こつばんないえんしょうせいしっかん
骨盤内炎症性疾患(PID)
子宮や卵巣及び卵管といった女性特有の骨盤内臓器に炎症を起こす病気の総称
3人の医師がチェック 101回の改訂 最終更新: 2020.07.26

骨盤内炎症性疾患(PID)の基礎知識

POINT 骨盤内炎症性疾患(PID)とは

女性の骨盤の中にある子宮・卵巣・卵管などの臓器の周囲で炎症が起こる病気の総称です。たいていの場合はクラミジアや淋菌などによる性感染症になります。症状が出ないことも多いですが、下腹部痛・発熱・下痢・嘔吐・異臭を伴うおりものといった症状が出る場合があります。骨盤内炎症性疾患を放っておくと不妊や子宮外妊娠のリスクになりますので、特に性病が心配な人は自分の症状に注意して下さい。 問診・診察・血液検査・画像検査・細菌検査から総合的に診断します。抗菌薬を用いて治療します。骨盤内炎症性疾患が心配な人や治療したい人は、産婦人科や感染症内科を受診して下さい。

骨盤内炎症性疾患(PID)について

  • 子宮や卵巣及び卵管などの器官のまわりに炎症を起こす病気の総称
    • お腹の中(腹腔内)の炎症のことで、子宮の炎症より上部の炎症を指す
  • 含まれる疾患(詳細はそれぞれの疾患を参照)
  • 感染症であるクラミジア淋菌によるものが増えている
    • 特にクラミジアでは、症状のほとんど出ないことがあり注意が必要
  • 性感染症以外の原因として以下が考えられる
    • 子宮内膜細胞診の後に発症することがある
    • 子宮内避妊器具を交換せずに長期間装着していると、発症することがある
    • 開腹手術後の感染など、性感染症以外の原因から起こることもある
  • 原因となるのは単一の細菌ではなく複数菌であることが多い
  • 骨盤内炎症性疾患を放置しておくと不妊や子宮外妊娠のリスクが上がる
    • その一方で、目立った症状が出ないことがあるので性感染症になりやすい背景(不特定多数との性行為やコンドームをつけない性行為など)がある人は違和感を感じたらすぐに検査することが大切

骨盤内炎症性疾患(PID)の症状

  • 無症状が多い
  • 下腹部に圧痛、腹部全体に広がる痛み、響く痛み
  • 微熱
  • 震え、寒気を伴う発熱
  • 便秘や下痢
  • おりものの量が多い、悪臭をともなう
  • 吐き気・嘔吐

骨盤内炎症性疾患(PID)の検査・診断

  • 問診;性病のリスクを性格の評価するために、性行動を聴取する
  • 触診:下腹部の圧痛がないかなどを調べる
  • 血液検査:炎症が起こっていないかなどを調べる
  • 画像検査:子宮や卵巣及び卵管などの器官に異常がないか、周囲に炎症が起こっていないか、などを調べる
    • 腹部超音波検査
    • 経腟超音波検査
    • 腹部CT検査
    • MRI検査
  • 培養検査:腟内の細菌を調べ、原因となっている細菌を調べる
  • 診断基準
    • 必須診断基準
      • 下腹痛、下腹部の圧痛
      • 子宮、付属期(卵巣・卵管)の圧痛
    • 負荷診断基準および特異的診断基準
      • 体温が38℃以上
      • 白血球増加
      • CRPの上昇
      • 経膣超音波やMRIによる膿瘍の確認

骨盤内炎症性疾患(PID)の治療法

  • 発症初期には抗菌薬を使用する
    • 病原体に応じて、セフェム系抗菌薬、ニューキノロン系抗菌薬、マクロライド系抗菌薬などの中から適切なものを選ぶ
    • 近年、クラミジア淋菌耐性菌の増加が報告されており、抗菌薬の選択は慎重にならざるをえない背景がある
    • 病原体を検索し、培養検査や薬剤感受性試験を行う
  • のかたまりがでたりして抗菌薬では対処出来ない場合は、手術が必要となることもある

骨盤内炎症性疾患(PID)に関連する治療薬

セフェム系抗菌薬

  • 細菌の細胞壁合成を阻害し細菌を殺すことで抗菌作用をあらわす薬
    • 細胞壁という防御壁をもつ細菌はこれがないと生きることができない
    • 細菌の細胞壁合成に深く関わるペニシリン結合タンパク質(PBP)というものがある
    • 本剤は細菌のPBPに作用し細胞壁合成を阻害することで細菌を殺す作用をあらわす
  • 妊婦にも比較的安全に投与できるとされる
  • 開発された世代によって第一世代〜第四世代に分けられる
    • 各世代で、各種細菌へ対して、それぞれ得手・不得手がある
    • 世代が同じであっても薬剤によって各種細菌に対して得手・不得手の違いが生じる場合がある
セフェム系抗菌薬についてもっと詳しく

マクロライド系抗菌薬

  • 細菌のタンパク質合成を阻害し細菌の増殖を抑えることで抗菌作用をあらわす薬
    • 細菌の生命維持や増殖にはタンパク質合成が必要となる
    • タンパク質合成はリボソームという器官で行われる
    • 本剤は細菌のリボソームでのタンパク質合成を阻害し細菌の増殖を抑える
  • マイコプラズマやクラミジアなどの菌に対しても高い抗菌作用をあらわす
  • 服用する際、比較的苦味を強く感じる場合がある
マクロライド系抗菌薬についてもっと詳しく

テトラサイクリン系抗菌薬

  • 細菌のタンパク質合成を阻害し細菌の増殖を抑えることで抗菌作用をあらわす薬
    • 細菌の生命維持や増殖にはタンパク質合成が必要となる
    • タンパク質合成はリボソームという器官で行われる
    • 本剤は細菌のリボソームでのタンパク質合成を阻害し細菌の増殖を抑える
  • 内服薬は薬剤の作用持続時間により(短い順に)短時間作用型、中等度作用型、長時間作用型に分けられる
  • 他の種類の抗菌薬と比較した時の特徴
    • ブルセラ症、ライム病などでは優先的に使用される薬剤
    • ヘリコバクター・ピロリ感染での除菌治療で使用される場合もある(他の抗菌薬に耐性がある場合など)
    • 熱帯熱マラリア予防などに使用する場合もある
テトラサイクリン系抗菌薬についてもっと詳しく

骨盤内炎症性疾患(PID)が含まれる病気

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骨盤内炎症性疾患(PID)に関わるからだの部位