正常妊娠
多くの人が妊娠に気づくのが妊娠2ヶ月(妊娠4週0日から妊娠7週6日まで)です。妊娠したかもと気づくと、今までしてきた生活や体の症状、これから何をしたらよいかなど気になることも多いとおもいます。また、妊娠前にしておくことが勧められることもあります。そのような疑問に回答します。
最終更新: 2017.10.04

妊娠中に薬を飲んでも大丈夫?

妊娠が発覚したあとは自己判断で薬を内服することはせず、かかりつけの医師と相談して薬を飲むようにすることが原則です。薬やワクチンの中でも特に注意が必要なものはわかっています。

1. 薬は赤ちゃんに影響がある?

妊娠に気づかずうっかり薬を飲んでしまったり、これまで飲んでいた薬が赤ちゃんに影響していないか心配になる人は多いと思います。

実際に胎児の形態異常を起こす可能性が報告されている薬はそれほど多くありません。風邪薬などの市販薬を短期間飲んだことが胎児に影響を及ぼすことはほとんどないと言われています。そのため、妊娠に気づかずうっかり飲んでしまった薬に関してはほとんどの場合は問題ないでしょう。胎児への影響が報告されている薬に関しても、その多くは胎児に及ぼすリスクは数%と言われており、薬を飲んでしまったからといって必ず胎児に影響があるわけではありません。

また、薬を飲んでいなかったとしても自然に流産する可能性は15%、先天形態異常の自然発生率は3%前後あります。胎児の異常が必ずしも薬の影響とは言い切れません。

とはいえ、できる範囲で気を付けるに越したことはありません。自己判断で薬を飲むことや、元々医師から処方されていた薬を自己判断で止めてしまうことが危険な場合もありますので、かかりつけの医師と相談しながら薬の調整を行うことは重要です。

胎児に影響のある薬はどんなものがある?

人で明らかな影響が報告されている代表的な医薬品を以下に記載します。しかし、この医薬品を飲んでいるからと言って必ずしも胎児に影響が出るわけではありません。

特に、てんかんなど元々病気を抱えており、継続的に薬の内服をしているような方は、内服を中断することで体調が悪化してしまうことがあります。母の体調が悪化してしまうことで、逆に胎児や妊娠経過に悪い影響を及ぼしてしまう場合があります。そのため、医師から処方された薬を継続的に飲んでいる場合は自己判断はせず、妊娠の可能性を医師に伝えて薬の相談をする必要があります。また、妊娠を希望している人で継続的に薬を飲んでいる場合には、医師と相談し、薬の調整を行うようにしましょう。

実際にてんかんなどの薬物治療を続けながら妊娠して無事に出産する人はいます。薬によっては葉酸不足の危険性を増すため妊娠中には一緒に葉酸製剤を飲むなどの対処を加える場合もあります。

【胎児に形態異常を起こす可能性を示す証拠が報告されている薬の例】

リスク 薬の一般名・種類(商品名の例)

高リスク

(25%以上)

サリドマイド系薬剤

男性ホルモン

蛋白同化ステロイド(プリモボラン®)

中等度リスク

(10%から25%)

ワルファリンカリウム(ワーファリン他)

高用量のビタミンA誘導体(チョコラ®A他)

D-ペニシラミン(メタルカプターゼ®)

エトレチナート(チガソン®)

低リスク

(10%未満)

バルプロ酸ナトリウム(デパケン®、セレニカ®R他)

カルバマゼピン(テグレトール®他)

フェニトイン(アレビアチン®、ヒダントール®他)

フェノバルビタール(フェノバール®他)

メトトレキサート(リウマトレックス®他)

ミソプロストール(サイトテック®)

チアマゾール(メルカゾール®)

炭酸リチウム(リーマス®他)

トリメタジオン(ミノアレ®)

シクロホスファミド(エンドキサン®)

【胎児毒性のリスクがある薬の例】

薬の一般名・種類 胎児への影響

アミノグリコシド系抗結核

(硫酸カナマイシン注射液、硫酸ストレプトマイシン注射用)

非可逆的第VIII脳神経障害、先天性聴力障害

アンジオテンシン変換酵素阻害薬

(カプトプリル、エナラプリル他)

アンジオテンシン受容体拮抗薬

(カンデサルタン、バルサルタン他)

胎児腎障害、無尿、羊水過少、肺低形成、四肢拘縮、頭蓋変形

テトラサイクリン系抗菌薬

(ミノサイクリン他)

歯牙の着色、エナメル質形成不全
ミソプロストール 子宮収縮、流産早産

非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs

(インドメタシン、ジクロフェナクナトリウム他)

胎児動脈管収縮、肺高血圧症、羊水過少
チアマゾール 甲状腺機能低下、甲状腺腫
大量のヨード 甲状腺機能低下、甲状腺腫
精神神経系薬一般 出生児の呼吸障害、出生後の離脱症状

参照:産婦人科診療ガイドライン

2. 胎児に影響のある時期はいつ?

妊娠の時期の中で、薬を飲むことで胎児に影響が起こりやすい時期というものがあります。特に胎児の重要な臓器が完成する時期である器官形成期には注意が必要です。

妊娠開始から妊娠3週まで

妊娠3週までの時期に薬が妊娠に影響した場合、妊娠の継続は困難となり受精卵は着床しないか流産の結果となることが多いとされています。流産とならなかった場合には形態異常として影響が残ることはないと考えられています。

妊娠4週から妊娠7週まで

妊娠4週から7週は絶対過敏期とされており、胎児の重要な臓器が作られる時期であるため他の週数に比べると胎児形態異常への影響が出やすいとされます。ただし、明確に催奇形性があるとされている薬は限られています。影響があるとされる薬でも多くは形態異常が現れる確率は10%未満とされます。つまり影響がある薬を使っても90%以上で胎児形態異常は起こらないということです。

妊娠8週から妊娠12週まで

妊娠8週から12週は相対過敏期と言われ、7週までに比べると影響は低い時期です。しかし、胎児の外性器の形成や口蓋の閉鎖などが起こる時期であり形態の異常が起こる可能性が有ります。

妊娠13週から分娩まで

妊娠13週以降には薬剤が胎児の形態異常を起こすことはないとされていますが、胎児の発育や機能に影響を及ぼす可能性(胎児毒性)がある薬があります。薬の成分は母の血液から胎盤を通過して胎児に移行しますが、出生後に薬の成分が移行しなくなったことによってけいれんや呼吸障害などの離脱症状が起こるものもあり、出生後の新生児の観察が必要になります。

3. 妊娠中に予防接種は受けられる?

予防接種の種類は、生ワクチンと不活化ワクチンなどに分けられます。

妊娠中の生ワクチンの接種は基本的には禁忌となっています。

成人女性が打つ可能性があるけれども、妊娠中は避けるべきと言える生ワクチンには以下のものがあります。

生ワクチンはウイルス細菌の病原性の毒性を弱めたものを製剤としており、投与することで病気の症状はでませんが、体内で免疫が作られるという仕組みをもっています。生ワクチンの成分は理論上は胎盤を介して胎児へ移行する可能性があります。

そのため、妊娠を希望している女性で風疹麻疹水痘流行性耳下腺炎などの予防接種をまだ打っていない場合には妊娠前に接種を済ませることをおすすめします。特に風疹は妊娠中の女性がかかると数%の確率で子供に先天性風疹症候群が引き起こされるといわれています。ワクチン接種後は、免疫が獲得されるまで時間を要するため予防接種後2ヶ月は避妊をすることが勧められます。妊娠前に計画的に予防接種を行いましょう。

妊娠中にも以下の不活化ワクチンなどは打つことができます。

可能性があるものを挙げましたが、実際にはHibワクチンやBCGを妊娠中に使う必要に迫られることはあまりないでしょう。

不活化ワクチンやトキソイドは、免疫を作るのに必要な成分のみから製剤が作られています。不活化ワクチンやトキソイドを接種してもその病気になる可能性はなく、理論上も胎児へ移行する可能性は極めて低いと考えられます。そのため不活化ワクチンとトキソイドは、妊娠中にも有益性が危険性を上回ると判断された場合に使用が可能となります。つまり、医師との相談や妊婦さんの状況によってはワクチン接種が検討されるということです。インフルエンザワクチンがその例です。

妊娠中にインフルエンザワクチンは接種できる?

インフルエンザワクチンは不活化ワクチンです。妊娠中にインフルエンザワクチンを打っても胎児に移行する可能性は理論上ありません。

妊娠中は、生理的な心肺機能や免疫機能の変化によって、インフルエンザにかかると重症化しやすいといわれています。そのため、ワクチンを接種しインフルエンザを予防することの有益性が高いと判断されており、妊娠中にインフルエンザのワクチン接種をすることは可能です。また、妊娠初期にインフルエンザワクチンを接種しても、胎児の異常の確率が高くなったという報告もなく、妊娠全期間を通してインフルエンザワクチンの接種は可能といえます。インフルエンザワクチン接種後は効果出現までに約2-3週間要し、その後約3か月から4か月の免疫機能をもちます。そのため、ワクチン接種時期としては流行シーズンが始まる前の10月から11月が理想とされています。

妊娠中にインフルエンザにかかった場合には、抗インフルエンザウイルス薬であるザナミビル(商品名リレンザ®)やオセルタミビル(商品名タミフル®)を使用することができ、重症化の予防にもつながります。

参照:産婦人科診療ガイドライン

4. 妊娠中のサプリメントの効果は?

妊娠中に推奨されるサプリメントの目的は、基本的に食事からの摂取で足りていない栄養素を補うことです。サプリメントはあくまで食事の補助です。医薬品とは違い、サプリメントは品質や規格などが一定でない場合もあります。安易なサプリメントの使用は避け、必要な栄養素はできるだけ食事から摂取することをおすすめします。またそれぞれの栄養素には勧められる摂取量の上限が決められており、逆に摂取しすぎることで胎児への影響が懸念されるものもあります。そのため、サプリメントは用法用量に注意して妊娠中の使用は医師に相談することをおすすめします。

効果が期待できるサプリメントには以下のようなものがあります。

葉酸

葉酸はビタミンB群に属する水溶性のビタミンで、体が血液を作る働きに関わっています。妊娠前には1日あたり240μg、妊娠中は時期にかぎらず非妊時よりも+200μgの摂取が勧められています。つまり妊娠中の必要量は2倍近くになります。μgはマイクログラムと読みます。1,000μg=1mgです。

また葉酸は胎児の神経管閉鎖障害のリスクを低減することが知られており、妊娠1ヶ月以上前から妊娠3ヶ月までの間に1日あたり0.4mg(400μg)の摂取が推奨されています。神経管の閉鎖は妊娠6週末で完成するため、妊娠が発覚する前から葉酸の摂取を開始することが勧められます。つまり妊娠したい・するかもしれないと思った時から葉酸は飲み始めるのがお勧めです。神経管閉鎖障害の予防のためには、妊娠12週までの摂取をお勧めしますが、妊娠12週以降に内服しても特に問題はありません。しかし、葉酸の過剰摂取はビタミンB12欠乏(悪性貧血など)の発見が遅れてしまうことがあるといわれています。そのため、1mgを超える摂取は控えるべきだとされています。

葉酸は、緑黄色野菜、納豆、あずき、果物などに多く含まれていますが、熱に弱く水溶性のビタミンであるため調理によって失われやすい栄養素でもあります。そのため、食事に加えて、サプリメントでの摂取も勧められています。

鉄分

妊娠中期以降は鉄欠乏性貧血が起こりやすいため、食事の中で鉄分の摂取を多くすることが勧められます。1日あたり21mgから21.5mgの摂取がすすめられ1日の上限は40mgです。

妊娠中は妊娠前に比べて約2倍の鉄分を必要とします。そのため食事だけで推奨量を満たすのは難しい場合もあるため、用量に注意したサプリメントの使用は勧めることができます。既に妊婦健診で貧血といわれている場合には、病院で鉄剤が処方される可能性もあります。鉄剤が処方されている場合には、サプリメントとの併用は必要ありません。