乳がんの薬物療法②:副作用と対処法は?
乳がんの薬物療法は
目次
1. 抗がん剤の吐き気にどう対処する?
抗がん剤治療の間には、
抗がん剤治療中の吐き気の原因は?
がん患者にあらわれる悪心(吐き気)・嘔吐は、がん自体によっておこるもの、治療の副作用によるもの、治療により誘発される精神的なものなど色々な原因によって生じます。
中でも抗がん剤による悪心・嘔吐の発生は薬剤の種類などによっても異なりますが、決して少なくありません。近年では、新しい吐き気止めの開発や治療方法の進歩などにより、以前に比べてかなり悪心・嘔吐の発生を抑えられるようになってきました。
しかし、悪心・嘔吐は患者にとって不快度が高い症状の1つであり、生活の質(
ここでは抗がん剤によって生じる悪心・嘔吐の分類と、どのようにして悪心・嘔吐が引き起こされるのかをみていきます。
吐き気の種類とは?
抗がん剤によって生じる悪心(おしん)・嘔吐(おうと)はそれが起きる時期によって次のように分類されます。
- 急性悪心・嘔吐
- 抗がん剤の投与後、数時間以内に起こり24時間以内に消失するもの
- 遅延性悪心・嘔吐
- 抗がん剤の投与後、24時間以降に起こり、数日間続くもの
- 予期性悪心・嘔吐
- 以前に抗がん剤治療や
放射線治療 を受けた際に悪心・嘔吐を経験した場合、その不快な感情や記憶、治療への不安などによって次回以降の抗がん剤による治療の際、条件反射的に誘発されるもの
- 以前に抗がん剤治療や
- 突発性悪心・嘔吐
- 適切な催吐予防の管理にもかかわらず、突然あらわれるもの
この分類は、悪心・嘔吐の症状が生まれる原因の違いに対応しています。原因に対応する薬を使うことで、効果的に治療ができます。
例えば、急性悪心・嘔吐の多くは、NK1(ニューロキニン1)受容体という物質を介して、脳に刺激が伝わるしくみで引き起こされたり、体内で生産される
そこでNK1受容体の作用を抑えるNK1受容体拮抗薬や5-HT3受容体の作用を抑える5-HT3受容体拮抗薬を使うことで症状が抑えられます。
NK1受容体拮抗薬のアプレピタント(イメンド®)及びホスアプレピタントメグルミン(プロイメンド®)などの新しい吐き気止めの開発や薬の組み合わせ(例えば、
催吐性リスクとは?
抗がん剤が吐き気を催(もよお)す作用を催吐性(さいとせい)と言います。催吐性の程度は催吐性リスクといって薬剤によって異なります。一般的に、催吐性リスクが中等度以上(中等度及び高度)の抗がん剤を使用する場合には急性嘔吐を未然に防ぎ遅延性の嘔吐を抑えるため、複数の制吐薬(吐き気止め)を用いた制吐療法が行われます。
高度催吐性リスクの抗がん剤に対する制吐療法
高度催吐性リスクの主な抗がん剤はシスプラチン、シクロホスファミドなどです。
また乳がんのAC療法(ドキソルビシン+シクロホスファミド)などの複数の抗がん剤を併用する
高度の催吐性リスクの抗がん剤に対しては、主にアプレピタント(またはホスアプレピタントメグルミン)、5-HT3受容体拮抗薬、デキサメタゾン(
中等度催吐性リスクの抗がん剤に対する制吐療法
中等度の催吐性リスクの主な抗がん剤はイリノテカン、オキサリプラチンなどです。
急性の悪心・嘔吐の予防には主に5-HT3受容体拮抗薬及びデキサメタゾン、遅延性の悪心・嘔吐の予防にはデキサメタゾンの使用が推奨されています。
制吐療法は推奨以外の用法もある?
ここでは抗がん剤の催吐性リスクに伴う制吐療法について推奨とされる薬剤の組み合わせを紹介しましたが、ここで示したのはあくまでも推奨とされる例です。化学療法で使う薬剤の組み合わせによっては抗がん剤を単剤で使うより強い悪心・嘔吐があらわれる場合もあります。患者の体質やその時の体調によっても悪心・嘔吐の度合いは異なる場合があり、中等度催吐性リスクの抗がん剤に対しても高度催吐性リスクの制吐療法が検討されることもあります。
またここで紹介した薬以外にも患者の状況に応じた薬を用いることもあります。
その他の薬剤による悪心・嘔吐の予防
悪心・嘔吐の中でも心理状態が大きく関与する予期性の悪心・嘔吐の予防にはロラゼパム(商品名:ワイパックス®など)やアルプラゾラム(商品名:コンスタン®、ソラナックス®など)といった抗不安薬が使われています。
抗がん剤によって起こる食欲不振や胸やけなどが吐き気を伴う場合もあり、これらの症状を和らげるため胃酸分泌を抑えるH2受容体拮抗薬(H2ブロッカー)やプロトンポンプ阻害薬(PPI)といった薬の使用が考慮されます。
その他、吐き気や
吐き気に対する生活上の注意
日常の生活においても配慮が必要です。例えば吐き気がある時の対処として、室内の換気を行う、氷など冷たいものを口に含んでみる、などが有効の場合もあります。逆に芳香の強い花や香水などは吐き気を助長する可能性があります。
抗がん剤の悪心・嘔吐に対しては薬による管理の他、日常生活における工夫や対処方法などを担当医や薬剤師などとよく相談しておくことが大切です。
2. 脱毛にはどうやって対策したら良い?
タキサン系やアンスラサイクリン系(アントラサイクリン系)に分類される抗がん剤の副作用の一つに脱毛があります。これらの抗がん剤を使用するとほとんどの人が一時的に髪の毛の8割以上を失う脱毛を経験します。
脱毛が起きると外見に大きな変化が起きます。このために人目が気になったりして気持ちが落ち込んでしまうこともあると思います。外見上の変化をできるだけ気にせずに過ごすにはウィッグなどを上手に使いながら過ごすことも有効です。乳がんの場合、抗がん剤治療の後にホルモン治療を行っている場合は、髪の毛が十分生えそろわない場合もあります。
脱毛が起きるのはいつからでどれくらい続く?
脱毛が起き始めるのは、治療開始後2-3週間とされています。髪が再び生え始めるのは治療を終了して1か月程度経ってからとされています。治療終了から髪の毛が完全に生えそろうまで1-2年かかると考えられています。
上手なウィッグの選び方
ウィッグには人工物で作られたものと人毛から作られたものがあります。価格も数万円から数十万円するものまであります。価格が高いものほどいいものとは限りません。自分の好みや生活スタイルを踏まえながら選んでいくことが大事です。
ウィッグなど外見の変化に対応しようとするとき、以前の自分と同じような髪型や質感などを求めてしまうのはよくあることです。しかし、以前と同じになることにとらわれると、自分の視野が狭くなってしまい「こうでなくてはいけない」という気持ちになって落ち込んでしまうこともあります。
考え方を変えて、ウィッグは新しい髪型や髪の色を選んでみるのもいいかもしれません。
脱毛を予防する方法
乳がんの抗がん剤治療において脱毛はかなりの頻度で発生する副作用です。脱毛を完全に予防する方法は未だ確立されていないのが現状です。
最近の報告では頭皮を冷やすことで脱毛が予防できるのではないかとの研究が進められています。研究では頭皮を冷却する専用の機械を用いて頭皮の冷却を行っています。近い将来脱毛を予防する方法として普及する可能性も予想されます。
JAMA 2017;317:596-605
3. 抗がん剤使用中は感染症に注意するべき?
抗がん剤を使用すると
このような重症の
発熱性好中球減少症(FN)に対するG-CSF製剤に関して
白血球の一つである好中球は侵入した細菌などの異物を局所にとどめて処理(殺菌)します。好中球は細菌感染などに対して前線で働く生体防御です。
成熟好中球の寿命は非常に短く、通常であれば長くても2-3日程度でアポトーシス(細胞の自然死)を引き起こします。血液にある白血球などの細胞は、骨髄にある
発熱性好中球減少症(FN:Febrile Neutropenia)はその名の通り、発熱を伴う好中球減少症です。時に重い感染症を引き起こし死に至ることもある状態であり、抗がん剤治療においては特に注意すべき副作用の一つです。
以下は発熱性好中球減少症を起こしやすい背景の一例です。
- 高齢者(一般的に65歳以上)
- 全身状態の不良
- 栄養状態の不良
- 以前も発熱性好中球減少症の経験がある
- 広範囲放射線照射
- 化学
放射線療法 (抗がん剤と放射線療法の併用) 腫瘍 の骨髄浸潤による血球減少- 進行がん
この他、好中球数が100個/μlを下回るような高度の好中球減少症、皮膚に傷があり閉じていない部分が生じている状態(開放創)、吐き気や下痢などの消化器症状、慢性肺疾患、
発熱性好中球減少症及び好中球減少による感染症への対処としては細菌感染に対しての抗菌薬(
G-CSFは骨髄中の顆粒球系(特に好中球)の分化・増殖を促進する作用や好中球機能亢進作用、好中球に対する抗アポトーシス作用などをあらわし、好中球減少症に有効な物質の一つです。
主なG-CSF製剤としては、フィルグラスチム(商品名:グラン®)、レノグラスチム(商品名:ノイトロジン®)、ナルトグラスチム(商品名:ノイアップ®)があります。(この他、フィルグラスチムのバイオシミラー(バイオ後発品)の製剤もあります。
G-CSF製剤の使用の是非はがんの種類や使う抗がん剤の種類、レジメン(がん治療における薬剤の種類や量、期間、手順など)によっても変わってきます。
発熱性好中球減少症の
2014年11月には持続型のG-CSF製剤であるペグフィルグラスチム(商品名:ジーラスタ®)が発売されました。
この薬は従来のG-CSF製剤に比べ皮下注射後、体内で効果が持続する製剤です。従来のG-CSF製剤は薬物の血液中の濃度が半分になるまでの時間(血中濃度半減期)が短いため、好中球が回復するまで連日注射する必要がありました。ペグフィルグラスチムはその名前の一部になっているペグ(
1回投与分としての薬価が高額である点などへの懸念はあるものの、予防的なG-CSFの投与が可能であり、がん化学療法における発熱性好中球減少症への対策として有用な選択肢となっています。
乳がんの治療中に予防接種はできる?
乳がんの治療中は、免疫力が落ちることが予想されます。抗がん剤の治療を行うことによって骨髄機能が低下します。骨髄機能が低下すると免疫に大きな役割を果たしている白血球などが減少します。
感染症に対して予防接種を行うことで感染から予防できたり発症しても重症化を防ぐことができます。
よく患者さんから質問を受けるのはインフルエンザワクチンと
骨髄機能が最も低下するタイミングは、抗がん剤治療の種類やその人の状態によって異なるので、主治医は抗がん剤治療中に頻繁に行う血液検査で確認しています。主治医に骨髄機能が最も低下するタイミングについて尋ねてみれば答えが返ってくると思います。
肺炎球菌やインフルエンザの予防接種を考えているときには、主治医に相談してタイミングを吟味することが重要です。
4. 抗がん剤が心臓に影響する?
アンスラサイクリン系の抗がん剤(ドキソルビシン、エピルビシン)を使い続けると、心臓の機能が低下してくる人がいます。心臓がドキドキしたり息苦しさなどの症状を認めることがあります。アンスラサイクリン系の抗がん剤以外にトラスツズマブも心臓の機能を低下させることがあります。
抗がん剤治療中に心臓がドキドキしたり、息切れがひどい場合は心臓の機能を正確に調べておく必要があります。
5. 手足がしびれるのは抗がん剤の副作用?
タキサン系の抗がん剤(パクリタキセル、ドセタキセル)は手足など体の末梢神経(まっしょうしんけい)に対して影響を及ぼします。末梢神経障害の症状は、しびれの他に感覚が鈍くなることもあります。症状が強い場合は生活に影響を及ぼすこともあります。症状を我慢せずに主治医などに伝えることが大事です。
6. 浮腫(むくみ)は抗がん剤の副作用?
ドセタキセルの副作用で
7. 血管が痛むのは抗がん剤の影響?
アンスラサイクリン系の抗がん剤などで、血管に沿った痛み(血管痛)が感じられることがあります。抗がん剤によって血管の炎症が起きて血管痛が発生します。血管痛は冷やしたりすることで和らぐこともあります。血管痛のある抗がん剤は、血管の外に漏れ出ると重い症状を認めることがあります。抗がん剤を繰り返し投与していくと血管の壁が脆くなり抗がん剤が漏れやすくなっているので注意が必要です。
8. 下痢は抗がん剤の副作用?
抗がん剤は粘膜に障害を与えます。腸の粘膜が障害されると下痢が出現します。下痢は軽ければ様子をみることが多いですが、下痢によって脱水などの症状が懸念される場合は、下痢止めなどを用いて治療します。漢方薬の半夏瀉心湯が有効です。下痢が副作用であるイリノテカン(商品名カンプト®、トポテシン®など)投与の前は、遺伝子検査(UGT1A1)を行い、副作用発現の予想をたててから投与します。
9. 口内炎は抗がん剤の副作用?
抗がん剤は粘膜に障害を与えます。口のなかの粘膜にも障害を与えます。口内炎を予防するには口の中をきれいに保つことが重要です。歯ブラシは通常の歯ブラシより柔らかい歯ブラシが合っています。口内炎が発生したときは、口に含むことによって痛みを和らげることができるうがい薬のようなものがあります。
10. 手足症候群とは?
11. 抗がん剤で不妊になる?
抗がん剤が
12. ホルモン療法で起きる副作用は?
乳がんのホルモン療法による副作用として、女性ホルモンである
「ほてり」もその一つでホットフラッシュという言葉で呼ばれることもあります。血液中のエストロゲン低下により
ホットフラッシュでは一過性の顔面紅潮、発汗、熱感、のぼせ、
ホルモン療法による更年期様症状には、頭痛、肩こり、めまい、不眠、うつ状態などもあり、医師や薬剤師などへ相談する他、日常生活の中で適度に気分転換を取り入れることなども対処法として有用です。
その他、エストロゲン低下による