妊娠に影響するリスクって?
妊娠をすると、自分の年齢やタバコやお酒などの習慣など大丈夫かな?と不安に思うことが多く出てくると思います。ここでは、妊娠経過に影響を及ぼすリスクについて解説していきます。
目次
1. 高齢妊娠とは?
高齢妊娠とは決定された定義はありませんが、一般的には出産回数にかかわらず35歳以上の妊娠を高齢妊娠と呼ぶことが多いです。日本産婦人科学会では、35歳以上の初産婦を高齢初産婦と定義しています。
高齢妊娠は最近増えてきています。出生時の母親の年齢の統計を見ると、2000年では11.9%ですが、2016年では28.5%が35歳以上であり、全出生の1/4以上を占めるようになってきています。この数字は正確には高齢妊娠の定義と一致しませんが、全体に歳を取ってから出産する人が増えてきていると言えます。
母体の年齢が35歳以上の場合、35歳未満の妊婦に比べて、流産、妊娠高血圧症候群、前置胎盤、妊娠糖尿病、
それぞれについて以下に解説します。
参考文献
・古川誠志, 高齢妊娠に伴う諸問題, 杏林医会誌47巻1号77-79, 2016年3月.
・厚生労働省:平成28年(2016)人口動態統計
年齢と流産の関係は?
米国における36,056例の妊婦を対象とした研究では、35歳未満の妊婦と比較して35歳以上では流産率が上昇するといわれています。これは、加齢に伴って
また、初期流産の原因はほとんどが染色体異常です。なんらかの染色体異常の頻度は20歳の妊婦で 1/526で、40歳では 1/66と約8倍の違いがあるとした報告があります。
そのため高齢になると流産の割合が高くなると言われています。
参考文献
・Obstet Gynecol. 2005 May;105(5 Pt 1):983-90.
・Obstet Gynecol. 1997 Feb;89(2):248-51.
年齢と染色体異常の関係は?
年齢があがるにつれて卵子や精子に染色体異常がある可能性は高くなります。染色体異常の中でも代表的なダウン症(21
参考文献
・Prenat Diagn. 2003 Mar;23(3):252-8.
年齢と妊娠高血圧症候群の関係は?
妊娠20週から分娩後12週までの間に高血圧を
妊娠高血圧症候群の原因ははっきりとはしていません。そのため、高齢妊娠の場合になぜ起こりやすいのかという原因も特定できません。
高齢妊娠の場合には妊婦健診時に妊娠高血圧症候群の兆候がないか注意しながら診察をしていくことが重要です。
参考文献
・Ultrasound Obstet Gynecol. 2013 Dec;42(6):634-43.
年齢と妊娠糖尿病の関係は?
妊娠中に行った
妊娠糖尿病は、正常な妊娠に比べて流産や妊娠高血圧症候群、
妊娠糖尿病と診断された場合には、血糖値をコントロールするために、食事の管理や血糖値の自己測定、
高齢だと帝王切開になる確率が高い?
年齢は分娩にも影響を及ぼします。妊婦が初めての出産(初産婦)であった場合についての調査で、妊娠中に特に問題のない妊婦が帝王切開となった割合は、25歳から29歳までの妊婦に対して35歳から39歳で1.8倍、40歳代で3.2倍に上昇したと報告されています。
年齢が高くなると軟産道強靭(なんさんどうきょうじん)といって、胎児の通り道である産道の組織が加齢にともなって
そのため、分娩の進行が止まってしまったり、胎児の回旋(赤ちゃんが産道を進みながら向きを変えること)が正常とは異なってしまったり、陣痛のストレスが過度に加わってしまうことで胎児の元気さが損なわれてしまったりすることがあります。その結果、帝王切開となる可能性が高くなります。
ただし、1回以上経膣分娩を経験している場合(経産婦)は、子宮口が開大しやすいため、年齢によって帝王切開の確率は上昇しないとされます。
参考文献
・笠井靖代, 他., 年齢因子は分娩に影響するか, 日本周産期・新生児医学会雑誌第48巻第3号585-594頁, 2012
2. 肥満は妊娠に影響する?
妊娠前の体格を表す数値として
肥満女性が妊娠した場合、妊娠中のリスクとしては妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病、帝王切開、死産、巨大児の可能性が高くなるといわれています。また、海外の研究報告によると、BMIが29より大きい肥満体型の妊婦は、BMI29以下の妊婦に比較して胎児の神経管閉鎖障害のリスクが高い傾向にあり、リスク比の近似値であるオッズ比は1.9倍とされています。神経管閉鎖障害はまれな異常であり、肥満があったとしてもまれと言えます。とはいえ妊娠高血圧症候群などを防ぐ意味で妊娠前のBMIを適度に保っておくことが、神経管閉鎖障害に対しても妥当と言えるでしょう。
参考文献
・JAMA. 1996 Apr 10;275(14):1093-6.
3. お酒とタバコは控えるべき?
妊娠中の嗜好品の摂取について解説します。
妊娠中の飲酒の影響は?
妊娠中の飲酒は胎児の身体的問題、行動・学習障害などの影響を及ぼす可能性があるとされています。どのくらいのお酒の量で胎児に影響がでるのかということは現在までの研究では明らかになっていません。
アルコール摂取が要因と思われる胎児の障害を総称して胎児性アルコール・
妊娠初期の胎児の臓器や体などの器官が形成される時期では、特徴的な顔貌や心臓などの形態異常が生じ、妊娠中期以降では、胎児の発育が低下したり
胎児性アルコール・スペクトラム障害(FASDs)では以下が現れる可能性があります。
- 妊娠中の発育障害:胎児発育不全など
- 顔貌や頭蓋の形態異常:小頭症、顎が小さい、薄い上唇、目の幅が短いなど
- 中枢神経系の障害:精神発達の遅れ、知的障害、行動・学習障害
- その他の形態異常:心臓、腎臓、骨、聴覚などの障害
妊娠初期に気づかずに飲酒をしてしまったら?
アルコールは、どのくらいの量であれば安全という量がはっきりとしていません。そのため、妊娠初期に気づかずに飲酒をしてしまっていた場合、必ず大丈夫ということはできませんが、胎児性アルコール・スペクトラム障害は1日に純アルコール60g以上の摂取で高頻度の発症が報告されています。純アルコール60gは、ビールの中瓶3本、清酒では約2.5合(450ml)、ワインではグラス約5杯(600ml)に相当するためかなり多くの量を1日に飲んだ場合を指します。しかし、上記にもしたようにアルコールの吸収や代謝能力は個人差があるため、安全性の線引きは難しく、妊娠を計画している人は禁酒をすることが勧められます。
参考文献
・ 黒滝直弘, 中根允文, 先天異常-16 胎児性アルコール症候群, 小児内科,35 : 224-226, 2003.
妊娠中の喫煙の影響は?
妊娠中だけでなく、妊娠を計画する時期から禁煙することを強くお勧めします。
タバコの煙には、一酸化炭素、ニコチン、タールをはじめ200種類以上の人の体に有害な化学物質が含まれています。妊娠中の喫煙は、子宮外妊娠、前期破水、常位胎盤早期剥離、前置胎盤、流産、死産、
そのため妊娠中には禁煙をするべきです。
たばこの有害物質であるニコチンは、血管を収縮させ胎児の栄養源である胎盤の血流を妨げる可能性があります。また同じく有害物質である一酸化炭素は、血液の酸素運搬能を低下させるため胎児が低酸素となりやすくなる可能性があります。これらの影響で、喫煙をすることで胎児の体重増加が妨げられるため、非喫煙者に比べると喫煙者の妊婦は2500g未満の
同様の影響で自然流産や早産、周産期死亡率(妊娠22週以降から出生後1週間までの子どもの死亡率)のリスクが高くなると言われています。
また、喫煙はその理由は解明されていませんが、子宮外妊娠のリスクを高めるといわれています。
胎児先天異常に関しては、タバコの有害物質が胎児の低酸素、栄養
また、妊娠中の喫煙によって、乳幼児突然死症候群を引き起こしやすくなる、生まれてきた子どもが攻撃的な行動をすることが多くなる、注意力が散漫で落ち着きがなくなる(注意欠陥・多動性障害;ADHD)などの特徴をもつことが多くなるとも言われています。
妊娠中だけではなく、出産後の喫煙は子どもの肺機能が低下するなど子どもへの影響や母乳分泌が減少することも指摘されており、禁煙をすることが強く勧められます。
妊娠前から禁煙しているほうがいいと思われますが、妊娠初期から禁煙をすることで早産や低出生体重児の確率は低下するといわれており、妊娠が発覚した時点から禁煙をすることにも効果があると考えられます。
参考文献
・循環器病の診断と治療に関する
妊娠中の禁煙方法は何がある?
妊娠中の喫煙は妊娠の経過や胎児に影響を及ぼす可能性があり、禁煙が強く推奨されます。妊娠前から禁煙をするのが理想的ではありますが、妊娠発覚後から喫煙をすることによっても妊娠経過や胎児への影響を減らすことができます。
禁煙の方法としては、一般的に禁煙の際に使用されることが多い、ニコチンパッチやニコチンガムなどのニコチン代替療法と言われる禁煙方法は、日本では妊娠中及び授乳中は禁忌とされています。そのため、医療者によるカウンセリングによって禁煙の指導が行われます。代替行動と言って、たばこが吸いたくなった時には、温かい飲み物を飲む、刺激のある食べ物(生姜や梅など)を食べる、シュガーレスのガムを噛む、歯磨きをするなどの喫煙以外の行動を取ることも勧められます。病院によっては禁煙外来を設置していることもあり、長い間喫煙している方などは通院することが勧められます。
また、禁煙の方法としてバレニクリン(商品名チャンピックス®)と言う飲み薬を用いる方法もありますが、妊婦での使用は安全性のデータが乏しく、基本的には使用しません。どうしても喫煙を繰り返してしまう人には使用が考慮される場合があります。
受動喫煙は危険?
タバコの煙には、喫煙者が吸い込む主流煙とタバコの先から立ち上る煙である副流煙がありますが、タバコの有害物質のほとんどが主流煙よりも副流煙に高い濃度で存在します。
自ら喫煙する妊婦に比べて、受動喫煙によって胎児に流入する有害物質の量は数分の1と言われています。しかし、受動喫煙していない妊婦に比べると受動喫煙によって影響が出る可能性はあります。
受動喫煙によって妊婦の体内に流入したこれら化学物質は、胎盤を通過して胎児にも移行します。そのため、妊婦自身が喫煙する影響に比べると少ないですが、妊娠中の受動喫煙は、出生体重の減少や低出生体重児(出産時の体重が2500g以下の新生児)のリスクが高くなるという報告がされています。
参考文献
・Office on Smoking and Health (US),2006
家族の病気は妊娠に影響する?
血のつながりのある両親や兄弟など家族が経験した病気のことを家族歴と言います。妊娠初期の妊婦健診では必ず、家族歴の聴取を行います。具体的には両親や兄弟の中に、糖尿病や高血圧、
また、家族内に遺伝性の病気がある場合には、胎児にも原因遺伝子が受け継がれている可能性があります。胎児に遺伝性の病気が現れる可能性が予想された場合には、妊婦健診の中でより慎重に経過をみていく必要があります。
家族の病気が必ず妊娠に影響する訳ではありませんが、妊娠経過を安全に見守る上で知るべき背景であると言えます。そのため家族に病気がある場合には、かかりつけの医師に伝えたうえ、必要なら妊婦健診の内容にも反映させることで、リスクに備えることができます。
4. 妊娠中にカフェイン含有飲料を飲んでも大丈夫?
カフェインが含まれる飲み物や食品には、お茶、コーヒー、紅茶、チョコレート、栄養ドリンク、コーラなどがあります。妊娠に対するカフェインの影響が言われることがありますが、少しなら習慣的にカフェインを飲んでいても心配ありません。
妊娠中のカフェインの影響とは?
妊娠中は母体のカフェインの代謝時間が延長するため、妊娠前よりもカフェインの影響を受けやすく、カフェインの代謝産物が胎盤を通過することで妊娠に影響する可能性があると言われています。妊娠経過や胎児への影響には、流産や
どれくらいの量なら安全なのか?
日本では妊娠中のカフェイン摂取量の基準はありませんが、諸外国の機関で示されている最大摂取量には以下のようなものがあります。
- 世界保健機構(WHO):コーヒーであれば3から4杯まで
- オーストラリア保健・食品安全局(AGES):1日あたり300mgまで
- カナダ保健省(CHC):1日あたり300mgまで
- 英国食品基準庁(FSA):1日あたり200mgまで
カフェインを多く含む主な食材のカフェイン含有量の目安を表にまとめます。
食品名 | カフェイン含有量 | 浸出方法 |
コーヒー | 60mg/100ml | コーヒー粉末10g/湯150ml |
インスタントコーヒー | 57mg/100ml | インスタントコーヒー2g/湯140ml |
紅茶 | 30mg/100ml | 茶5g/熱湯360ml、1.5から4分 |
煎茶 | 20mg/100ml | 茶10g/90℃430ml、1分 |
コーラ | 36から46mg/1缶(355ml) | - |
チョコレート | 平均61mg/100g | - |
ココア | 平均9.3mg/100g | ココア4g/熱湯100ml |
カフェインは上記以外にも様々な食材に含まれており、またその量は食品の種類によって異なるため日常的にカフェイン量を把握するのは困難です。
しかし、気分転換にコーヒーをカップ1杯飲んだり、紅茶や煎茶をカップ1杯(200ml程度)毎食後に飲むなどはしても問題ないでしょう。あらゆる食品のカフェイン含有量を正確に把握して毎日計算するのは現実的ではありません。大まかな目安を把握して、カフェインが多い飲み物などを摂りすぎないようにしておけば十分と思われます。
参考文献
・食品安全委員会ファクトシート《作成日:平成23年3月31日》
5. 妊娠中のレントゲン検査(X線検査)は大丈夫?
妊娠が発覚する前に健康診断などで
放射線の影響は、被曝時期と放射線被曝線量によって異なります。
- 受精後10日程度(妊娠3週程度)まで
- 大量に被曝した場合は、受精卵が死亡してしまい流産に至るため、先天異常発生率の上昇はない
- 妊娠4週ごろから妊娠10週ごろ
- 器官形成期といわれ、胎児の先天異常に影響を及ぼしやすい時期ではある。しかし、胎児の先天異常発生率の上昇が報告されているのは50から100mGy以上であり、50mGy以下の被曝量であれば胎児先天異常のリスクは無視できるとされる
- 妊娠10週から妊娠27週
- 胎児の中枢神経系は細胞分裂が盛んであり、放射線被曝の影響を受けやすく、
精神発達遅滞 の頻度を増加させる可能性があるといわれている。しかし、100mGy未満では影響はしない
- 胎児の中枢神経系は細胞分裂が盛んであり、放射線被曝の影響を受けやすく、
つまり妊娠期間を通して、50mGy以下の被曝線量であれば胎児への影響は小さいといえます。通常のレントゲン検査では、50mGy以上の被曝線量であることはほとんどありません。そのため誤って
6. 妊娠中に薬を飲んでも大丈夫?
妊娠が発覚したあとは自己判断で薬を内服することはせず、かかりつけの医師と相談して薬を飲むようにすることが原則です。
妊娠に気づかずうっかりと薬を飲んでしまったり、これまで飲んでいた薬が赤ちゃんに影響していないか心配になる人は多いと思います。
風邪薬などの市販薬を短期間飲んだことが胎児に影響を及ぼすことはほとんどないと言われています。そのため、妊娠に気づかずうっかり飲んでしまった薬に関してはほとんどの場合は問題ないでしょう。
医師は妊娠中のリスクと薬の効果を考えて、リスクが許容範囲であり、治療のため必要と考えた場合に薬を処方します。もし薬の影響が心配なら、処方した医師に相談してください。
自己判断で市販薬を飲んだり、処方された用法・用量などを変えて飲んだりすることは危険につながる場合も考えられます。主治医に妊娠していることを伝えて、使う薬については相談したうえで飲むことが大切です。
詳しくは「妊娠中に薬を飲んでも大丈夫?」のページで説明しています。