30週までに行うことが推奨されています。

クラミジアは自覚症状はほとんどないため長期化しやすく、国内の性感染症の中で最も患者の多い感染症です。妊婦がクラミジアに感染し無治療のまま出産した場合、新生児がクラミジア肺炎クラミジア結膜炎といった病気を引き起こす可能性があります。新生児のクラミジア肺炎は、通常の肺炎とは異なり発熱がないことが特徴で、発見が遅れやすく重篤化する可能性があります。そのため、産道を介した母子感染予防を行うことを目的に、妊娠全例を対象に子宮頸管のクラミジア検査を妊娠30週までに行うことが推奨されています。

検査は、細い綿棒のようなもので子宮頸部をこすり培養検査を行います。陽性が判定されると治療には、妊娠中にも投与可能なアジスロマイシンやクラリスロマイシンが用いられます。治療後は3〜4週間後に再検査を行い、陰性となっていることを確認します。経膣分娩の際に産道で感染する可能性があるため、出産までの間に治療を行う必要があります。また、妊婦がクラミジア陽性であった場合には、クラミジアは性交渉で感染することがほとんどであり、治癒後の再感染の可能性もあるため、パートナーにも検査・治療を受けることが勧められます。

4. 妊娠中期の検査は何がある?

超音波検査

妊娠中期から後期での超音波検査では、子宮頸管長の測定や胎児の発育状態、胎児の構造の異常の有無、胎児の胎位、胎盤や羊水量の異常の確認を主に行います。胎児の構造は頭部、胸部、腹部、背部、四肢に分けて異常がないかどうかを確認します。

子宮頸管長とは?

正常な子宮頸管長は妊娠初期から中期で約40mm、妊娠32週以降では25mmから30mmに短縮します。子宮頸管長が過度に短縮すると、切迫流産切迫早産と診断されます。

子宮頸管長の測定の時期や頻度の有用性については、結論づけられていませんが、妊娠18週から24週ごろの検査が勧められています。また、妊娠中の出血や子宮収縮の自覚が強い場合にも、子宮頸管長が短縮している可能性があるため検査が勧められます。

5. 妊娠後期の検査は何がある?

GBS(B群レンサ球菌)とは?

GBSは妊娠33週から36週ごろに全妊婦を対象に検査することが推奨されており、10%〜30%の妊婦が陽性と診断されます。

GBSは常在菌の1つとして考えられています。陽性であっても、母体に対しては悪影響を及ぼすことはありません。また、妊娠中の胎児は卵膜で産道と環境が区別されているため母体から胎児へGBSが移行することもありません。

しかし破水後や経膣分娩時には、産道を介して母体から胎児へGBSが移行する可能性があります。GBSに感染すると新生児が髄膜炎敗血症など危険な状態に至る可能性が稀にあります。

胎児にGBSが移行しても必ず発症に至るとは限りません。発症の確率は約1%程度とかなり低いですが、危険に備える必要はあります。

妊娠中の検査方法としては、膣の入り口もしくは肛門内を細い綿棒のようなものでぬぐい、綿棒についたものを培養することで判定できます。

通常妊娠中にGBSが移行する可能性はないため、妊娠中の治療の必要性はありません。破水後や経膣分娩時に感染の予防のためにペニシリン系抗菌薬の投与を行います。また前回の妊娠時にGBS陽性の場合には、次の妊娠時もGBS陽性として扱います。

羊水の量で何がわかる?

羊水の量は妊娠30週から35週で最大量約800mlに達します。妊娠末期になると羊水量はやや減少します。羊水の量の検査は、経腹超音波検査が一般的です。超音波検査で写った画像をもとに羊水の量を推計します。

推計方法には2種類あります。

  • 羊水中の空間で円を描き最大径を計測する方法(AP)
  • 母体腹部を4分割しそれぞれの羊水深度を足して算出する方法(AFI)

それぞれの正常値は、APが2-8cm、AFIが5-25cmとされています。

羊水は赤ちゃんの胎内環境を整える機能を備えています。役割は主に4点です。

  1. 母体の腹部への衝撃から守るクッションの役割
  2. 抗菌作用を持ち、胎児を感染から守る役割
  3. 子宮内の空間を広くすることで胎児の運動を可能にし筋肉や骨格の発達を促す役割
  4. 胎児が羊水を飲んだりはいたりすることを繰り返すことで、羊水に含まれるサーファクタントという物質が肺の成熟を促す役割

また、羊水過多羊水過少があったときは原因を調べることも大切です。羊水は胎児の尿と肺からの分泌物により産生されます。胎児の飲み込み(嚥下)と胎盤や卵膜を介した移行によって吸収されることで羊水の量が維持されています。そのバランスが何らかの影響で崩れると、羊水過多や羊水過少が発生するようになります。そのため、羊水の量は何らかの母体疾患や胎児異常を示す指標の1つとなります。

NST(ノンストレステスト)とは?

妊娠中に胎児の心拍数と子宮の収縮を感知するセンサーを母体の腹部に装着し連続的に記録することで胎児の健康状態を評価する検査のことをNST(ノンストレステスト)といいます。1回の検査は大体20分から40分続けます。

胎児の心拍数のパターンや子宮収縮の関係によって胎児の健康状態を評価する1つの指標にすることができます。

NST検査で胎児心拍数に異常があると判断された場合には、経腹超音波検査と組み合わせた検査(BPS検査)で胎児の状態や胎盤の機能状態を総合的に判定します。

胎児発育不全が疑われる場合や妊娠41週以降の場合には週2回のNSTが推奨されています。

内診とは?

内診というのは「内診台に乗る診察」と同じ意味ではなく、正確には膣に指を入れて子宮口などの様子を触って調べる診察のことを指します。

妊婦健診では内診の時期や頻度に決まりはありません。施設によっても違います。妊婦健診での内診の目的は、妊娠週数にもよりますが、子宮口の状態や柔らかさ、卵巣の腫れの有無や子宮筋腫の有無などを確認することです。

子宮口の状態や柔らかさは切迫早産などの診断に役立ちます。

妊娠後期に入ると、子宮収縮が増えることで、子宮頸管が柔らかくなり、子宮口の開大が徐々に進行し分娩に向けての準備が進められます。この変化を子宮頸管の熟化と言います。

妊娠37週以降の正期産に入ってからの内診は、子宮頸管の熟化度や児頭の下降度の評価によって分娩の時期を予測するための指標にもなります。妊婦健診の内診後には少量の出血を伴うこともありますが、おりものに交じる程度で持続的でなければ様子をみて問題はありません。

ビショップスコアとは?

ビショップスコアは子宮頸管の熟化を採点する方法です。

内診で触って確かめられたことを13点満点で採点します。9点以上で頸管が成熟しているとされます。採点方法は次のとおりです。

  • 子宮口の開大度(cm):内診した指の開き具合によって判定する
    • 0点:0cm
    • 1点:1-2cm
    • 2点:3-4cm
    • 3点:5-6cm
  • 展退度:子宮頚部の薄さを判定する(0%で40mmが目安)
    • 0点:0%-30%
    • 1点:40%-50%
    • 2点:60%-70%
    • 3点:80%以上
  • 児頭の位置(station):坐骨棘を±0とし児頭との関係性を示す。
    • 0点:−3cm以上(児頭が骨盤入口面に侵入していない状態)
    • 1点:−2cm(児頭が骨盤入口に侵入してきている状態)
    • 2点:−1cmから0cm(児頭の一番大きい部位が骨盤を通過してきている状態)
    • 3点:+1cm(児頭が骨盤内に固定されている状態)
  • 子宮頚部の硬さ
    • 0点:硬(鼻翼くらいの硬さ)
    • 1点:中(耳たぶくらいの硬さ)
    • 2点:軟(マシュマロくらいの硬さ)
  • 子宮口の位置
    • 0点:後方 
    • 1点:中央
    • 2点:前方