性病
性病はナイーブな話ですのでなかなか人に相談できない病気です。それでいて放っておいても治ることは期待できません。また、ともすれば不妊症の原因になります。 性病を起こす原因や治療法について考えていきましょう。
最終更新: 2023.02.28

淋菌感染症(淋病)とは? 男女別症状の違い、検査、治療について

淋病(りんびょう)は淋菌が起こす尿道炎子宮頸管炎などの総称です。淋菌は男性と女性に違った症状を起こします。淋菌感染症の症状や治療のため注意すると良いことを説明します。

1. 淋菌感染症(淋病)とは?

性病の中にはこんな見つかり方があります。

20代男性の佐藤さんは、風俗店に行った翌週に、排尿のときの痛みを感じました。性病かもしれないと思って病院に行くと、「たぶんクラミジアだね」と言われました。

検査のときに「クラミジア淋菌の検査をします」と言われて疑問を感じました。

なぜクラミジアを調べるのに淋菌の検査もするのでしょうか?

淋病(りんびょう)という言葉はひとつの病気ではなく、淋菌Neisseria gonorrhoeae)が感染して起こす尿道炎子宮頸管炎などの総称です。

淋菌感染症淋病)は、性器クラミジア感染症と並んで、性病の中で頻度の高いものになります。また、その伝染性も高く、コンドームを使用せずに1回の性行為をすると30%の確率で相手にうつしてしまうと考えられています。

淋菌が感染する場所によって、男性では尿道炎、女性では子宮頸管炎骨盤内炎症性疾患PID)を主に起こします。

尿道炎では症状が強く現れます。子宮頸管炎は症状がないことが多い一方で、不妊の原因にもなります。

2. 男女ともに共通する淋菌感染症の症状

淋菌が咽頭(のど)や結膜(目の表面)に感染することは男性でも女性でも起こりえます。

その症状について説明していきます。

淋菌性咽頭炎(りんきんせいいんとうえん)

近年、日本でもオーラルセックス(フェラチオ、クンニリングスなど)によると思われる淋菌の咽頭感染が増加しています。

症状はのどの痛みになりますが、全く自覚症状のない人も多いのが特徴です。

性器に淋菌感染が起こっている人の10-30%は咽頭にも淋菌が存在しているという報告があります。淋菌性咽頭炎は症状に乏しい場合も多いので、気づかないうちに感染していることも少なくないです。感染者の咽頭を介して性器に淋菌がうつるリスクもあるため、できるだけ感染を早く発見して治療することが必要です。

淋菌の直腸感染

性行為の多様化によって、アナルセックスによると思われる淋菌の直腸感染も増えています。淋菌感染が起こったら、複数箇所に感染がある可能性を考えなくてはなりません。

淋菌による直腸感染は症状がなくても重症化する場合があります。また、性器周辺に傷がある場合、その部位にが形成されることもありますので、淋菌感染が見つかったら性器周辺を観察することも必要です。

淋菌性結膜炎

淋菌による結膜炎は新生児(生まれて4週間未満の子ども)に最も多く起こります。新生児の淋菌性結膜炎は、母親が淋菌に感染していることにより、出産時に産道(子宮から膣にかけて)で淋菌がうつってしまうことが原因となります。

大人で淋菌性結膜炎が起こることはまれですが、眼が淋菌に直接接触することで起こるとされています。

症状は片側の眼に出ることが多く、まぶたがむくんだり、眼脂(めやに)が大量に出現することが多いです。まれにですが失明することもありますので、できるだけ早く適切に治療することが重要です。

播種性淋菌感染症(はしゅせいりんきんかんせんしょう)

播種性淋菌感染症は、淋菌が血液にまで侵入して、全身に感染の影響が及ぶ病気です。

通常血液は無菌状態になるように守られていますが、淋菌が血液内に侵入すると、発熱、身体のだるさ、関節の痛みや皮疹などが出現します。関節の炎症が強くなると、関節そのものが破壊されてしまうこともあります。その一方で、性器での症状がはっきりしないことも多いです。

危険な性行為の心当たりがあって、突然複数の関節に強い痛みが出現したら、播種性淋菌感染症かもしれません。すぐに医療機関を受診してください。

3. 女性特有の淋菌感染症の症状

女性の淋菌感染症の特徴は、男性に比べて尿道炎が少ないことです。女性では、子宮頸管炎骨盤内炎症性疾患PID)、肝周囲炎がよく起こります。また、妊娠・出産に関わる危険性もあります。

女性の淋菌感染症が妊娠と出産に及ぼす危険

淋菌が女性の子宮や卵管に感染すると、不妊症異所性妊娠子宮外妊娠)の原因となります。

また、子宮頸部(しきゅうけいぶ)が淋菌に感染していると、出産のときに赤ちゃんにうつしてしまい、新生児結膜炎という眼の病気を起こすことがあります。

いずれも適切な抗菌薬を使って治療すれば防げる危険性ですので、将来妊娠を考えている女性や、妊娠している女性がもし気になる症状を感じたら、早めに医療機関に相談して、安全な出産のために手を打ってください。

子宮頸管炎(しきゅうけいかんえん)の症状

淋菌感染症による子宮頸管炎の主な症状は、おりものの増量や不正性器出血です。ただし、無症状のことも少なくありません。感染が広い範囲にまで及ぶと、下腹部を中心とした強い腹痛が出現します。

子宮頚管(子宮頸部)とは膣と子宮をつなぐ部分のことです。菌は体外から膣に入り、さらに子宮頚管を通って子宮へと侵入してきます。膣は感染に対して強固にできているため、感染がよく起こるのは子宮頸部です。

診断のためには、腟鏡診(ちつきょうしん)という検査が行われます。膣鏡という道具を膣の中に入れて子宮頸部の色や分泌物の様子を目で見る検査です。

また、淋菌がいることを確認するために、培養検査と遺伝子検査が行われます。膣分泌液を顕微鏡で見る検査(検鏡)は、子宮頸管にいる正常な菌も見えてしまうため、淋菌を正確に見つけられないことがあります。精度を上げるために検査を繰り返し行うこともあります。

骨盤内炎症性疾患(PID)の症状

淋菌による骨盤内炎症性疾患PID)とは、膣から入った淋菌が子宮を通り、卵管を経てお腹の中に広がり炎症を起こしている状態のことです。PIDの中には子宮付属器炎(卵管炎、卵巣炎)や腹膜炎などが含まれます。PIDでは、しばしば同時に複数箇所で感染が起こっています。

症状として、およそ50%の人で発熱や腹痛が起こります。かたや残りの50%くらいの人では症状がなく、なかなか気づきません。

肝周囲炎の症状

淋菌の感染が広がって肝臓に達することがあります。肝臓に達した淋菌肝周囲炎を起こします。フィッツ・ヒュー・カーティス症候群(Fitz-Hugh-Curtis 症候群)と呼ばれるものとおおむね同じ病気です。

症状として強い腹痛があります。

炎症によりお腹の中の臓器がベトベトにくっついてしまう(癒着する)ことで、腸閉塞などさらに別の問題を引き起こしてしまうこともあります。癒着がひどくなる前に素早い治療が必要です。

女性の淋菌感染症は症状がないときの見逃しにも注意

淋菌が感染していると、 性行為を介して相手にうつしてしまうリスクになります。また、淋菌が感染していても症状がなく気付きにくいことがあります。そのため、おりものの増量、不正性器出血、腹痛などの症状があったときはもちろん、危険な性行為の心当たりがあれば症状がなくても、一度は淋菌の検査を受けてください。

また、淋菌感染症でも起こる骨盤内炎症性疾患肝周囲炎は、クラミジアなどほかの病原体によっても起こります。骨盤内炎症性疾患肝周囲炎らしい症状が出たときは、淋菌だけでなくクラミジアの検査も一緒に受けてください。

4. 男性の淋菌感染症の症状

佐藤さんは病院で検査をして、検査結果が出るのは来週と言われて帰ってきました。排尿のときに少し痛む症状はまだ続いています。インターネットで調べたクラミジアの症状に当てはまるように思えます。

淋菌の症状はクラミジアの症状とは違うのでしょうか?

男性の淋菌感染症として尿道炎が代表的です。尿道炎になると尿道の違和感や排尿時の痛みが出てきます。尿道の違和感や痛みを起こすほかの原因には、アルコールの大量摂取、カフェイン摂取、機械的刺激があります。

淋菌の感染を放置していると、不妊の原因になったり、パートナーにうつしてしまうことにもなります。

尿道に自覚症状が出た人は、最近の性行為の時期最近の性行為の内容を診察室で伝える心の準備をして、恥ずかしがらずに医療機関にかかるようにしてください。

淋菌性尿道炎の症状

淋菌に感染すると、3-7日程度の潜伏期間が存在します。症状がない潜伏期間を過ぎると、排尿時の違和感や痛み、尿道から分泌物が出てくるなどの症状が出現します。淋菌の場合、尿道から出てくる分泌物に特徴があります。

  • 量が多い
  • 黄白色
  • 膿を伴う

淋菌性尿道炎による分泌物は、量が多いため、排尿してから30分以上経てばペニスの先の外尿道口から出てきます。

分泌物を検査で調べると淋菌が見つかります。検査方法として顕微鏡で見る(鏡検)、培養する、遺伝子検査(PCR法)といった方法があります。

淋菌性精巣上体炎

淋菌性尿道炎を治療しないでいると、炎症が広がってきます。陰嚢の中にある精巣上体にまで広がると精巣上体炎を起こします。

精巣上体炎の症状として、片側の陰嚢が大きく腫れ上がり痛みが出ます。炎症が強ければ歩くのも難しいほどになります。多くの場合は発熱も伴います。

淋病かな?と思ったらクラミジアも検査を!

淋菌に感染しているときは、20%から30%ほどの確率でクラミジアも同時に感染しています。気になる症状があったときは淋菌の検査とクラミジアの検査を両方受けてください。淋菌の検査キットを使うときは、必ずクラミジアも一緒に検査できるものを使って下さい。

検査キットには見逃しもあるので、陰性と出ても症状が持続していれば泌尿器科などにかかって検査を受けて下さい。

クラミジアについて詳しくは「クラミジア感染症とは?症状、検査、治療薬など」の項で説明しています。

5. 淋病の治療

淋菌感染の治療法は主に抗菌薬(抗生物質、抗生剤)ですが、薬が効かない淋菌が増えているので注意が必要です。特にニューキノロン系抗菌薬とテトラサイクリン系抗菌薬は、淋菌に対して80%以上の確率で無効です。

淋菌の薬をもらうときに気を付けることを説明します。

淋菌感染症に使う薬は注射が多い

淋菌感染症は抗生剤の治療をしないと治ることはありません。

特に注射の抗生剤を使うことが多いです。場合によっては飲み薬を使うこともありますが、ほとんどの場合で注射による治療を受けると考えて良いでしょう。

淋菌感染症の薬はどこに何回注射する?

淋菌感染症の治療法は、どの部位で感染しているかで微妙に変わってきます。

よく使われている薬の例を挙げます。

以上に挙げた治療法は一例ですので、他にも治療法はあります。

抗生剤の治療を受けるときに気を付けることは、途中でやめないことです。

症状が消失してもまだ菌が生きていることはありますので、症状が消失したからといって治療を中断するとぶり返すことがあります。抗生剤は決められた期間は使い続けることが大切です。

淋菌にこんな薬は効かない

最近の淋菌はどんどん抗菌薬が効かないもの(耐性菌)が増えています。一種類の抗菌薬が効かない菌には別の抗菌薬を使えば治療できるのですが、複数の抗菌薬が効かないもの(多剤耐性菌)も増えてきています。

以前は淋病に使用されていたペニシリン系抗菌薬も、90%以上の淋菌が効かないものとなったため、ペニシリンは効果が期待できません。クラミジア感染に対して使用するテトラサイクリン系抗菌薬やニューキノロン系抗菌薬の効かないものが淋菌全体の80%を超えてきています。

また、ここ最近まで淋菌に対して有効であった飲み薬の第三世代セフェム系抗菌薬に関しても、段々と耐性傾向が見えており、淋菌の30-50%程度は耐性菌になっていると報告されています。

淋菌は治療後の確認が大事

耐性菌が隠れていたり、治療中に耐性菌が生まれてしまうと、薬を使ってもなかなか治りません。そのため、治療が終了した後は淋菌が生き残っていないか確認が必要になります。治療が終了してしばらくしてから、治癒判定をするようにしてください。体液の中に淋菌がいないか検査する方法が適しています。

また、抗菌薬治療を行ったのに効果を実感できなかった場合は、遠慮無くお医者さんに相談してみてください。

治療はパートナーと一緒に!

性病は自分だけの病気ではありません。自分が性病にかかったということは、性行為の相手にもうつっている可能性があります。2人同時に治療しなければ、治ったと思ってもパートナーにうつっていて、パートナーからまた感染してしまい、切りがなくなってしまいます(ピンポン感染と言います)。

必ずパートナーと一緒に治療して下さい。

6. まとめ

淋病淋菌感染症)について覚えておきたいことをまとめます。

  • 男性によくある症状は尿道の痛み、違和感、分泌物
  • 女性の症状はおりものの増量、不正性器出血、腹痛だが、無症状のことも多い
  • 全身の関節の痛みは緊急事態
  • 検査はクラミジアも一緒に受ける
  • 治療はパートナーも同時に受ける

淋病が心配になったら、婦人科・泌尿器科などで相談してみましょう。



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